俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第二節 マスターの心得。1/3

 

 

 

 

朝食。

もっもっ、と無言で白米を口に運ぶ。お茶碗に目一杯盛られたそれは鬼殺隊士が総じて一般に比べて大食いだからであろう配慮だ。朝食にしては多すぎだと思うけれど。

味噌汁に焼き魚、出し巻き卵、たくあんに胡瓜の漬物。和風だ。めっちゃ和風だ。いやこれが一般市民としては普通なのだろうけど、生前に途中から作るの面倒すぎて朝食はトーストになった俺としては朝に和食なんて久しぶりすぎて新鮮だ。座にいた時なんてもっぱら西洋のしか食べてない。炬燵で年がら年中ヒキニート。時間の経過なんて座には存在しないんだが。

塩焼きにされた焼き魚の身をほぐして一口。絶妙な塩加減に白米を放り込み、飲み込む。次はたくあんを食べてかりっとした食感を楽しんで、それから味噌汁。底に溜まってしまった味噌を音を立てないよう小さくかき混ぜ飲む。赤味噌のいい香りが一層美味しさを引き立たせていた。最後に出し巻き卵を頂く。ほわっとした焼き加減、甘くもなく辛くもない。万人受けするだろうなと言う優しい味がした。

美味しい。お袋の味って感じ。言うなれば家庭の味。店で出されるようなものではない感じだ。飲み込めば、じんわりと魔力に変換される様を感じる。

 

「甘くない……」

 

隣で食べていた善逸がポツリと呟いた。ちらりと手元を見ると出し巻き卵が。あぁ、と納得した。善逸は甘いか辛いかと言えば、甘い方が好きだ。卵をかき混ぜる時に砂糖を入れるのだが、その量が常人の量ではない。食べてみれば、いやこれデザート!と思わず突っ込んでしまうぐらいの甘い出し巻き卵が好きである。

 

「善逸は甘いのが好きですもんね。これは美味しいですが、善逸の好みには入りませんし……私が食べさせましょうか?」

「いや、美味しいよ。優しい味がする。とても丁寧に巻かれてるし、好みじゃないだけで食べないわけじゃないから!」

 

そう?それは良かった。食べないなんて言ったら口に捩じ込むところだった。幼少の頃、セイバーが食べるまで食べない!なんて我が儘を言っていた善逸の口に食べ物を捩じ込んだ事があったのだが、噎せていたからあまりやりたくはないのだ。

そんな俺の考えを感じ取ったのかはわからないが、ヒッ!と小さく悲鳴をあげた善逸は御膳に視線を落とした。震えている気がするのは気のせいだろうか。聞こえてくる音からして気のせいではないんだろうな。

 

「というか、セイバー……今までなかったのに何でしれっと混じってんの?」

 

それは食事の席に、という事だろうか。確かに善逸がじぃちゃんや檜岳とかと食事を取っていようと俺は行かなかったし、幼少の頃なんて以ての外。食事を取るのは善逸とこっそり食べる間食のようなものだけ。桃にこっそり盗んだ饅頭に、一緒に出かけた時に食べた饅頭。饅頭しか食べてない気がする。

まぁそんなこんなで、こうして大人数で食卓を囲んで食べるのは初めてだ。

 

「いや……私はそのつもりはなかったんですが、ここに来る時にひささんに見つかってしまって。あれよあれよのうちに用意されてました」

「ひささん……?」

「世話焼きな、ここのお婆様ですね」

「あぁー、妖怪ば……ばあさん」

 

味噌汁を飲んでいた炭治郎に睨まれて、善逸は言葉を訂正した。眼光がやべぇそれを受けて善逸はガタガタ震えているが、俺が代わりにその続きを言ってやろう。

にっこりと笑う。

 

「えぇ、その妖怪ババァです」

「ぶふっ!」

 

炭治郎が味噌汁を吹いた。ほぼ味噌汁が入っているお椀の中で吹いたようだが、少し溢れてしまったらしい。手拭いで急いで拭いていた。炭治郎の隣にいた伊之助は汚ねぇなぁ!と怒りを露わにしている。

いや伊之助の御膳にはかかってないから良くない?被害食らってるの炭治郎だけだけど……あぁ、食べ物を取るからかな?なんて考えていると、炭治郎がセイバーさん!なんて呼んできた。おぉ、炭治郎が横文字言ってる。

 

「申し遅れましたね。私はセイバーと申します」

「あっ、俺は竈門炭治郎です!こっちが嘴平伊之助で…………って違う!!」

 

真面目から来るノリツッコミのキレは相変わらずで何よりです、炭治郎氏。

ところで何でそんな怒ってらっしゃるのでしょうか??

