俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第三十節 少年という名の。3/3

 

 

 

 ———炎の呼吸 弐ノ型

 

 

 刀身に炎が宿る。目の前に餌が居るのにお預けを食らっていた鬼達は、飼い主の許可が出ると一斉に襲いかかった。血鬼術を使う事もなく、彼等は己の身体能力のみで戦うらしい。今更そんな鬼、鬼殺隊にとっては楽な相手だというのに。

 

 

 ———昇り炎天!

 

 

 下段からの斬り上げ。煉獄杏寿郎に襲いかかってきた鬼は胸から顎、そして頭を真っ二つにされる。しかしそれを再生させる事なく、煉獄の首筋に齧り付こうとしたものなので、直様かの首を斬り落とした。二つに分かれた頭部がそれぞれ落ちていく。

 

「(怯まないとは。見た目通り理性などない、という事だろうか)」

 

 休む暇もなく襲いかかる次の鬼。鋭い爪を刃物代わりに引き裂こうと迫っていた。当然、即座に斬り捨てる。崩れ落ちるそれを少し後退する事によって避け、そのまま円を描くように足を動かせば他の鬼。床スレスレに滑らした刀身が、綺麗に鬼の顔を半分程斬り付けた。やはり、怯むことなく煉獄を殺そうと腕を伸ばしている。

 

「(まるで鬼に成り立てのようだ、な!)」

 

 人間から鬼にされた者は身体の急激な変質からか、周囲の人間を獣のように喰らい尽くす。そこに理性はなく、ただ無くした栄養を補給しようという本能のみ。そうして全てを喰らった後、彼等は人間のときの記憶を失くし鬼として生まれ変わる。

 煉獄は柱だ。だからこそ、そういう場面は何度も見てきた。藤襲山にいる鬼は大体柱が捕まえたものだ。圧倒的強さがあるからこそ、捕まえるという事ができるのだが、それでも本能のままに襲いかかる鬼を見て何も思わないわけではない。有無を言わさず鬼にされた彼等がこれ以上罪を重ねない為に、此方側が罪を重ねるのだ。

 ただ、それ以上に鬼の所業については許せるようなものでもないので、問答無用で首を刎ねるが。

 

 

 ———水の呼吸 肆ノ型

 

 

「「(打ち潮ッ!)」」

 

 炎の中に水が混じる。水の呼吸を修めた炭治郎と村田が同時に打ち潮を放った。荒々しい力強い水と、滑らかな水が岩を削るように流れていき様々な斬撃が鬼達の首を落としていく。

 多勢に有利な剣術のようだが、同時に放つとはと似紿は少し驚いた。彼等は他人だ、ただ同じ剣術を修めているだけであり、共闘に関しては今回が二回目というほぼ初めてのようなもの。鬼殺隊は鬼と同じく協力が苦手な生き物と思っていたのに、目の前の彼等はまるで互いの動きが分かるかのように動いている。

 ヒヒ、笑いが込み上げてきた。楽しい、楽しい。柱とサーヴァントは言わずもがな、雑魚と思っていた鬼殺隊士が思っていたよりも強い。なんだかちょっとエフェクトが薄いが、まぁそこは強さには関係ないだろう。

 似紿は胸の底から湧き上がる昂りを隠しもせずに思いっきり琵琶を鳴らす。

 

 ———べべん!!

 

 その音を合図に障子や襖が似紿を中心に広がっていく。

 

 ———べべん

 

 更に鳴らす。

 それなりに狭い廊下だった場所から一瞬にて広い大広間へと景色が変わる。此方が移動したのか、部屋が移動してきたのか、この刹那では見分けはつかないが、これにて両サイドどちらにしても戦いやすくなった。

 

 ———べん

 

 ダメ押しにもう一度。

 広がっていた障子や襖達が一斉に開いた。暗闇が広がる向こうに赤い瞳が見えたかと思えば、様々な鬼達が飛び出してくる。ヒト、イヌ、トリ、ネコ、またヒトガタのようなものが脇目も振らずにそれぞれの武器を炭治郎達に向ける。

 

「よもや増やせばどうにかなる、などと思っているわけじゃないだろうな!」

 

 

 ———炎の呼吸 肆ノ型

 

 

「盛炎のうねり!」

 

 炎が渦巻き、襲いかかって来た鬼達を食い止める。障壁のような役割を成したそれらは彼等の動きを刹那の時だけ止め、その隙を以って新たな炎が舞った。

 

 

 ———血鬼術

 

 

「ヴッガァアァ!!」

 

 

 ———爆血!

