俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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悪鬼鬼哭大正浪漫 鬼滅
Prologue


 

 

 

俺は、俺が嫌いだ。

 

正直この話をすると顔を顰められてしまうので、あまり話さないのだけど。

 

でも、生まれた時から俺は嫌いだったんだ。自分自身を。

 

親に捨てられたのは俺が悪かったから。

 

彼女に振られ続けるのは俺が悪かったから。

 

気持ち悪いと殴られて、化け物と罵られて、情けないと呆れられ、煩いと捨てられた。

 

でもそれらは全部、俺が悪かったから。

 

そんな俺が嫌いだったから。

 

そうして全部、俺が悪かったからって受け入れて、でも誰かに求めて欲しかったから、自分が信じたいって人を信じたかったから、人生で最後の彼女にみっともなく縋り付いて。

 

借金を作ってしまった。

 

いや!これは俺が悪いよ?同情を誘うわけじゃない。ただ彼女は俺に贈りものをする度に笑顔を向けてくれて、彼氏だと言ってくれて、幸せだと告げてくれた。だから。

 

耳から聞こえる嘘の音を無視して、俺は貢ぎ続けたんだ。

 

身を滅ぼすってわかってたのに、無性に信じたくて、信じ続けて。そうして他の男との駆け落ち資金にされた。

 

それで借金取りに追い立てられた時にじぃちゃんに出会ったんだ。

 

じぃちゃんは元剣士で後継を探してた。俺はたまたま目をつけられたんだろうけど、借金を返してくれてね。で、そのまま弟子になった。

 

でもその稽古が死ぬほどキツイの。死にたくない俺は喚いたよ。嫌だ!死にたくない!じぃちゃんは好きだけど!結果は全然出ないし!

 

喚いて、泣いて、逃げ出して。その度にじぃちゃんは俺を叱って、叩いて、連れ戻して。

 

逃げ出すのを辞めない俺もそうだけど、そんな俺を諦めないで付き合ってくれるじぃちゃんが好きだった。

 

じぃちゃんだけだったんだ。俺が泣いても喚いても、側にいてくれたのは。

 

正直絆されていた。ここまで真摯に向き合ってくれる人、いなかったから。今まで俺を見限って捨てていく人ばかりだったから。

 

じぃちゃんが大好きだ。困ってるなら助けたいし、なんならずっと一緒に暮らしていたかった。剣士になっても、じぃちゃんが教えてくれたことでみんなを笑顔にしたい。

 

その時の俺はじぃちゃんが中心だったんだ。

 

………………雷に撃たれるまでは。

 

じぃちゃんの…………じぃちゃんの未来を知ってしまうまでは。

 

怖かった。何もかもが怖かった。これまでの俺は一体なんだったのか、今の俺は一体誰なんだろうか。

 

答えは自分の中で出ている。俺はじぃちゃんに拾われた俺ではなかったんだ。

 

…………俺は、俺が嫌いだ。

 

この世界のことを知ってしまった。目の前にいる人の行く末を、陰からこちらを睨んでくる人の行く末を……知ってしまった。

 

俺は怖かった。この知識が役に立たなくなることを。俺が、俺自身をちゃんと演じられているのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を。

 

だから俺は見捨てたんだ。大好きだったじぃちゃんを…………密かに慕っていた兄弟子を。

 

俺は、俺が嫌いだ。

 

だって俺は…………彼ではないのだからと言い訳を述べて、人を見殺しにしたんだ(・・・・・・・・・・)

 

散々信じようとして捨てられた。でも信じてくれて捨てようとしない人がいた。それを俺は呆気なく捨てた。

 

この選択はきっと……彼はしないだろうから。だから、お前が言う優しさなんて、俺は持ち合わせていないんだよ。

 

俺は、俺が嫌いだ。

 

これを言う度に哀しい優しい音をさせてくるお前に、曖昧な表情を浮かべることしかできない俺が。

 

俺は、嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝶屋敷。

俺はひび割れた頬を撫でながら、隣で寝ている少年を見た。まだあどけない顔。俺よりも年下の、六人兄弟だった家族の長男。唯一生き残った家族が鬼にされて、その子の為に頑張ってきた大人になっていない子供。

