俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「結論から申しますと貴女は私達の言う“鬼”ではなくなりました」
カナヲちゃんを小さい炭治郎の下へ預け、俺と善逸、炭治郎と伊之助、そして零余子ちゃんはしのぶさんや立香達がいた部屋へと向かった。蝶屋敷の大広間の一つ、それなりに大人数だったがすっぽりと入るほどのその場所に立香達カルデア組と、この世界の住人である鬼殺組、そしてそのサーヴァントとして敷かれた座布団の上に座れば、早速とばかりにしのぶさんが開口一番そう言った。
彼女の視線の先にいるのは伊之助と炭治郎の間に座らされた零余子ちゃんだ。予想していたのかさして驚く事もなく、そうかと頷いていた。冷静に見えるけれど、サーヴァントである炭治郎と伊之助に挟まれているので心音が忙しない。きっと炭治郎も彼女の心情に気がついているのだろう、申し訳なさそうに笑っている。
「アンタ無惨のとこにいた奴っしょ? 女の子いるなぁと思ってたから覚えてるわ。なんでここにいんの? あ、もしかして私と同じで退職届でも叩きつけてやった感じ? ならオソロって奴だし! アンタもやるじゃん」
「そうなるとゴールデンイカしてんぜ! けどその気配、わかるぜ。彼奴絡みだろ? 元身内みてぇなモンだから謝っておく、すまねぇ」
「なんで気配だけでわかるの金時……愛の力?」
「あっ!? ば、馬っ鹿野郎! そんなんじゃねぇ! オレっちと彼奴は因縁が深いってだけだ!」
「うーん純情」
「カルデアの皆さん、すこーし黙っていてくれませんか??」
わいわいガヤガヤ。零余子ちゃんを見た元鬼舞辻の部下であったサーヴァント達が興味津々に観察して質問責めするものだから困った、立香も止める気ないだろうし? まぁ逆に加わってはしのぶさんにそう怒られていたけれど。彼女の気迫はいつ見ても凄い、正直十八歳には到底思えないな。俺の前世の十八なんてまだ馬鹿やってた時期だぞ? あんま覚えてないけどさ、俺の事だきっとそうに違いない。
でだ、顔だけで食っていけるような美人さんに凄まれたカルデア組三人衆は大人しくなった。ふざけはするけど根は真面目な彼らの事だ、きっとしのぶさんが怒ってるとわかって黙ったんだろう。心なしか表情がしょぼんとしてる気がするんだよな。
「少し邪魔が入りましたけど、続きを話していきますね。まず“私達”というのは我ら鬼殺隊の事を指します、つまり私達の言う“鬼”とは鬼舞辻無惨に身体を変えられ陽の下を歩けず、人肉を食べる事でしか生きられず死ぬ事でしか救いがない可哀想な鬼達の事です。貴女も初めはそうであった……いえ、その目が充分な証拠ですね、聞くまでもありませんでした」
その目とは片方の瞳孔に刻まれた“下肆”の文字。今の柱達が上弦と出会ったのは参と陸のみであるが、下弦の鬼など山程出会っている。柱にとって下弦の鬼は少し強い程度の鬼でしかなく、上弦の鬼程の低いエンカウント率でもないので良く倒されている。なので下弦の鬼の瞳はよく見ているので間違うはずもない。
「貴女はそうして下弦の鬼として過ごしていた。しかしある日下弦のみが集められ、下弦の壱、伍以外はとあるサーヴァントの鬼に身体が作り替えられた。その際に陸は理性を崩壊……あぁそういえば上弦の陸討伐の際にその下弦の陸をお見かけしたとか、善逸さん、鈴鹿御前さん」
しのぶさんの言葉に一つ頷く。
「その通りです。その場にいた音柱のお嫁さん達に手を出しそうになってたので頸を斬って焼き殺しました。あの鬼が何故理性を崩壊させたのかは鈴鹿御前の方が詳しいかと」
「まぁねー。アンタ達が“泥”って呼んでるアレ、まぁ前にも話した通り私の親達が人々を鬼に作り変える為に創り出したモノみたいなもんなんだけど、無惨の鬼とは性質が違うから根本的なところで合わないんだし。無惨は言うなれば“人を食べる怪物”ではあるけど“鬼”じゃないから、それになった奴とは折が合わないと思ってくれて良いじゃん」
「どういうことです?」
あれ? と首を傾げる。蟲柱である彼女の事だ、もう音柱とかから聞いていたと思っていたのだけど。第四天魔王のくだりは知らないのだろうか?
