俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第三十一節 似て非なる力。5/5

 

 

 

 

 本当に羨ましくなかったわけではない。羨ましくなかったらこんな能力に目覚めてなかっただろう。

 似紿の血鬼術は他の鬼の術をコピーするもの。相手の血鬼術を一度でも目にして相手に触れる事が条件という厳しいものだが、コピーする術の限界がないのが特徴だ。但し、ストックした術は相手が死んでいれば無くなってしまうデメリットがある。しかしコピーする相手は鬼、そう簡単に死なない。

 相手の技を真似る術。似紿にも相手の動きを真似る特技もあった。鬼の数が増えれば増えるほど、似紿に会う鬼が増えれば増えるほど厄介になる血鬼術を持った鬼、それが似紿だ。

 人間であった頃の彼は心臓が弱く運動ができない人間だった。鬼を倒す為に肺を強くし、血流を良くしようとも鍛える前に限界が来てしまう。事情を知った当時の炎柱が兄弟のうち兄の方だけを採用し、後継にしようとした。炎柱には二人の息子がいたがどちらもまだ幼かったからこそ、その子供達が成長するまでの繋ぎにはなるが、似紿の兄を継子とした。史上初、煉獄家以外の炎柱となる青年の始まりだった。

 眩しかった。彼らが羨ましかったのだ。身体を壊すような事をしていながら、元気に走り回る彼らが羨ましかった。だから、一緒に駆け回れたらならと心の内で思っていたのだ。だから、己がした選択が間違いだとしても死にたくなかったのだ。

 でも、こんな事になるのなら。

 

「と、じゅ、ろ……にいさ……ごめ———」

 

 彼を殺した時、死んでおくべきだった。

 

 煉獄は消滅した似紿の最後の言葉を聞き、目を閉じる。相手は鬼、しかも急拵えとはいえ上弦に見初められるほどの実力を持った鬼だった。何十、何百の人を殺してきたかわからない。許されるべきものではない相手なのは理解している、だが安らかに眠ることを願わない相手でもない。

 

「煉獄さん」

 

 一度煉獄家に招いた少年に似た青年が声をかけてくる。煉獄は数秒だけ黙祷をし、それから振り返った。顔に浮かべるのは笑み、いつも通りだと示すように笑った。

 

「うむ! どうやら煉獄家と関わりがあったようだ! よもやよもや、だ」

「槇寿郎さんの名前、言ってましたよね」

「む? 少年も父上と面識が?」

「あ、はい。ヒノカミ神楽について聞こうと出向いたことが」

「なるほど、あの時か! いやはや奇妙なものだな、サーヴァントというのは。俺が君であり君ではない少年を家に招いたとはいえ、そのとき君はいなかったはずだ。なのに覚えがあるとは」

「……そう、ですね。一応、幼い俺が成長したのが俺ですから」

 

 少し歯切れの悪い返答だった気もしなくはないが、煉獄は気にせずに話を続ける。思い出すのは、煉獄家に伝わる歴代炎柱の手記、そして煉獄家の家系図だ。

 

「……父上には弟がいた。父上は一切話しては下さらなかったが、家系図には記載があった。名を唐寿郎」

「!!」

 

 近くにはいなかったが炭治郎も似紿の最後の言葉は聞こえていた。途切れ途切れではあったが、“唐寿郎”と確かに彼はそう言っていたのだ。

 

「我が家は代々炎柱を輩出している。だが時として煉獄家ではない者が炎柱となることもある。それが先々代の炎柱だ」

 

 先代は煉獄槇寿郎。しかしその前は煉獄の祖父ではなく、その祖父が炎柱だった時に連れてきた人間であった。

 かの者には弟がいた。煉獄家に残る記述には名前は一切書かれていなかったが、病弱な弟なのだと記載されていた。そして、己の所為で鬼になってしまったと、是が非でも己が殺さなければならない相手だとも書かれていた。

 

「俺の祖父も炎柱だったそうだが、連れてきた子供のうち一人を鬼にしてしまったことから罪を一人で背負うために自害したという」

 

 煉獄にとって会ったこともない祖父。全く知らない人間だが、きっと立派な炎柱だったのだろう。責任感が強く、弱きを助ける強き者であった。柱として誇りある人物であったに違いない。

 それが、裏目に出ただけで……誰も悪くはなかった。

 

「その鬼は祖父の子供の一人を殺害した後、逃走した。その子供の名前こそが」

「唐寿郎さん……」

「むー?」

「禰豆子……」

 

