俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二十九節 黄泉から蘇りし者達。3/3

 

 

 

 

「カァ! 上弦ノ陸、サーヴァント紅閻魔撃破!! カァ!!」

「上弦ノ陸、サーヴァント我妻善逸・藤丸立香・獪岳ガ撃破! サーヴァント紅閻魔、サーヴァント鈴鹿御前・我妻善逸ガ撃破!! カァ!」

 

 鎹烏達が上空を飛び回る。

 鬼殺隊に協力しているとある鬼の術によって他者には見えず、それぞれ視覚を共有した彼らは今現在の状況を報告している。カァと独特な鳥の声を上げながら、濡れ羽色の翼を必死に動かしながら無限城を飛び回っている。

 お館様代理の指示を受けながら飛び回る彼らの言葉を聞いて、無限城の中を走っていた伊黒小芭内は眉を顰めた。

 

「(情けない、未だ何も成し得ていない、無様だ)」

 

 撃破というのは良い情報なのだろう。此方側に勝利の天秤が傾いているということなのだから。しかし小芭内にはそうは思えない、戦況としては良いとしても自分自身としては受け入れ難い事実だ。

 撃破に加担したのはカルデアとかいう未来から来た組織と柱でもない一般隊士。柱は誰一人として活躍せず、功績も残せていない。無限城に落とし込まれてから数十分、この短時間で上弦やサーヴァントを倒すというのは多大な功績ではある。流石とも言える、今まで各個撃破に頼りっぱなしで協力なぞあまり経験してこなかった鬼殺隊より、協力するということに関しては彼方が一歩上。

 彼らについては二回目の柱合会議で教えられた。未来では世界が滅び、それを取り戻す為に数多の英雄と共に立ち向かう少年の話。どんな夢物語だと笑えれば良かっただろうか、小芭内には全く想像できない事柄ではあったがそれが戯言ではなく事実なのだと理解できたのは単に、語る彼らの表情が戯言ではないと物語っていたからで。

 だからといって小芭内は納得できなかった。理解はしたが、したくなかった。

 

「(情けない、情けない。これは今を生きる俺達が解決すべき事で、既に居ない関係のない死人があれこれと……)」

 

 サーヴァントとは死して英霊へと昇華された者達を呼び出し使役したもの。ならば生きているように見える彼らは実は死んでいるものであり、鬼殺隊にいる隊士と同じ姿形をした彼らは未来で死んだ人物ということ。どうして今更、大人しくあの世でいれば良いものを……死んでも尚人の為に働く事はしなくても良いのに。

 小芭内は納得しない。死人は生きる人間達を助ける事なく死後を楽しめば良いのだ。英雄ということは壮絶な人生を歩んだのだろう。この国にいる鬼殺隊の誰よりも厳しく険しい道を歩んだはずだ。苦しかったはずだ、辛かったはずだ。鬼殺隊に所属し、柱として全うしている自分であっても客観的に壮絶な人生を歩んでいると自覚しているのだから。

 小芭内は顰めていた眉をさらに歪める。心配そうに肩に佇んでいる白蛇の鏑丸(かぶらまる)がチロチロと舌を小芭内の頬に這わせた。大丈夫だと彼の頭を撫でてやる。

 そうして無限城の中を走っていた小芭内だが、曲がり角がある部分で何かにぶつかりそうになり咄嗟に散歩ほど退がった。鬼であってはいけないので刀に手を当ててから、きゃっという可愛らしい悲鳴が聞こえて知らず知らず息を吐いた。この声を小芭内は知っている。

 

「甘露寺」

 

 特徴的な三つ編みに、淡い緑と桃色の髪、可愛らしい顔立ちをした彼女の名は、甘露寺蜜璃。炎の呼吸の派生である恋の呼吸の使い手であり、小芭内と同じく柱の称号をえた女性。恋柱の名を冠する彼女は持ち前の身体能力で避けたのか、少し曲がった先で頬に手を当ててあわあわと慌てていた。

 

「いっ伊黒さん! ごめんなさい! 怪我はなかったかしら!? 私、考え事してて前見てなったから」

「大丈夫だ、避けたからな」

「そ、そう? それは良かったわ」

 

