俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十九節 黄泉から蘇りし者達。1/3

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨による産屋敷邸襲撃事件。実際には本人ではなく遠隔操作による雑魚鬼での襲撃だったが、産屋敷邸が爆破しなかった等の差異はあれど、“前回”と相違いなく無限城に全鬼殺隊員を落としてみせた。

 上手くいったと彼はほくそ笑む。“前”では此方が襲撃する事を逆手に取られ、鬱陶しい逸れ者共に人に戻る薬とやらを打ち込まれた。それだけならまだしも老化まで付け加えられたそれは己を死に追いやるのに相応しいものであった。

 人に戻るのならまだ良い。もしかすればこの身体の強度を保ちながら人間に戻れるかもしれないからだ。もしそれが可能ならばそうしている。しかし奴らが齎したのは老化を含めた劇薬。それはダメだ、ここまで生きて、ここまで来て諦められるはずもない。

 

「(念には念をと思ったがまさか成功するとはな)」

 

 “前回”と同じようにあの逸れ者共が潜んでいた。流石に配下の鬼を通じてなので詳しい場所までわからなかったが、己らと違う特徴的な鬼の気配はわかりやすい。まさに無駄な努力。彼等の努力の結晶は終ぞ己に届く事はなかった。

 くつくつと笑みを零す。己の視線の先にいる寝転がった少年の姿を見るだけで自身の有利を自覚する。未だ気絶しているそれは鬼殺隊の者共を無限城に落とすとき、特別に無惨の下へと来させたものだ。

 竈門炭治郎。忌々しい日の模様が入った耳飾りを持った少年。耳飾りだけでなく、その痣も髪型も一人で己を窮地に追いやった化け物を連想させる。子孫というわけではない、此奴は奴程の力を持ってはいないのは確信している。厄介なのは変わりないが対処可能な範囲ではある。

 あぁ、と無惨は顔を覆った。見ているだろうか? あの世から、あの化け物は。

 

「お前が遺したのは無意味だったな、鬼狩りよ」

 

 んふふ。

 暗闇の中、悦ぶ無惨の様子を見た何かが笑った気がした。ぺたりと床板を踏む音が聞こえ、無惨は笑みを消し振り返った。ぺたりぺたり。軽い足音を伴って暗闇から現れたのは大江山の鬼であり、現鬼舞辻のサーヴァントである酒呑童子。深い笑みを浮かべては無惨を見据えている。

 

「何しに来た?」

 

 ここには誰も呼んでいない、なぜここにいると少し怒りが込み上げながらも冷静に酒呑を見据えた。

 琵琶の音が鳴らなかった事から、鳴女が血鬼術を使い送ってきたわけでもなく、また酒呑童子には瞬間移動する能力も無い。ならば歩いてきたという事だが、ここは無惨ですら全てを把握していない無限城だ、たった数ヶ月前に召喚されたサーヴァントが明確な意思を持ってこの場所に辿り着けるはずもないのだが。

 疑問が無惨の中で膨れ上がれながらも、酒呑童子は大きな盃を傾けては中にある透き通った酒を飲んだ。んくと小さな喉が上下しては、酒臭が口から溢れ出る。無惨は思わず眉を顰めた。

 

「べぇつにぃ? なんやおもろそうな事しとりますなぁと思っただけなんよ。小僧に用があって来たわけやないさかい」

「どうやって来た?」

「どうやって? んふふ、お酒呑んでふらふら歩いてたら悪いん? たまたまや、たーまたま。ふふっ、怖い顔。悪気はないんよ? 堪忍しておくれやす」

 

 くすくす、くすくす。のらりくらりと笑うだけで本当の事を言わない酒呑童子に苛立ちが募る。それでも手を出さないのは単にこのサーヴァントに敵わないと分かっているからであるが、流石の無惨も二度目の人生となると少しは成長するらしい。主に情緒。

 

「ほんで、その小童はどうしはるん? まさか鬼に、なぁんて、ふふ」

「……そのまさかだ」

「あらまぁ」

 

 冗談のつもりだったらしい。小さく目を見開いた彼女はそうと呟いてから盃を傾けた。普通の酒では酔わない鬼を魅了し続けるその酒は無惨からしても美酒には見えたが、かと言って飲むわけにもいかない。あれは酒呑童子にとっては酒であると同時に紛れもない毒なのだから、いくら同じ鬼だとしても死に急ぐようなものだ。

