俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「うぇええん、どこ行ったんだよー! 炭治郎ぉ、伊之助ぇ、禰豆子ちゃーん、セイバーぁ」
なんか念話も繋がんないし、普段セイバーと繋がってるってわかるパスですらわかりにくい。いや途中で切れた様な感覚はないからしっかりと届いてるのはわかるんだけど、それでもどこにいるかなんてはっきりとはわからない。とりあえず、こっちかな? と思える方向に歩いてるわけだけど。
「一向に誰も合わないんだよねぇ!? 廊下薄暗いし! 偶に上下逆さまになってたりするし! そこら中から嫌な音はするし! というかこの建物自体鬼の音がすんだけど!? え何!? もしかして鬼の腹の中だったりする!? 俺消化されちゃう!? やだ、ヤダヤダ! 死にたくねぇよぉお! 誰でも良いから俺を守ってぇえ!!」
返事はないよね! 知ってた!
耳を澄まそうとしてもそこら中から聞こえてくる鬼の音の所為で判別が効きにくい。両耳を押さえながら、歩く、歩く。
「(どうにかして誰かと合流しないと。このままじゃ俺が死んじゃう!)いや死なないけど!! セイバーより先に死んでやんねぇし!」
でも怖いことには変わりない。何かに縋りたくて、けど縋る先がなくて、震える脚を必死に動かしながら歩いた。震え過ぎて全然進んでないけど。
なんで一人なんだろう。なんで逸れたんだろう。ここに来る前はみんなと一緒にいたはずなのに、なんでバラバラなんですかね。俺だけ逸れたとかだったらここに落とした奴恨むよ?? 一生恨むよ?? 恨みながら死んでやる! 俺の恨みは執念深いってセイバーのお墨付きだから!! 毎日箪笥の角に小指打つける呪いかけてやっからな!? 覚悟しとけ!!
「あーヤダヤダ、こんな事思ったって現状が変わるわけがないし相変わらず怖いままだし音もずっと鳴ってるし煩いし震え止まんないし鼻水と涙も出てきたしまた誰かに汚いって言われるのかな? 俺こんなに必死に生きてんのにさ酷いよなほんとマジで誰かいないの? 返事ぐらいして?? もしかしてかくれんぼとかしてる? ははっやだなぁそれならそうと言ってよー! 俺めちゃくちゃ普通に歩いてたんだけどかくれんぼなら見つかる訳がないよね! だよね! そうだよねー! ふふそう思ったら楽しくなってきたな? 鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ♪ アッこれ鬼ごっ———」
「ばぁ♡」
「ヒュッ」
息が。
「なーんて。アンタあのセイバーのマスターっしょ? アハハッ、ビビり過ぎっしょ? ちょっとは肩の力抜きんなって。いざ鬼と出会ったときにパクって食べられちゃうじゃん?」
でき———。
「ってアレ? おーい? 聞いてないっしょ? ……気絶してるわコレ」
「あちゃーマジで気絶してるじゃん。私がいるとはいえ敵の本拠地で気を失うとかだいじょばないでしょ……まぁ面白いから写メ撮っとこ」
学生鞄の中から取り出したこの時代にはないガラパゴス携帯でパシャリと善逸を写す。ただの眠ってるところを盗撮したみたいにはなったが、そこは別に良い。面白いと思ったから撮った、それだけが鈴鹿御前には大事だ。
御守りやら狐のぬいぐるみやらのストラップを大量に付けたそれを鞄の中に戻し、気絶して倒れた相手の頬を突く。どうやら眠っている様で鈴鹿御前の行動をむず痒がっていた。
「あはっ、こんなところで寝れるなんて案外神経図太いじゃん」
正直どうかとは思うけど。
先程も言った通り、ここは無限城の中であり敵の本拠地だ。鈴鹿御前も元マスターに呼ばれれば来ていた場所であるので、その危険性はよくわかっている。ここには普通の雑魚鬼だけじゃなく上弦も下弦もいる。まぁ下弦の場合はもういないけれど、それでも強者がいることには変わりない。鈴鹿御前にとっては些細なことだが、一鬼殺隊士である目の前の金髪にとっては大事なことだろう。
「(それにサーヴァントもいる……もし上弦かサーヴァントが来たら守りきれないわ)」
鈴鹿御前だって戦う者だ。生前に妖怪退治だってしたし、神の子でもある。強いという自負はあるけれど、しかし寝ている人物を守りながら相手と戦えるかと質問されれば、言葉を濁すだろう。彼を無傷で守り切る自信はなかった。
