俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十四節 それぞれの思惑。1/3

 

 

 

 

「一応聞くけどさ……俺が君を酷い目に合わせてたの覚えてる? 俺が言うのもなんだけど、普通近づかないと思う……」

 

 恐る恐ると言った風に問いかけてみる。相手は俺の言葉を聞いたのか聞いてないのか、あまり変わらない表情でこちらをジッと見て来ては、こてりと首を傾げるものだからこれは壊れてんなと確信を抱いた。

 彼女、下弦の肆は出会ったときもそうだけど普通の鬼の女の子って感じだった。情緒がちゃんとあり、上司に恐怖を抱きながらしっかりと命令を遂行するのは死が怖いというごく当たり前の感情を抱いているからで。俺が脅したときでさえ、震えて泣いて心の奥底から恐怖の音を鳴らしていた。ならば俺が彼女のトラウマになってもおかしくはないんだけど、そんな素振りは見せてきていない。その理由はあれは演技だったのか、精神が崩壊したかのどちらかで。

 俺は迷わず土下座して、思いっきり息を吸った。

 

「すみませんでしたァアアア!!!!!」

「!?」

「んえっ!?」

 

 なんか善逸が起きた気がするけど無視します。今の優先順位は彼よりも目の前の彼女なので。

 

「許してくれなくて構わない!! むしろ許さないでくれ!! 鬼殺隊としてとかなんとか言ってたけどぶっちゃけ今の俺ってば鬼殺隊所属じゃないんですよね!! マスターがそうであるってだけで!!! だから君にした事は完っ全に俺の独断でして!! 元々鬼舞辻と酒呑童子の所為なんだろうけどそれを抉り出した俺にも責任があるからして!! 鬼とはいえ女の子にして良い所業ではなかった!! すみません! ホントすみません!! 解剖とか言ったけどしないから!! ちょっと血を取らせてっ頂くだけっていうか立香ならきっとスキャンだけで済むと思うし、というか時代を超えた先で小型化した機械を媒介にするとはいえ対象のあれこれ調べられるとかどんなハイテクというかSFなんだよなやっぱ魔術と科学の力って凄いから痛い事はもうしませんので!! えぇ!!」

「……その言葉信じられると思うか?」

「だよねぇええええ!!!!!」

 

 全く人を信じてない音がしてきて草。いや草生やしてる場合じゃないけど、心の内で笑っておかないと俺の安寧がない。まぁ俺は元はといえ鬼狩りだし? 信じられるわけがないのはわかってたけどね?

 

「あと検査とやらなら終わっている」

「……えっ?」

 

 突然聞こえた言葉に俺は頭を上げた。そこには無表情ながらも呆れたような音がしている彼女がいて、あぁ感情はまだ残ってたんだなぁと安堵する。

 

「一日経ったと言ったのを覚えてないのか、その間に色々と終わっている。こうして自由にしているのも経過観察の一環だ。常に監視は付けられているけど」

 

 そうしてスッと身体を横にずらした彼女の後ろには蝶々の髪飾りをした小柄な女の子がいた。スカート型の隊服に、白いポンチョみたいなのを羽織った彼女は俺のよく知る人物だった。

 

「カナヲちゃん……」

 

 思わず呟いたけど相手はぺこりと少し頭を下げるだけで、にこにこと微笑んでいる。少しだけ戸惑いの音がするから俺が彼女の名前を知ってることが不思議なのだろう。そういやここに現界してからじゃ初対面だっけ? 俺としては生前も同期として、そして同じ柱として接した中だから知らない相手ではないんだよな。ただ後々のカナヲちゃんと今の彼女では少し違うけれど。

 

「蟲柱の継子とやららしく、実力は申し分ないと言われたが……なんだ知り合いか。ずっと笑っているだけで何も言ってこないから不気味なんだけど、何か知らないか?」

「あー、カナヲちゃんはそういう子だよ。多分君が何かしでかそうとすれば、直ぐに刃が飛んでくるだけだろうから安心して良いよ」

「……どこに安心要素が?」

「ないですねごめんなさい」

 

