俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十五節 最後の晩餐。2/3

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨は悩んでいた。何についてと問われると勿論、今後の事である。折角の千載一遇のチャンスを部下のせいで取り逃がした彼はこれからどう動くかを考えていた。

 “前”では鬼殺隊を全員殺した後にゆっくりと竈門禰豆子を手に入れようと考えていた。しかし後一歩のところでやられてしまった。最後の力を振り絞って己の悲願を託したりはしたけれど、その時にはもう死んでいた無惨がその後どうなったかを知り得ることはできなかったので別にどうでも良い。ただ後々復活できればなとは考えていたが、それもなく第二の生をえている今となっては無駄な行為だったと考えている。

 しかしやらない手はない。保険を掛けるとあのサーヴァントにも言ってしまったし、自身としても有能な手だとは思っている。ただ“前”ではそれをしたのが最後の方になってしまった為に、見届ける前に死んでしまったのだ。ならば今回は先にすれば良い。

 

「(今回も雑魚鬼共を集めて下弦程度には育てて……いや、“前”では相手の鬼殺隊共に殺られていたな)」

 

 思い出すのは無限城での出来事。深いダメージを負った無惨が回復した後に周りにいた鬼殺隊士。柱でもない無惨にとっては雑魚に過ぎない彼らが、眠っていた無惨の下へと辿り着けたのは単に大量に配置した下弦程度の力を持った鬼共を知り退けて来たからだ。つまり前回と同じ方法を取ると此方が負ける。

 

「なら、増やせば良い。鬼にしてしまえば良い。もっと強くすれば良い。ヒヒッ、アンタならわかるだろ?」

 

 突然聞こえた声に無惨は振り返る。無限城に設置された灯りでできた暗闇にポツリと光る目が此方を射抜いていた。弓形に曲がったそれは愉快そうにヒヒッと引き笑いを零す。

 

「お前は」

「久しぶりだなぁ、お兄さん。何、ちょっと苦戦しているみたいだからな? 俺が助けに来たぜ?」

 

 マァ三流どころか百流なんで戦闘には期待すんな? と助けに来たくせに役に立たない宣言をしたそれは、鬼舞辻無惨に聖杯を引き渡した男だ。声音から男と判断しているけれど、そんなもの今の無惨にはどうだって良い。こいつが此処に居る、それが問題である。

 

「貴様、どうやってここに入ってきた」

 

 此処は無限城だ。入り口は存在せず、入るにしても出るにしても鳴女の協力がいる。その鳴女は無惨が血を分け与えた事によって今は使い物にならない。ならばこいつが此処に入って来れるはずがないのだ。

 

「そんな事どうだって良いだろ?」

「何?」

 

 他人のテリトリーを荒らしておいて、どうでも良い? 随分な言い草だな、と無惨はこめかみに青筋を浮かべた。こいつに言われなければサーヴァントを召喚せず、戦力増加はできなかったので一応は恩人であるけれど、それこそ無惨にとってはどうでも良い。恩は受けるが返す気がないのが無惨である。

 そんな無惨の何が面白いのか、ヒヒッと笑った彼はこてりと首を傾げた。

 

「困ってんだろ?」

 

 それはまるで確信を得ているような声音。こちらに聞いているのにも関わらず、返事すらも必要ないと判断しているのだろうそれは唯一見せてなかった白い歯を剥き出しにして笑ってみせた。

 

「さっきも言ったけど、手伝うぜ?」

「……何が目的だ?」

「ハハッ! 目的か! 俺は過程が目的なんでな? お兄さんにはあんまり関係ないと思うぜ?」

「話す気は無い、と?」

「イヒヒッ! どう受け取ってくれても結構。俺はやりたいようにやる、つまり今俺がやりたいことはお兄さんを手伝うこと。そういうこった」

「ふん」

 

 決して彼が善意で手助けを申し出ているわけではないとは無惨も理解している。ただの利害の一致。そういうものでしかこの男は他人を助けたりしない。

 ただ実際のところ、手を拱いていたのも事実だ。この男が言う手助けというのは助言などそういうものだろう。先程戦闘には期待するなと言っていたので間違いはないはずだ。飄々としたこの男がどんなことを言うのか、少しだけ興味があった無惨は鈍く赤く光る瞳を細めて男に続きを促す。言ってみろ、何でも良いから、この現状を打開する手立てを。そう視線で言っているかの様にジッと見つめる。

 

「何、単純明快な話だぜ? 人生ってのはトライアンドエラーの繰り返しだ。何事も挑戦、努力。でも無理だった? ならそれを省みて手を変えてみれば良い」

 

 それができれば苦労はしない? いや、いやいや、お兄さんはなぁんにも考えちゃいない。“前”に引き摺られ過ぎてるんだよ、省みろとは言ったけど同じ行動をしろとは言ってないぜ?

 

「“前”の戦力じゃダメだった。ならもっと、倍、二倍、三倍増やせば良い。数は力なり。三流サーヴァントだって何百人も集まれば一流にも劣らない」

 

 なぁ、お兄さんや。

 

「それができるほどの力を、アンタは持っているだろう?」

 

 そういうの間にかすぐ目の前にいた男は、にんまりと笑みを深めながら、無惨の鳩尾あたりをとん、と軽く突いた。

 

「…………」

 

 無言の肯定、それが無惨の答えである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 鬼が消えた?」

 

 マジで? と驚きを隠しもせずにそう問うと炭治郎は少し厳しい顔をしながら頷いた。拙いかもしれないと彼は呟く。

 蝶屋敷、昼下がりの午後一時。昼食も取り終えた後に炭治郎に呼び止められて、全国の鬼が消えたという報告が入ったと告げられた。しのぶさん経由であろうそれは、鬼殺隊がこれまで広げてきた情報網によるものである。炭治郎が言うには昨日の夜にはめっきりでなくなったとか、これまで騒がれていた鬼の仕業と思われる所業がぱったり途絶えたとか、そういうにわかに信じ難いものだけれど、お生憎さま俺たちには見覚えのあり過ぎる出来事だ。

