俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十八節 倒す手立て。1/3

 

 

 

 

 ———べべん。

 

 琵琶の音が鳴り響く。定期的に鳴るそれは何処かで血鬼術を行使した証拠。耳の奥にある鼓膜が震えるのを感じながら、周りを見渡す。見た限りで変化はなく、また変な音も聞こえない。となるとこことは全く違う場所で鳴った音だと気づき、静かに息を吐いた。

 

「何安堵してやがる」

 

 後方で俺を追いかけてくる形で走ってる獪岳が怪訝そうな声でそう言ってきた。少し苛立ってる声音と心音だ、ため息ひとつで苛立たせちゃう俺はやはり獪岳と相性が悪いらしい。まぁ俺は別に仲良くならなくても良いのだけど、マスターとは仲良くしてほしいものだ。今までの彼とマスターのやりとりを見てると少しは希望はありそうだし。

 それはともかく、聞こえてしまったかと反省する。ため息が癖になってるのかはわからないが、今この場でして良いものでもない。獪岳の方は見ずに安堵してしまった理由を話す。

 

「いやね、琵琶の音が聞こえたから」

「……上弦の肆って奴か」

「そ、ここの主人。あの音が鳴るとこの空間を操作したってことになるから、何か来るかなって思ったけど来なかったわ」

「ハッ! 来た方が探す手間が省けて良かったんじゃねぇか?」

「それはある」

 

 正論だわ。正直満身創痍とか準備整ってない状態で戦闘に入るよりは、まだいける今の状態で琵琶の音が鳴って警戒してからの方が良いに決まってる。そもそも俺達はそんなに消耗してない為に体力的には直ぐに戦えるのだ、俺の心が追いついていないだけで問題はない。いや俺はあるけど。

 

「鴉達から何も連絡ないから誰も倒してないだろうしね」

 

 そう立香が言う。

 鬼殺隊士である獪岳とサーヴァントである俺の足の速さには強化魔術無しではついていけない立香は、現在俺に背負われて移動中である。恥ずかしかったらやめるけどとも言ったけど、戦場で邪魔をするプライドなんてとっくに捨ててると言われてしまった。凄くかっこいい台詞でした、はい。俺なんてプライド捨てまくって逆に邪魔になってんのに。

 立香の言う通り時折見かける鎹鴉は今の状況を伝えるだけで勝利の宣言はしていない。今のところ誰も死亡していないが、結局それも柱がというだけであり、そうでない者達は死んでいるかもしれない。所謂頓着状態だ。俺達は一応、上弦の陸を倒したがあれは急造のもの。進展はないと思っても良いだろう。

 

「時間がかかるほど有利になるのはあっちだ。どうしても人であるからこそ体力に限界がある」

「だが首を斬っても倒せねぇ奴がいるんだろ。それは日で倒すしかねぇじゃねぇか、外の今の時間はわからんが日の出までは時間が結構あるぞ」

 

 獪岳の言い分もわかる。上弦の壱、弐、そして鬼舞辻無惨は首を斬っても死なない。生前でこの戦いが終わった後に聞いた話であるから信憑性はある。そも無惨の再生力は俺の目でしっかりと見てるし、無惨から血を多く分け与えられてる上弦の壱、弐も同じと考えて良い。だとしたらどうやって倒すんだって話になるんだが……それは一応策はあるにはある。

 

「獪岳も参加した柱合会議じゃ俺達が知ってる相手の情報しか話さなかったけど、倒す手立てはあるよ」

「は? どうやって」

「いや俺は持ってないんだけどね、藤丸さんがさ」

 

 獪岳が立香の方を見たんだろう、背中で彼が頷くような動作をしたのがわかる。

 

「手はあるにはあるんだ。でもこんな状況だからどこにも辿り着けてないらしい。それにこれは俺の予想だけど俺が持つ手札はきっと上弦の弐には通用しないと思うから、その鬼だけはどうにかしないと」

 

 まぁ一枚だけじゃきっと効かないだろう。あの上弦の弐は人に生まれながらにして人としての情緒が育たなかった者だ。環境が悪かったとは言えまるで鬼になるのが必然だとも言うようなそれに、立香の言う手札は効かない。あれは“人としての感情”を持ってる奴には有効だけど、そうじゃない奴にはどうしようもないからな。