 戦いが一旦終わったからか近寄ってきた禰豆子の頭を炭治郎は撫でる。頭についた砂埃を払いながら、良くやったなと彼女を褒めていた。

 そんな彼らを尻目に、煉獄は炭治郎の言葉に頷く。

 

「そうだ。きっと父上に謝ってくれとはそういうことなのだろう」

 

 謝って済む問題ではないのはあの鬼もわかっていたはずだ。しかしそれでも謝りたかったのだろう。あの強さに至るまで何人もの人間を殺してきたのにも関わらず、最初に殺した人間が心に引っかかってしまったのは鬼にとっての原点だったという事だ。

 そして先々代炎柱の手記の最後の記述が、様々な術を使い敵を翻弄する鬼を滅する為に任務に出るというものであり、あの鬼に殺されてしまったと予想するのが妥当。柱を倒してしまえるほどの鬼が上弦にならずに今まで潜んでいたのは恐ろしいが、己がよく勝てたなと思ってしまう。

 きっと己一人だったならば確実に死んでいただろう。それが無かったのは単に竈門炭治郎と禰豆子というサーヴァントがいたが故。

 

「(凄まじいな……)」

 

 炭治郎は一度、似紿によって吹き飛ばされた。新参者とはいえ、上弦の参を冠する鬼の攻撃なのだから肋骨の一本や二本折れていてもおかしくはない。だが彼は平然とそこに立っている。

 呼吸による治癒は決して万能ではないはずだ。止血程度ならば常中を会得している鬼殺隊ならばできて当然だが、骨となるとそうでもない。骨自体が大きいのもあるが、一度折れてズレたりすれば戻すのは容易ではないからだ。もし肋骨が折れ肺にでも刺されば、鬼殺の要である呼吸すらできず、腕が折れれば力など入らず刀が持てないはずだ。

 見る限りでは彼は我慢しているわけではない、自然体のまま禰豆子の頭を撫でている。嬉しそうに目を細める彼女は、十四から成長していないように見えた。

 

「(この戦いで無惨を倒せれば良いが、そうではないなら俺もより精進しなくてはな。このままでは足を引っ張るだけだろう)」

 

 柱が故の自尊心もあったが、ここではそんなものを持っていては死ぬ。急拵えの上弦にすら苦戦したのだ、本当の上弦相手に何も出来ず死ぬことだけはあってはならない。

 腕を組み、一つ頷いた煉獄は元々進もうとした道へと歩みだす。いつまでもここに止まっていてはいけない。夜明けまでに全ての、否、鬼舞辻無惨以外の鬼を倒さなければ。一体でも残せば、鬼の始祖を倒すのに障害になる。

 

「待ってください、煉獄さん」

「むーん」

 

 どうやら急ぎ過ぎたようだ。慌てたような声が聞こえて振り返る。歩幅は大体同じだと思っていたが、彼は煉獄が歩き出したことに気づくのに数秒かかったらしい。急に歩き出さないでください、と少し申し訳なさそうに言ってきた。

 

「すまないな! ただ早くせねばと思い、気持ちだけ()いてしまったようだ」

「いえ、少し考え事をしていた俺が気がつかなかったのも悪いですし、謝られるほどの事じゃぁ」

「む? 考え事とは、何だろうか」

 

 ただ妹の頭を撫でていたように見えたが、そうではなかったらしい。先の先頭で何か思うところがあるのか、煉獄の速度に合わせて歩きながら炭治郎は口を開いた。

 

「少し気になったことがありまして」

「気になったことか!」

「えぇ。煉獄さんは気がついていないかも知れませんが」

 

 炭治郎は足を止め、振り返る。つられて煉獄も振り返り、彼の視線の先を辿った。向こうにあるのは先程まで鬼と戦っていた大広間であり、仄暗い灯りの中に黒い物体が転がっている。

 

「……何?」

 

 否。黒い物体ではない、死体だ。首と胴体が離れた、子供の死体である。何故そこにあるのかという疑問が過ぎり、すぐにその死体は先程の鬼のものだと気がついた。

 ただ位置は倒れた場所からズレている。体勢も眠っているように上を向いていた。ただ、首は繋がっていない為に顔は向こうを向いていたが。

 

「何故、鬼がまだ残って……よもやまだ倒していないというのか!」

 

 鬼という存在は首を日輪刀で斬るか、陽の光にあてられてしまえば文字通り消滅してしまう。なのにあの鬼の身体はまだこの世に止まったまま。となると未だに鬼は健在ということになるが。

 慌てて構える煉獄だったが、隣にいた炭治郎が手で制してきた。何をするのかと、危険があるのだから警戒するのは当然だろうと言葉を口にしようとして、目を細めてどこか悲痛そうな表情をしている炭治郎を見てやめた。