しかし置いていくという手段もできない。他の鬼殺隊士ならば、足手纏いだと言って放置するがこの金髪はマスター。それもあの同じ髪色を持ったサーヴァントのだ。この金髪が死んでしまえば、あのサーヴァントも退去してしまう。それだけは避けないといけない為に見捨てる事はできなかった。
ただ、もしこのマスターが死んでしまっても己がマスターと再契約でもすれば良いとは思うが、今でさえ何騎ものサーヴァントと契約しているのでこれ以上負担は増やしたくない。
ふぅと鈴鹿御前は息を吐く。腰に手を当て、どうやってコレを運ぼうかと悩んだときに異質な気配がした。
「イヒ、イヒヒヒ。オンナだ、コドモだ。旨そうだな、美味しそうだなァ」
現れたのは鬼。けれど雑魚。鈴鹿御前は愛刀である
———雷の呼吸 壱ノ型
声が聞こえた。
———霹靂一閃・六連
雷が迸る。眩い閃光から目を守る為に腕で顔を覆い、光が収まるのを待つ。六回、落雷の音が響いたかと思えば、異質な気配は小さくなっている。チカチカと光る視界を瞬きをして抑えると、そこにいた鬼はもう絶命寸前だった。
「おぉ〜」
思わずパチパチと拍手をしてしまう。とどめを刺す事はできなかった様だが、それでも気絶していた状態から起き上がり素早く攻撃した事は称賛に値する。鈴鹿御前は笑顔で鬼に近づき、未だ残っていた身体をバラバラに刻んだ。
「アンタも相手が悪かったっしょ。他ならワンチャンあったかもね〜」
塵へと還っていく鬼を一瞥してから、先程技を放った金髪を見る。あの技は見たことがある。セイバーのサーヴァントと初めて出会い、戦った時に放っていたものと同じだ。精度もキレもまだ追い付いてはいないが、このまま極めていけばあのサーヴァントと同じぐらいにはなるのではないだろうか。
まぁ同一人物なんだから当たり前ではあるが。
「アンタ、結構やるじゃん! 見直したっしょ? いっつも気弱げにいるからさぁ、弱いかと思ってたし」
そう辛辣なことを言いながらも笑顔で駆け寄る鈴鹿御前は、善逸の肩を叩くが反応が無いことに疑問に思い顔を訝しげに覗いた。ぎゅっと眉を寄せて床を睨んでいた善逸は鈴鹿御前と目があって驚いたように仰反る。
「びっっくりした!! 人の顔突然覗かないでよ!! いろんな意味で心臓に悪いわ! まろび出るかと思ったわ!!」
「何言ってんの? どう考えても私が声かけても反応しないアンタが悪いじゃん?」
「俺が悪いのぉ!?!?」
「うん」
「あらまぁ潔いお返事だこと!!」
いやでも俺悪くなく無い? そっちが脅かしてきたのが悪いんじゃ??
なんてぶつぶつと呟く善逸に、面白いけど面倒臭いなぁなんて表情に出さず心の中で思った鈴鹿御前は話題を変える為に、ってかと続けた。
「いつ起きたし、全然気がつかなかったっしょ」
「……さっき」
「え?」
「今さっきです!!!!!!」
は?? さっき?
「さっきっていつだし?」
「多分俺が霹靂一閃放った後……え? 俺霹靂一閃放ったよね???」
「放ってた。霹靂一閃って口に出してた」
「だよねぇえええ! やっぱりだよねぇぇええええ!!」
うぉおおお! 頭を抱えて転がる善逸にどこかデジャヴを感じながらも、鈴鹿御前はそれを足蹴にして止める。ぐぇとカエルが潰れたような声を出した彼に目もくれず、早く立つっしょと起立を促した。
「言ってることイマイチわかんないけど、そうやって転がってる暇無いことはわかるでしょ? さっさと立ち上がって他と合流するし」
「ウッ……わかってる」
尤もな鈴鹿御前の言葉に目を逸らしながらも善逸は頷き、立ち上がった。相変わらず脚は震えていたが、彼女に出会う前よりはまだマシな方だ。服についた埃を払ってから一歩を踏み出す。
「で、何がそんなに嫌なの?」
「エッ!?」
「技を放つぐらい普通っしょ? それが敵を倒す為なら。何がそんなに嫌……というより、悔しがってんのかわかんないんだけど」
「!」
驚いたのか、目を見開きながら此方を見る善逸に鈴鹿御前は気付いてない筈がないと笑う。
先程、返事がなく顔を覗き込んだ時に見た表情はどこか追い詰めているような顔だった。その表情をする人間は大体が自分を責めており、悔しがっている場合が多い。だからこそわからない。