 ただ立香も馬鹿ではない。何も手札は一枚だけじゃないし、出す場面もしっかりわかってる。上弦の弐に対して使えないからと言ってそこで終わりというわけにもいかないしな。

 

「あと連発もできないから、本当なら無惨相手に残しておきたいんだけど」

 

 善逸さんと俺の名前を呼ぶ。耳元で小さく呼ばれた俺はチラリと立香の方を向いた。前方不注意で事故ったら嫌なのですぐに目の前を向いたけれど。

 

「もし善逸さんが何か手を持ってるならそれを使いたい……ダメかな?」

 

 そう言われて思い出すのは現界してから初めて無限城に訪れた日の事。炭治郎の刀が吸い込まれるように源頼光の首を刎ねた光景。サーヴァントというものには少なからず神秘が付き纏う。それが一流でも三流でも百流でもだ。神秘を持つものには現代兵器は効かない、同じ様に神秘を持つ物でしか傷を与えられない。蔓延ってる鬼達だって少なからず神秘を持ってるからこそ日輪刀以外で傷を付けても死なないわけだし、まぁそれの強いバージョンがサーヴァントなわけでして。

 同じ鬼とはいえ神秘が蔓延る平安の世に生まれた鬼人、その所持している神秘の大きさは神性というクラススキルにて発現しているはず。流石にランクまでわからないが、俺と同……いやそれ以上だろう。俺ですら神秘を薄ら纏う日輪刀で斬る事が叶わないのに何故か炭治郎の刃は届いたのは、まぁ覚えがないわけではない。

 ただそれをできるかは俺ですらわからない。

 

「ない事はないけど……多分無理だよ。俺ですら原理はちょっとわかってないから」

「それはサーヴァントとしてどうなんだよ」

「面目ない……」

 

 獪岳が正論しか言わない件について。っていやこいつ大体正論しか言わないな、言い方がアレなだけで。だから嫌われるし、陰口を言われる。俺は逆に正論を言わないし騒がしいから嫌われます。いや対極過ぎか?

 項垂れる俺を見た立香は疑問に思ってる音を出しながら、謝ってると呟いた。

 

「さっきまであんなに煽ってたのに……」

「それとこれとは別ですー。俺は煽りたいときに煽るの」

「チッ、クズが」

 

 獪岳にクズって言われた……俺終わってんね。言われても仕方ないけど。

 それにしても本当に音がしない。するにはするんだが鬼の音が蔓延していてどれがどういった音なのかを判別しにくい。走っているからというのもあるけど、ここ自体広過ぎるんだよな。脚を止めて集中すれば何かわかるかもしれないが、その間に鬼達が襲ってきたら対処できるのは獪岳だけになる。

 今だって曲がり角から突然生えてきた異形に成り果てた鬼達を斬り捨てた。本当に酷い音だ、慣れてなかったら気持ち悪さに酔ってたかもしれない。

 塵に還る鬼達を見ながらこれ幸いと目を閉じる。この鬼達を斬った少しだけ静かになったので周りの音を聞き取れるかも知れない。

 

「(時間がないし獪岳の体力も気になるから、そろそろ次の敵と出会えたら良いんだけど)」

 

 そう心の中で呟けば、何かの音を捉えた耳。シュルルと何かが擦れる音が聞こえては、金属同士がぶつかる様な音も聞こえた。なんだろう、金属のところは刀じゃないと思うんだよな。刀にしては音が軽過ぎるし鈍い。わからないけど何か手掛かりがあるかもと一歩踏み出し、数十メートルほど進んだ場所にある襖に手をかけた。この中から音がする。獪岳と立香に静かにする様小さく声をかけ、するりとその襖を開け放った。

 

「ご〜しゅーと! いけ! 貴方様ならいけます! そこです! そう! そう!!」

 

 何か背負ってた立香から呆れた様なため息が聞こえた。何してるの巴さん、と呟いていたことから目の前にいるのが巴御前だと気がついた。銀髪ポニテは確かに彼女だろう、確かゲーム好きの日本系サーヴァントだったっけ? 現界したのが大正時代でも関係ないのか、大きな盆の様な場所で何かを回してる。あれベーゴマじゃん、なっつ。いやまって今ゴーシュートなんて言わなかったか? 時代詐欺か?? ちょっと意味がわからない。

 

「頑張ってください! 義仲様!!」

 

 いやコマに夫の名前付けるなよ!?!?