その少年を見た瞬間、あぁ終わったんだなぁと漠然と思った。主人公である彼が無事ということはきっと、相手を倒したのだろう。これで鬼が全て滅する事はないけれど、これ以上鬼が増えるわけでもない。

終わったんだ。物語は終わった……。

 

「…………(どうして)」

 

終わって、心の荷が下りたはずなのに……どうしてこんなに胸が張り裂けそうなのだろう。どうして怖くないのに涙が溢れでてくるのだろう。

 

どうして、今になって。

 

「あぁっ、うぁあああああああっ!!!!」

 

どうして、彼らの顔が思い浮かぶのだろう。

 

「ぜ、善逸!?どうしたんだ!?」

 

友人の心配する声が聞こえる。

 

「うるせぇぞ!紋逸!」

 

もう一人の友人が怒ったような音を出す。

 

「ぜん、いつ。どう、したの……?」

 

まだ舌足らずな大好きな子の声が届いた。

 

「ぁああああああああっ!!!!」

 

でも俺は泣くのを止められなくて。何時もならすぐに引っ込む涙も溢れ続けるままで、俺は声が枯れるんじゃないかってぐらいに泣いた。

彼らは何かを察したのか最初の言葉以外声をかけてくれなくて、でもぎゅっと抱きしめてくれて。それにますます涙が止まらなくなってしまった。

 

ごめん、ごめんじぃちゃん。不甲斐ない弟子で、俺、知ってたのに何にもできなくて。じぃちゃんを死なせた……死なせてしまった、殺したんだ。

 

獪岳もごめん。俺が悪かった。俺は知っていたんだ、お前が鬼になるのを。でも止めなかった。変わるのが怖かった。俺は俺を演じるけれど、相手はそうじゃないから何かが変わるんじゃないかかなんて思って。

 

彼らを殺してしまったのは俺が未熟だったから。

 

俺が悪かったんだ。

 

「(あぁ、神様)」

 

もし、()があるのならば、俺はやり直したい。

 

全ては俺が悪いのに。

 

 

 

まるで俺は悪くないと思えてしまう俺が。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくしてその願いは少し違う形で叶った。

かの王様のように滅んでしまった自国を救済するなんて、大層な願いじゃないけれど。聖杯戦争なんて起こってないけれど。

何の因果か、過去の自分に喚ばれた。

 

まだ無垢な、何も知らない一人だった頃の俺に。

 

期待してもいいんだろうか。変えてしまってもいいんだろうか。

小さく、淡く、心に宿る不安の心。

歴史を変えてしまう、何かが起こるかもしれない。俺が余計な事をしてしまったら。いや、いや、いやいやいや。

 

もう手遅れだった。

 

昔の自分が変わっていた。自身の罪である彼と深く関わってしまった。

もう無理だ。手放せれるわけがない。それに…………何も知らない過去の己に、辛い思いはして欲しくないから。

 

あんな思いは味わうべきではないから。

 

だから。

 

「お、まえっ、なんで……っ!」

 

後ろから驚愕したような声が聞こえる。ここにいるとは思っていなかったのだろう。そりゃそうだ。俺もついさっきまでは善逸と一緒にいたのだし。

ただ善逸が次の任務を言い渡された後に俺は呼ばれた気がしたから来ただけ。いや本当に入隊祝い渡しておいてよかった。プレゼントと称したそれは己を呼ぶ事ができる程の魔力と、付けたものが精神的にとても追い詰められたときに己にサインを送る機能がある。そこから俺が持つ権能みたいなのをちょこっと使って、光の速さで飛んできただけ。

サイン送るのが機能して良かったぁ……これが機能しなかったら、今ここに俺がいるわけがないし、こうして守ることすらできなかったかも知れない。

 

「誰だ……新たな、鬼殺隊か……?」

 

己の後ろにいる兄弟子を隠すように腕を広げて前をお面越しに睨みつける。使い古された袴に、乱雑にまとめられた髪。そこまでは普通だが、一見にして異形だとわかる六つの目のうち二つには上弦、壱と刻まれていた。

