俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十六節 小夜啼鳥の再演。3/3

 

 

 

 迷ひ家とは山中にある幻の家の事である。

 幻と言われるほど偶にしか現れないその家は辿り着いた者たちに幸福を与えるという伝承がある。しかしただの伝承、大半の者はその体験した事のない不可思議な現象に眉を顰めていた。

 しかし様々な物語に登場するこの家は眉唾物ではありながらも、しかと人々に語り継がれてきたのは、単にその不可思議な現象を体験したからに過ぎない。その頻度が少なかれど一人、二人と人数を増やしていけば、本当にあるのだと信じ始める。

 さて、この舌切り雀の紅閻魔。“閻魔”という名前が付くことから、閻魔大王の関係者ということがわかる。この雀、生前は一介の禿(かむろ)に過ぎず、さりとてあの世へ行ってからは閻魔の娘という立ち位置を手に入れた。

 彼女は他の英霊とは違い少々特殊な生い立ちを持っている。生前、禿としての仕事が嫌になり逃げ出してきたが、その際に上司である花魁に舌を切られていた。そして当てもなく彷徨い、辿り着いたのが迷ひ家。幸福を与えるそれは、お腹を空かせていた禿に大量の料理を与えたが、彼女は舌を切られて食べることができなかった。小さな身体で逃げてきた身、体力も限界であったそうな。煌びやかな食事を前に見る事だけで満足した彼女は息を引き取り、あの世へ。そうして閻魔大王に気に入られ、あれよあれよと過ごしているうちに一つの家を与えられる。それが彼女が生前辿り着いた迷ひ家だ。

 ただの迷ひ家を温泉宿へと様変わりさせた彼女は数百年を過ごした後、カルデアという組織の人々と出会うのだが……それはまた。重要なのは彼女と迷ひ家は切ってもきれない縁という事である。

 彼女は英霊ではない。しかしその生い立ちと、迷ひ家を貰い受けてから起きた出来事、その様々な要因が合わさって“山中で人を助ける生き物”という民間伝承となり彼女を英霊に押し上げた。

 けれどその要素を死後に手に入れた事で、本来ならば召喚されるはずのない英霊である。ならば何故、鬼舞辻無惨に召喚されたのか。それは召喚した場所が“無限城”であったが故。

 

 ———べべん。

 

 琵琶の音が鳴る。狭い廊下から、大広間へと場所を移された善逸と鈴鹿御前は慌てる事なく目の前の敵を見据えた。

 無限城の主人である鳴女が太刀を扱う紅閻魔に気遣って広い場所を用意したのだろう。その有難い気遣いにチュチュンと彼女は笑う。

 

「な、なんか凄い可愛い子なのに音がえげつないんだけど」

「仕方ないし? 相手はあの舌切り雀の紅閻魔だから」

「それって名前?? 名前なの???」

「紅が名前で閻魔が名字っしょ。舌切り雀は通り名みたいなもんね」

「通り名っていうか童話だよね、それ」

 

 おっ? という顔を鈴鹿御前はする。鬼殺隊士の年齢層は意外と低いので、その童話を知る前に戦いに明け暮れていると思ったからである。

 

「その通りじゃん? 簡単に言えばその英霊が目の前のサーヴァントっしょ」

「……そんなことある?」

「あるからこうして対峙してんじゃん」

 

 思わず目が点になった善逸にクスクス笑いながらも鈴鹿御前はそう付け足した。目の前にいる英霊は鈴鹿御前や坂田金時とは毛色の違うサーヴァントには変わりないが、その強さは折り紙付きである事に変わりない。

 トンと重そうな下駄を畳に押し付けた紅閻魔は、その紅い髪を揺らしながらコテリと頭を傾げた。

 

「お話は終わりまちたか? お客様」

 

