俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「イィィイイヤァァアアアア!!!!」
無理!! 無理無理無理無理!!!!
何が気絶しないで戦いたいだ!! 何が迷惑かけたくないだ!!! 自分で言った事がものの数分で意見変わりそうなんだけどォ!?!?
はっきり言いましょう。
「これは!!! 無理!!!!」
精神的に!!!!
手足を必死に動かして逃げ回る。隣で同じように走ってる鈴鹿御前さんが“それな!!!”と叫んでたのでやっぱりサーヴァントでも無理なんだなと理解する。彼女から聞こえてくる音も嫌悪と不安を感じさせるものだからこそ理解したのもあるけど、まぁあれを見て嫌悪を感じない人なんていないよね!!
走りながらチラリと後ろを見る。最初はずんぐりむっくりした雀だった。なんか話すし、ちゅんちゅん煩いし。チュン太郎も話せたらあんな感じだったんかな? ってちょっとほわほわしてたのに俺を見た瞬間に“エリちゃんの仇!!”と叫んでは姿を変容させた。丸々とした体は引き締まり、目は鋭く、頬にかけて裂けた嘴の中にはびっしりと鋭い歯が並んでいた。そして鋭く変えた爪で床を引き裂きながら追いかけてきたのだ、これは逃げるしかないでしょ!?
「イヤイヤイヤァア!! 来ないで!! 来んな!! 美味しくないから!! 俺は不本意ながら鍛えて筋肉で筋ばってますし!? 隣にいらっしゃいます美少女はサーヴァントだから肉体ありませんし!? 食べても意味ないって!!!」
「魔力補給にはもってこいな人選じゃんね!」
「なんで相手が得になること言うの!?」
ちょっと黙っていてくれません!? 鈴鹿御前さん! ほら! 雀(?)達が興奮して羽根をバタバタさせてるし音がすげぇ興奮してますからぁ!! 何が面白いのかちょっと口角上がってるんだけど!? 気持ち悪ッ!!
「ギャギャギャギャ!!」
「ギュギャギョハハ!!」
「ギギギヒハハハァ!!」
「いや鳴き声もキモすぎ!!!!!! 怒ってる気がするけど何!?!?」
「許さないエリちゃんの仇め、必ず食ってやるって言ってまちね。何したんでちか? お客様達」
「なんでそれで言葉がわかるんですかねェ!? 俺はチュン太郎の言葉わからんのに!!」
「チュチュンチュン! あちきは舌切り雀の紅閻魔でちよ? あちきは雀、雀はあちき。わからないはずがないでちね」
「なァるほどねぇええ!!!」
俺もそんな機能欲しかったな!! チュン太郎の言葉全然わかんないし!! まぁセイバーはわかるらしいけどね!!! 同じ人間のはずなのにこの差よ!!
「じゃぁちょっとその雀(?)達に人違いです!! ごめんなさい!! って言ってくれませんか!? 俺の死因“雀に食べられる”ってのは嫌なんですけど!?!? というか雀って肉食だっけ!?」
「無理でち、あちきもおまえ様を殺す気でちからね。利害が一致している以上止める理由なんてありまちぇん。あと雀は雑食でち」
「雑食なの!?!?」
「アハハ! 殺る気満々じゃん!! 殺す気でかかって来ても本当に殺す気なんてない紅閻魔せんせーに殺されそうとかウケるっしょ! 後でツミッターに投稿しよ」
「ウケない!! アンタの感性どうなってんだ!? ってかつみったーって何!?」
ちょいちょい謎用語出さないで?? セイバーならまだしも俺はそんな用語瞬時に理解できないからね?? そう舌切り雀の紅閻魔さんから放たれる斬撃と雀(?)達の突きやら何やらを躱しながら鈴鹿御前さんを見ると彼女はしきりに感心したように頷いていた。いや何!?
