俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「…………び」
びっっっっったぁ。
朝起きて目が覚めたら、目の前に金糸が転がり落ちていた。あれ?俺の髪ってこんなに長かったっけ?なんて思いながら寝ぼけ目で、それを辿ってったら俺よりも年上だってわかる人が身近で寝ていたんだもの。ビビるよね?ビビるよな!?
しかもあれ!セイバーじゃね!?
「せ、セイバー?」
声を掛けても起きない。結構熟睡しているようだ。聞こえてくる心音がリズム良く響いている。セイバーが寝るとこなんて初めて見たなぁ、サーヴァントは寝なくて良いとかなんとか言っていたけど。たまに昼間、暇な時に寝てるとかなんとかしか聞いてないからこうして夜に寝るのなんて初めてじゃない?律儀に布団の中に入っちゃってさ。
どうして今までいなかったの?とか、どうしてここで寝てるの?とか聞きたいことあるけど、幼い頃から一緒にいた頼りになる彼が無防備に寝ているところなんて貴重だから起こす気にもなれない。
というか、寝る時にすらお面つけたままなのね。横向いてて寝苦しくないのだろうか。絶対にこめかみに刺さって痛いだろうに。
「ど、どうしよ」
外す?これまで頑なにお面を外さなかった彼の素顔を暴く?失礼じゃないか?いやでもお面の下がどんなのになっているのか気になるし。音からして炭治郎達はまだ起きてないし…………ちょっとぐらいは。
「っ」
ごくりと生唾を飲み込む。自制心よりも好奇心が勝ってしまった。寝苦しそうだからとかそんなんじゃなくて、ただ好奇心の赴くままにお面をそっと頭の上へと持ち上げた。
そろそろと見えてくるその素顔に俺は言葉を失う。
「………………え」
え?
ちょっと待って…………え?いや、えっ??
これは予想外過ぎでは??脳が処理に追いつけない。ただただ固まってしまう。
口しか見えてなかったその相貌。鼻から上はどんなイケメンが待ち受けているのかと思いきや、あるのは俺に似た顔。
いや違う。これは俺の顔だ。だってこんな特徴的な眉毛、俺以外に見たことなんてないし…………でも決めつけるのは良くないよな。たまたま似てただけかも知れないし。
「そ、そそそうだよ。たまたま。たまたま似てるだけ。うん、うんうん。俺にセイバーが似てるわけないでしょ」
そうだよ、セイバーはイケメンなんだからな!物腰柔らかだし!俺の事受け止めてくれるし!アドバイスとかくれるし!
だからそんなことあるわけが。
「ん……ま、すた、ぁ?」
ヒュッ。
息を吸うのに失敗した音がした。開かれた瞼、その奥にあるまだ寝ぼけたままの目の色彩は……俺が鏡で見るのと全く同じ色。
バチン!
「痛ったぁ!?」
そこまで考えて気づかれる前にお面を下げてその上から平手打ちをしてやった。恐らくお面の縁が食い込んで痛いんだろう。起き上がってお面の下をさすっていた。そこまで強くしたつもりはなかったんだけど、痛がる彼に申し訳なくなってくる。
俺も布団を押し上げて起き上がった。
「どこ行ってたんだよ!」
誤魔化すように声を上げる。まるで今起きたようだと認識させる。
お面の下から涙を滴らせたセイバーは、こちらを見ると困ったように笑った。
「ちょっと野暮用を」
「野暮用!?」
野暮用でこの時までどっか行ってたのかよ。遅すぎない!?三日ぐらい経ってるよ!?嘘吐いてる音しないから本当なんだろうけどさぁ!
そう喚くと彼はすみませんと謝った。いや怒ってるわけじゃないのよ。ただ単に驚いただけだから。でも。
「そう思ってるなら今度から一言言ってから行ってくれよな!何度話しかけても出てきてくれないしさぁ!!俺、変な目で見られたんだからなぁ!!」
「それは人目のあるところで話しかける善逸が悪いのでは」
「煩いよ!!!!」
うがぁ!!!と叫ぶとジト目で見られた気がした。その反応にやっぱりセイバーはセイバーだな、て安心する。いくら俺に似てるからって俺というわけじゃないんだ。もしかしたら俺がセイバーに似てしまっただけなのかも知れない。意味わからんけどね!!
「それよりマスター。魔力ください」
「は?」
自分が頭に浮かべた考えが意味わからなすぎてがむしゃらに頭を掻きむしっていると、急にそんな事をセイバーに言われた。まりょく……?まりょくってなに?
訳がわからずこてりと首を傾げると、彼はハッ!と急に気づいたように口を開けてしまった!と言った。その様子に俺は最終選別でセイバーが言っていた俺が死んだらセイバーが消えるっていうとんでもな言葉を思い出す。
もしかして、また教えられてなかった?
