俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
俺は無限城で起きた事をみんなに説明した。
刀鍛冶の里で茨木童子と遭遇したこと、その茨木童子の所為で無限城に落とされたこと、鬼舞辻無惨の計画、サーヴァント源頼光との戦闘、そして炭治郎を庇ってからの記憶が曖昧なこと、全てを話した。
「そんな危険なことしてたの!? セイバーと禰豆子ちゃんと炭治郎!!」
「でも無限城に落とされた時点で実質詰みなところを考えると、生還しただけで儲け物では」
「情報も持ち帰ってるから更にプラスだね」
「のほほんとしながら言うこと!?」
いや終わったことだからな? のほほんとさせてくれ、ちょっと現実逃避も兼ねてるから。
「聖刃さんの話によりますと、鬼舞辻無惨は人生を二回やり直してると?」
「言ったら一回ですけども、まぁ記憶を取り戻したのは最近だとか」
「少し信じられない話だな。俺達みたいにサーヴァントになって第二の生、というのなら分かるんだけど」
普通の方々には信じられない話だろうな、人生をやり直す、リセットするというのは想像はしても実際に起きるとは考え難い。しかし俺としては過去に転生をする、しかも異世界であり俺にとって物語の中である世界に生まれ変わるという経験を経ているからこそ、そういう事が起きても不思議ではないとは思う。
きっと鬼舞辻は世界を渡ったのだろう、幾つもの並行世界の中でも本筋を辿った筈の世界線から、この大きく外れた場所へと。魂だけが渡り生まれ直した。多分記憶が最近まで戻らなかったのは世界を渡ったが故に消耗でもしていたのかも知れない。
……まぁ全部俺の想像だけれど。
「しかし相手に記憶があるというのは厄介ですね。もしや、此方の手の内を全て知っているという事になるのでは?」
「えぇ、その通りです。言動からすると鬼舞辻は一度、鬼殺隊に負けている。そしてそれを鮮明に覚えているのだとすれば」
「対策を練ってくる」
しのぶさんの言葉に俺は頷いた。
「けれど手の内を知っているのは此方も同じ。俺と竈門炭治郎、嘴平伊之助は無限城での最終決戦に参加しています。そして鬼舞辻とも対峙した。前の鬼舞辻が俺達と同じではないとは思いますが、辿った道は同じかと」
「では貴方達の経験を基に此方も対策を練りましょう。前と同じ行動を取ってくるか否かで私達の動きも変わますが、予防線は多いに越したことはないでしょうから」
カルデアの方々もそれでよろしいですね? と問い掛ければ、立香は反対なんてするわけないよと苦笑いを零しながら、首を縦に振った。
「それでは一度、緊急柱合会議を開きましょう。お館様へは私から申し出ておきます。鬼殺隊とカルデア側で一度話し合い、対策を練り、改めて鬼殺隊全体に知らせます」
「お願いします。情報の擦り合わせは早いに越した事はありませんから、カルデア側としても賛成です」
「もし鬼舞辻が前回と同じ行動を取ろうとも前程余裕はないと思いますから、なるべく早めでお願いできますか?」
「えぇ、分かっています」
そう真剣に頷いたしのぶさんは、隣に座っていたアオイちゃんに今の話を認めてお館様に手紙を送るよう指示をしている。それを見ていた立香は今まで黙って聞いていた獪岳と沖田オルタに今の話の確認をしていた。獪岳はきゅっと太い眉を顰めながらも頷いている。聞こえてくる話からは柱合会議に彼も参加するという話で……えぇー、大丈夫? めちゃくちゃ複雑な音させてるけど、頷いちゃったりなんかして。まぁ獪岳が決めたんなら俺がとやかく言う権利はないけれど。
しかし獪岳と沖田オルタが参加するとなると坂本さんも参加するのだろうか……いや鬼殺隊の最高戦力である柱を集めるんだ、逆にサーヴァントは集めないかもしれない。獪岳はサーヴァントのマスターとしての参加だろうから、マスターのいない坂本さんやその他は来ないと予想できる。手綱を握れる鬼殺隊側の人間がいないので重鎮が集まる場所に一騎当千のサーヴァントを何騎も集めるのは自分達の首を絞めるようなもので。沖田オルタは鬼殺隊所属である獪岳と一緒に参加なところを見るに、俺の予想はあながち間違いでもなさそうだと感じる。
ふむと考えているとしのぶさんに名前を呼ばれる。もう慣れ親しんだ筈なのに呼ばれなくなってきているそれを呼んでくれる彼女の方を向いて、何かと問う。話は終わったのでは?
