俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

108 / 135
第二十三節 無限城からの帰還。3/3

 

 

 

「(……痛い)」

 

 焼ける様な痛みだ。

 

「(苦しい……)」

 

 海の中にいる様な苦しさだ。

 

「(熱くて)」

 

 日中の砂漠にいる様な熱さだ。

 

「(とても寒い……)」

 

 極寒の大地に立っている様な寒さだ。

 様々な感覚が身の内を焦がすかの様に駆け巡る。蹲ってその感覚を押さえ込もうとするけれど、逆に増すばかり。唇を噛んで耐える。血が出た気がするけど無視して、耐えて耐えて耐えて。

 何も聞こえない。何も話せない。ふっと身体が軽くなった気がしたけれど、でもそれだけで。

 

 ———しょうがないなぁ

 

 だれ……?

 まるで小さな子供を相手するかの様な、呆れた様な声が聞こえた。でもいつもの様に鮮明には聞こえない。この良すぎる耳はどんな音でも拾ってしまっては勝手に取捨選択してくれるのに、聞こえてきた声は何重にも重なった様に聞こえた。

 

 ———誰でも良いだろ、少なくとも今はね

 

 言っていることがよくわからなかった。疑問に思うのに全身に広がる痛みによって、その言葉の意味を考える余裕なんてなかった。

 

 ———とりあえず時間がないから言うな。俺を今だけで良いから少しだけ受け入れて

 

 は……?

 

 ———意味わかんないだろうけど、受け入れるだけで良い。それで君は助かるよ

 

 いや、いやいやいや。意味わかんない。受け入れろ? お前が誰かもわかんないのに? 無理でしょ、無理無理絶対に無理。

 

 ———そういうとこ本当に似てるよね。まぁ良いけど

 

 いや良くないけど???

 

 ———君の中に入ってきた鬼の血と元々あった君の神性が鬩ぎ合ってる。黄泉の神が永遠の命なんて受け入れられる筈がないから当たり前なんだけど……まぁ太陽に嫌われてるってところは一緒なんだけどね。ふふ

 

 笑い事か?

 

 ———ただ、神と鬼だ。当然力は神の方にある。けれど君はずっと苦しがってる、何故だと思う?

 

 …………?

 

 ———はぁ……君が俺を受け入れてないからだよ。最初からずっと、英霊になってからずっと

 

 えっ……いや、えっ?

 

 ———だから今だけで良いから、少しだけで良いから受け入れてくれ。そうしたら君はきちんと目覚める、俺の暴走も止まる。こういった形で顕現するのは俺も不本意だからさ。それにこのまま行くと、君の霊基は崩れるよ?

 

 …………それは、嫌だなぁ。

 

 ———なら

 

 わかった、受け入れるよ。でも今回だけな?

 

 ———はは、だろうね

 

 次。

 

 ———??

 

 次は名前くらい教えてくれよ。そしたら多分、ずっと受け入れられるだろうし。

 

 ———……それはどうかな

 

 なんでだよ。

 

 ———次、なんてものがあるときはきっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———君はいなくなってるだろうから。

 

「ずっと、なんて有り得ないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと目を開ける。少しの眩しさから目を細めて、けど見えてきた天井に暫し思考が停止した。

 

「(あれ……?)」

 

 なんでこんなところにいるんだろうか。さっきまでは無限城に居たはずなのに、天井に釣り下がった電灯からして確実に無限城ではないことがわかる。というかなんかちょっと重いなと視線を動かせば見えたのは金髪、俺の身体を枕にして寝ている善逸がいた。

 

「(もしかして、帰ってこれた?)」

 

 けど、どうやって? 言ってはなんだが無限城に落とされた時点で詰んでいたんだけどな。出る手段はないし、敵は何処からでも集められるしで、正直死んでてもおかしくはないんだけども。

 

「(ってか、炭治郎は)」

 

 そこまで考えてふと聞こえた泣きたくなるような優しい音に顔を左に向けた。俺が寝ているベッドの隣側、小さな炭治郎がしずかな寝息を立てて寝ている。俺と同じ様にベッドに沈んで寝息を立てている彼に心底ホッとする。その隣のベッドには禰豆子ちゃんが寝ていて、兄弟水入らずの空間に俺がいるとか烏滸がましいとかよく分からん事を考えては天井を見上げた。そういや知っている天井だ、蝶屋敷の部屋にとても良く似ている。ということは俺は無限城から脱出して剰え蝶屋敷に運び込まれたということだ。