「あれだけ身軽に躱してんのせに全くスピードが落ちてないなって感心してただけだし。もしかしてアンタ人間じゃないっしょ?」
「いきなり罵倒された!? いや人間ですけど!? むしろこの場で唯一の人間ですけど!?」
元神様のサーヴァントと雀と童話出身サーヴァントの中にいる唯一の人間なのになんでそんなこと言われなくちゃいけないんですかね!?
「唯一の人間だから! 紅閻魔先生の剣術は並のサーヴァントじゃ歯が立たないんだし! 閻雀抜刀術は閻魔大王の剣技、そんじゃそこらの奴じゃ見切ることすら敵わないから!」
「いやでも君だって躱してるでしょ!?」
「そりゃダチだもん。付き合い長いんだから躱して当然!」
「鈴鹿御前とは友人でもなんでもありまちぇん。ただの教え子と教師の間柄でち」
「なんかフラれたんだけど!」
「今のフラれてたの!?」
それフラれてるっていう内に入らないと俺は思うけどな! 今の関係性を提示されただけで未来までは断られてないし。俺はそのつもりでいつも言ってるけど炭治郎に通じてないんだよな、なんでだろ。
そんなことを心の中で疑問を浮かべながら飛んできた斬撃を避ける。気がついたのが避けれるギリギリの範囲だったから危なかった。床板が抉れて下の階まで見えるそれに小さく悲鳴を上げては脚を早める。
というか躱しておいてなんだけど、飛ぶ斬撃って何??? しかも斬撃飛ばしたであろう時に相手を盗み見てたんだけど、刀を抜いているはずの紅閻魔さんは俺達と同じように走っているだけで斬撃を飛ばした瞬間なんて全く見えてなかったんだよな。いや音はするんだよ?? チャキって刀納める時に放つ音は。でもそれは俺の場合の話で、普通は気が付かないほどの音量だ。え?? やばない?? 全く抜刀からの動作がわからなかった。え?? 俺の一応唯一の取り柄なんだけど??? 抜刀術。
自分の何かが崩れそうな予感がしながら、交互にやって来る雀達の攻撃を避けたり刀で逸らしたりする。グギャッとおよそ雀が出さないような悲鳴が聞こえた方を見ると、鈴鹿御前さんが雀の両翼を斬り刻んでいた。血が噴き出し、飛んでいた雀は地に落ちる。走って! と叫ぶ彼女に従って速度を少し上げ、聞こえてくる音に耳を抑えた。
「ねぇこれ再生してない!? 見てないけど筋肉が膨張する音がするし鬼が再生するときの音に似てるんだけど!?」
「音だけでそれだけ判断できるのは流石って褒めてあげるじゃん! 鬼の性質を持ってるから再生ぐらいするし!」
「雀なのに!?」
「雀の前に獄卒だから先生は」
ごくそつって何!? いや鬼の別名かなんかだろうけど、何?? そう顔に出てたのか彼女は“地獄にいる鬼のこと”と教えてくれた。へぇ地獄の鬼は獄卒って言うんだ知らなかった……は??
「地獄!? 地獄ってあんの!? まじ!?」
「マジ。ま、アンタも死んだら行くんじゃない? 地獄行きか天国行きかは地獄で決めるし。それに私らがいる時点であの世があるのはわかってた事でしょ」
「そりゃね!? 故人がいるんだからね! でも今死後の話はしたくないかなぁなんて!!」
今したら何か死にそうで嫌だ。今まで一応紅閻魔さん達の攻撃を躱してきたけど、それももう限界が迫ってきている気がする。いやこれ常中習得してなかったら今頃足を縺れさせて転けてたかもしれない。そうすると死ぬのは確実だ。だからそう言う連想をしたくないからあんまり死後の話とか考えたくない。死ぬとは常に思ってますけどね!