そう疑問に思っていると俺の心の声がわかったのかはわからないが、鈴鹿御前さんの親族については知っていますと続きを述べた。聞いていたらしい、良かった。
「神などとはにわかに信じ難い話ですけれど、カルデアの方々の様な人達がいるのですからあり得ないことではありません。まぁいらっしゃるのならあの鬼共をどうにかして欲しいものですが……そんな都合の良い存在ではないようですね。そんな事なら神を名乗らないで欲しいものです」
仰る通りで。人は神を信ずるけれど彼らは決して味方というわけではない。人間よりも人間らしい性格をしている彼らは人間なぞただの一生物に過ぎない見下す存在だ。強大な力をうまれながらに持っていたらそりゃ俺たちなんて虫みたいなもんだ。そんな奴らの願いなんて一々叶えてられない。
けど神は神で人間達の信仰がなければ生きていけない、だからこそ昔は気紛れで願いを叶えていたんだろうし、蔓延ってはいたんだろうけど、今じゃ超常現象が起きたならば十中八九鬼のせいなのでどうにも。神隠しだと思ったら鬼が攫って食ってたなんて結末はザラにあるからな。
ただ、しのぶさんのため息は少し我らに効く。鈴鹿御前は苦笑いを浮かべながら目を逸らしているし、坂田銀時は気まずげだ。サーヴァントな伊之助に至っては何故か猪頭を被っているし、俺は必死にしのぶさんと目を合わせないようにしていた。
ちょっと男子ー! しのぶさんの言葉と態度で神性持ちの心が傷ついたんだけどー! 何? しのぶさんに言ってくれ? 正論過ぎて吐く。
「それで、鬼舞辻無惨が鬼じゃないとは一体?」
「そのまんまの意味っしょ。言ったら私も鬼だし、金時も鬼。でも日の下を歩いても平気だし、人間なんて食べなくて良い」
「マァオレっちは半分だが、そういうこった。大方“人の形をした人間を食べる怪物”というのが鬼しか思いつかなかったから鬼って呼ぶようになっただけだろうな。普通鬼は人を主食としてねぇ、食べるとしても趣味趣向だ」
「趣味……」
「オウ、ちょっとしたオヤツみてぇなもんだな。オレは純粋な鬼じゃねぇんで食べたことねぇし今でも食べようとも思わねぇが」
「それなー」
実際人間が主食というのは、人間社会が築かれている今では面倒な事この上ない。まだ戸籍というのが誕生していないし、田舎に至っては誰かが死んでもそれが日常茶飯事だったみたいなこともあるけれど、でも人一人消えたとなると騒ぎになってしまう。人狼というわけでもないけど、夜な夜な人が居なくなれば人々の噂の的になり食事すら満足に行かなくなるんじゃないだろうか。数の多さで言えばあり触れる程あるだろう、でも相手は言葉を話す知性体故に手酷い反撃を喰らう事がある。だから下手に手を出すよりも普段は他の食料で満足していた方がいい。
まぁ鬼にとっては人間は美味いものという認識らしいので、狙わないということはないのだけど。
「つまり同じ呼び名だと言えど種としては違う、ということですか?」
「That's right! その通りだ!」
「ざ……?」
発音が良い。
「根本的なところで違うからこそ鬼舞辻の鬼としての性質と、“泥”に含まれた鬼の要素がぶつかり合った。それ故に理性を失った……そうしないときっと身体が持たなかったんしょ……ん? っつーことは、アンタ理性も保って? ……何気にヤバイことしてんね?」
「はは! 実にゴールデンだぜ! お前さん!!」