 

「なら、どっちの鬼(・・・・・)にするつもりなん? うちとしては同族が増えて嬉しい限りやけど……んふふ、愚問やったねぇ」

 

 無惨の表情を見ればわかる。質問をすると同時に歪んだそれはお前と同じ鬼にしてやるものかと物語っていた。まるで他の誰かに玩具を取られそうな子供のそれに酒呑童子は嘲笑う。人の楽しみを取るほど、自分は落ちぶれてはいない。

 

「えらいご執心なんやねぇ……んふふ、なんや? 首でも落とされはった?」

 

 答えようのないそれに言葉に詰まる。その通りだったからだ。流石に首は落とされていないが、追い詰められて陽光に当てられてしまった。最後の悪足掻きすらこの子供に防がれて、無惨は息絶えた。実力では全く負けていなかった、負けてしまったのは自分自身の傲慢と油断故。だがそれでも自分の不手際を認めきれてない無惨は、自身の敗因全てがこの子供が引き起こした事だろうと考えていた。

 太陽を模した耳飾り。これを持つ人物は無惨の想像を容易く超えるような事をするのは四百年程前から知っている。

 だからこそ制御下に落とし込める事ができれば。

 

「あら、図星? ふふ、アハハ! なんや、小僧も鬼なんやねぇ。娯楽に生き、愉悦に呑まれる。楽しく快楽に溺れるんは鬼の特権、死すら楽に変える。んふふ、それに怯える小僧はふふっ鬼より人の子みたいやなぁと思ってたんやけど……ふふっ」

「五月蝿い」

「つれへんわぁ、悲しいわぁ、おんなじ鬼同士仲良うせんと……なぁ?」

「少しも思ってない事を口にするな」

「んふふ、お見通しなんやねぇ。いけずやわぁ、少しぐらい乗ってくれてもええんちゃう?」

「時間の無駄だと理解しているだろう?」

「うちはそないな事思っとらんけど……まぁええわ」

 

 何を言っても無駄だという事を理解したのだろう。こくりこくりと盃に注がれていた酒を飲み干した酒呑童子は、手に持っていた盃を消しては竈門炭治郎が収容されている牢屋へと歩き出した。無惨は眉を顰める。

 

「何するつもりだ?」

「何って、小僧が言ったやろ? 何しに来たんて。うちとしてはたまたまなんやけど、んふふ、興が乗ったからすこぉし手え貸したるわ」

「は?」

 

 それはまさに鬼の気紛れ。面白そうな事をしてるから、しそうだから手を貸す。少なからず自分の手を加えては愉悦を喰らおうとするそれは形だけの牢屋に潜り込み、熟睡している少年の顔を覗き込むように蹲み込んだ。

 

「えらい寝てはるねぇ、術でもかけたん?」

「ただの術では此奴はすぐに起きるだろうよ。睡眠薬だ。熊も熟睡するほどのな」

 

 下弦の壱の件もある。強力な術であろうともどうにかして破って来るだろうなと確信しているからこそ、現代の技術を以って眠らせている。睡眠薬と言いながら麻酔薬のそれは眠っているだけに見えるが、起きたとしてもすぐには手足も動かせないはずだ。無惨は竈門炭治郎でもないし麻酔薬などかけられた事もないので確信はできないが。

 無惨の言葉を聞いた酒呑童子は何が面白いのか笑みを深くしながら、そうと呟いてはほぼうつ伏せになっていた炭治郎を仰向けにさせる。そしてそのまま空いていた方の手を炭治郎の腹へと突き刺した。

 

「んっぐっ……!?」

「あは。ちょぉっと刺激が強いけど、我慢してなぁ? まぁ寝てはるから聞こえへんやろうけんど……んふふ、あらちょっとズレてはんね? んしょっと」

 

 ガキ、ゴキ。人の身から鳴ってはいけない音がする。鬼ならば耐えられるだろうが、人間である炭治郎からすれば致命傷。腹を破られ骨を弄られ、血を床に垂れ流す。

 

「おい」

 

 無惨は眉を顰めた。ここまでくると何をするのかは察する事ができるが、だからといって無言のままで見逃すわけにもいかない。すでに腹を破られてはもう遅いが、彼女の目的を明確にしなければ。