上弦の壱、黒死牟。鬼の中でも最強の鬼。鬼殺隊最強の剣士であった、かつて無惨を追い詰めた剣士の一人と思われる者。

長年積み重ねて来た強者の気配、目の前の男から鳴る“鬼”だと告げる静かすぎる異形の音。

勝てるのだろうか……わからない。サーヴァントは戦闘機一機分と称される力を持つけれど、彼ならば戦闘機ぐらい斬り伏せそうだ。

あ、やばい。思ったより強そうで、ちょっと膝が震えてる気がする。

気を落ち着かせる為にチャキリ、と腰にある刀に手を添える。

 

「鳴柱だ」

「……!……そうか、柱か……」

 

今はいないけどな。未来の話だ。

って、そんな事はどうでも良い。

 

「獪岳!!!!」

 

声を腹から精一杯張り上げる。彼が驚いたのが音でわかった。まだ恐怖が残っているのだろう、混乱した頭で動こうともしない彼を叱るように声に棘も乗せる。

 

「逃げろ!!!生きろ!!!!!生きるなら鬼じゃなく、人間として!!生きろ!!!!」

 

そう言ってから、近くの藤の家紋の家に行けと命ずる。そこにお前の鎹鴉とそれに説明している俺自身のチュン太郎がいるから。そこまで逃げ込め。後はチュン太郎が守ってくれる。嘘みたいな話だけどな……あれも俺の宝具だから。

身体が震えているのか、刀を持った獪岳はよろりと立ち上がってから走り出した。その間も俺は黒死牟を睨みつけていたけれど、一向に動く気配はない。何故だ?と思っても、瞬時にそうかと納得する。

 

俺が柱だと名乗ったからだ。

 

「律儀に待っててくれてありがとね」

「一般の隊士よりも……柱を倒す方が……あの方も喜ばれる……」

 

そだね。戦力削ぐ意味ではそれであっているのだろう。でもその判断は間違いだ、俺はこの時代に生きていた人間ではあるけれど、英霊の俺は死者だから。関係ないんだよ。

獪岳が俺の耳で聞こえないぐらいまでに離れた事を確認してから、覚悟を決める。感情が高ぶっているのか、バチバチッ!と漏れ出た魔力が悲鳴を上げた。

勝てるのか?いいや、必ずしも勝つ必要はない。サーヴァントとしての力が鬼とどれだけ違うのかはわからない。わからないけれど、朝日が出たならば俺の勝ちだ。

 

「シィイイイ」

 

独特の呼吸音を口から放ち、姿勢を低くする。まずはただの霹靂一閃。けれど本気で放つ技だ。サーヴァントと人間では力の差は歴然……その余裕そうな顔、崩してやるよ!黒死牟!!

 

---雷の呼吸 壱ノ型

 

「霹靂一閃」

 

雷鳴が轟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過去の己が哀しい思いをしない為に、獪岳を救い出す。ただそれだけの事、きっと歴史には全然影響しないもの。些細な揺れ。

 

でも己には影響する。

 

世界がなんだ。歴史がなんだ。

そんなの俺の前では意味のない言葉だ。俺は俺のやりたいようにやる。

 

ただ、俺は過去の自分(マスター)が純粋に笑える世界を作りたいだけ。

 

その為ならばなんだってする。今回は友人の家族だって見捨てた。とある姉妹の別れを見捨てた。最終選別で死んでいく有望な剣士達を見捨てた。知っていたのに見捨てた。

かつて捨て子だった俺は、俺の為にだけに……残酷に、冷酷に、あらゆる物を捨てる。ただ己に影響するものだけを拾い上げて、それで与えれる幸福に微笑んで。

 

 

あぁ、やはり。

 

 

「(俺は俺が嫌いだ)」

 

 

心優しい彼ならば、きっとみんなを救ったかもしれないのに。

 

俺は今日も、独り善がりな願いを叶える。

 

 

 

 

 




最初のはちょっとFGOの真似てみた。そんなプロローグでした。

お久しぶりです。今日からまた連日投稿失礼します。
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