俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十七節 前と今。3/4

 

 

 

 

「困った。とても困った……困りみ」

「そう言ってっけど無表情じゃねぇか! 困るなら派手に困れ!」

「マスターと逸れた。良くある事……だと思うけど、初めてだから困惑している」

「どっちなんですか」

 

 人気のない渡り廊下を歩くのは沖田総司・オルタに音柱・宇髄天元、不死川玄弥の一騎と二人だ。それぞれ個人で鬼を倒しながら移動していたところに遭遇し、一緒に行動している。鬼がそこら中に蔓延る無限城では、一人で生き抜くのは厳しい。生存率を上げるのには他者との協力が必要である。

 しゃらりと額当てに付いた装飾を揺らしながら宇髄は、安心させるような笑みを浮かべながら大丈夫だと言う。

 

「あの地味なくせして派手な野郎なら例えどんな状況でも大丈夫だろうよ。テメェに心配される程弱くねぇだろ」

「確かに……見た目は地味だがマスターの呼吸は派手だ」

「いや音柱様は見た目の話はしてなかったような?」

「派手にしてねぇな。ってか呼吸?」

 

 ん? と首を傾げた。宇髄にしてみればマスターと呼ばれる存在は一人しか記憶してなかった気がする。藤丸立香、それが遥か未来のカルデアから来たと言う人間。サーヴァントを初めて見たのも、その藤丸立香が連れてきた竈門炭治郎が始めだ。だからこそ、この自称まじんさんとやらのマスターも藤丸立香だと思ったのだが……呼吸が使えるとは聞いていない。この数ヶ月で付け焼き刃で習得するような暇もなかったはずであるし、前に任務で一緒に行動したときは支援に徹していた。決して最前線で戦うタイプではなかったはずだ。

 そこまで考えて、あーと言葉を濁しながら頭を掻く。宇髄は自分自身が勘違いしていることに気がついた。

 

「お前のマスターは藤丸立香じゃねぇんだな」

「立香? どうして立香の話が出てくるんだ?」

「今ので察したわ」

 

 藤丸立香ではなかったらしい。じゃぁ誰なのかと気になり、記憶の中を探る。この場所に来る前に最後に沖田オルタと出会ったのは最後の柱合会議のときだ。そのときに彼女が座っていた位置を思い出して、左右にいた人物といえば。

 

「時透無一郎と何故かいた一般隊士……んで見た目が地味で呼吸は派手……時透はどう考えても違うな」

 

 時透無一郎の霞の呼吸に派手さはない。物静かな彼に会う、静かな呼吸だ。独特の呼吸法で風の呼吸とはまた違った相手を惑わすようなモノなので、派手ではないと宇髄は判断した。

 となるともう一人の方となるが、柱合会議では一度も話したことはない一般隊士。終わった後で岩柱である悲鳴嶼行冥と何か話してたのを見かけた程度だが、それだけだ。宇髄は顔すら認識してなかった為、殆ど覚えていない。まさかあれがこの沖田オルタのマスターなのだろうか。

 

「黒髪のー……地味に忘れたな。名前はなんて言うんだ?」

「マスターの名前か? 確か……獪岳だ。名字は無いみたいだな」

「獪岳……桑島さんのところにそんなのいたような。って事は雷の呼吸か! 派手だな!!」

「雷の呼吸っていうのは珍しいっすね。確かあんまり継承者がいないっていう」

「俺様も見たのは善逸ぐらいだな」

「カスは弟弟子だとマスターが言ってた」

「カスって誰のことです?」

「善逸の事じゃねぇか? 派手に面白い呼ばれ方してんな! 本当に兄弟弟子かよ!」

 

 宇髄が笑ってる意味がわからず首を傾げる沖田オルタはマスターである獪岳のことを思い出す。カス、とは呼んではいるがあの獪岳は善逸以外の人間には名前も渾名もつけた事はない。召喚されてからしか知らないが、意外にも礼儀正しい彼はどうにも感情表現が苦手な印象だ。まじんさんもそうだからわかる。だからこそ、酷い渾名ではあるが、おいやらお前やらで呼ばない善逸の事はそれなりに気に入ってるんじゃ無いかと沖田オルタは思っている。勿論ただの予測でしか無いが、善逸の前以外の彼の顔は見ていても気持ちの良いものではない為そう感じたというのもある。

