俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
源頼光。
それは平安時代の中期に存在した武将の名である。
日本人ならば誰しもが習う国の歴史。千年以上経っても尚残るその名は確かに英雄であり、源氏、平氏。習ったものを覚えてなくともなんとなしに記憶の片隅に居続けるそれは実に英霊足り得るもの。
そしてそんな源氏の直系である彼女、源頼光は日本において最強の部類に入るだろう。何せ、神秘がまだ蔓延っていた平安の世にて人間でありながら神の血を引く鬼を討ち取ったのだから。その知名度もさる事ながら、ありとあらゆる得物を扱うその才能は随一と言って良い。
ふぅと金時は息を吐いた。厄介な相手だ、しかし自分以外が相手取る者でも無い。
はっきりとした見覚えのあるが馴染みのない気配を頼りに進む坂田金時の顔は、いつもの笑顔ではなく真剣な表情であった。
頼光四天王。源頼光率いる妖退治の為に作られた部隊の幹部の一人であった金時は、召喚されてからずっと自分の役割というものを探していた。何故己なのか。武将としては頼光の方が上であり、策を講じたり、器用な事をしたり、冷静な頭もない己が何故。
いや召喚された理由ならわかる。触媒が元マスターだった事を考えると、鬼関連が呼び出されているのだろう。少なく、そして多くとも鬼の因子を持つ者達を、彼は呼び寄せた。そして頼光四天王の中で鬼の血を引くのは己と源頼光のみ。
だが、別に己でなくても良かったはずだ。鬼なぞ幾らでもいる。平安の世にて名声を轟かせた魑魅魍魎は何人もいるのだから、わざわざ人が入り混じった自分でもなくとも不都合は無かった。
だからこそ、坂田金時は考えた。
己が召喚された時に課された役割を。
己が全身全霊を以てやるべきことを。
召喚され、マスターとの思想の齟齬に離脱し、鬼殺隊、そしてカルデア側へと寝返った己は武士にあるまじき忠義というものがないのだろう。己や鈴鹿御前以外はしっかりと元マスターを慕い、義を通している。それが例え植え込まれた感情だとしても、素晴らしい事なのかもしれない。
ただマスターが鬼じゃなければ、の話だが。
『金時は何でこっち側に付いてくれたの?』
無限城に来る前の話だ。
新しいマスターは純粋に疑問に思うのか、そう問うて来た。マスターから言われた事柄を熟す合間の休憩時間。多分会うのが最後になりそうだからと疑問に思ってたことを口にしたらしい。
金時は少し怪訝に思った。寝返った理由なら話したはずだ。己の中にある不快感が膨れ上がり、対敵したセイバーとの戦いが面白かったから、カルデア側に付きたくなった。それだけだ。
『違うでしょ』
少し、どきりとした。
少年の青い澄んだ目は、己の巨躯に怖気つく事なく真っ直ぐと見つめている。何もかも見透かすようなそれをサングラス越しに見返した金時は、顔は逸らさず目だけを逸らした。見た目ではバレてないだろうが彼には分かったのだろう、そうじゃないよね? と言葉を変えてもう一度言ってきた。疑問形だが決して問いかけてきているわけではないその言葉に、金時はバツが悪そうに頭を掻いたのを覚えている。
『あー……』
答えないと離してくれなさそうだと理解した金時は、言葉を濁しながらもポツリポツリと理由を話し始める。
確かに離反した時の理由はただの偶然。己が普通より多く神性を持って現界し、それ故に植え込まれた感情に疑問を持った。そして同じ雷神のルーツを持つ者と出会った。全ては偶然……しかし、金時には必然にも見えたそれは彼に課された役割をきちんと見据える良い機会になったのは確か。
己の内側から不快感が無くなった今だからわかる。元マスターの思想が己に合わなかったからじゃない、それだけなら自分だって英霊の端くれ、言葉を飲み込んで付き慕っただろう。でもしなかった、セイバーを殺すのではなく倒すことを目的とした。それは多分、彼の言うことを聞きたくなかったから……そして。
『あっちじゃオレっちがやりたい事が出来ないから、だな』
『やりたい、事?』
『あぁ。子離れしてない親の膝下で何を言っても戯言になるだろ? だからオレはこっちを選んだ。それだけだぜ』
『……そっか』
マスターはどこか納得したように頷いた。明確に言葉にはしなかったけれど、数多の英霊と契約した事のある彼はきっと金時達の事情もなんとなしに理解はしていたはずだ。
問い質すことも、疑問に思うこともなく、ただただ言葉を受け入れた彼にすまんと謝った。
『マスターを利用するみてぇな感じになった』
本当ならば、私情で寝返ったなど英霊としてあってはならないのだろう。それぐらい金時にだって弁えている。生前でも義を押し通した、いくら手が汚れていたってそれが正だと信じて。
彼は金時の言葉を聞いて、少し驚いた表情をしてからふるふると首を振った。大丈夫だと、慣れてると笑う。
『人間ってそういうものだと俺は思うけどな。俺だって生き残りたいからカルデアを利用してる……カルデアだってそうだよ』
なんて事ないように述べたその言葉は、綺麗事でもなく寧ろあまり言わない方が良い言葉だろう。しかし利用してるという言葉の中には信頼が垣間見えた。
『だから金時も気軽に利用してよ、俺を、カルデアを』
世界を救うという命運を担っているとは思えない、普通の、普通過ぎる少年は微笑む。
『俺も、カルデアも貴方を利用するから』
ありがとうな、マスターとお礼を言えば、どういたしましてと彼は太陽のように笑い、金時はその笑顔にサングラスの奥で目を細めた。
どこまでも、どこにでもいる少年のその笑顔は英雄には少し眩しい気がした。
「感謝するぜ、マスター! お陰でオレは全力で戦える」
後腐れなく、心置きなく、目の前のことに集中できる。魔力も存分に使って良いとのお達しだ、ならば本気の親子喧嘩と行こうじゃねぇか!