「ねぇ、セイバー。そのまりょく、ってなんなの」
そんなに俺が信用できないのかな、なんて俯きながら普段じゃ出ないような低い声を出す。ばくんとセイバーの心臓が跳ねた音がした。やばいと思っているのだろう、今更焦りだしても遅い。
ねぇ、なんでこっちが聞かなきゃ教えてくれないの。
「ま、魔力とは生物が持っている見えない力みたいなもので……普通は使えないのですが、魔術回路という魔力専用の血管みたいなのがありまして、それを呼び起こすと使えるようになります」
ちょっと意味がわからない。
セイバーは言った。魔力には属性やらなにやらがあるがあんまり俺には関係なく、俺はもう魔術回路とやらが開いているので、魔力を操作できるはずだと。
「私達サーヴァントはそんな魔力で形作られています。心臓である核を中心に魔力を編み、エーテル体で覆う。こうして生きている人間のように触れたりしますが、それは全て偽物。魔力がある限り、核が破壊されない限り現界し続けることができるのです。マスターから魔力を頂くことによって」
それでその魔力が少ないので分けて頂くとありがたいのですが。
そう続けて口を閉じたセイバーから目を離し、一人考える。少し難しくてわからない。意味がわからない単語もバカスカ出てきたし、あまり内容が入ってこなかった。でも最後の言葉だけはわかる。
前に言った俺が死んだらセイバーは消える。それは多分この事を指している。身体の構成上、魔力というものを常にいるセイバーに魔力を与える存在がいなくなれば、セイバーは消えるってことだろう。
その与えるのが俺……………………は?
「なぁああんでそんな重要そうなこと言わないんですかねぇえええ!!!!」
「まひゅたー、いひゃい」
ガシリとセイバーの両頬を掴んで引っ張る。わぁい、めちゃくちゃ良い伸びっぷりで……ってそんなことはどうでも良いの!俺は怒ってる!
「俺は怒ってんだよ!セイバー!!!俺がいないと消えるってのは前聞いたよ!?でもさ!いてもその魔力って奴を与えなきゃ消えるとか何それ聞いてない!!マスターはサーヴァントの主人みたいなもんなんだろ!!主人は配下を大切にするもんだろ!!じゃぁもっと俺にセイバーを大切にさせて!!!俺、セイバーに助けてもらってばかりだからさ!頼って欲しいの!セイバーの事知りたいの!なんでそう俺が聞くまで黙ってるの!おかしいよ!おかしいでしょ!!なんで幼い頃から一緒にいるのに俺はセイバーのこと全然知らないの!!!!」
「ふぇんいひゅ……」
おかしい、こんなのおかしい。
みょーんと伸びる頬をまだ伸びさせながら、そう呟く。ずっと与えられるばかりで、ずっと一緒にいてくれるばかりで、俺なんにもセイバーの事知らないんだなって、あの最終選別の日から思ってたんだよ。おかしいでしょ、家族の事なんにも知らないなんて。
じわりじわりと涙が浮かぶ。目の前が揺れて、パチリと瞬きすれば晴れてしまう。
「……セイバー、マスター命令」
パチンと頬から手を離し、握り拳を作って膝の上に持っていく。そうでもしないと殴ってしまいそうだった。セイバーの身勝手さに、俺になにも言わないセイバーに。
「サーヴァントに関する事、洗いざらい全部話してもらうから」
「………………御意」
こればっかりは私が悪いですね、なんて笑う彼に俺は両手で平手打ちをするのであった。痛い、と呟く彼の顔に近づいて力の限り叫んだ。
「当たり前でしょ!!!馬鹿なの!!!!」
ほんと、このサーヴァントは何処か抜けている。年上なはずなのに年下に見えてしまう。今までの彼ならばそんな風には見えなかったのに。
大声で叫んだからか目を回すセイバーから手を離し、俺は怒りのままに起き上がり布団を直して洗面所へと向かう。セイバーの所為で目がはっきりと覚めたけど!
「歯ァ!磨いてくる!!」
スパーン!と襖を開いてからズカズカと縁側の廊下へと出て、最早覚えてしまった道を歩いていく。
あぁ、もう。こんなに怒ったの、炭治郎が禰豆子ちゃんときゃっきゃうふふしながら鬼狩りしてるって知ったとき以来だよ!!
………………結構、最近だ。
「はぁぁああ」
普段なら出さないような溜息を出して頭を掻く。胸の奥がきしきし鳴っているような気がした。ちくちくと痛みも走ってる。
思ったより俺は、セイバーに話してもらってない事が堪えているらしい。
彼の素顔が頭に思い浮かぶ。
「……っ……セイバーの馬鹿……」
蚊が鳴くような小さな声で呟いた。
セイバーは痛がってるのは善逸が無意識に魔力を乗せてるからなんですが、それでも全然痛くないので痛がってるふりです。