俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十三節 無限城からの帰還。2/3

 

 

 

「マスター! 刀鍛冶さん達の避難は完了した! 護衛に恋柱と毒から回復した霞柱、そして里の護衛任務に当たってた鬼殺隊士たちが行ってる」

「うん、わかった。お疲れ様、炭治郎」

「いやこれぐらいわけないが……小さい俺はどうなってる?」

 

 へにょりと眉を下げて辛そうな表情をする炭治郎の言葉を緩く首を振って否定する。彼から視線を外して朝方でも目立つ明るい金髪の方へと移せば、そうかと炭治郎は納得した。未だ進展はないということを理解したらしい。

 この特異点の住人である竈門炭治郎が酒呑童子に攫われてから数十分が経った。攫われた当初はそりゃぁとても慌てたけれど、手立てがないわけじゃなかったので少しパニックになってた炭治郎達鬼殺組を落ち着かせて今は刀鍛冶師の避難を最優先にした。というか炭治郎と伊之助は一緒にいたんだから知ってるだろうに……ってあぁ、潜入できてた事までは教えてなかったっけ。これは俺が悪いよね。

 俺の言い分に納得できてなかった二人だったけど、マスター命令なのとこれ以上従わないなら令呪で強制的にするよと脅した。俺の令呪はサーヴァント達を補助するだけで、縛りつけたり魔法に近い事をするには二画以上必要なのでハッタリなんだけども、覚えてるのか覚えてないのか渋々といった風に事に当たった己のサーヴァント達に礼を言って、小太郎に善逸を連れてくるようにお願いした。

 そうしてやってきた善逸がセイバーがどっか行ったとか、念話してたのに途中で切られたとか騒いでいて、最後に琵琶の音が聞こえたと言っていたので次にその音が聞こえたら教えて欲しいと頼んだところだ。

 琵琶の音と共に現れた障子はきっと炭治郎達が言っていた無限城とやらへの入り口。それを作った鬼が琵琶を鳴らしたときに、扉が開いたり構造が変わったりするとの事なので、きっと善逸さんも連れていかれたのだろう。パスが途切れてないとのことなので、やられてはいない。善逸さんは強いのできっと炭治郎も大丈夫だと信じている。

 

「権八郎!! 子分四号!」

「ガハハ! 俺様達が帰ってきたぞ!」

「伊之助!」

 

 伊之助達が帰ってきた。猪頭が二つあるのは壮観だけどもう慣れてしまった。そんな彼らが元気いっぱいにこちらに駆け寄って来ているが、何処と無く空元気だとわかる。炭治郎達が攫われたとわかって一番ショックを受けていたのは伊之助、それも小さい方だった。攫われるときに一番近くにいたのが彼で、酒呑童子に気圧されたのか震えながら佇んでいた事からきっと何にもできなかった自分を悔やんでいるのだろうとは思う。でもそれを言うなら、俺たちだって一緒で。

 

「他の山にいた奴らも避難完了したぜ」

「ならここに居るのはもう俺たちだけか」

「あ、あとこいつが居た」

 

 そう言ってドサリと何かを落とした。え? 何だと思いながら見ると、いつぞやの下弦の肆さんだった。赤い瞳を恐怖に染めながらも、その場に座り込んで縮こまっている。

 ……逃げるのに夢中で置いてきたの忘れてた……見つかって良かったと思うべきかな。

 鬼だとわかった途端に臨戦態勢を取った炭治郎を宥めて、この人どうしたの? と伊之助達に聞くと小さい方の彼が笑って経緯を説明してくれた。

 

「他の奴らがこいつの首を狙ってからな! 横取りしてやった! デッケェ感逸のモンだよな?」

「いやモノじゃないけど……まぁそうだね。俺と善逸さんの予想が正しければ、彼女は必要な人材だから見つかって良かったよ」

 

 忘れてたけど。

 事情を知っている善逸から呆れたような視線を頂いたけれど、誤魔化すようにアハハと笑う。彼以外は俺が焦っている様子に疑問を抱いていたみたいだけど、俺が言う事ならと引き下がってくれた。いやー助かります、ホントに、うん。

 

「大丈夫? 零余子さん」

「……大丈夫に見えるか?」

「腕は治った?」

「一応は」

 

 完全には回復しきってないらしい。うん回復力が落ちてるな、多分禰豆子ちゃんぐらいには落ちてる。炭治郎の言葉なので正確な事はわからないが、生前の時は傷の治りが鬼にしては遅い方だったと言っていた。きっと栄養となる人間を全く食べずに生きているからだろうとは言っていたけど、目の前の彼女は下弦の肆であることからある程度は食べているとは思う。凶悪殺人犯も真っ青なぐらいには食事をしたはずなので、回復力は普通の鬼よりはあるだろう。なのにこんな時間が経っても完全には治っていないのは、やっぱり俺たちの推測は正しいのかななんて思ってしまう。

 そっか、と零余子さんにそう言葉を返そうとして。

 

「聞こえた!!!」

 

 突然叫んだ善逸の声によって遮られた。

 

「藤丸さん! 聞こえたよ!! 琵琶の音!」

 

 善逸が振り返りながら俺の方へと駆け寄ってきた。本当? と返すとホントホント! と素早く頷く。

 

「琵琶の音が聞こえたとき、炭治郎とセイバー、それに禰豆子ちゃんの音も聞こえたから間違いない!」

「場所は?」

「里の中。昨日俺たちが泊まった場所の近く!」

 

 わかりやすくてありがたい!