 座りながら頬を掻く。まぁ監視という名目上仕方ないけれど、ずっと睨み付けられるよりはまだマシだろう。カナヲちゃんは動体視力がとても良いので、普通の隊士よりは対処が早いだろうし、蟲柱であるしのぶさんの命令を忠実にこなしてくれる。結構適任だなとは思ったり、流石しのぶさん。

 さて、と立ち上がる。一通りは謝った。受け入れてくれなかったけれど俺の気が済んだので別に良い。そもそも許されるとは思ってない。

 俺の大声の所為か、別の部屋にいた炭治郎達がこちらに歩いてきている。多分呼びに来たのだろう、聞こえて来る音がサーヴァントである炭治郎と伊之助だけなので。そういや小さい方の伊之助は何処に行ったのだろうか? と思っていれば玄関の方に彼の音が聞こえた。息遣いも少しだけ荒いので、なるほどどっかに行っていたらしい。カランコロンと軽いものがぶつかる音もするから、どんぐりでも取りに行ってたのかな。炭治郎や禰豆子ちゃんへのお見舞い品だろうか。真っ直ぐこちらに向かって来るからそうなのだろうな。

 

「検査の結果とかは?」

「まだ出ていないか、もしくは伝えられていない」

「成る程。で、君がここに来た理由は?」

「あぁ、この鬼狩りがここに来たいって言ったから来ただけだな」

「カナヲちゃんが……?」

 

 視線を彼女に変えてみると、カナヲちゃんはにこにこと笑いながらも少しだけ頬を染めて目が泳いでいた。その先に炭治郎がいることから、あぁと納得する。お見舞いね、炭治郎の事となるとホント表情変わるな。柱になったときでさえミステリアスだと他の隊士に思われていたけど、ちゃんとした女の子には変わりない。微笑ましく思いながら、通路を塞いでいたのでベッド側に寄って、どうぞどうぞと道を譲る。驚いたように俺を見た彼女ににこっと笑ってあげた。

 

「彼女は俺が見張っておくから、存分に炭治郎を堪んん゛じゃなくて、炭治郎と話しておいで」

 

 俺の大声で目覚めかけていることは音でわかっている。だから多分話しかけたら完全に起きるんじゃないかな。

 困惑したような表情を見せた彼女は俺に頭を下げてタタタッと炭治郎と禰豆子ちゃんが寝ているベッドの間に椅子を持って行って座ってしまった。うーん頬が緩んでますね、これは汝はリア充、罪ありきって感じです。まぁ主人公なので? 当たり前だし? 微笑ましいものもありますが? だからと言って男として悔しくないわけがないが、俺は大人なので態度には出しません。えぇ、話の展開に付いていけてなかったのにラブコメの気配だけ感じて悔しげに呪詛を脳内で送っている善逸のようには致しませんとも。気が立ってるからかわからないけど念話に呪詛がダダ漏れです。

 

「善逸」

 

 そう声をかければハッとしたのか、此方へと視線を戻した彼は椅子から飛び降りて歩み寄ってきた。ぐるぐると俺の周りを回っては、ペタペタと身体を触って来る。まるでボディチェックされてるみたいだなと思いつつ、もう一度彼の名前を呼ぶと視線がかち合った。はぁあああというクソデカため息を吐いて抱きついてきた善逸を戸惑いながらも、その黄色い頭を撫でた。ぐりぐりと鳩尾に押しつけられる。いてて。

 

「ほんと、セイバーほんと、まじでホントマジで」

「いや語彙力」

 

 語彙力無さ過ぎか? 俺が本当マジでなんだ? そればっかり繰り返されても相手には伝わんないぞ、普通ならな。俺は耳が良いからその言葉の中にある感情はしっかりと伝わってくる。また心配かけたなと申し訳なく思いながら……このままじゃ駄目だなと考えてしまう。

 

「…………良かった。セイバーがいなくなると思った……」

 

