俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十七節 前と今。4/4

 

 

 

 

「うーん。僕らの相手は君かな……これは厳しいかもね」

「お竜さん的には楽勝だけどな。パンチ一発で充分だ」

「そうだったら良いんだけどねぇ」

 

 偶然だった。彼らの本来の目的は敵を見つけ出し倒すのではなく、この無限城を探る事。構造は逐一変わるので全て把握する事は叶わないが、それでも敵とエンカウントしないようできるはずだった。

 気配が全くなかったわけではない。だけどどこか油断させられていた。己はサーヴァントであるのに、敵と味方の判別すらつかないようさせられていた。坂本龍馬は微笑みの下で冷や汗を流す。

 

「お兄さん達、サーヴァントってやつでしょ。お姉さんはともかくお兄さんは強そうじゃないのに、凄いねぇ」

 

 視線の先にいるそれ。縁側のような場所で寝っ転がっては飴玉を食べている子供。肌が白いわけでも、目が赤いわけでもない不思議な子はよいしょと立ち上がり、にひっと笑う。

 

「人の身でそこまでなれる。あーいや厳密には人じゃないのかな、えいれいってやつ? ごめんね? ぼく、よくわからないんだぁ」

 

 こてりと首を傾げるその姿は子供そのもので、言動からして鬼なのだろう。うまく隠してはいるが口元から覗く八重歯は鬼の特徴そのものだ。

 少しだけ小馬鹿にしたような言動をするその鬼に対して龍馬はいつものように微笑みながら、ゆるりと首を振った。

 

「謝る必要はないかな。少なくとも僕らも厳密には理解してないからね、知識はあるけれど」

「おい、リョーマ。こんな子供と話す必要ないぞ、さっさとやっつけよう」

「えぇ!? ちょっとは話しておくれよ。ぼくさ、人と話すのは久しぶりなんだぁ。みぃんなぼくを見ればどっか行くから」

 

 くすくすと面白おかしそうに話すその少年にお竜さんはそりゃそうだろうと眉を顰める。少年から感じるのは禍々しい気。きっと少年が話しかけたのであろう人というのは、子供であったはずだ。子供というのは大人よりもそういった気配に敏感であり、生き残る為に本能的に避けるようにしている。ただ好奇心もある為に死んでしまうこともあるが。

 魑魅魍魎の類であるお竜さんにとって馴染み深いそれ、龍馬はわかってないだろうかと彼を見れば、表情が焦っているように見えた。さっきまで何ともなかった彼なりに何か感じているらしい。

 

「(お竜さんが僕に話しかけるまであの気に全く気がつかなかった……どうして)」

 

 原理がわからない。しかし今気がつけて良かったかもしれない。わかっているのとそうじゃないのでは対応の仕方も変わってくる。

 

「ふふ、きみもぼくが怖い? サーヴァントって言っても一口に違うんだなぁ。あの人は強かったけど、きみはどうなんだろう」

 

 あの人とは誰だろうか。まさかもうサーヴァントと出会い戦ったのだろうか。

 龍馬の中に悪い予感が過るが、その真意を確かめる術は彼にはない。マスターを持たない守護者であるサーヴァントだからこそ、誰とも連絡を取ることもできず、知識を得ようとも歴史にない特異点の出来事はそもそもその知識内に入っていない。

 此方の戦力を減らされ、更にはサーヴァントよりも強いかも知れないという最悪の条件を危惧しながら龍馬は愛刀へと手をかける。

 

「どうだろうね。単にサーヴァントと言っても様々なタイプがいる。アタッカー、ディフェンス、サポート。能力もまた召喚されたクラスによって異なる」

「お竜さん達はライダーだ。出血大サービスだぞ? 鬼。普通の聖杯戦争なら自分からクラスなんて言ってくれないからな」

「うーん?」

 

 ちょっと意味がわからない。サーヴァントという横文字の意味は知っているが、その他の意味があまりわからないこそこの二人が何を言ってるのか五割くらいわからなかった。でも少しは理解した。きっと人それぞれと言いたかったのだろう、鬼もそうだし。

 

「じゃぁきみ達は強いサーヴァント? それとも弱いサーヴァント? 因みにぼくは強い鬼だよ、他のテキトーに強化された鬼達と違ってね」

「適当?」

「そう、テキトー!」

 

 ふふ。少年は嬉しそうに笑う。

 

「他の鬼達は見たかい? きみ達の言う異形の鬼ってやつだったでしょ? あれ元々ぼく達と同じ形してた子たちなんだ」

 

 無惨様も酷いよねと困ったような笑みを浮かべる。鬼の頭領の名前をさらっと言った彼を怪訝に思ったが、ここは敵の本拠地である無限城だ。鬼殺隊全員を送り込んだ事からしてもう隠すのはやめたのだろう。此方に姿形を知っている者が数人いるのも事実、情報戦では確実にあちらが負けているとも言って間違いない状況なので、名前ぐらいどうって事ないのかもしれない。そもそも鬼舞辻無惨と言う名前は半世紀以上前からバレてはいるが。