 

「伊之助、炭治郎、善逸は先に行ってて!! 俺と小太郎達は後から行く!」

「オッシャァ!」

「了解した!」

「わかった!」

「あぁん!? 俺様は!?」

「小さい伊之助は俺達と待機」

 

 駆け出した三人の背を見送って、零余子さんへと振り返る。俺としては今すぐに行きたいけれど、彼女がいるから置いてはいけない。どうにかして味方に引き込まないと、敵対された時を考えて小太郎を置いておいたがその必要もなさそうな気がしてきた。なんというか覇気がないっていうか。

 でもちゃんとしなきゃな。待ってて炭治郎、善逸さん、禰豆子ちゃん、俺達も後で迎えに行くから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い。

 

 

 

 苦しい。

 

 

 

 熱い。

 

 

 

 寒い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛いッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイバーッ!!!」

 

 己のサーヴァントのクラス名を呼ぶ。近いと己の内から湧き上がる感情が叫んだ。

 酒呑童子が溶かして所々大きな瓦礫しか残っていない、もう里とは言えないだろう場所を走る。呼吸を駆使して、雷の呼吸特有の速さで駆けていく。後ろから大きな炭治郎と伊之助が何か叫んでいる気がするけど、俺はそれどころじゃないんだ。繋がったパスは段々と短くなっていってる、聞こえてくる音も段々と鮮明になってきている。つまりあいつに近づいてきてるって事だ!

 一際大きな瓦礫、きっと二階建てだった建築物の屋根を足場にして飛び越えてその場所に降り立った。

 

「っぅ!?」

 

 途端に突風のような衝撃が身体を襲った。ピリピリとまるで霹靂一閃を使った後の余韻の様な、いやそれ以上の刺激が身体を巡る。身体中の毛が逆立った気がした。

 

「何っ!? 何々ぃ! 眩しいし! 目が痛いし! セイバー、禰豆子ちゃん! そこにいるんだろ! 返事ぐらいしろよな!! あと炭治郎!!」

 

 強風で砂が目に入った気がしたからめっちゃ痛い。暗闇の中で仕方ないと音に集中してみれば、息遣いの音と呻き声の様な音が聞こえた。前者は多分炭治郎、後者は俺の声と同じだからセイバーに当たる……となるとセイバーが苦しんでる!?

 

「セイッ……バー?」

 

 目が痛いのも無視して慌てて開いてみれば、見えてきたのは何だか良くわからない光景。健やかに寝ている側で縮こまっている三角模様の羽織。バチバチと魔力を纏いながら自身の身体を抱く様に、何かに耐える様にしている。丁度見えるのは頭の方だ、彼の長い髪の毛が地面に垂れては砂によって汚れている。

 え、まって? まってくれよ、そんな……なんで。

 

「セイバーからっ、おっ鬼のッ音が」

 

 はく、と口を開けては閉じるのを忘れそうになる。一歩を踏み出そうとして肩をグッと引かれた。振り返ると大きい炭治郎がこちらを見ていた。小さく首を振った彼は伊之助の名前を呼んで、俺よりも前へと踏み出す。

 

「ガッハッハッハ!! 面白れぇことになってんな! 端逸!!!」

 

 伊之助が走っていく。刀を構えて、セイバーに向かって。脳が追いつかない、彼らは一体何をしようとしている? わからない、わかりたくない。セイバーに刃を振るおうとしていることなんてッ!!

 

「やめっ、やめろ!!! 伊之助ェッ!!!」

 

 俺の叫び声と同時に雷鳴が響いた。セイバーが魔力放出したのだと理解したときには、伊之助は刃を振るうのを止めて、セイバーの側にいた炭治郎と禰豆子ちゃんを抱えていつの間にか戻ってきていた。なんで、と声にならない言葉が口から零れる。伊之助ならばセイバーの魔力放出など気にせずにそのまま頸を切れた筈だ、なのに戻ってきた。つまりは最初から殺るつもりはなかった……?