 

「何やってんだ、こいつ」

 

 俺の隣に来た獪岳が怪訝そうに呟いた。ベーゴマを知らないらしい、何かの遊びだとは理解してるのか部屋に散らかる玩具達を見ては眉を顰めていた。金持ってんなと小さな声で言ってはいるが、まぁこれだけの量を集めるにはそれなりのお金はいるな。趣向品であるそれらを買うより実用品を買った方が基本的に良い。孤児生まれである俺らからするとわぁお金持ちだなぁと思うぐらいで。

 いや無限城で何遊んでんだって話だけどさ。

 

「ベーゴマかぁ。やったことないなぁ」

「あ、知ってはいるんだ」

「うん。カルデアにある資料の中に載ってたらしくってそれに興味持った子がいてね、投影魔術でちょちょいと」

「投影魔術の使い道ェ」

 

 今更だが投影魔術ってある意味チート、それさえあれば無人島で生き抜けるよな。

 背負っていた立香をしゃがんで降しながら、巴御前を見る。これだけ話してるのに全然こっちを見ない彼女は本当にベーゴマに夢中だ。ずっと義仲様と後出ししたであろうコマを応援している。余程回すのが上手いのか勢いを落とさずに回るそれが放つ音に俺はちょっと感心した。綺麗に回ってらっしゃる。

 

「……いや感心してる場合じゃねぇよ!?!?」

「ふぇ!?」

 

 あ、巴御前が驚いた様にこっち見た。

 

「え? 何? もしかしてセルフツッコミ??」

「藤丸さんエスパーか?? 巴御前の投げたコマが綺麗に回り過ぎて感心しちゃったんだよ、そんな場合じゃないのに」

「そんな場合じゃないね」

「テメェでかくなっても馬鹿で阿保だったんだな、いっそ尊敬するな。しないけど」

「どっちだよ!」

 

 というか俺はどっちかっていうとボケの方です。現界してからの話だけどな!

 

「あ、貴方達いつの間にそちらに!? い、いつから見てました!?」

 

 俺のセルフツッコミで漸くこちらの存在に気がついた巴御前が目を見開きながら後退していっている。素早くベーゴマの台やら何やら玩具達を片付けながら、あわあわと慌てていた。器用だなと思いつつ、彼女の質問に答える。

 

「あー、“ご〜しゅーと!”ってところから」

「初めからじゃないですか!!」

 

 わっ!! と泣き顔の様な表情で喚く。“そんな最初からなんて話しかけてくれても良いのに”とか何とか呟きながら、散らかっていた玩具達を一つの箱に集めている巴御前を指差しながら獪岳とは反対側に来た立香を見る。目線で“こんな奴だっけ?”と問い掛ければ、振るわれる首。違うらしい。

 

「カルデア産じゃないからかも。現界する度に本人だけど別人らしいから、性格も少し変わってもおかしくはないよ」

 

 まぁうん……そこに関しては俺もサーヴァントなんで理解してますけど、それを考慮しても本人の性格変わり過ぎじゃない? とは思いますね、はい。俺が覚えてる限りじゃ、巴御前は割と羽を伸ばせるところでは伸ばしまくるタイプではあるけど、それでも根幹は確かに武士であったはず。武士ではなく剣士である俺だって敵が近くにいれば流石に気がつくし、サーヴァントの気配なんて部屋を隔てていても感じられる。なのに戦に参加したはずの彼女は此方に気がつく素振りも、警戒する素振りも見せない。ここは戦場、いくら味方陣地とは言え緩み過ぎだ。

 そこまで考えて眉を寄せた。嫌な予感がする。

 

「あれ? 皆様、もしや私が片付けをしているのを待っていらっしゃいます?」

 

 敵がいても気を緩ませてられるのはそれだけ現状を理解していない馬鹿か。

 

「優しい方々なんですね。折角の好機でありましたのに」

 

 それか、それだけの余裕があるか。

 

「それでは、正々堂々」

 

 にっこりと巴御前は笑う。

 

「戦を、致しましょうか」

 

 

 

 

 

 




ゴッホちゃんかわいい(おめめぐるぐる)
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