 

「(サーヴァントになってまでこの屋敷には世話になりっぱなしとかなぁ……そういや柱になってからはアオイちゃんにめちゃくちゃ怒られてたっけ)」

 

 懐かしい思い出だ。我妻善逸を演じるのを止めてから増えていった怪我に彼女は自分の事のように怒ってくれた。申し訳ないと思いつつ止めるつもりはなかった俺は長年培った演技で誤魔化してたけど、多分バレてたんだろうなとは思う。呆れた様な音が聞こえていたから。

 さて今回は誰に怒られるのだろう。多分筆頭は俺の側で寝ている善逸だろうなとは思う。いつも俺が何も言わずにやらかす度に怒ってくるのは彼だから。きっと心配してくれてるんだろうとは思う。けど、俺はサーヴァントだから少し申し訳なくなる。まぁ心配してくれるってことは心を配ってくれてるのだから嬉しくない事はないんだけども。

 

「(しかし、なんというか……)」

 

 本当にここに来るまでの記憶が欠落している。頭を掌で覆って記憶を探っていくけれど、やはり最後に思い出すのは心配そうに声をかけてくる炭治郎と無惨の話し声を、息絶え絶えながらに聞いている己。内容は俺が鬼になるかどうかという話で、多分炭治郎を庇う為に受けた攻撃が鬼化する為の攻撃だったんだなと推測できた。そしてそれを受けた俺は気絶した、と。

 うーん、サーヴァントなのに鬼化しそうになるとはこれ如何に……食人衝動とか記憶の欠落とかないので鬼にはなってない様だけども。けど、あの攻撃がきっかけかはわからないが妙に身体が軽いというか、今まで背負ってた重りを外したかの様な解放感というか、水の中から陸に上がった時の様な感じというか。善逸から供給されてる魔力も巡りがとても良い、血液がドロドロからサラサラになった感じだ。いや血液ってサラサラになりすぎると駄目なんだけども、魔力の場合は多分大丈夫だろう。うん、良く知らないけどきっとな。

 

「(今まで以上に動ける気がする)」

 

 正直、今の状態で霹靂一閃でも放ってみようならば余裕で生前のスピードを超える気がしてならない。なんで死んでからパワーアップするんだって思うかも知れないけど、実際そうなのだから仕方がないだろう。試すのが怖い、余裕で予想できる時点で出来てもおかしくはないから怖い。というか今以上のスピード出たら、俺の三半規管が死ぬんだが。

 

「とりあえず起きるか」

 

 そう小さく呟いてから善逸を起こさない様にそっとベッドから抜け出して背伸びをする。サーヴァントなので流石にあちこちから骨の音は鳴らないけど、気分的に漸く起きた感じがした。蝶屋敷特有の病人服を脱いでからいつもの隊服を出現させて、準備万端だ。因みに音で確認してるから禰豆子ちゃんは起きてない。女の子が寝てる側で着替えるってわりと背徳的だが、流石に着替えずに部屋を出るのもなと思ったからでして。えぇ、決して着替えた後から気付いたわけじゃないのでお巡りさんだけは呼ばないでほしい。きちんと配慮はしてます。

 良く聞こえる様に部屋を区切っている戸を開き、耳を澄ます。とりあえず起きた事を伝えないといけないので、この屋敷の主人であるしのぶさんか、看護師であるアオイちゃん、それか立香を探さなくてはいけない。蝶屋敷でお世話になったときに何度も聞いた音だから覚えている。それを屋敷の壁を伝って反響してくる音の中から聞き分け、そして聞こえたそれらは一箇所に固まっていることに気が付いた。

 

「(しのぶさんもアオイちゃんも立香と一緒にいる? なんでだ?)」

 

 しのぶさんは柱という鬼殺隊の重要な立ち位置である為に協力関係であるカルデアの立香といてもおかしくないし、アオイちゃんは蝶屋敷の看護師として立香の面倒を見ていてもおかしくはない。でもその二人が一緒、それも立香の他にも音がする。あれ……この音って。

 

