俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第一節 日が落ちれば鬼が出る。 1/3

 

 

 

「がふ、ヒュッ……ぐ」

 

ごふりと口の端から血が漏れ出た。唯一受けた技で抉れた腹からも血が滴り落ちている。けれどそれは己のから離れた瞬間、キラリと陽に当たって消えていく。ぐぐ、と力を入れて傷を塞いだ。あぁ魔力が減っていく。

雷神は雷そのもの、という権能のようなものを使って速く帰ろうとは思ったが、何回か繰り返すうちに魔力が尽きかかっている。己のマスターから離れすぎてしまった。単独行動を持っているので、正直現界するだけなら問題はない。しかしこれ以上力を使おうとすれば危ないかも知れない。初めての現界だ、容量とか間違ってたらやだな。

早く帰って魔力を回してもらわなければ。

 

「……大丈夫かな、兄貴」

 

一応あの後追いかけて蝶屋敷まで人間が耐えられる限界のスピードで運んだ。その時にはまだ潤沢に魔力はあったから、己の腹から流れる血を顔面蒼白で見ていた獪岳を蝶屋敷の中に放り込んでから消えた。彼女達に見つかるわけにはいかない。

先に再生すれば良かった。逃げるのに力を使いすぎた。獪岳に追及されたくないから逃げたけど、次会った時が怖いな。万が一の時を考えてもう一回ブレスレットに魔力込めておいたけど。正直そのせいでトドメ刺されそうになったが。

ぐい、と口の端で滴っていた血を拭って歩く。霊体化すれば良いんだろうけど、そうすれば力は使えなかったし、使ったら使ったで霊体化しようとすれば逆に魔力が減りそうだし。霊体化実体化に魔力必要とかほんと不便だよな、エアコンかよ。

 

「…………つか、黒死牟強すぎ。何あれ死なないの奇跡なんだけど」

 

魔力供給がない状態というハンデを負ったサーヴァント相手に、手傷を負わせる実力。そりゃ人間じゃ敵わないわ……戦闘面においては鬼無辻無惨を差し置いて最強だと噂されていただけはある。人間じゃねぇよ……いや、鬼だったわ。

あれで魔術回路が開いてないんだよ?純粋な鬼の力と人間であった時の実力、鬼舞辻の血の濃さでサーヴァントに迫り来る程の力。おかしいでしょ、魔術師が見たら卒倒するよ。こんなの日本にいるのか!ってね。もう時は大正なんだから、神秘纏った奴なんているはずもないと思うしな。彼ら鬼を除いて、純粋な妖達もいるかどうか怪しくなってきているし。

 

「……でもまぁ」

 

時間制限付きだったとは言え、それ程苦労したわけではない。まぁ多分相手も戯れだったからこっちもちょっと油断しちゃったし、日が昇って漸くかってところで一撃食らっちゃったし。俺が悪いんだけどね、サーヴァントだからって、死なないからって。

これなら他の上弦に出会ってもマスターを守れるな。良かった、それだけが気がかりだったのだ。俺TUEEをしたいわけじゃないけれど、こんな世の中だ。強いに越した事はない。

 

「やっと、着いた」

 

大きな藤の家紋を掲げた門を見上げてため息をつく。疲れたわけではないけれど、精神的に疲れた。いやだってあんな気持ち悪い目をしながらこっち見てくるめちゃくちゃ強い鬼と戦わなきゃいけなかったんだよ?檜岳の事を彼から逸らさなければいけなかった。そのせいで鬼無辻に目を付けられたかもしれないけれど……特徴的な羽織は着ていないし、お面をつけていたから大丈夫だろう。長い金髪だ……善逸に迷惑をかけることはないはず。

まぁ獪岳を助けることが出来た今、彼から離れようとは思わないのだが。

 

「……鬼、だ」

 

日はもう暮れている。深夜と言って良い時だ。藤の家紋の家は鬼殺隊を支えてくれる人達の家だけれど、年中咲く不思議な藤の花を植えているわけではない。お守り程度の効き目ぐらいはあるだろうけど、それでも決して鬼が近づかない、というわけではなかった。

人とは違う、異形の音。ギチギチと歯車が噛み合ってないのに回ろうとしている不可解な音。刀を構え、足に力を入れる。魔力をあまり使うな。ただの技だけで倒せ。

 

「雷の呼吸」

 