 敵とはいえお客様と認めた相手には礼儀を弁える紅閻魔は律儀に鈴鹿御前と善逸の話が終わるのを待っていた。どうやら自分の事を話していたようだが、些細な事。細切れにされる覚悟ができるのには時間が必要なのは紅閻魔とて理解している。

 チャキ、と鯉口を切る。そうすれば構えを一層鋭くさせる客二人に、紅閻魔はチュンと笑った。

 

「良い反応でち。お客様でなければ、ヘルズキッチンでも開催して、一介の料理人までに扱くのでちが……あぁ、おまえ様は別でちよ? 鈴鹿御前。大雑把な味付けはまだ直ってまちぇんね?」

「あったりまえじゃん! ちまちまやるより断然良いし〜?」

「相変わらずでちね。まぁ料理としての形はできてまチュから、あちきとしては言うことないのでちが」

 

 ドッドッと心臓が鳴り響く。それは善逸のものか、鈴鹿御前のものか。二人共戦う者とはいえ剣士としてはまだまだ未熟であり、そんな二人が一つの抜刀術を極めた剣士に勝てるのか否か。しかし勝たなければならないのは自明の理で。

 つい。額に流れた汗を無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃはは!」

「きゃはは!」

「「あはははははははははっ!!」」

 

 くるくる。

 くるくる。

 楽しそうに、嬉しそうに、まるで踊るみたいに走り回る二体の鬼にチッと舌打ちを零しそうになりながら、霹靂一閃を放った。まぁ俺の代わりに獪岳が舌打ちを盛大にしたけど、それはそれ。二人して苛々しているのは多分立香の目から見ても明らかだろう。

 

「兄弟キャラの後釜に双子キャラとかホント要らない……!」

「上弦の陸は二人じゃなきゃダメとかそんな決まりでもあるのかな?ガンド! っあ! 外れた!!」

「雑魚エイム!!」

「煩いよ!!!」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでちゃんと攻撃しろ!!!」

「「すみません!!!」」

 

 言い合いながらも技を放つ俺と獪岳、そして徹底して支援をする立香。相手が一人ならば絶対に圧倒できる戦力だが、相手は二人だ。しかも読めない手順で攻撃してくる。ぽんぽんぽーんと血鬼術だろうぬいぐるみ達を生み出しては投げてくる。いや投げんな! と最初は突っ込んだけど、もう慣れてしまった。

 ふわふわ、ふわふわ。くま、ひつじ、ねこ、うま。様々なぬいぐるみ達が優しい笑顔のまま軽ーく飛んできては、近づいた途端豪速球で突っ込んでくる。部屋の畳は抉れて中身が飛び出し、万が一当たれば手足ぐらいは吹っ飛ぶだろう威力に顔が引き攣った。可愛らしい見た目とは裏腹に全く可愛くない攻撃は止む事なく、俺たちを襲ってくる。

 

「獪岳は避けて! 善逸さんは斬っても良いけど被害増やさないでね!」

「見た目の罪悪感やばいから斬りません!!」

「俺だって斬れる!!」

「はいそこ! 張り合わない! 善逸さんのはサーヴァントだから武器は何回でも出せるけど、獪岳は一点物だから!」

「折れたら終わりって事! 引っ込んでな!!」

「ハァ!?」

「別に引っ込めまで言ってないけどー!?」

 

 絶叫の様なツッコミが響く。立香の心労を余計に増やしている気がするけど、獪岳がいるから煽りをやめられない。どうにも変なスイッチが入ってしまったなと自分自身に苦笑しては、またもや飛んできたぬいぐるみを避ける。きゃはは、子供の笑い声が響いた。

 

「斬らないの?」

「きらないの?」

「可愛い可愛いお人形さん達」

「かわいいかわいいぬいぐるみ達」

「突っ込むだけが攻撃だと思ってるの?」

「ただのぬいぐるみじゃないのはわかってるでしょ?」

「ほらほらほら」

「ぬいぐるみ達が遊びたがってるよ?」

 