サーヴァントが乱暴に扱っても壊れない丈夫な襖を開け放った。見えたのは大広間。宴会にでも向いてそうなぐらい広いその場所で、一人の武将が静かに佇んでいた。
独特な紫が主体の衣服に甲冑、背丈程もある弓を背に腰に携えた刀に手を掛けてきた。いつでも抜刀できるのだとアピールしているそれに、金時の方も身が引き締まる。
「よぉ、お久しぶりじゃん、頼光の大将」
「えぇ、おひさしぶりです、親不孝な子」
自身の得物であるマサカリを手に、金時は相手からの怒気や殺気をものともせずに快活に笑った。
「おぅ! 随分な言い草じゃねぇか! 折角の全力での手合わせ、楽しまなきゃ損だってのに」
「戦いは楽しむものではなく、この世の羽虫共を駆逐する為のもの。武功に誇りをもっていたとしても、武力を誇ってはいけないと何度も教えたのを忘れているのですか?」
「生憎な。言ってた奴が一番守ってねぇから忘れちまったわ」
ピクリと源頼光の肩が反応する。流石にバーサーカーと言えど、その言葉が自分を指しているものだと理解したのだろう。心底わからないという表情で金時を見た。
「どういう、事です?」
「そのままの意味だ」
快活な表情とは打って変わり、真剣に目を細める。サングラスで隠されているが分かりやすいその変化に、源頼光は手を出す事なく言葉の続きを無言で促した。
「頼光の大将……いや、源頼光サンよぉ!!」
「ッ!!」
顔色が、変わる。
「アンタの言っている事は矛盾している! 羽虫共を駆逐する為のもの? 武功に誇りを? じゃぁ世間で言うその羽虫共に協力し、生前の武功すら誇らなくなったアンタは……テメェはいったいなんなんだ!!」
「…………黙りなさい」
「大江山の鬼を、人々に仇なす鬼を決して許しはしない。マスターに聞いた。カルデアにいる源頼光は同じマスターの下にいるとは言え酒呑をずっと警戒してるってなァ。アンタはどうだ?」
「……黙りなさい!」
「マスターが鬼と知ったならば斬るだろう、アンタなら。そして自決だ。鬼に与するぐらいならば死すら厭わない、それがアンタだ、テメェだ、頼光四天王の大将だ……! 平安の武将、源頼光だ!!!!」
「黙れッ!!!!!!!!!!」
雷撃が室内に溢れ出す。魔力が紫電となって辺りを焦した。畳を、壁を、襖を、天井を。源頼光から迸る雷光は熱量を以って迸る。雷神に近い状態になっている金時には痛くも痒くもないが、もし人間がいたならば焼け焦げていたであろう。
源頼光の感情を表すそれらを見据えながら、金時は担いでいたマサカリを下ろした。そろそろ本番だ。
「私はいつだって息子の味方です、母親です。マスターが息子なんですから、鬼であろうと人であろうと愛すのが母というものでしょう!? それを、それをッ!!」
「そうじゃねぇ!! オレは息子を愛すなとは一言も言ってない! だが、その感情は植え付けられたものだ! 源頼光本来の気持ちじゃねぇだろォが!!」
負けじと金時も魔力を放出する。金色の雷電が紫電を掻き消すように部屋全体へと行き渡る。金と紫が入り乱れ、幻想的な空間を作り出すが、そこは死が溢れる場所。雷神に連なる者だからこそ耐えていられる空間。
「先入観だけで物を見んのはアンタの悪い癖だがな。もう何言ったって聞かないんだろ? だから源頼光、アンタに恩ある者として」
———テメェを倒す。
「覚悟しろ!! アンタが思っているより子供ってのは成長が早いんだぜ!!」
———ゴォオオオオルデェエエエン!!!!
ねぇテオ聞いて!こんなにこんなにこんなに投稿しているのに、投稿日時違えたですって!!本当に本当に本当につまらない作者!だから作り替える……全部作り替え、れたら良いなぁ!!!!(白目)