 そう俺以外聞こえないような声量で呟いた善逸に、俺はここにいると伝える為にも少しだけ強く、されど優しく頭を撫でる。そうしたらスリっと善逸は頭部を押し付けてきたものだから、苦笑しながらも髪を解くように撫ぜた。

 最近、善逸がこうして心配してくれるのが嬉しく感じる時がある。いけない兆候だ、いや嬉しくないわけないってさっきも思ったけどさ……でもこれを享受していては駄目だ。だって離れ難くなる、俺はサーヴァントなのに、所詮死者であるのに……そしてここは特異点であるのに…………まぁ善逸に喚ばれた時点で俺が負けていた気もするけどさ。

 

「善逸、起きたのか」

「紋逸!」

 

 善逸の頭を撫でていると扉の方から二人組が入ってきていた。サーヴァントである炭治郎と伊之助だ。俺が空いている方の手で大丈夫だと言う様にひらひらと振って見せれば、安堵の息が彼らの口から零れ出る。思わず苦笑を浮かべてしまった。

 

「なんだか迷惑をかけたみたいで」

 

 ごめんねと言うと炭治郎は驚いた様に目を見開いた。けどそれも一瞬だけで、彼はそのまま首を傾げた。

 

「誰かに聞いたのか?」

 

 俺は緩く首を振る。聞いたなんていないし覚えていないけれど、ここに運び込まれた事や善逸の態度、炭治郎達の反応を見てみれば何かがあったのかぐらいはわかる。そしてそれが俺が心配をかける様な何かということも。

 首を振った俺に、そうかと何か納得した様に呟いた炭治郎は意識を切り替えるかの様に此方を見た。

 

「起き抜けに悪いけれど、無限城であった事を話して欲しい。ご覧の通り小さい俺はまだ起きていないし、起きていたとしても疲労が溜まっているだろうから寝かせておきたい」

「流石の炭治郎も自分にだけは甘いな。俺だって疲労が溜まっているんだけどな」

「善逸はサーヴァントだろう、溜まるはずがない」

「手厳しい」

 

 ふぅと息を吐いてから、わかったと頷く。断る理由がないし、あの出来事は共有していた方が良いだろう。俺の言葉に炭治郎はありがとうと破顔して、説明は立香の下でなと言った。おっとやっぱあのサーヴァントの巣窟に行くのね。

 

「じゃぁ伊之助はカナヲちゃんといてよ。彼女のこともあるし」

 

 そう言って下弦の肆である彼女を見れば、伊之助は露骨に嫌な顔をしてそっぽを向いた。やりたくないらしい、不機嫌だ。面倒だという音が聞こえてくる。頼むよ伊之助〜と頼み込んでいると炭治郎が止めてきた。苦笑いを浮かべた彼は俺を伊之助から離す。

 

「その必要はないよ善逸」

「? なんでだ?」

「零余子さんも呼ばれてるからな」

 

 炭治郎の言葉に静観していた筈の彼女が驚いた顔をした。いや驚くのかよ、聞いてたわけじゃないのね。というかこの子零余子って名前だったなそういや、思い出せなかったからずっと彼女とか下弦の肆とか心の中で呼んでたけど失礼だなこれ。

 しかし零余子ちゃんも呼ばれたとなると検査が終わったとかそんなのだろう。きっと彼女の処遇を決めるに違いない。けど柱の一人がここにいるとはいえ勝手に決めて良いのだろうか、そんな風に思いながら炭治郎の方を見るとふふんと息を吐いた。

 え? 何? なんでそんな得意気なの?

 

「善逸が懸念していることはわかるが、彼女の立ち位置はとても重要なものになった。大丈夫だよ」

「んぇ?」

「善逸とマスターの予想通りだ」

 

 ……おっとまじか。

 

 

 

 

 

 

 

 




21巻読みましンァア゛ア゛ア゛!!表紙の裏ァア゛ア゛!!明らかに動作でわかるだろうに表情が全く動いてない気がするの気のせいだと思いたい……驚き過ぎて逆に動かなかった説を推したい。違うんだ、動かないから動いてないんじゃないかとか思ってないからうん。
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