「いえ、一つ確認をと思いまして」
「確認、ですか」
何だろうか、俺が気づかない不審な点でもあったのだろうか。それとも俺の説明がわかりにくかったとかそういうの? いやいや炭治郎じゃあるまいし、それなりに説明をするのは得意だとは思っていたのだけど……まぁ言葉を積み重ねるだけで内容がすっからかんなときもあるので、もしそうなっていたのなら申し訳ない。昔からある俺の悪い癖である。
「鬼舞辻無惨のこと、無限城のことは大まかにはわかりました。貴重な情報ですので有難いですね」
それは良かった。
「しかし貴方の説明に少し疑問が」
しのぶさんがそう言ったからかわからないが、視線が此方へと注目した。まるで疑問に思っているようなその視線と目に苦笑いを零す。そんな見られても俺にはしのぶさんが何を疑問に思ったのかわからんて。
「聖刃さんは茨木童子と源頼光という方と交戦したということですが、結局のところ倒せたかどうかは話していませんよね」
「……茨木童子に関しては鬼舞辻無惨が出てきた後に何処かへ去って行ったので倒せてはいませんね」
「なるほど。では、源頼光はどうなったのですか?」
なるほど。変に期待を持たせるのもなと思っていたけれど、逆に語らない事によって期待を持たせてしまった。失敗だ。交戦したという事実だけを教えてしまったら結末が気になるというものだけど。確信を持てる事柄ではなかったので否定をさせてもらおう。
倒せたのですか? と聞いてくるしのぶさんの言葉に俺は首を振った。
「炭治郎が首を刎ねてくれたところまでは見ましたがそれ以上は」
「充分ではないのですか? 首を刎ねたという事は倒せたという事になるのでは?」
その言葉にも俺は首を振った。
不思議そうに俺を見るしのぶさんを横目に立香達の方を見ると、彼らは気がついたのかなるほどと呟いていた。数多の旅路を歩んできた彼らだからこそ、俺が言いたいこともわかったのだろう。元鬼舞辻組も思い当たる節があるのか、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「確かにサーヴァントも首を刎ねられたり、心臓を貫かれたりすれば座に還ることでしょう」
「では何故?」
「源頼光の近くには鬼舞辻無惨がいました」
そう、
「膨大な魔力の恩恵を得ているサーヴァントは
例え、首から上がぐしゃりと押し潰れたりしたとしても、元々魔力で編まれた肉体だからこそ大量の魔力さえあれば再生は可能である。
つまり、源頼光は。
「まだ生きている可能性が高い」
宿敵である竈門炭治郎と、日の下を歩けるかもしれない希望である竈門禰豆子が無限城から転がり落ちた後、その城の中では静寂が訪れていた。
鬼舞辻無惨は今し方起きた事が理解できなかった、したくはなかった。顔を手のひらで覆い、深く深く息を吐いた。落ち着け、暴れ散らかしても何も解決には至らない。しかし煮え滾る怒りは充分に抑える事ができず、無限城の一角を壊してしまっていたが。
「鳴女ェ……ッ!」
絞り出すような声だ。怒鳴りたい気持ちを押し込めて自分の部下の名前をそんな声で呼んだ。べべんと少し調子のズレた琵琶の音が鳴った。
「ここに」
無惨の背後に現れた黒髪の鬼。この無限城の製作者である鳴女は、怒りを内包させた無惨に怯えながらも決して態度には出さず、ゆっくりと頭を下げた。
「私の言いたい事がわかるな? 鳴女」
「勿論でございます」
「言い訳を聞いてやろう」
鳴女は押し黙った。理由ではなく言い訳と断定された時点で、鳴女には謝罪をしなくてはならない未来しかなくなった。いや言い訳を聞いてくれることを考えると、まだ良い方ではある。機嫌が最高潮に悪いと何処かの上弦の弐のように物理的に首が飛んでしまう。
しかしどちらにしろ答えなければいけない場面だ。ぐっと撥を握りしめた鳴女は口を開いた。