 少し怒気を含んだ声に酒呑童子はなんや? と振り返る。その間も手を動かしては炭治郎を苦しませている。痛みがないにしても衝撃はあるのだろう、時折手足が跳ねている。

 

「そう睨まんといてなぁ? 小僧にもええ事やから見逃しておくれやす。ただ血を分け与えるだけじゃ、この小童の身体持たへんよ?」

 

 何せ鬼狩りといえど、まだまだ子供。成長期すら終わってない彼に身体を変質させるものを与えては何が起きるかわからない。もしかすれば手に負えないものになるかもしれない。

 正論に押し黙った無惨に酒呑童子はええ子と呟いて最後に大きく手を動かした。肘関節まで入っていたそれは勢い良く抜かれ、周りに血が飛び散る。致命傷である血の量だったが、炭治郎は息絶える事なく息をしている。どういう事だと無惨が怪訝に思えば、服を破られ晒されたそれは綺麗な腹筋が見えている。傷がない。

 

「あんたはんら“鬼”のような回復力はあらへんけど、うちら程はあるようやね。治ってるんは見た目だけなんよ」

 

 けんど回復してはる。

 んふふ、嬉しそうに酒呑は笑う。

 

「小僧、血を混ぜるんはすこぉしずつにしとき。まだまだ時間はある。夜明け頃には、ふふっ」

 

 小童も仲間入りや。

 

「そうや、あの牛女はどないしはったん? 小僧にぴったりついとったあの女」

「あぁ……あいつは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちる、落ちていく。

 決死の判断で気持ちの悪い雀達に飛びついて空洞に落ちてから何分経ったのだろう。明らかに普通の対空時間をとうに過ぎているし、さっきから壁にぶつかりそうになる度に新しい襖が現れてまた新しい廊下みたいな場所に出るし、もう空間を繋げるのが面倒になったのかだだっ広い場所に出ちゃうし、雀達はいつの間にか粒子になって消えたし。

 

「って消えてるぅ!?!?」

 

 あんなに散々人の頭やら肩やらをガジガジ噛んでおいて謝罪も無しに消えやがった!!! いやほぼ本能で生きてる雀に謝罪とか求めてもお門違いだろうけどさ! それでも最初は話す事ができたんだから謝ることぐらいできるでしょうよ!!!

 置き土産というか、噛まれた箇所から血が出て水玉になって空中に散っていくんだけど。出血多量で死ぬんじゃないかなって嫌な予想をしては顔を青くした。止血の為の呼吸と魔力を回して段々とそれは無くなったけど、現状俺が真っ逆さまに地面に向かって落ちているのには変わりない。いや地面っていうか床だけど!!

 

 

 ———雷の呼吸 壱ノ型

 

 

「ぃっ、ぅっつぅ!」

 

 少し動かしただけでこの痛み。唇を食い縛りながら型を放つ。

 

 

 ———霹靂一閃・三連!

 

 

 空中での踏み込み、身体を反転させる。何もない場所から移動して壁を伝い床に降り立った。その時に着地に失敗して転がって壁に背中を打ち付けてしまったけれど、まぁ床に打ち付けられるよりマシかと痛みを我慢して立ち上がった。

 ポタリと零れる血に呼吸と魔力を駆使して治していく。多分、聖杯の力を借りれば一瞬なんだろうけど、セイバーがあまり使うなと言っていたから自力でする。めちゃくちゃ痛い、泣き叫びたいほど痛い。でも鈴鹿御前さんに格好をつけて離れたんだから、どうにか合流して大丈夫だったって伝えないと。

 シィイイ、息を吐く。一歩踏み出せばもう、血など垂れていない。

 

「(応急処置程度には治った、治ったけど!)」

 

 さっきから耳と身に届くバチバチとした音と触感に震え上がる。俺の雷の呼吸のような幻想ではない、本当の電気が辺りに満ちていた。

 

「もしかして……相当やばい場所に来ちゃったのでは???」

「ゴォオオオオルデェエエエン!!!!」

「ヒィッ!?」

 

 なんとなく見当ついちゃったよ!!! もう!!!!

 

 

 

 




平安京配信されましたけど、怖いのでやって無いです。
というわけで平安京のネタバレは含まれません。

……そもそも平安京まで行ってない立香君だったわ。
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