善逸の言葉を信じるのならば、気絶した状態から起きたのは技を放った後。つまりは気絶したまま鬼を倒した事になるが、これは利点になり得る。通常、気絶してしまえば動けないのでその間に相手に殺されるか、何かされてしまう。しかし気絶しても動けるのならば、それを回避できる。つまりは生存率が上がるのだ。喜びはすれど、悔しがる事ではない。
「……別に技を放った事は良いんだ。でも君が現れたときに気を失ったのが、ちょっと……」
それ以上は善逸は何も言わなかったが、鈴鹿御前には何となく言いたい事はわかった。つまりは驚かされたときに気絶したのが駄目だったと。それをしてしまったのが嫌だったらしい。
「確かに私が気配消して驚かしたのは悪かったっしょ。私だって気絶するとは思わなかったし」
「ぅっ」
「あそこで出てきたのが私じゃなくて鬼だったら、パクッと一口丸呑みだったじゃん?」
「ヒェッ」
出会ったときもそう言ったが、あの時は気絶してた為にノーカウントだ。
あの時、気絶してから動き始めるまでタイムロスがあった。鈴鹿御前の推測では鬼の気配がしたからこそ動き始めたのだろうとは思っているが、だからといってあのロスは痛い。その間に死んでもおかしくはないだろう。
そう考えて、あーと納得する。目の前の彼は気絶したくないようだから、つまり。
「つまりアンタは気絶せずに戦いたいわけ?」
鈴鹿御前の出した結論にこくりと頷く善逸。
「迷惑、かけたくないんだ。いつだって自分が凄いなんて思ってないけど……でも、少しでも役に立ちたいから」
今までみんなに助けてもらってばかりだったから。
鈴鹿御前は善逸のことなど知らない。サーヴァントの方である善逸とはそれなりに話した仲ではあるし、個人的に気に入っている相手でもあるので知ってはいるが、このマスターの方の善逸とはあまり話したこともなかった。戦闘に関してもそうだ。参考にするならば戦った事があるサーヴァントの方となるが、そもそもサーヴァントと人間を比べてはいけない。例えこの世界の鬼殺隊士がそれなりに戦えるとしても。
ふーん、と鈴鹿御前は相打ちを打つ。きっと解決策など求めてないだろう。普段から気絶なんてしない鈴鹿御前には理解のできない悩みではあるし。
「役には立ってるんじゃね?」
前を向いていた善逸が振り返りながら止まった。その間に鈴鹿御前が追い抜きながら、だってさと続ける。
「さっき、鬼倒してたじゃん?」
「いや、でも」
「気絶してたかもしんないけどさ? そんなのコントロールできるわけじゃないんだし、鬼倒してた時点で役に立ってるから良いっしょ」
くるりとスカートを翻しながら鈴鹿御前が振り返った。狐の耳と尻尾を揺らしながら、まるで太陽のようにニパッと笑う。鈴の音がどこからか聞こえたと思いきや、金と銀の刀剣が出現し、赤い鞘から独特な刀を彼女は引き抜いく。その姿に善逸は狼狽えたが、ハッとしてとある音が鳴っている後方を向いて刀に手を添えた。シィ、息を吐く。
「だって本当に役に立たない奴は、鬼なんて倒せず死んで行くんだし!」
長い長い廊下の先から現れた“何か”に向かって三振りの刀が宙を舞い、雷鳴が響く。音による振動で周りの柱が揺れては、赤い血が襖へと付着した。
「鬼の音……!」
「アハハ! 私達に挑もうなんて勇気あるじゃん! 隠れてないで出てくれば? 鬼は隠れるんじゃなくて探す方なのは誰だって知ってる事だし!!」
犬歯を隠しもせずに嘲笑う鈴鹿御前の煽るような言葉を皮切りにその“何か”が這い出てくる。
「そう、でちね……鬼は隠れ住む者ではなく、人に罰を与える者」
ヒュッと誰かが息を飲む。暗闇から出てきたそれに、ゾッと背筋が凍った気がした。
「チュチュン! 先程の剣技見事でち! 流石鈴鹿御前、そして名の知れぬお方……と言えば、満足でちか?」
見た目は小さな少女。鈴鹿御前は何回も、それこそ座でも見た事がある料理の先生であり最速の居合の使い手。鈴鹿御前が元マスターを離れる少し前に会った時から少しも変わりない姿だが、そこから溢れる瘴気が尋常ではなかった。
チッと舌打ちをする。厄介な相手に当たったものだと。
「自己紹介を、お客様。サーヴァント・セイバー、舌切り雀の紅閻魔。渡世の義理を果たす為、おまえ様達には」
———死んでもらうでち。
作者の推しでち。