俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十七節 前と今。2/4

 

 

 

 

「猪突猛進! 猪突猛進!! ガハハハ!! どこだ!!! クソ鬼野郎!!!!!」

 

 猪の被り物をした青年が二振りの刃こぼれした刀を振り回しながら叫ぶ。サーヴァントの方である伊之助は生前ここに来た時は習得してなかった技術を駆使しながら、無限城を駆け抜ける。途中で出会った鬼殺隊士には驚かれて、エンカウントした雑魚鬼は瞬時に斬り捨てた。

 

「ここか!!」

 

 襖を蹴り破る。何もいない、次。

 

「ここだろ!!」

 

 屏風を斬り刻む。雑魚鬼がいた、次。

 

「出てきやがれ!! クソ雑魚!」

 

 壁をくり抜く。冷気が漂ってるだけ、次。

 

「ッじゃねぇ!!」

 

 足を止める。単純作業と化していた行動を止め、その部屋を見渡す。普通の部屋だ。畳が敷き詰められたそこは見慣れた日本屋敷の一室。勢い良く息を吐き出した伊之助は、何やらこの状況に既視感を感じながらもあの野郎を吹っ飛ばせるならどうでも良いかと二振りの刀を振り上げた。

 

「獣の呼吸、肆ノ牙」

 

 

 ———切細裂き!!

 

 

 畳に向けて放ったその型は畳を斬り刻み、その下にある床でさえ細切れにした。轟音が鳴り響き、一瞬の浮遊感を感じた伊之助はガハハと笑い声を上げる。いる、この先に。床を斬り刻んだからこそ感じる肌を突き刺すような威圧と冷気に知らず知らず口角を上げていた。

 そのまま重力に従い落ちながらも、型を放つ体勢に移り変わる。

 

 

 ———獣の呼吸 弐ノ牙

 

 

「切り裂きィ!!!」

「おっと」

 

 落下による体重を乗せたその攻撃は下にあった端に当たり、轟音と水飛沫が辺りに散った。まるで雨が降っていると錯覚する程の水量が空中に押し上げられたのを見た伊之助はチッと隠す事もなく盛大に舌打ちをする。外れた、あの間抜けな声の主に当たらなかった。

 

「危ないじゃないか。誰だよ、今いいところだったんだからさぁ」

 

 女の子、じゃないよねぇ。

 伊之助の方を見たその鬼は持っていた鉄扇で口元を隠しながら目を細めた。血を被ったような髪に虹色の“上弦”“弐”と刻まれたそれは例え倒したとしても一生忘れる事はなかった忌々しい瞳。今度こそ、いや今度もこの手で。

 刀を強く握りしめながら、伊之助は誤魔化すように鼻で笑った。

 

「ハッ! そりゃぁ悪いな! だが俺はテメェをぶっ飛ばさないと気が済まねぇんだ。大人しく斬られてろ」

「物騒だなぁ。俺、君に何かしたっけ?」

「テメェ“は”何もしてねぇ」

「うーん????」

 

 こてんと首を傾げた。いまいちこの猪頭が言っていることがわからない。何もしてないのに斬られるらしいとよく分からないことを言われた上弦の弐、童磨はまぁ良いかと思考を放棄する。自身は鬼、例え新興宗教の祖としても鬼という理由だけで斬られる運命だ。理由はそれだけでいいだろう、あの猪頭の威圧がビリビリと肌を刺激していても童磨にはどうでも良い事ではあるし。

 

「伊之助、君……?」

 

 不意に呼ばれた伊之助は目の前にいる鬼に警戒しながらも振り返る。そこには血を流しながらもボロボロになりながらもまだ生きている胡蝶しのぶがいた。ふんすと鼻息を出す。どうやら自分は間に合ったらしい、伊之助はそう理解した。

 自身のスキルをしのぶにかけて回復させながら、伊之助は前を向く。ただ一人の鬼を倒す為だけに自身の命をただの道具と化したその執念を無視する形になってしまうが、伊之助にも童磨を倒す理由がある。この童磨ではないし、自身に関係のある人間の無念は晴らしてはいるが、それでも同一人物には変わりないのでどうしても倒しておきたいのだ。

 

「(俺には俺の理由がある。しのぶのなんて知るか)」

 

 そう言い訳をして、刀を握る手に力を入れた。

 

「あは、呼ばれてるよ? 良いの? 返事しなくて。その子、もうすぐ死ぬけど」

「うるせぇ、死なねぇ。死なせねぇ」

 

 死ぬのは。

 

「テメェだ、クソ野郎」

 

 刹那、二振りの刀が振り抜かれる。間合いも詰めていない、空振ったそれに何の意味があるのかと童磨が首を傾げれば、目の前に血が舞った。そして鈍い痛みが胴体に走る。

 

「ごふっ」

 

 深い傷。このぐらい上弦である童磨にはどうってことない傷ではあるが、かと言ってそこにいる蟲柱の突きでさえ貫く事が不可能だった身体を半分ほど斬られたのは驚きだ。服の袖で血を拭っては乾笑いが零れる。

 