気持ち悪い音が聞こえる方向を向き、構える。こちらに向かっている。きっと人がいると知ってしまったのだろう。荒い息遣いと興奮の音も届いた。

 

「へへぇ、ここらに美味そうな匂いが……あぁいたいた」

「壱ノ型」

 

哀れな奴。俺が美味そうな匂いなんて放つわけないでしょ。肉なんて偽物なのだから。

 

「目閉じちまって怖いのかぁ?怖くなんてないよー、俺がぜんぶ食べ」

「霹靂一閃」

「て………………??」

 

目を開けて振り返れば、首が落ちたことにすら気づいていない鬼がいた。じわりじわりと朽ちていく鬼を一瞥してから、じゃりと砂を踏みしめて門へと歩みだす。

きっとそんなに人を食べてない鬼なのだろう。弱かった。技を使うまでもなかったかもしれないけれど……俺は居合しかできないから、確実に頸を刎ねるには技を放つしかない。この轟音で彼らが起きてないと良いけれど。

 

「鬼を退治していただいてありがとうございます」

「ヒエッ!?」

 

そう思って顔を上げれば、老婆の顔があった。思わず情けなく声を上げてしまう。しかし彼女は何も言わずに、鬼狩り様ですか?と訪ねて来る。サーヴァントである俺に気配を気付かれることなく近づいて来た彼女に恐怖を覚えながら、頷くとそうですかと笑った。

よく見ると寝間着だ。やはり起こしてしまったらしい。老人を夜中に起こしてしまうというのは正直居た堪れない。すみません、ほんと。

 

「休まれていかれますか」

「え、えぇ。実はここにいるはずの鬼殺隊の者と知り合いでして」

「そうでありましたか」

 

そうしてスタスタと歩いていく彼女。いや足音すらなってないんだけど、エッ怖すぎ。というかこの人、生前散々人間じゃねぇ!と思ってた人じゃん!という事は鼓屋敷の任務の後か!

屋敷に入るとあれやこれやと世話を焼かれる。お風呂に寝巻き、晩御飯まで作ってくださった。いや深夜なのに本当に申し訳ない。マジで。

 

「美味しい……」

「ありがとうございます」

 

お布団は他の鬼狩り様の部屋に敷かせてもらいますね。そう言って去っていく彼女を見送りながら、僅かに回復する魔力にホッとする。こうして人間らしく生活するのはいつぶりだろうか。食事なんて要らない、お風呂なんて要らない、睡眠なんて娯楽程度。死んでいる人間より生きてる人間。そう思って遠慮してたから、こうして過ごすのは本当に生前以来だ。

心がスッと洗われていく気がした。

 

「あれ……?」

 

ぽつりと何かが御膳に落ちる。それは水だった。雨漏りではない、雨なんて降ってる音しないから。でも、ぽつりぽつりと落ちるそれはやがて小さな水溜りになる。

 

「は……はは」

 

思ったよりも追い詰められていたらしい。もう安心だって、マスターが苦しい思いをしなくて済むと考えたならば、もうこの涙を止める手立てはなかった。

 

「ひぐ……ふっ……ううっ」

 

ずずっ、鼻水を啜りながら白米を頬張る。噛むごとに甘みが増すそれを噛み締めながら、偽物の胃へと流し込んだ。

 

「美味しい……おいしぃ」

 

ひっく。しゃっくりが止まらない。

そうして泣き続けながら何とかご飯を胃の中に全て流し込むと、いつのまにかマスターのいる部屋へと案内された。知り合いだって言っただけなのに、マスターの隣に敷かれてる布団に苦笑して潜り込む。音を聞いても起きてはいないことがわかる。きっと疲れたんだろう。よく見ればボロボロだ。多分八割型伊之助の所為なのだろうけど。

何かあればお呼びください、と小さく告げて去って行った彼女に同じく小さくお礼を言って、放り出されているマスターの手を取る。

 

「……(暖かい)」

 

生きてる証拠だ。

魔力供給は本人から魔力を送ってもらうのに加えて、魔術回路があっても魔力操作が未熟な者からは肌の接触や体液の摂取などでできる。だからこうして手を握るだけでも、結構効果があったりする。じわりじわりと魔力が掌から流れてくる。

疲れた、本当に疲れた。主に精神的に。

 

「…………」

 

あぁ、瞼が重い。

 

 

 

 

 




タイトルに意味はない!!!!!!!
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