 

 

 禰豆子が吼える。相手につけられた傷から流れる血を媒体に炎を周囲に巡らせた。その場にいた全員が炎に包まれるが、鬼にしか効かないそれは鬼殺隊側には無傷に済む。どういう原理なのかはわからない、しかし彼女の精神性を現したそれは似紿が連れてきた鬼達を怯ませ、また何体か倒す。残りは二体。

 

「良くやった禰豆子!」

 

 自身の妹に遅れを取ってはいけないと、刀を握りしめて足を踏み出した。その一歩目で村田の名前を呼び、咄嗟に返事した彼を一瞥してから、禰豆子の血鬼術からいち早く復活したトリの鬼の爪を屈んで避ける。

 ヒュゥウウ。呼吸音が静かに零れた。

 

 

 ———水の呼吸 参ノ型

 

 

「「流流舞い!!」」

 

 蛇行する川のように二つの水流が交差した。炭治郎はトリの鬼の首を刎ね、崩れ落ちる身体を避けながら立ち上がり、村田は噛み付こうと跳んで来たイヌの鬼を真横に避け、上から刀を振り下ろして斬る。

 これで道が切り開かれた。上弦の鬼までの空間に何もいない。またとないチャンスだ、と炭治郎は懐へと瞬時に踏み込んだ。

 

「ッ!(速いッ!!)」

 

 目を見開く。

 

 ———べべん!

 

 思わずといった風に琵琶を鳴らした。首を目掛けて振るった刀は似紿の頭上を素通りし、下に逃げたと認識した炭治郎は直様刀を翻し。

 

 

 ———捌ノ型 滝壺!!

 

 

 水飛沫が舞う。ぐっと眉を寄せる。開かれていた障子は炭治郎の刀が到達する前に閉じてしまった。叩きつけ斬ったのは鬼ではなく、綺麗に並べられた畳。真っ二つになったそれが浮き上がり、それぞれが襖となる。そして襖が開き、中から何かが飛び出してきた。

 

「ッ(陸ノ型ッ!!)」

 

 

 ———ねじれ渦!

 

 

 半端な体勢からのねじれ渦。威力は弱いが防御することには成功した。そのまま地を蹴り、三人がいる場所まで後退する。

 

「少年! 大丈夫か!」

 

 煉獄が新しく増えたのだろう鬼を相手取りながら炭治郎に声をかけた。えぇと返事しては、息を吸う。

 

「(強いな……)」

 

 その様子を陰ながら見ていた似紿は心の中で舌打ちを零した。

 似紿とてそれなりに経験を積んでいる。血や泥を分け与えられる前は元の上弦ほどいかなくとも、下弦程度には強いと自負していた。似紿は他とは違い賢く生きる鬼だった。彼は己の内から湧き上がる“強くなりたい”や“無惨に認められたい”という植え付けられた衝動を抑え込み、無惨の性格を加味して着々と力をつけ、“まず下弦から”ではなく“最初から上弦”を目指していた。まぁその願いも上弦が欠け、下弦が解体された事による補強によって転がり込むように叶えられたが。

 しかしこれはない。サーヴァントと柱、強者とは聞いていたがここまでとは。普通の隊士ならば他の鬼を呼んだ時点で殺され、貪るように食われていたはずだ。なのにまだ両者無傷のまま、膠着状態と言って良いだろう。苦戦している。

 それにあの雑魚、村田と呼ばれていたか、あの人間もそれなりに強い。強化される前の自分ならば倒されていただろうな、と似紿は冷静に分析した。

 もう一度琵琶を鳴らす。まだだ、まだまだストックはある。自分の能力を以ってすれば、増やす事も可能だ。それに手が雑魚鬼を嗾けるだけではない、手の数だけで言えば上弦の弐を超えるはずだ。

 

「(ま、会ったのは顔合わせ程度だけど)」

 

 大広間の上座に姿を現わす。下座の方で相手が雑魚鬼たちを蹴散らしていた。一つ一つ丁寧にに頸を刎ねてはいるが量が多いのだろう、炭治郎や禰豆子、煉獄はともかく村田は少し苦しそうにしている。

 そんな村田を見てやっぱ雑魚と少し落胆してから、ニヒと口角を上げた。べべん、村田の足元に異界に繋がる入り口を作り出す。

 