 

「元々同じ形って事は人型だったって事かな?」

「そうだよ。でもね、無惨様が今回の為に鬼達全員を集めて血を分け与えたんだ。鬼にはね元々限界があるんだよ、鬼の祖である彼の血とどこまで親和性が高いかで強さが決まる。食った数で強さが決まる?違う違う、食って強くなれる数は元から決まってるんだ」

 

 ぼくはね、勝ち組ってやつさ。

 

「食って補強して血を受け入れる皿を作る。弱いやつはどれだけ食ってもその皿は欠けたまま、小さいまま。血を受け入れても溢れて壊れてしまう。そうならないよう、彼らは改造された。理性を失った」

 

 だからこそ異形の鬼に成り果てた。

 下弦程度の力を持たされた鬼達はその言葉の通りに持たされただけ(・・・・・・・)に過ぎない。鬼によって強くなれる限界というものがあり、下弦の鬼がいつまでも上弦に勝てないのもそれが理由だった。かの下弦の壱も無惨の血を大量に受け入れられる事はできたが、余裕はなかったはずだ。

 鬼も元は人である。他人の血を受け入れる為に身体を変えた元人間が、更に血を受け入れられるかと言うと否だ。変わったところでもう一度受け入れてしまえば、急激な細胞の変化に耐えられず崩壊してしまうだろう。つまり人肉を食べるという行為は飢えを凌ぐことの他に、強くなる為の土台を作る意味合いがある。そう少年は言っているのだ。

 仮に何人もの人を食べ血鬼術まで発現させた鬼と、何も食べていないが血を多く分け与えられた鬼が純粋に戦えば、勝つのは後者である事からも彼の言っていることの信憑性が増してくる。

 ならば、土台すら作れなかった鬼をどうやってそれ以上強化するのか。血が零れ出してしまう器では、どう考えても崩壊の一途を辿るしかない。土台を強化しようともそこすら強化できないのなら下弦程度の力すら持てなくなる。

 何か他の強化方法でもあるのか。そう思い、各地で広がっている被害の事を思い出す。

 

「……まさか、泥」

「泥? ドロドロしてるからかな? きみ達は本当に面白い名前をつけるよね。なんだっけ、呼吸ってやつも、別に名前なくても使えるのに。まぁいいや、そうその泥だよ」

 

 お茶碗を作るみたいに塗り固める。少々歪な形になっても仕方がない、焼きあがってきちんと受け入れられるならどんな形でも構わない。

 

「ぼくは耐えられた。人の形を保てた。でも他の鬼は違う、獣に成り果てた。魑魅魍魎だ、百鬼夜行だ。なんだっけ、そんな絵画があったよね。無惨様はその時代に生きてたらしいけど……もしかして混ざってたりするのかな?」

「どうだろうね」

「お竜さんは混ざってたぞ。楽しかった」

「……こりゃ驚いた」

 

 お竜さんの新しい一面に驚きながらも龍馬はひと時も少年から目を離さなかった。楽しく世間話をするかのように話す彼のどこにも隙が見当たらず、攻めあぐねていた。それはお竜さんも同じで、そういう難しい事は苦手な彼女ではあるが今攻撃しては反撃を受ける事は理解していた為、大人しく龍馬の後ろで聞きに徹している。

 お竜さんと龍馬のやり取りを見た彼はふふっと笑っては、そっかーと残念そうに肩を落とした。お竜さんの反応からして無惨がいたかどうかはわからないことがわかったのだろう、元々興味もないが世間話というのはそういうものだ。

 

「きみがそんな反応だといなさそうだね。そもそもどっか遠くで見てる側かも知れないかも」

 

 まぁそんなことよりも。

 と自身の主人の話を早々に切り上げて、少年は両腕を上げた。そこから出てきた琵琶に、龍馬は目を見開く。琵琶を使ってる鬼は知っている、知ってはいるがその鬼は女性だった筈だと矛盾している知識に彼は目の前の少年を警戒した。

 

「きみたちがどれだけ強いか気になるなー。あのサーヴァントよりも強いのかな。この子も上手くやってくれるのかな。気になることいっぱいあるけどね、でもぼくは無惨様と同じように見てる方が合ってるからさ」

 

 だからきみ達の相手はこの子にしてもらうね。

 

 ———へべん

 

 小さな琵琶の音が鳴る。遠くから聞こえてくるそれとは違った音色は、一つの障子を出現させた。

 ゆるりと開く。中から見えた赤い瞳に、龍馬は厄介だなと笑った。

 

「結構特別な子だよ。楽しんでくれると嬉しいなぁ」

 

 頑張ってね。

 

「サーヴァントのお兄さん♪」

 

 

 

 




一分遅れたぁああ!!

次は11/18です。
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