「(獪岳だ! まじんさんの音もする、炭治郎達もいるし……全員集合か??)」

 

 いや坂本さんとかそこら辺はいないな、一応立香が仮契約しているサーヴァント達はいるけど。いつ考えても過剰戦力だよなぁ、鬼とか現れても瞬殺されそうで怖い。鬼狩り! って鬼が驚いても、“お”しか言わさせてもらえなさそう。

 というかいくら協力関係とはいえ、善逸の陣営は俺しかいないし、獪岳もサーヴァントは一騎だけしかいないのに……あん中に入るの心許なくない? いや普通は一マスターにつき一騎なんだから別に増えてもアレだけど、立香のは状況が状況なだけで、巨大な聖杯戦争みたいなものだから何騎もいないと勝てないっていう……一騎当千のサーヴァントがって考えると、やっぱりカルデアが置かれてる状況ってやべぇな。

 ともかくだ。報告するならばあの中に入らなければならない、多分匂いか気配で俺が起きたって事は気付いているだろうけども彼方から来られるよりは体裁は保てる。これでも善逸のサーヴァントを名乗ってるんだ、ちゃんとしなくちゃな。

 

「(その前に善逸を起こさないと)」

 

 マスターとサーヴァントが集合しているんだ、うちのマスターも同行しておかなければいけないだろう。今は静かに寝ているけれど起きたならば煩いだろうなと小さく苦笑いを零して、扉から離れて自分が寝ていたベッドへと近づく。

 そうして善逸を起こそうと手を近づけたときに。

 

「なんだ、起きたのか」

 

 突然後ろから声をかけられてビクリと身体が震えた。なんなら床から一ミリぐらい飛び上がった気がする。え、さっき音探ってたときにはなかった様な音してるけど、あれ? 見落とし、いや聞き落としてたか?

 どこかで聞いたことがある様な声にどこだったか? と内心首を捻りながらも振り返ると、真っ白い肌に赤色の模様、そして真っ赤に充血したような瞳を持った二本角を生やした女の子がいた。鬼だ、そう思ってから見覚えのありすぎる容姿に固まってしまう。

 パチリと瞬きをして見え隠れする瞳孔には“下肆”という文字が刻まれていた。つまりは下弦の肆で、刀鍛冶で出会ったあの子だった。俺が異様に虐めた……。

 

「サーヴァントというのは何とも不思議な生き物だな。そこの耳飾りの鬼狩りが言うには胴体を貫かれ、致命傷になり得る傷を喰らい、剰え鬼にされそうになりながら普通に回復するとは。まだ一日しか経っていないぞ、回復力は鬼並みだな」

 

 虐めた……いや虐められた相手に対する態度じゃないぞ!? どういうことだ!? 俺わりと酷いことした覚えあるんだけども!!

 彼女からは敵意が感じられないし、もう何もかも諦めた様な表情をしている。人一倍生に執着するだろう鬼達にはあり得ないような顔。それを意味するのは、鬼殺隊の柱の屋敷に彼女がいる時点でお察しだ。彼女の命は今、鬼殺隊に握られている。彼女の存在が禰豆子ちゃん同様希少なものであるからして。

 

「(いやでも諦観するにしても、腕を斬り飛ばして言葉責めした相手に普通に接するとか精神どうなってんの!?)」

 

 それとも、だからこそなのだろうか。壊れてたりする? だったらもの凄く申し訳ないし、炭治郎に頭突きされそうなんだけども。

 そんな事を考えながら彼女の一挙一動を観察していると、俺が驚いているのが判ったのだろう、彼女はこちらを向いて首を傾げた。

 

「何をそんなに驚いている?」

 

 いや驚くだろ! 普通!!

 

 

 

 

 

 

 

 




原作じゃ一瞬で殺られたし、敬語しか喋ってないので口調に関しては完全なる捏造です。
彼女って鬼にしては賢いとは思うんですよねぇ。柱と戦わずに逃げてたということは彼我の力の差を測れてた、そこに関しては伍よりは実力が上なのに納得。しかし生きる事を第一にする姿勢は上司と同じなのにその上司の部下な所為で理不尽な目に……そんなところも好きです、むかごちゃん。

次は28……って言いたかったんですけど一週間伸ばして7月5日更新予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。