 炭治郎は鼻が良い。つまり鬼が生きているかどうかなんてわかるし、煉獄も冷静になってみれば鬼の気配などなかった。この城自体が少し気配があるが、それでも生きている鬼に比べれば微々たるものだ。

 

「あの鬼はもう生きていません。俺達を騙す演技でもない。正真正銘の遺体ですよ」

 

 目蓋を閉じ、振り返る。手を合わせることはなかった。済ませたのか、それともしないようになったのか。彼の人生はわからないが、歩き出した彼に置いていかれないよう煉獄も歩き出す。禰豆子は既に炭治郎の隣にいた。

 

「あの鬼は無惨の名前を何の抵抗も無く言っていました。最初はここが敵の本拠地だからかと思いましたけど、もしそうでなかったら」

 

 もし、無惨のと接続が切れていたら。

 

「……それはもしや、あの下弦の鬼のような事を言っているのか?」

「えぇ、はい」

 

 元下弦の肆、零余子。

 彼女は元々無惨の鬼ではあったが、今ではそうでなくなっている。“泥”を介して“人を食べる怪物”から“妖としての鬼”へと変じた彼女は無惨の名前を言っても死ぬことはなくなった。

 今まで報告されてきた二つの要素がぶつかり合って凶暴になったモノとは違う、本当の鬼。似紿がそういったものになっていれば、死体が残るのにも納得だ。妖としての鬼はどういった振る舞いをしていようとも、生物でありこの世に一つの種族として生まれた存在。現実に残り続けるのは当たり前と言えよう。

 

「けど、傷の治りは俺たちが知っている鬼と何ら変わらない。幾ら妖としての鬼といえど、無惨の鬼程の回復力は持っていませんので、そこが疑問でして」

 

 なるほど。

 煉獄は一つ頷いた。彼が考えていたことは理解した。確かに気になる現象だ。あの鬼は腕を斬られて直ぐには回復させなかったが、他の腕を生やした。そして戦闘中にはもう元の腕は戻っている。それは血鬼術によるものではないのなら、妖としての鬼になっていれば考えられない事だ。

 ならば無惨の鬼なのか、妖としての鬼なのか。そのどちらでもないのか、どちらでもあるのか。判断するのには、いかんせん情報量が少ない。

 ただ、それは今考えることでもないはずだ。

 

「竈門少年」

「えっ、あっはい!」

 

 珍しい、煉獄が炭治郎の名前を間違えずに呼んだ。思わず反応が遅れてしまったが、多少の誤差だ。大目に見てくれるだろう。

 咄嗟に見た煉獄は炭治郎のことを見ずに真っ直ぐ続く廊下を見続けている。その横顔は見た目の派手さとは裏腹に静かな雰囲気を醸し出していた。背筋が伸びる。

 

「そうして相手のことを理解しようとするのは君の美徳ではあるが、今は敵はいないとはいえ戦闘中だ。集中するように」

 

 とても自分が言える義理ではないが。

 

「す、すみません! 精進します!」

 

 綺麗な角度でお辞儀した炭治郎の腰にはよく見慣れた鍔がある。己が差している刀に付けられたのと瓜二つだ。うむ、一つ頷く。

 決して炭治郎が同じ鍔をした刀を与えられたわけではないはずだ。己が知っている幼い炭治郎の刀は全て漆黒であった。赤と黒の組み合わせは闇夜に燈す焔のようだった。

 

『一応、幼い俺が成長したのが俺ですから』

 

 まぁそんなこともあるのだろう。

 その俺は何かを残せたのだろうか、と目蓋を閉じては開く。考えていても仕方がない。今考える事でもないというのは、己にも当てた言葉であった。

 

「さて、田村少年も心配であるし、急ごう! 溝釜少年少女」

「村田さんです。そして俺と禰豆子は竈門です、煉獄さん」

「うむ! わかっている! 行こう! 西口少年!」

「竈門です!!!」

 

 

 

 

 

 

 




オリキャラの唐寿郎さんの名前の音が約100年後の煉獄さんと同じなのは特に意味はないです、はい。考えてから気がついた。
あと煉獄さんが村田さんの事を少年と呼んでいるのは何となく年下に見えるからなのと階級が下だからです。ちゃんと年齢不詳。もし21だったら大変だ。

あと最近更新ペースが段々落ちてきてましたが、それに比例して文字数も少なくなり、ここままじゃいかん!となりまして、書き溜めをする為に更新停止します。来年には上げたいな、うん。
フラグ回収しちゃったー!イヤー!!
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