 

「無惨が前回と同じ行動をとった、って事だよな?」

「あぁ、こうくると何を考えているか分からなくなるな。禰豆子に関してはすぐに行動したくせに……」

「まぁそれが失敗したからな、慎重になったんじゃね?」

「そうだと良いけど……」

 

 まぁ刀鍛冶での里の出来事を考えると炭治郎の言う通り、今回の行動は少し不可解ではある。正直禰豆子ちゃんを取り込んで本当に太陽を克服できるとするならば、それを狙わない手は無いし雑魚鬼達なんて気にしている余裕もない。俺たちが知ってる無惨はきっと鬼殺隊士を全て殺してからゆっくりと禰豆子ちゃんを探そうとか思ってたんだろうけど、そんな二度手間するよりも炭治郎は鬼殺隊士故に任務で鬼に出会わなくちゃいけないから、それを頼りに襲ってしまえばすぐにも終わる。

 だから今回はそうすると思ったんだ、俺が発想できるぐらいなんだから無惨が考えないわけないしと思って禰豆子ちゃんを護衛してた。けどそんな事をする必要はなくなったみたいだな。

 因みにこの世界の禰豆子ちゃんはしっかりと太陽を克服してた。そもそも何が原因で太陽を克服できたのかは俺たちサーヴァント組でも知らなかったので外に出すのは抵抗があったのだが、何故か禰豆子ちゃん自体が陽のほうに走ってってしまって、それを見た炭治郎が大声を上げながら抱きついて止めたけど間に合わずに光の下に放り出された。禰豆子ちゃんが死ぬと思った炭治郎は日陰に戻して、それから良く禰豆子ちゃんを見ると何ともなくて。少しとはいえ、陽に晒されたのだから塵に還ると思われた彼女はけろっとした顔で炭治郎を見てたという。

 これ全部事後報告です。俺と善逸は騒ぎを聞きつけて知ったので、その場にいなかった。いたら絶対に止めてたわ。サーヴァントの膂力を駆使してな!

 まぁそんなわけでシュレーディンガーの猫ならぬシュレーディンガーの禰豆子ちゃんの箱は開けられてしまったわけだが、結局守るのには変わりない為にただ単に可愛さが増しただけであった。舌足らずな美少女って可愛いよね。

 

「そうでも無いと思うよ」

「立香!」

 

 廊下で話していた俺たちだが、曲がり角からひょっこりと現れた立香が此方に歩み寄ってきた。その後ろには坂本龍馬とお竜さんがいて、珍しい組み合わせだなと瞬きをする。

 

「やほー、ナメクジ共。お竜さんが来てやったぞ?」

「出会って早々煽らないで、お竜さん」

「お竜さんに坂本さん? 何で此処にいるんですか?」

 

 炭治郎も知らなかった様で驚きながら彼らに近寄った。俺もそれに続く。

 

「うーん、あっちに居てもすることが無くなったからかな?」

「坂本探偵事務所in浅草は店仕舞いだ。お竜さんはもっとカエルが欲しかったがな、仕方がない」

「えぇ!?」

 

 カエルの所は誰もう突っ込まなかで良いのかな? その文面だと依頼の報酬をカエルで行ってたみたいな形だけど、本当なのか嘘なのか。まぁ明治時代ならカエルの肉なんてポピュラーなものだったけど、大正の今はそうでもない。

 しかし浅草で探偵事務所を開いてたとは……いやここに召喚されてから一度も行った事ないから知らなくても仕方ないか。坂本龍馬なんて名前、わりと知ってる人多いから伝わりそうなのに。

 

「何故なんですか?」

「炭治郎達、鬼が消えた話してたでしょ?」

「あぁうん、そうだが? 何か知ってるのかマスター」

 

 坂本龍馬に聞いた筈なのに何故か立香が答えたのを、炭治郎は特に咎めもせず首を傾げては返答を待つ。きっと理由を知っていると確信しているのだろう、特に慌てた様子もなく静かに佇んでいる。そして立香はそんな炭治郎をジッと見つめながら、しっかりと頷いた。肯定だ。

 

「消えた鬼達の中には、妖の鬼も混ざってる」

「!!」

「それって……」

 

 まさか、鬼舞辻無惨の手によって変質した鬼ではなく、あの泥によって変わってしまった人々の事だろうか。

 

「そう、各地で報告されてた“泥”による鬼。区別する為に泥鬼って言うけど、それらが目の前で消えたって坂本さん達が報告してきて」

「うん、信じ難い事だけどね。急に障子らしきものが現れてその中に消えていったんだよ。不可解に思って立香君に相談したら、鬼舞辻無惨の鬼も消えたって言うじゃないか」

「引き篭もるとは生意気なカエルだな、引き摺り出して食ってやりたいぐらいだ」

「また今度ね」

 

 炭治郎と顔を見合わせる。考えていることはその表情と聞こえてくる音である程度理解はできた。何年も友達やってると言葉がなくてもわかるんだからすごいよな、今はわかりたくなかった気もするけど。

 

「拙い、よな?」

「あぁ、とても」

 

 正直、今からできることと言えば鬼殺隊士達を生前以上に鍛え上げる事だけ。でないと、無限城に落とされた瞬間にみんな死んでしまう。急いでしのぶさんに報告しなければ。

 二人で頷き合っては、俺たちは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鬼滅のアプリゲー、いつ出るんだろう。
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