俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十五節 最後の晩餐。1/3

 

 

 

 

 鬼殺隊本部。

 日本の首都である東京の何処かにあるその本部は鬼殺隊士ですら把握していない。しているとすれば最高幹部である柱のみであり、甲以下の隊士には知らされもしない。柱の継子にでさえ教えないという徹底ぶりは、単に鬼に情報を漏らさない為にある。まぁ全員が全員お館様へ忠誠を誓っているわけじゃないからな、自分の命欲しさに教えるかもしれない。しかし彼に一度でも会えば、そのカリスマ性故に心酔していく。決してF分の一の揺らぎがあるからというわけではない、例え特殊能力があったとしてもその使い手が良い奴じゃなきゃ意味がないのと一緒で、お館様はそれを使うに値する良い性格をしている。だからこそ柱合会議で毎回お館様に会う柱は全員お館様のモンペであるので、本部の位置を教えても大丈夫なのだ。

 

「(まぁそれと同時に鬼舞辻への感情がある意味クソデカなので、一ミリでも相手が得になるような情報を与えることは無いという信頼もある)」

 

 え? お前も柱だっただろ……? えー、半ば勝手に任命されてたんですがそれは?

 さてはて、サーヴァントとして召喚されてから実に二回目の鬼殺隊本部だ。生前に柱になったときでさえ、こんな頻繁に訪れてはいなかったというのに、何故か死後の方が期間が短い。面白い事もあるもんだと中を眺めた。

 

「あっ、彼処のラーメン美味しいんだよなぁ。また食べて良い?」

「ラーメンてなんだ!?」

「支那そばだよ」

「食べるならせめて会議が終わってからにしてくれ」

 

 本部にある食堂を見つけた立香がそんな事を言う。食べる機会なんてあったのだろうかと考えては柱合会議で会ったなと思い出す。その時にきっと食べたのだろう。まだ全国的には流行ってないはずのラーメンだけど、あそこの食堂は街の食堂とは違ってレパートリーがたくさんあるからなぁ、あってもおかしくはない。柱であった俺だけれど、本部にはそんな頻繁にいなかったので食堂をスルーしていた記憶がある。別にここで食べなくとも出先の藤の家紋の家で出されるから必要なかったというか。

 因みに何故柱ぐらいしか居場所を知らないはずの本部に食堂があり、そして受付があるのかというと一般向けに旅館も兼ねているからである。藤の家紋を掲げた此処は一見すれば本部だとは思われない。一般隊士から見てもただの藤の家紋の家だ。

 

「はいはい、皆さまお静かに。その支那そばが最後の食事になっても良いのならばどうぞお気楽に行ってください」

 

 団体旅行にでも来たのかってぐらい騒がしい彼らにしのぶさんが青筋を立てながらそう言った。しっかりと笑顔を忘れずに立香たちを見ているはずの彼女の目は笑ってはいない。

 しのぶさんは多分、本番前にリラックスして緊張をほぐすタイプではなく、逆に神経を研ぎ澄ませて挑むタイプなのできっと立香達とは相性が悪い。しかし数多の英霊と接してきた彼がしのぶさんの言葉で怯むわけもなく、じゃぁ後で行こうかな? と笑顔で返事をしていた。うん、強い。

 

「そんなこと言われて行くって答える藤丸さんの神経どうなってんだ……?」

 

 隣でポツリとそう呟いた善逸に首を縦に振って同意する。今回ばかりは善逸の感性の方が正しい。まぁ彼の場合、どの食事でも最後の晩餐になり得るので当たり前の感覚なのかもしれないけど、普通はそう言われて行く奴はいない。流石藤丸立香、図太い。

 

「というか、炭治郎も食べたのか? ラーメン」

 

 支那そばってなんだ!? と小さい方の伊之助が大きい伊之助に聞いているのを尻目に俺はそう言いながら炭治郎の方を向いた。話を振られると思ってなかったのか僅かに驚いた彼は頬を指先で掻きながら、まぁなと呟いた。

 

「サーヴァントには食事は不要とかなんとか言ってませんでしたっけー?」

「うっ、そうだけど立香に召喚されてからはそうもいかなくてな」

 