元鬼舞辻組が笑いながら零余子ちゃんに近づいては囲っている。あ、炭治郎と伊之助が押し出されてるわ。困ったような音と青筋が走ったような音がした。
「やい! テメェ、俺様を押し出すとか良い度胸だな! コラァ!!」
「いーじゃんいーじゃん、ちょっと譲ってよ。私達新しい同僚を祝福したいんだし!」
「すまねぇな、押し出すような形になって」
「いえ。けど一言言って欲しかったです」
伊之助と鈴鹿御前、炭治郎と坂田金時が入れ替わるように座り直す。まだ若くておぼこい顔をしている伊之助や炭治郎より、実力的には上でありそれなりの背丈と威圧感を持った二人に挟まれて少しだけ顔が青くなる零余子ちゃんが可哀想に見えてくる。え、大丈夫か? 心音やばいんだけど。かと言って俺に彼女を救出する度胸はないのだけど。
「まぁ、と言った様に貴女は鈴鹿御前さんや坂田金時さんが言う様な古くからいる鬼という種族に近いとの事ですね。流石に私でも私の知る鬼ではないとわかっていても、貴女がどういった存在になったのかは確信を得られませんでしたので、彼らに説明していただけたのは好都合でした」
アッこの人無知なふりして鈴鹿御前と坂田金時に説明させたな。怖。
そんな彼女に二人は気付いていたのかいなかったのかはわからないけど、何故かしきりにしのぶさんの言葉に頷いていた。その通りとでも心の中で言っているのだろう。
「あの“泥”を取り込んでもなお理性を保っている貴女は貴重な存在です。例え新たな鬼になっていたとしても、貴女の中で起きた変化はきっと世に安寧をもたらす鍵となりますので、貴女は鬼殺隊で保護という形になりました。えぇ例え貴女が下弦に至るまで数多の人を殺していようとも、鬼殺隊は目的を達成するまで貴女の安全安心を提供すると約束いたしましょう」
いや殺気。きっと零余子ちゃんにだけにつけられたものだろうけど怖い怖い、すげぇ怖いからしのぶさん。漏れでてるからね?? しまって? 俺の隣にいる善逸も、貴女の隣にいるアオイちゃんも青ざめた顔してるから。柱である彼女の殺気は少しだけでもそれなりの威圧感はある、階級的に一番下であるアオイちゃんや気弱な善逸には毒だ。声をかけたらやめてくれるのだろうか、と少し思案していると炭治郎がしのぶさんの名前を呼んだ。穏やかな笑みをしているけれど、内心焦っているような音がする。その隣にいる伊之助からもするな、全員しのぶさんに弱すぎな? まぁ俺も焦ってないって言ったら嘘になるけどさ。
炭治郎の言葉にしのぶさんは口に手を当てて驚いた様な表情をして殺気を引っ込めた。まるで今気が付きましたよと言いたげだ……態とらしいけど顔と相まって許せちゃう悔しい。
「すみません、つい」
「つい!? ついで殺気放つの!? 柱って! 怖!!!」
その通りだけど黙っとこうな? 善逸。
まだ叫びそうになっていた彼の口を塞ぎ、話を遮ったことを謝る。しのぶさんはゆるりと頭を振って大丈夫ですよと笑った。顔が良い。
「彼女の話はもう終わりました。次は貴方の番なので、謝らなくても大丈夫ですよ? 聖刃さん?」
「俺、ですか?」
「えぇ、厳密には貴方と炭治郎君と禰豆子さんの事ですが」
……なるほど。
「鬼舞辻無惨の本拠地で起きた事、話してもらえますね?」
美人が笑うと美しい、美人が怒った時は怖い。つまりいつも笑っていて怒っているしのぶさんはいつも美しくて怖い。
……いつものことですね!