 ハッとする。周りを見てみれば、転がっていたはずのぬいぐるみ達が意思を持って立ち上がっていた。

 今度は俺がチッと舌打ちを零す。血鬼術によって生み出された存在が、ただの砲丸として使われるのはおかしな話だ。それが一介の鬼ならばあり得る話だが、しかしそれだってぬいぐるみの姿をしている必要はない。つまりアレらはちゃんと自立できる様に作られていた。

 

「和風テイストに有るまじきファンシーさ……!!」

 

 立香が驚いた様にそう言うけど、その言葉通じるの多分俺だけだからね? 独り言だから誰にも言うまでもなく言ったんだろうけど。

 というか皆さん前傾姿勢取ってんだけど、嫌な予感しかしない。半ば叫ぶ様に獪岳の名前を呼び、立香の側へと駆け寄った。

 

 ———雷の呼吸 陸ノ型

 

「チッ!」

 

 ———電轟雷轟(でんごうらいごう)

 

 周囲に無数の雷の形をした斬撃が飛び交う。技を放った者以外の全てを巻き込むその技は、こと集団戦で発揮できないが、こういった無数の相手が存在する場合には有効である。ただ仲間にも被害が行きかねないが、そこは俺の魔力放出でカバーだ。自分と立香中心にして円状に放出し、結界のようなものを張る。まぁ結界じゃなくてただの魔力だが。

 赤い物体が舞うが、そこは魔力放出と刀で此方には来ないようにして何が飛んできたのかと観察する。

 

「ヒュッ……!」

 

 べちょっと畳の上に落ちたそれを見て息を吸うのを失敗する。側にいた立香も呻いては口に手を当てている。今更ながらに生臭い臭いが漂ってきて、何故これを可愛いものだと思っていたのだろうかと自分自身を嫌悪する。だって相手は鬼だ、情緒を何処かへやった元人間だ。今までの鬼とはどこか違う血鬼術に俺は刀を握る手に力を入れた。

 飛んできたのは千切れたくまのぬいぐるみの手。ただその断面はふわふわの綿が出ているのではなく、ぎっちり詰まった肉塊が赤い地を滴らせて飛び出している。藺草が赤黒く染まっていく様から目を逸らし、未だずっと笑い続けている鬼を見る。きゃらきゃら、きゃらきゃら、ぽんぽんぽーん。

 このままじゃジリ貧だ。どうやってこのぬいぐるみ(仮)を生み出しているのかはわからないが、血鬼術だから無限とか言われたらスタミナ制限のない鬼の方が有利である。ここには日が差す事はないし、人間二人がバテるのが先だ。向かってくるぬいぐるみ達を避け、時に斬っては獪岳と立香を呼ぶ。彼らも理解してたのか、名前を呼んだ瞬間に頷き見る方向を双子の鬼へと向いた。

 

「先手必勝!!」

「短期決戦!!」

「せめて統一して!?」

 

 なんで俺がツッコミ役してんの?? この面子だと立香が妥当じゃ???

 困惑する俺を他所に、立香は真面目な表情で魔術スキルを発動させる。

 

「全体強化! 善逸さん!」

「! っおう!!」

 

 ———霹靂一閃・神速

 

 息を吐く。脚に力を入れるのは一瞬で良い、俺がするのは錯乱なのだから。

 

 ———六連ッ!!!