 まぁわかる。百騎を超えるサーヴァントを現界させ続けるのには工夫がいる。普通の聖杯戦争ならば、大半の魔力を聖杯が肩代わりしてくれるがカルデアではそうもいかない。大聖杯なんてものはないので発電機を駆使して魔力を生み出し、サーヴァントに供給している。しかし科学と魔術を融合させた技術で魔力を補っているからこそ、足りないということもある。食事からは少量の魔力を回復できるので、きっとカルデアでは推奨されてるのだろうな。

 因みに科学と魔術は交差してたりしない。融合である。

 ふーんと適当に相打ちを打って、勝手知ったる様に歩くしのぶさんの後をついて行く。やはりというかなんというか、俺達が生前通った場所と変わりないな。ある程度入り組んだ廊下を歩いた後についた部屋で隠達が待ち受けており、俺たちを見るとペコリと頭を下げた。

 

「お待ちしておりました」

 

 既視感。というか数ヶ月前にもこんな感じでしたね。

 

「蟲柱様以外は全員目隠しをさせてもらいます。その上我々がお運び致しますが、これは会議場所の秘匿性を守る為という事をご理解ください」

 

 先頭にいた隠がそう言葉を続けた。きっと彼らの中で階級が一番上なのだろうな。隠は隊士程ではないが階級が分かれている。普段は隊士に指示されて動く彼らだが、彼らだけでも動く任務がある為に上下関係をはっきりさせていたりする。良く鬼殺隊士の近くにいたり、その場の代表として言葉を話すのが隠の中での隊長みたいな位置つけである。まぁこれを知ったのは俺が柱になってからなのだが……階級の名前ってなんだっけ? 三段階だった気がするんだけど……松竹梅とか?

 

「私は先に行っております。もうそろそろ皆さんお集まりになっている頃でしょうし……藤丸さん」

「はい?」

「そこの彼らをしっかり抑えておいてくださいね?」

「アッハイ」

 

 そこの彼らというところでこっちを見たのは気のせいだと思いたい。まぁ俺をっていうか善逸だろうけど、でも目が合ったのは事実だ。えー俺ってそんな暴れるとでも思われてんだろうか。前回の柱合会議での心当たりがめっちゃあるから冷や汗ものなのだけど。

 それでは、と特徴的な羽織をひらりと舞っては扉の向こうに消えていったしのぶさんを見届けた隠達は立ち上がり、俺達の後ろへと回ってきた。失礼しますと声をかけられて真っ黒な目隠し布をつけられる。

 

「(元柱な俺達につけても意味ないんだけどなぁ)」

 

 なんて心の中で苦笑しながら、伊之助の気持ち悪いという怒鳴り声をスルーする。きっとあの猪頭を外させられて布をつけられてるんだろう。あの顔からすればなんだか犯罪臭がしなくともないが、ムキムキな身体ではノーカウントです。セーフ。健全です。

 下手したら善逸達よりも小柄な隠達(こっちの方が平均身長である)に抱えられながら屋敷の中を移動する。その際様々な音が鼓膜を通り脳の中に反響していくが、努めて無視を決め込んだ。聞こえてくる音を頼りにしたら隠に案内されずとも移動できちゃうので、反応してしまえば何を言われるかわかったものじゃない。まぁ万が一の時を考えて、覚えてはいるけど……うん、生前とそんなに変わらんな助かるわー。

 

「あっ」

 

 と、すぐ側に居る隠に担がれてる善逸が声を上げたので、念話を通じて静かにしておくように言っておく。彼が声をあげたのは俺と善逸以外が別ルートを辿ったからだ。ずっと一緒に行くと思っていたのだろうけれど、生憎そうはいかない。秘匿性を守る為の手段の一つだからな。

 そうして揺られて運ばれてたどり着いたとある一室、床に下され目隠しを取られる。急に明るくなった視界に瞳孔が対応しようと縮こまった。眩しい。

 

「ここからは歩きになります。と言ってももう直ぐそこになりますが、皆様お揃いですのでくれぐれも粗相の無いようお願いいたします。特に聖刃様」

「……はい、すみません」

 

 そういや前回に居た隠と声音が似ているような気がしてたけどまさかご本人だとは。目元以外は体型も身長もわからないようになっているので誰が誰だかわからないので気がつかなかった。何故か後藤さんだけは一発でわかるんだけどな。

 

「セイバー、何したの?」

 

 隣に降り立った善逸が目隠しを外されながらそう言った。こてりと首を傾げた彼はとても幼く見えた……まぁいつものことだけど。

 純粋な疑問であるそれに俺は苦笑して、えーっとと言葉を選ぶ。

 

「柱に斬りかかった……とか?」

「ホント何してんの!?!? 鬼殺隊で二番目に偉い奴に斬りかかるとか自殺行為!! いやセイバーが負けるはずないんだけどね!? それでも下手したら俺とセイバーの首が飛んじゃうよ! どうしてそうなったのよ!? 答えろ!! 答えを言ってみぃ!!」

「その柱が禰豆子ちゃんを斬ろうとしたので守る為に抜刀しました」

「セイバーが正しい、良くやった」

「お二人共!!!!!