 

「落ち着け、善逸。俺達はお前のサーヴァントを殺すつもりはないよ。そもそも友人を斬る、なんてこと覚悟はしていてもそう簡単に実行できるものではないし……伊之助を除いてな」

「ハッ! 俺様は別に当てるつもりはなかったんだがな! とんだ臆病者になってやがるぜ、銭逸の奴」

「普段の善逸なら軌道の予測など簡単だろう。それすらないとなると……暴走かな」

 

 いやー、身に覚えがあり過ぎる光景だなと苦笑いを零す炭治郎に俺は首を傾げた。こんなのが前にもあったのだろうか、どうせ聞いても答えてはくれなさそうだし聞かないけれど。

 そんな事を考えてると炭治郎が真剣な表情で此方を見てきた。肩に手を置かれて逃げ場を無くされる。いやセイバーが目の前にいる限り逃げるつもりはないけど、ちょっと此奴の顔の良さのせいで怖いんだけど。泣いて良い?

 

「善逸、さっき鬼の音がするって言っていたな? 本当か?」

 

 そのことか、と俺はこくりと頷いた。本当だ、だって今でも聞こえている。

 

「他の鬼よりは小さい音だけど、確かに聞こえるよ」

「俺は雷の匂いでわからないけど、うん善逸が言うならそうなのだろう」

 

 藤丸さん達が言うには無限城とかいう鬼の頭領の住処にセイバーや炭治郎達が連れ込まれたらしい。セイバーの場合確証は得られなかったけど、でも俺がセイバーの応答が無くなった時に琵琶の音がしたと言ったら、無限城に行ったに違いないと言っていたからそうなのだろう。なら、きっとそこで鬼の頭領に出会ったに違いない。人を鬼に変えられるのはこの世でただ一人なのだから。

 だけど、どうして彼は鬼にされるような事になったのだろうか。首を傾げては俺の困惑の匂いを感じ取ったのか、炭治郎が眉を八の字にして頬を指先で掻いた。

 

「こればっかりは小さい俺に聞かないとわからないな……善逸は話を聞ける状態じゃないし」

 

 バチバチ、バリバリ。空気を雷鳴が割いていく音がする。いつの間にか立ち上がったセイバーが苦しげに叫んでは辺りを白く照らした。眩しい、音が凄い。近くに雷が落ちた様な感覚に陥って、耳を押さえながら呻く。

 セイバーを見る。相変わらず前髪で表情は見えないからよく分からないけど、彼からはずっといろんな感情の音がする。入り乱れて、絡まり合ってきちんとは判別できないから、セイバーがどういった心境なのかは理解できない。でも、苦しんでるのだけはわかる。

 

「どうすんだ! 権八郎!! 気絶してる時の彼奴は厄介だぜ?」

「とりあえず伊之助は本気でやってくれ、それだけで死ぬような奴じゃないからな」

「ヨッシャァ!!」

「えっ!?」

 

 本気で!? 大丈夫なの!?

 突っ込んで行った伊之助に驚きながら炭治郎の方を見ると、彼は安心させるような笑顔を浮かべて俺の頭を撫でた。子供扱いされてる……いや実際に子供か。歳はあまり変わらないとは思うんだけどな。

 

「大丈夫だ。あの状態の彼奴に俺たちは一回も勝てたことがないからな」

「はぁ!?」

 

 そんな衝撃的なことを笑顔で宣うものだから、俺は驚いて仰け反ってしまった。その拍子に俺の頭から手を離してしまった炭治郎が少し悲しげな音をさせたけど、無視だ! 無視!

 

「そんなわけないでしょ!? いくらセイバーが凄くても一回ぐらいはあるでしょ!!」

「ないんだな、これが。雷の呼吸相手じゃ俺たちの呼吸じゃ壊滅的に相性が悪いから、一本勝負とかじゃ全敗なんだ……だからちょっと頑張らないと」

 

 頑張るのは慣れてるけども、と続けた炭治郎はゴォオオと大気を震わすような呼吸をして、刀を構える。繰り出すのは彼しか扱えない型だと思い出しては、どうするつもりだと視線を投げかける。

 

「彼奴を止める。善逸は小さい俺達と一緒に少し離れていてくれないか? 小さい俺が起きたら事情を聞いて、聞いたら俺たちに話してほしい。それまでどうにかする方法を模索するから」

 

 雷鳴やら金属音やらが鳴り響く中、すやすやと寝ている炭治郎達を一瞬見てから俺は頷いた。多分俺が参戦しても意味ない気がするし、炭治郎や禰豆子ちゃんに飛び火しないか見る必要もある。文句は決してないよ。

 二つ返事で引き受けた俺に満足そうに笑った炭治郎は、じゃぁ頼んだぞ! と言ってからセイバーの下へと駆けて行った背中を見届けて、俺は倒れてる禰豆子ちゃんを背負って、炭治郎の腕を持って運んだ。

 

「(大丈夫、大丈夫……セイバーならきっと)」

 

 きっと彼奴のことだ、どれだけ心配しても翌日にはけろっとして、心配かけてすみませんと笑うのだろう。

 そんな光景が瞼に浮かんでは、滲んで消えて行く。

 

 

 

 

 

 




この調子だとまた休みを頂くかもしれない……。
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