「別にしても良いじゃん。アンタは私が死なせないって決めてるんだし!」
そう言って鈴鹿御前さんは相手が放ってきた斬撃に刀を添えて押し返した。まさか斬撃が跳ね返るとは思ってなかったのか、紅閻魔さんが驚いたような表情を浮かべてからその斬撃を軽く避ける。最初に飛ばしたものより威力が大きくなっていたらしく、彼女の後方の床は大きく抉れていた。まるであり得なぐらい大きな大太刀で斬ったかのような抉れ方だ。怖ッ!?
ってかえ? 死なせないってどういう?
「守ってくれるの!? 優しい!?!?」
「守らないよ、死なせないだけ」
「一緒では!?」
「別にアンタがマスターじゃなければ放って置くつもりだったんだけどさー、アンタ死ねば戦力落ちるじゃん? それはマスターが困るかなぁって思っただけだし」
「アッそういうことね!?」
俺が死ねばセイバーも死んでしまって味方の戦力が減る。そうなると一層勝てるか厳しい戦いになるから仕方なく守ってくれるらしい。特に俺が好きだからとかではないみたいです、知ってた。
「でも今のままじゃ私でもキツいかも。一対一ならまぁどうにかなんないこともなんないかなーぐらいだけど、雀がいるからなー」
一対一なら?
「どうにかなるの?」
「え?」
この状況、正直厳しい。このまま逃げ続けても相手はサーヴァント、鬼以上に体力があり疲れを知らない、しかも強い。でもこっちにだってサーヴァントはいる。なら何故こうも相手できずに逃げてるのかって考えたら、俺が原因だ。多分俺がいるからこの人は一緒に逃げてるんだと思う。マスターだからこそ守る、それは裏返せば相手はマスターだからこそ狙って来るということで……現に紅閻魔さんはずっとこっちを見てる気がする。おまえ様達とは言ってたけど、鈴鹿御前さんはついでなんじゃないだろうか。
「(足手纏い)」
俺は今、足手纏いだ。俺がいなきゃこの人は相手と全力で戦えて、俺が逃げなきゃ倒せることができるかもしれない。
ぐっと下唇を噛んで出てくる血の味で覚悟を決める。シィイイイと息を吐いて、走る途中で飛んで反転した。何を!? とか鈴鹿御前さんが驚いている音がしてるけど、今更やめたりはしない。
———雷の呼吸 壱ノ型
いつもの癖で刀に手を添えるけれど、抜かない。ただ呼吸と型を利用する。
———霹靂一閃・十連
「なっ!?」
紅閻魔さんの驚いた声が聞こえた。その間に目の前に迫った雀の胴体に抱きついて、そのまま霹靂一閃を継続する。肺に来たのか、ギャゥッ!? と苦しそうな声を出した雀を無視して次の雀を片手で掴む。全集中の呼吸を駆使しながら、強化魔術も重ね掛けして脚を動かした。
「(おっっっっっも、いけど俺ができるのはこれだけだ)」
一、二、三と大小様々な雀達を十羽掴んでから少し向こうにある障子へと向かう。あの障子は一見部屋があるように見えるけど聞こえてくる音からその先は空洞なのがわかる。多分感じからすると下へと続く空洞になってるんじゃないかな。下に落ちたら怪我するかもと考えては、肩口を雀に噛み付かれて意識を戻す。ものすっごい痛いし肉を裂く音が中から聞こえてくるけど無視だむし、考えたら負け! 落ちた後の事はそのとき考えよ。
「じゃぁ! 鈴鹿御前さん!」
後はお願いします!!
「はぁ!? ちょ、アンタ!!」
焦った声を出す彼女にヘラリと笑っては、目当ての障子へと身体をぶつけた。若干へし折れながらも開いたそれの向こうにあったのは、やっぱり空洞で、底が見えなくて……かっこつけてみたけれど。
「やっぱ怖いィイイイイッ!!!!」
溢れ出た涙が落下する俺と違って上へと昇って行った。
人数が……人数が多いッ!