「「うっ、すみません」」

 

 でもまぁ今考えたら軽率な行動だったなとは理解できる。禰豆子ちゃんが斬られそうになるという事に怒りが湧き上がって来たけど、それでも抜刀はせずにこの身一つで守れば良い話だ。日輪刀程度で俺の神性を破れるとは思えないし……あれ? なら何で炭治郎はあの源頼光を斬れたんだろう。

 突然降って湧いた疑問にこてりと首を傾げていると目の前にいた隠が俺の名前を呼んだ。どうやらもう行くらしく、その隣には善逸が並んでいたので脚を動かした。今は柱合会議に集中しなくちゃな。

 柱合会議は鬼殺隊本部もとい産屋敷邸で行われる。あくまで本部でするという体で行ってはいるが、お館様は総じて呪いにより身体が弱いので遠くには出かけられない。だからこそこちらから赴がなければならないのだが、それを尾行されてしまえば彼の命が危ない為にこうしてややこしい事をしているのだ。因みに生前、産屋敷邸に鬼舞辻無惨が来たのは相手が此方の情報を握ったのではなくわざと握らせたが故だ。そうでなければ待ち伏せなどしない。

 途中で別れた立香達と合流して、既視感溢れる部屋へと到着する。前の柱合会議ならぬ柱合裁判では裏庭の方で行われたけれど、今回は“会議”であるので室内で行われる。まだ夜では無いというのに雰囲気溢れる部屋の中にはズラリと人が並んでいた。いつもならば入り口から奥へと柱達が向いて座っているのだが、今回だけはまるで時代劇のように左右に分かれてお互いに見合うように座っていた。なんか凄いな。

 

「映画みたい」

 

 そうポツリと呟いた立香に心の中で同意しながら隠に案内された場所へと座る。場所の説明を行うと、入り口から左手側は奥から順に伊黒小芭内、煉獄杏寿郎、宇髄天元、胡蝶しのぶ、竈門炭治郎(鯖)、嘴平伊之助(鯖)、藤丸立香、俺、我妻善逸。

 右手側が奥から順に悲鳴嶼行冥、不死川実弥、甘露寺蜜璃、冨岡義勇、時透無一郎、沖田総司(オルタ)、獪岳、竈門炭治郎、嘴平伊之助である。

 特に何処に座るか決まりもなかったけれど、何となしに座ったらこうなった。どうして俺が立香と善逸に挟まれているのだろうか。そもそも立香は大事なカルデアのマスターなのだから、野良マスターのサーヴァントである俺が隣にいるのはどうなのだろう。思わず炭治郎達を見るけど彼らは首を傾げるだけで何も言ってこない。いや少しは疑問に思えよ!

 

「お館様の御成です」

 

 小さな女の子の声が静かに響いた。お館様の子供達が彼の手を引いて入ってくる。前に見た時よりも少しだけ進行した呪いに柱達が心を痛めたように小さく顔を歪ませては、一斉に頭を下げる。カルデア組以外も倣って頭を下げた。

 

「久しぶりだね、私の子供達。そしてカルデアの方々も柱合会議への参加感謝します」

「お館様におかれましても、ご壮健で何よりでございます」

「今回もお招きいただきありがとうございます、産屋敷殿」

 

 お館様に一番近い蛇柱が定型文を言うと同時に、俺の隣にいた立香がそう感謝を述べて今度は軽く頭を下げた。

 目が見えないのにも関わらず此方の方向を向いて微笑んだ彼は、軽い調子でさてと声を上げる。

 

「柱合会議、始めようか」

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。もう一ヶ月に一節投稿で良いかなって思ってる鬼柱です。最近急に覚えのない引き落としがありましてびっくりしたんですけど、伊之助の貯金箱と猫善逸(その他諸々)が原因でした…注文したのすっかり忘れてた……。

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