 

「まじんさんは良い兄弟だと思う」

 

 ふっと微笑んでそう言いのけた沖田オルタに今度は宇髄が意味がわからず眉を顰めた。相手をカス呼ばわりする兄とその弟が良い兄弟とは少し変わっているなと考えてしまう。

 ただ他人の兄弟の事だ、他人が口出しする必要もないかと腕を組んでは前を向いた。

 

「ま、全くお互いを知らずに離れるよりかは派手にマシか」

「そうだな……私も“私”とあまり話せてはいないから、それは思う」

 

 こくりと頷いた沖田オルタを見た玄弥は彼女の言い回しを奇妙に思いながら、みんな兄弟がいる事を知ってどこか親近感が湧いた。あまり話せてないのは玄弥も同じであり、兄を追いかけて鬼殺隊に入ったは良いが、柱稽古でも相手にされなかった。何年ぶりに会った兄にはとても冷たい対応をされてしまったが、それは自分自身が原因にあると考えている玄弥にとって諦める理由にはならなかった。それにもう一度話さなきゃとは思っていた。宇髄の言う通りお互いの事を、この何年かの間のことを知らずに別れる事はしないようにしよう。話したいことが、謝りたいことが沢山あるから、だからこそこの戦いを生き抜がなければ。

 カチャリと音がする。耳が良く気配に敏感である宇髄が何かの気配を捉えたらしい。大きな双剣に手をかけながらも、忍び足で近づいていく。それに気がついた沖田オルタも静かに得物に手をかけ、玄弥も己の武器である拳銃を懐から抜いた。

 そうして近くにあった襖に手をかけようとしたところで。

 

「気配を消しても無駄だ……」

 

 っ。息を飲む。

 

「(バレてやがる……相手の方が感知力は上か!)」

 

 完全にこちらに向けて放たれた威圧に気圧されながらも、震えていた手をしっかりと止めた後襖の取手に手を添えた。

 一気には開け放たない。相手もすぐには攻撃してこないだろうという謎の確信があった為ゆっくりと開けば、広い空間が待ち受けていた。今までの建造方法とはまた違った、大きな寺院にありそうなその大広間には一体の鬼が正座のまま居座っている。

 袴に刀。百年程入れ替わってないという上弦の鬼の一人であろうその男を見て、宇髄は武士かと判断した。江戸にはまだいたそれ、記憶がなくとも刀を持っていてもおかしくはない。

 

「ふむ……柱と、さーゔぁんとと言ったか……珍しい組み合わせだ……いやそれは我らも同じ……おかしくはないか」

 

 一人何かに納得した男は座った体勢から立ち上がり、床に置いていた刀を腰に差した。ゆるりと此方を向いたその顔貌には人にはあり得ない六つの目が覗いている。赤くぐるりと円を描いたそれに誰かが息を飲む。

 

「(上弦の……壱)」

 

 中央にある目。その左右の目に上弦、壱と書かれていた。鬼なのは気配でわかっていた。風貌も聞いていた通りのものであったからこそ、そうだとは判断していたが……実際に己の目で見るとなるとどこか違う。やはり緊張感か、実感か。鬼の最強の座を得ている者の風格は上弦の陸とは比べものにもならない程だ。

 つい、と冷や汗が流れるのを感じながら宇髄達は上弦の壱がいる間の中へと入っていった。

 

「最初の相手はお前達か……相手にとって不足なし……だが、少々物足りないのも事実……あの鳴柱を名乗るさーゔぁんとではないのは残念だ……」

 

 そう残念そうに目を伏せながら呟く上弦の壱に宇髄はへぇと相槌を打つ。鳴柱とやらは知らない、知ってはいるが今代にはいないそれに当てはまる人物は一人だけ見当はついている。サーヴァントというのもヒントになり得た。

 へぇ、そう。へぇ。

 

「あの小僧の方が実力は上ってか」

 

 舐めてくれんな、オイ。

 

 

 

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