 

「何で怒ってるのかわからない顔をしないでください!!お世話になっている方に妖怪だなんて失礼だと思いませんか!」

 

成る程、炭治郎はこんなに無償でお世話をしてくれる方に妖怪ババァなんて悪口を言うのは失礼だと言っているのか。ん、わかってる。失礼だとな。

 

「えぇ確かに今の発言は礼節を欠いてますね」

「でしたら!」

「悪口は陰で言うものですよ、炭治郎」

「は?」

 

わぁ、炭治郎から聞こえて来る音がすごい事になってる。

 

「ですから本人に言うつもりはありませんし、彼女にはとても感謝してます。それに今の発言は善逸が言おうとしたのを引き継いだだけですし」

 

俺我慢したのにさらりと責任転嫁しやがった!?なんて隣で喚く善逸を尻目に、俺はなるべく真剣な顔を作って炭治郎を真っ直ぐ見る。視界に映る炭治郎の御膳の中身は、隣にいる猪によって徐々に減っていっている。

 

「あの方、絶対人間ではないと思うんですよ。私の隣を私に気付かせずに取るなんてこと……並の人間では到底不可能です」

 

隣からごくりと生唾を飲んだ音がした。

 

「うそ、でしょ……?セイバーの側を取った?」

 

徐々に目を見開きこちらを見る善逸を、まだ怒ったままの炭治郎は怪訝そうに見ていた。どうして驚いているのかわからないのだろう。炭治郎は多分匂いで相手の強さがなんとなくわかるが、明確な強さまではわからない。一般人であるひささんが俺の側まで気付かれずに近づくなんて、あり得ないことだ。

そもそもだ。一般人が到底敵わないような鬼を狩っている鬼殺隊に気付かれないように色々用意するなんて無理だ。

 

「彼女からは鬼独特の音はしない……つまり彼女は妖か」

「何かお困りごとでもありましたか」

「……い……?」

 

ギギギと壊れた傀儡の様に隣の善逸と後ろを振り向く。そこには穏やかな笑みを浮かべた噂の彼女が。

噂をすれば何とやら。

 

でもここまでタイミングが良いものは要らない。

 

「ギャァアアア!!!!出たァアアアアア!!!!!!」

「ーーーーーーッ!!!!!」

 

善逸が抱きついて来るのを受け止めて、必死に口から出そうになる悲鳴を押し殺す。そうしないと善逸のように悲鳴をあげてしまいそうだったから。

ぐりぐりと鳩尾にピンポイントで頭を押し付けて来る善逸をやんわり押し返しながら、何とか気を保つ。気を失うな。生前散々、お前が気を失うとろくなことにならないとか言われただろ!柱になってしばらくしてからだけどな!!

ぐぅ、と息を吐いて、どうにかして笑顔を作る。笑顔を作るのにも少し慣れてきたな。

 

「い、いいいいいえ!何でもありません!」

「(すごく動揺してる……!)」

 

炭治郎の目線がすっごく気になるが無視だ。いつの間にかいたひささんはそうですかと頭を下げた後、スッと廊下に移動して、スゥと屏風の影から消えていった。怖、えっ怖。無理。もしかしてぬらりひょんの末裔だったりする??奴良組の分家だったりします??しない???

上がった息を整えて未だ抱きついたまま頭をあげない善逸の旋毛付近を優しく撫でてやる。手が震えている気がしたが、気のせいだとなるべく普通に見えるように気丈に振る舞う。

 

「善逸、善逸。もう大丈夫です、もう行きました」

「…………………………ねぇ」

 

俺の言葉に暫く沈黙した後、小さく口を開く善逸。見えるのは旋毛ばかりで、彼の表情は見えない。

はい?と聞き返すけれど、あーだとかぅーだとか要領の得ない言葉を繰り返す。何か言いにくいことでもあるのだろうか?と首をかしげると、さらりと結んでない金糸が善逸の頭にかかった。

 

「…………あの人が来る前さ、なんて言った?」

 

あの人とは、ひささんのとこか。そりゃぁ。

 

「彼女は妖怪じゃないか、と」

「……ぅーん」

 

神秘が薄れつつある今、今いる鬼以上に活動する妖の類はいないだろうが、絶対にいないというわけではない。ひささんがそういうのでもあり得ないわけでもないから、この推測が完全に間違ってるとも否定できない。だからきっと妖怪なのだろう、と割り切ることも大事である。ババァはまぁ、悪口だが。

ただ、俺の答えはお気に召さなかったのか、善逸は暫く唸った後、パッと離れた。その顔は少しバツが悪そうだ。

 

「善逸……?」

「っ…………いや、気づいてないなら良いや」

 

ふいっとそっぽを向いた彼は、さぁ!食べよ食べよ!と食事を再開する。少し暴れたけれど、御膳から少し離れていたおかげでおかず達は無事だ。彼から聞こえて来る音は色々混ざっていてよくわからない。感情豊かな彼にとっては珍しい事だが、これ以上何も言わないのならと俺は口を噤んだ。

サーヴァントとはマスターの盾であり矛。つまりは武器なのだから、主人の言葉には従おう。それが例え、自分よりも若輩者でも。まぁ俺のマスターは……自分と比べては駄目だろう。

先の怒りは何のやら、不安そうにこちらを見る炭治郎に安心させるように笑いながら、俺は箸を取った。

 

さぁて、食事、食事!

 

因みに伊之助は食べ終わったのかずっと寝ていた。

 

 

 

 

 




炭治郎「(…………気まずい)」
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