「おかしいなぁ、ちゃんと刃が届かない距離だったんだけど」

 

 鬼殺隊士は独自の呼吸法と剣術を組み合わせることによって鬼にも負けない技術を手に入れたが、できる範囲はまだまだ人の範疇に止まる代物だ。水流やら炎やら風やらが見えるのはそれぞれの型が洗練されたものであり、一種の幻覚のようなものを発しているからに過ぎず、実際に水があったり燃えていたり風が吹いていたりするわけでもない。魔術師でさえ兵器並の火力を出すのにそれなりに才能が必要であるのに、魔術を運用してるわけでもない呼吸術でそんなことできるはずもなかった。

 つまり、目の前の青年は魔術無しで奇妙な事を物理的に起こしてみせたのだが、童磨にはてんで理解が及ばなかった。あるのはただ斬られたという事実のみ。

 

「ハッ! 知らねーのか? 遅れてんな!」

「俺、ちょっと俗世の事はわからないから。ほら教祖だしね。いつの間にか俺の知らないからくりでも作られたのかな?」

「違ぇよ。斬撃はな、飛ぶんだぞ!」

「はい??」

 

 ガハハハ! と笑いながら刀を振るう伊之助に童磨は意味がわからないながらも鉄扇を振るっては刀の軌道上にある何かを弾く。手に走る重みは確かに刀を受け止めた時のようなそれで、それた何かは付近にあった橋を真っ二つにした。

 

「うーん、そういう血鬼術ならわかるけど、鬼じゃないでしょ? ……あっもしかして君、さーゔぁんとってやつかな?」

「オラァ!!」

 

 ———参ノ牙 喰い裂き!

 

「少しは話を聞いて欲しいなぁ」

 

 ———血鬼術

 

「俺の信者達でももう少し人の話聞くよ?」

 

 ———寒烈(かんれつ)白姫(しらひめ)

 

 二人の氷でできた乙女達が出現し、吐息を吹いた瞬間、急激に室温が下がる。多少涼しくなったと感じるほどではない、まるで扉を開ければ氷点下の空間が広がっていたかのように肌に突き刺す程の低温が部屋中に広がる。蓮の花が咲いた庭園はただの氷でできた空間にへと成り下がり、伊之助の下半身は凍りついた。

 

「ッこの!!」

「動けないでしょ? ふふ、君は厄介だからね。面白いけど、後で遊ぼうか」

「ふっざけんな!!」

 

 ガァアアア!!!

 猪頭の中で吼える。息を吸い、呼吸の速度を上げて下半身の血流を早くする。やり方は知っている。善逸の呼吸法を戯れともいえど習った事があるからこそ、このぐらいどうって事ない。俺様を止められるとは思うな!

 

「今!! 殺んぞ!! ゴラァ!!!」

 

 徐々に亀裂が入った後、粉々に砕け散ったそれを見た童磨は楽しそうに口角を上げて笑い、伊之助が放った攻撃を軽く躱した。

 

「ははは! ほんと君、物騒だねぇ!!」

 

 ———血鬼術 蓮葉氷(はすはごおり)

 

 蓮の形をした氷が鉄扇を振るう度に現れて周りを凍らしていく。元々下がっていた温度が更に下がり、もはや屋内にいるとは思えないほどの室温へと変わった。

 

「ッ!!(まさかこれ程の血鬼術だったなんて!)」

 

 怪我により動けないでいたしのぶは無理矢理行動を起こす。このまま何もしないでいては凍傷を起こすどころか、凍えて死んでしまう。それだけは駄目だ。凍傷ならば根性でどうにかしよう、けど死んでしまっては元も子もない。この身がここで尽き果ててはいけないのだ、果てるとすれば勝てると確信してから。

 

「(たまたま遭遇した千載一遇の好機。伊之助君が来たことは想定外だけど、それでもまだ軍配は私にある)」

 

 起き上がり刀の柄に手を添える。少し角度を変えて鞘の底にある毒の性質を変えた。藤の花の毒を原料にしている以上、それほどバリエーションはないがあの上弦の鬼を少し足止めできるぐらいはある。

 

「(一番強い毒はもう克服されている、ならっ!)」

 

 ———蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ

 

 複数の蝶達が優雅に羽ばたき、伊之助の攻撃をいなしていた童磨へと迫る。美しく見えるそれは危険な毒蝶には、さしもの童磨でも反応できないのか驚いたような表情を浮かべてその身へとしのぶの突きを受けてしまう。

 

「(こいつッ!!)」

 

 否。

 

「いったいなぁ」

「(わざと技を受けた!)」

 

 一、二歩退がった彼は毒による血反吐を吐きながらも、ニコリとしのぶに笑いかける。ぞわり、鳥肌が全身を巡った。

 

「凄いなぁ、まだ新しい毒があるんだ。俺じゃなきゃもう死んでただろうねぇ」

 

 パチパチと手を叩く。

 

「で、次はないの?」

 

 

 

 




しのぶさんの蝶がアゲハ蝶じゃなくて毒のある蝶(名前忘れた)と知って、ひょぇとなった記憶は新しい。
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