「申し訳ございません、私の不注意でございます。無限城内に見知らぬ男が現れた次第で、背後を取られてしまい」
「良い、それ以上言うな」
はぁと無惨はため息を吐いた。
「お前が彼奴らを逃した事実には変わりない、それはわかるな?」
「はい」
千載一遇のチャンスを棒に振った事は鳴女も理解していた。無惨の望みは一番近くで見ていたからこそ、それを無に期した鳴女にどんな罰が下るのか恐ろしくて震える手を必死に押さえる。鳴女の心の内などこの距離ならば筒抜けであるのに、無惨は何も言わずにただ鳴女がいる方向とは別の方向を見つめていた。何を考えているのだろうか、鳴女からは全くわからない。
「お前が下弦の鬼であったなら直様殺していた。無能など私は要らないが、お前は有能だ。殺しはしない、しかし罰を与えないわけにはいかない」
鳴女がいないと無限城は存在し得ない。それを殺してしまうほど無惨は愚鈍ではないが、だからといって何もしないでいては腹の内の虫は治らないだろう。
無惨は振り返っては鳴女に歩み寄り、無言でその額へと指を突き刺した。長く鋭く伸びた爪は一切の抵抗もなく鳴女の脳内へと届き、無惨の血を流していく。前回、彼女を新しい上弦の肆へした時ぐらいに……いやそれ以上に血を注ぎ、鳴女が対応できるギリギリを見極めては指を引き抜いた。衝撃で何滴かは溢れ落ちたが、無惨にとっては些細な事である。
「ァ゛ッガぁア゛」
「鳴女、お前にはやって貰う事がある。前と同じでは駄目だ、それ以上もっと早く、彼奴ら鬼殺隊をこの無限城に落とし込めないとな」
下がれと言えば、またもや少しだけ調子の外れた琵琶の音が響き鳴女は消えていた。
しかし鬼殺隊を落とし込めるとなると作戦を変えなくては。前の様に逸れ者の鬼にしてやられてはいけない、産屋敷の奴に逆に嵌められてはいけない。しかし無限城という絶対的なテリトリーを活かさない事はないだろう。ここにいれば一生日が差さず、鬼殺隊相手に消耗戦を強いる事ができるのだから。
今、手の内にある戦力をも考慮しないといけない。雑魚共を下弦相応にしなくては。猗窩座を失ったのは痛手だ、上弦の鬼はもう壱と弐しかいないなど。
「(サーヴァントを含めたらそれなりには……いやそれは鬼狩り共も同じ)チッ」
戦力の数で言えば彼方の方が優っている。思ったよりも苦戦を強いられるかもしれないなと舌打ちを一つ零せば、視界の端に入った血だまりにまた舌打ちを零したくなった。汚い、いつまで突っ伏しているつもりだ。そのまま消滅するのならまだしも、ずっと首から上がないまま現界し続けている。
「いつまでそうしているつもりだ」
苛立ちながらもそう問いかける。ピクリとも動かない屍のようなそれを睨みつけながらも、無惨はため息を吐いた。それの性格を思い出しては眉間の皺を片手で揉んだ。前の自分ならきっと怒りに囚われてはその心臓を貫いていたかもしれない。そうならないのは単に、殺しても意味のない事だと理解している故。一度くらいは己の寛容さに感謝して欲しいものだ。
まぁ自由奔放なサーヴァントにそんな事を求めても断られるだけなのだが。
「早く起きぬか、母よ。いつまでも息子を放っておくのは如何なものだと私は思うのだがな」
しばしの静寂の後、クスクスと笑い声が無限城に響く。妖艶な大人のような、しかし無邪気な子供のようなその笑い声には喜色が含まれている気がした。
クスクス、くすくす。
「あらあらまぁまぁ」
あはは。
「母の戯れに付き合ってくれても良いじゃありませんか」
ねぇ、マスター?
楽しそうに笑うそれに無惨はもう一度ため息を吐いた。
「(付き合ってられるか……!)」
正直首から顎ときて頭が再生するの超絶グロ案件だと思うんですけど、それを序盤でやっちゃった鬼がいるんですよね。喩史郎と言うんですけど。
次回は一ヶ月後の8月8日更新予定です。
さらっと一ヶ月休む奴…!