 ほっと胸を撫で下ろす蜜璃に目尻を緩めた小芭内はやはり優しいなと心の中で独りごちる。此方も油断していたからこそぶつかりそうになり、責任で言えば五分五分であるこれは小芭内も謝らなければならない事柄。しかし先に謝り、剰え自分の身を案じてきた蜜璃は優しさの塊だ。

 此方こそすまない、前を見てなかったと小芭内が謝れば、彼女は両手を顔の前で振って大丈夫! と力強く言った。

 

「伊黒さんが謝る必要はないわ! 私が気をつければ良い話だったもの!(そうしないとぶつかって伊黒さん飛んで行ってたかもしれないし……)」

「それなら良いが……」

 

 どこか納得できない視線を投げ掛けてくる小芭内に蜜璃は微笑みながら大丈夫と頷く。どっちも怪我しなかったのだからおあいこだとも告げる。

 甘露寺がそう言うのなら大丈夫かと小芭内は納得し、まだ行っていない道を指差して一緒に行こうと提案する。探し物をするのには手分けした方が効率が良いだろうが、ここは無限城。出てくる鬼は最低でも下弦以上の力を持ち、自分達の目標は無惨である。やたら走り回って一人だけで無惨を見つけても対等に戦えるとは思えない。

 蜜璃もそれがわかっていたのか二つ返事で頷き、小芭内と一緒に走り出す。少なくとも柱二人、実力の差が激しくなければ充分対処可能な人数のはずだ。

 二人して無限城のなかを走りまわる。どこもかしこも同じような見た目をしている屋内を只管走り、神経を集中させて鬼を探し当てる。途方もない作業だ、無限城が文字通り無限にあるように感じることも一因である。

 焦りが出てきた。柱としての責任、鬼殺隊としての秩序。それらが小芭内の中でグルグル回り、冷や汗を流させる。

 そんな小芭内に気がついたのかそうじゃないのか、蜜璃は走りながら小芭内にねぇと話しかけた。

 

「伊黒さんは何かと出会った? さっきの報告を聞いてみんな頑張ってるんだなって思って、私も頑張らなくちゃ! と思ったんだけど、出会うのは異形の鬼ばかりで。あっ別に異形の鬼が駄目ってことはないのよ? 人様に迷惑かけるもの、斬らないわけにはいかないわ! ……でも、肝心な事ができていない」

 

 器用に走りながら落ち込む蜜璃。その体勢では走るのは疲れるだろうに、彼女はそれを知らないように脚を動かし続ける。そんな蜜璃を横目で見た小芭内は、そうだなと返事を返す。

 

「俺もだ」

「えっ伊黒さんも?」

「あぁ、今まで異形の鬼しか倒せていない。あれぐらいならば今の鬼殺隊士なら普通に勝てる相手だ、俺達柱が相手している場合ではないと瞬時に斬ってこうして探し回ったが……」

「見つからない?」

「忌々しい事にな。鏑丸にも探してもらっているが手掛かり一つない」

「そうなのね(一人と一匹でひとつって感じね! 素敵!)」

 

 そういうのちょっと憧れちゃうわと自身の鎹烏を思い浮かべては頭を振った。彼女は蜜璃に似て可愛らしい鴉であるが蜜璃の所有物ではなく、お館様に仕えている鴉だ。鬼殺隊士になり長い事関わりを持ってはいるが、小芭内と鏑丸の関係とは程遠い。

 急に頭を振った蜜璃を、振り回されて飛んできた三つ編みを躱しながら訝しげに見る。その視線に気がついたのか、自身が振り回した三つ編みが小芭内に当たりそうなのに気がついたのか分からないが、ハッとした表情をした後ごめんなさいと謝ってきた。大丈夫だと小芭内は首を振る。さらさらとした黒髪が靡いた。

 日本人らしいさらりとした黒髪、日光を知らないような白い肌、男性にしては小柄な身長に冷静沈着。自分とは何もかも正反対な小芭内を少しだけ見つめてから、蜜璃は視線を逸らした。集中、まだ一般隊士だった時代に師範から言われた言葉を心の中で呟く。そうしないとか弱い自分が出てきそうになる。それじゃ伊黒さんに失礼だわ、と気を引き締めては真っ直ぐと前を向いた。

 入り組んだ無限城の廊下をひた走る。気配や音、そして視覚で鬼を探る。虱潰しであるそれは効率が悪いが、鎹烏でしか捜索の手段がない鬼殺隊側では自身の脚に頼るしかない。

 ふと気を感じた。小さな、そして自分達に向けられていない敵意……いやこれは好意? だんだん近くな———。

 

 ———キャハハ!