「へっ?」

「ッ村田さん!!」

 

 気配に敏感なのか、耳が良いのか、村田の気の抜けた声に瞬時に反応した炭治郎が手を伸ばす。それに気がついた村田が同じように手を伸ばして、もうすぐ届くというところで中から伸びてきた何かの手に引きずり込まれた。ストンと障子が閉まって消えた。

 

「何処へやった!?!?」

 

 その瞬間を見ていなかった煉獄が襲いかかってきた鬼の頸を刀で畳に打ち付けながら、吼える。斬られる前に頸をへし折られた鬼は悲鳴をあげて消滅した。

 

「見てはいなかったが君の仕業だろう!!」

 

 問いかける言葉ではない。断言しているその言の葉には滲み出る怒りが乗せられていた。

 

「少ない時間でしか接していなかったが、彼が逃げ出すような性格ではないのは理解している!! そもそも鬼殺隊にそんな奴はいない!」

 

 いつも何処を見ているのかわからない瞳がまっすぐに似紿を見つめている。微笑んだ表情のまま怒りを表す煉獄に賛同するかのように禰豆子が唸り声をあげた。最早律儀に雑魚鬼の対処などしている暇などない、根本的な存在を排除しなければこの戦いは終わらないのだから。

 

「そうだよ。ぼくの仕業だ。彼は邪魔だったからね、消えてもらった」

 

 消えた場所を見つめていた炭治郎が膝を突いた状態から立ち上がる。冷静になれ、そう心の中で自分自身を落ち着かせながら似紿へと振り返った。

 

「何故村田さんだけ狙った。俺たちだって狙えたはずだろう、なんで」

「それは彼が弱いからだ」

 

 は。

 なんと言った? この鬼は。弱い?? 誰が? 村田さんが??

 

「強い奴と戦う時に弱いのは邪魔だろう? 例え攻撃が通らなくても鬱陶しい。ぼくはきみ達に集中したいからね」

「……村田さんは弱くない。俺より強い」

「え、へ? 何、を言ってるの? きみより強い? サーヴァントであるきみが? ただの人間より? 冗談はよしてよ」

 

 ぐっと拳を握る。別に実力的な意味ではない。かつて隣にいた煉獄がまだまだ未熟だった己を強いと言ってくれたように、村田には村田の強さがある。それに自分自身が尊敬する相手だからこそ侮辱されて冗談など言うはずもない。

 上弦の参というのはそういう鬼が収まりやすいのだろうか。非常に腹立たしい。

 

「サーヴァントが強いのはそういう器、そういう構造だからだ。俺たちはどれだけ弱くともサーヴァントという器を持って現界してしまえば人間よりも強くなれる。けどそれは与えられた強さだし、俺たちは生きてる人間じゃないからこれ以上強くなれない。そんな終わったモノよりも今を生きてる村田さんの方が強いのは当たり前だろう」

 

 サーヴァントは倒れてしまっても座に還るのみ。それは人間でいう“死”ではない、ただの帰還だ。仮初めの身体に仮初めの魂を入れられて造られた兵器、それがサーヴァントであり英霊だ。

 でも人間は違う。死んでしまったら終わり。だからこそ“死”を恐れ、克服しようとする。そして“死”に直面すれば本能が生きろと訴えかけてくる。それこそが怯え、全身が震え何もできずに竦んでしまう。

 だからこそ、かつて上弦という強大な敵を前にして何もできなかった己より、何も文句言わずに立ち向かう村田の方が何倍も強いのは明白なのだ。

 

「そう? あれはあれ以上強くなれるような存在じゃないと思うけどな。ま、きみがそう言うんだ。きみの中ではそうなんだろうね」

 

 さて、と似紿は続ける。

 

「じゃぁここからが本番だね。何も考えず全力で行こうか」

 

 似紿がくるりと回ると手には今まであった琵琶ではなく、二対の鉄扇が握られていた。金属が擦るような音が響き、どこかしらから冷気が漂う。

 

「ただの上弦の参と侮らない方がいいよ」

 

 

 

 

 




明々後日ってなんだっけ……?いつの間にか2月……あれれぇおかしいぞ〜。そして明日は節分、全国の鬼さんが首を強打して病院行きにならないよう願ってます、マジで。

次の更新はー!三月二日です……!
もはやこうした追い込みは意味あるのかなんて考えてはいけない、いけないんだよ。
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