 

 部屋の中を縦横無尽に駆け巡る。畳を、柱を、天井を、全てを足場にしてきゃらきゃら笑っていた双子に突撃する。流石に生命の危機を感じたのか、急に険しい表情になり片方が目の前に出てきた。もう一人を庇うように飛び出してきたそいつが、威力を和らげる為かぬいぐるみを呼び出すけれど全て無駄と言えよう。刀を握り直し、その全てを蹴散らす。しかし追加の巨大なぬいぐるみが行手を塞ぐ。自身の自重を支えられないのか、所々中身が落ちているそれは俺を抱きしめようとして。

 

「無駄だ!」

 

 魔力放出をして全てを吹き飛ばし、損ねて脚を掴まれる。ヒュッと息を飲んだ。

 

「は、あはは! 無駄なのはそっち! なんで突っ込んで来たの?? こうして捕まった! 捕まっちゃった! 食べよ、ぬいぐるみにしよう、ねぇ僕!」

 

 俺を捕まえた事を大層喜んでいる鬼には悪いけれど、君のもう一人の僕とやらはいないぞ? 庇うように前に出てきたのが悪手だったと言える。

 返事がないのに気がついたのか、目の前の鬼は冷や汗を流しながら勢い良く後ろを向いた。俺にはずっと見えていた光景だけど、鬼にとってはそうではなく。

 

「相手は一人じゃねぇーんだぞ、雑魚が」

「や———っ」

「ねぇちゃ……!」

 

 ザシュ。

 首が飛び、血が舞う。力を失くした身体が膝を突き、倒れ込んだ。畳の上とはいえ、衝撃がそれなりにあったのか倒れた鬼は腕と脚がそれぞれ一つずつ外れて崩れていく。

 獪岳がもう一人の鬼の首を取ったのだ。俺が突っ込む事により、此方に視線を釘付けにしその間に獪岳が回り込むという安易な作戦だけれど、戦い慣れてないのか目の前の鬼は気がつかなかった。

 よろ、と脚を踏み出す。やられたのが受け入れられないのか、言葉になっていない言葉を繰り返していた。

 

「ぁ、ぁあっ」

 

 あっ脚取れる。巨大な腕は力を失くしたのか、だらりと転がり塵へと変わる。血鬼術で生まれたものだからか鬼の様に亡くなったそれを見送り、視線を前に戻す。チャキ、鯉口を切る。

 

「ねぇちゃ、っね———」

 

 音も無く、首を斬った。言葉を最後まで言う事なくずり落ちたそれを一瞥してから、刀を納刀する。それを皮切りに転がっていた全てのぬいぐるみ達が塵になり、残ったのは畳に染み込んだ血のみ。

 

「……」

 

 ふぅ、と息を吐いてから振り返る。何かを思い詰めるような表情をした立香の肩を叩いた。

 

「先を急ごうか」

「えっ、あ、うん……そうだね」

 

 新しい上弦の陸がやってきた廊下に目をやって、隊士の姿がない事に目を細める。服だけが残ったそれに、無限じゃなかったんだなーと心の中で独りごちた。

 さぁて、次の戦いだ。新・上弦の陸は言ってしまえば弱かった。まぁ一般隊士ならば勝てない相手だろうなとは思うけれど、ここにいたのはサーヴァントと獪岳だ。こう見えて彼は鬼殺隊士の中でも強者の部類に入るので、俺がいなくてもなんとかできたんじゃないかなとは思う。思うだけでわからないが。

 

「上弦ってのはこんなもんなのか? 思ってたより弱ぇ」

 

 獪岳はそう呟く。柱すら勝てないと言われている上弦と初めて相対したんだ、肩透かしを食らってもおかしくはないか。

 いや、と首を振る。

 

「この上弦の陸は急拵えだ。今でも残ってる奴は百年は確実に生きてるから、これよりずっと強い」

「百年……」

「鬼舞辻無惨は千年だからな。この鬼を基準にしたら駄目だ」

 

 獪岳は何も答えなかったが、きっと納得したのだろう。黙った彼に苦笑しながら、脚を踏み出した。

 

「ま、この調子で行こう」

 

 一々心を痛めてたらやっていけないし、敵の強さを考えても仕方ない。ただ会えば斬るのみである。

 

 

 

 

 

 




因みにこの血鬼術、強くなれば人形がそれぞれ自立思考しだします。

次は10月14日です。
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