 

「ッ! 甘露寺!!」

「えぇ! 伊黒さん!」

 

 

 ———恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ!

 

 

 始めに蜜璃の恋の呼吸参ノ型が炸裂する。三日月状の斬撃が前方へと放たれ、無限城を構成する木材達を刻んでいく。広範囲に放たれるそれは二人の目の前に急接近した黄色い何かに迫るが、金属がぶつかる音が響いた。外した、そう手応えから感じた蜜璃はキャーッと頬を染めながら刀を振り回している。

 

「(外した! 外された! というか跳ね返されてるわね! これ! うそうそうそ! わりと強い型なんだけどなぁ!!!)」

 

 だが充分だ、自分の役目は防御なのだから。

 蜜璃の型を怖がりもせずにやってきた何かに突っ込んでいく小芭内に男らしさを感じながら、彼女は道を開く。その間も斬撃は止まないのだから、柱としての技量が窺える。

 

 

 ———蛇の呼吸 肆ノ型

 

 

「(流石甘露寺だ。どこかの馬鹿共と大違いだな)」

 

 主に爆破する奴。

 

 

 ———頸蛇双生(けいじゃそうせい)

 

 

 双頭の蛇が大きく口を開けて獲物に噛みつこうとする。両端から挟み込むように狙うこれは主に頸の硬い鬼に使うものではあるが、まだ相手の姿もわからないからこそ最初から全力で頸を刎ねに行く。

 取った。そう静かに小芭内は確信したが、急激な温度上昇を感じ取り距離を取ってしまう。最後まで放っていたはずの型は相手の首を掠るのみになり、思わず舌打を零した。

 

「キャハ、キャハハハ!」

 

 蜜璃の側まで後退した彼はじっと目の前の存在を見つめた。楽しそうに笑うそれは確かに鬼である。額から伸びる二本角、羽根のように燃える髪に、赤い手足。人の形を保っているが、一目で鬼とわかるそれに目を細めた。

 

「(強い、な。俺達が知っている気配と少し違う……サーヴァントとやらか)」

「(エッすっごい可愛らしい子!? 私の刀防いだのに!? えーッ! 凄いわ! 素敵!! お友達にって駄目、駄目よ蜜璃。相手は鬼、見た目凄く鬼なんだから!)」

 

 二人して鬼と判断したそれは八重歯を見せながら笑い声を上げる。きゃらきゃらと笑うそれは幼子からは放たれるとは思えないほどの豪胆さが含まれていた。

 

「面白い、面白いではないか! 人間の気配を感じて黄色い人かと思いきや違ったが……クク、クハハハ!! 吾に速攻攻撃を仕掛けてくるとはな! 汝らのその思い切りの良さ、嫌いではないぞ!!」

 

 古臭い言葉を使う少女は身の丈程もある骨で構成された刀を床に突き刺し、腰に手を当てた。ひらりと一目に高価とわかる着物の袖が揺れる。

 

「貴様ら鬼殺隊とやらだろう? 酒呑がいない今、吾は暇で暇で仕方がない。だから貴様らに相手してもらおう、うん、吾にしては良い考えだ!」

 

 轟ッと炎が燃え盛る。

 

「聞け! 鬼殺隊の人間よ! 平安の世にて人間共を襲い、盗み、食らった盗賊団の頭領にて、大江山の首魁である吾が貴様らを嬲り殺してみせよう!!」

 

 クハハッ!

 楽しそうに鬼の少女は笑った。

 

「吾は茨木、茨木童子!! 冥土の土産に覚えておくが良いぞ!!」

 

 

 

 




メリークリスマス!!(イヴ)
皆さんコロナ禍ではありますがクリスマスのご予定はありますか?大切な方と過ごしたりしますか?友達、家族、そして恋人。一人寂しくケーキ買っちゃったり、セルフプレゼント用意したりしてませんか?まぁ私には関係のない話なので、皆様思い思いに過ごしてくださいな。イエスメリクリノーコロナ。
えっ?私?私の予定ですか?仕事ですが何か?????
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