俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

20 / 135
第三節 蜘蛛に紛れて蛇が這う。1/4

 

 

 

「いやぁ良かったですね、肋骨治ったとか。さすが肋骨回復が早い。折れるためにあると言って良いほど」

「良くないからね!?何言ってんだ!セイバー!!」

「いやちょっと現実逃避を」

「何から!?」

 

何からってそりゃぁ炭治郎が微笑ましそうにこっちを見てくるからだよ。この屋敷での初対面以降、何かと俺を見かけては話しかけてくる炭治郎に勘弁してつかぁさいとなったのはつい最近だ。絶対に年上に向ける視線じゃない。俺と善逸のやり取りを微笑ましく見守る姿勢はどう考えても仲のいい兄弟を見守る親だ。実際そう思ってるんだろう、分かりやすい視線を送ってくる。善逸にならわかるよ?歳の割に幼い風貌してるし、でも俺にまでそんな視線送らないで!俺良い歳こいたおっさん!送るなら善逸だけにして!!

彼の視線から逃げるようにささっと善逸の陰に隠れれば本人に何してんの?と言われた、ちょっと泣きそう。

対する伊之助は何故かひささんにほわほわして居た。あいつずっとほわほわしとけば良いんじゃないかな、大人しいし……伊之助っぽくないけど。

 

「そうだ!禰豆子ちゃんにお花摘んできたんだった!禰豆子ちゃぁぁああん!お花いるぅ?」

 

身体をくねくねさせながら禰豆子ちゃんが寝ているだろう箱に近づき照れ始める善逸。自分から近づいていったのに、何故か距離が近いからと少しずつ後退していくのが面白い。前に進むのか後ろに下がるのかハッキリしろ。

ただお花を摘んできてかわいかったからあげたいという善逸の気持ちもわかる。診察を受けるまで暇だからと屋敷の少し先にある花畑に善逸と二人で出かけていそいそと摘んでいたのだから。そう、これは全て禰豆子ちゃんの為。

 

「待ってください、善逸。あげるなら上品に仕上げなくては、一輪の花だけでも可憐ですが……それだけでは茎の汁でかぶれる可能性もある」

 

俺たちに花の知識なんてないからな。

そう彼に告げて懐から取り出したのはただの紙と紐、それに小さな花達。早速とばかりに善逸の花を貸してもらい、それを軸に小さな花達で補強、くるりと紙で包んで紐で蝶々結びをする。リボンがあれば良かったんだが、あいにく様そんなの持ち合わせてないので代用品だ。

俺の慣れた手際におぉ!とパチリパチリ手の平を叩いていた善逸に渡してやる。小さな花束を作ったは良いけれど、それをあげるのは俺じゃない。きちんとこういうのはあげたい人があげるべきだから。

 

「ふふ、見てみて禰豆子ちゃん。セイバーが作ってくれた花束。真ん中なのはこの前行った花畑の花だよ、また今度デートしようね」

「それはお兄様が許してくれないのでは?」

「セイバーさんにお義兄さんなんて言われる筋合いはありません!」

「そうだ!そうだ!セイバーに俺の禰豆子ちゃんをやるわけないでしょ!!」

「善逸のでもない!!!」

 

おう、俺の場合禰豆子ちゃんのお兄様って意味だったんだけど早とちりし過ぎでは?二人とも。すやすやと箱の中で寝る彼女を放って、お義兄さん!違う!俺の禰豆子ちゃん!善逸のではない!と何回も押し問答していた。ここは小学校ですかー!?混じってきそうな伊之助はまだほわほわしてるし!どうにかしてくれよ!お前の空気読めなさが頼りなのに!猪突猛進してくれ!このままでは二人の完治した傷がまた開く!色々と!!

そんな俺の叫びが届いたのか、屋敷の外からカァー!と鴉の声が聞こえた。

 

「カァ!カァ!任務!任務!那田蜘蛛山ヘ迎エ!炭治郎、善逸、伊之助、三人デ那田蜘蛛山へ迎エ!ソコデハ送ラレタ隊士達ガ帰ッテ来ナイ。鬼!鬼ガイル!」

 

そんな俺ガイルみたいなタイトルコールせんでも。

 

「那田蜘蛛山ァ!那田蜘蛛山へ迎エ!カァー!」

 

鎹鴉って結構不気味なんだよな。片言だし、性格に誤差はあれどやっぱり鴉だし。判別がつかない顔してるし……雀も大概だけどさ。話す分マシか。見てたら段々愛嬌が出てくるな。

しかし、那田蜘蛛山か。蜘蛛にされかけた嫌な記憶あるから行きたくないんだけどな。俺に課せられた任務ってわけじゃないのはわかってるけど、少しトラウマもので。いやだって相手方の鬼気持ち悪かったし……蜘蛛の体に人間の頭たぜ?ト◯・ストーリーの序盤あたりに出てきた意地悪おもちゃ達の中にいた、赤ん坊の人形の頭と作ったんだろうっていう八本の足を持った創作おもちゃを幼い時に見たら絶対怖いだろ?いやあれ思い出すだけでも気持ち悪いけど、あんなのがいるんだよ?あそこ。行きたくないよね、俺は今回参加しないけどさ!

あっ、準備し始めちゃった!!炭治郎と伊之助もう着替えてる早!?嫌がる善逸に隊服を放り投げながら準備してる!

……仕方ない、準備しますか。嫌だと嘆いていても仕方ないのはわかってるので、立ち上がり着流しを脱ぎ捨てて霊基を元に戻す。淡い光を放てば、いつもの隊服に様変わりだ。羽織と刀は無しだ。この服さえあれば、鬼殺隊だと思われるので充分だな。お面の位置を確認してから、縁側に座った。

 

「平和だなぁ」

 

束の間の休息が終わるのを惜しみながら空を見上げた。後ろから聞こえてくる汚い高音を無視しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って、ちょっと待ってくれないか!!」

 

キリッ!とした善逸に呼び止められる。三人で振り返れば綺麗な三角座りをした善逸がいた。その表情は引き締まっていていつもの彼とは全く違う様に見える。三角座りってのが色々と台無しだけれど。

 

「どうしたんだ善逸、目的地はすぐそこだぞ?」

「どうもこうもないよぉ!!目的地に近づくにつれて足が震えて仕方ないのー!!離れてたらそうでもなかったけど、見えちゃったら怖くて動けないのー!!なんか凄く嫌な音してくるしさぁ!!」

「早く動け!弱味噌!!じゃねぇと俺様が鬼を全部斬っちまうぞ!!」

「大変ありがたいので是非そうしてください!お願いします!!」

 

逃げ腰については相変わらずの強気な善逸に感心する。俺はそこまで引き下がれない。ずっと嫌々!と首を振っていても、二、三回ぐらい押し問答しただけで頷いてしまう自信がある。押しが強い彼らを眺めていると呻き声が聞こえた。バッ!と振り返ると那田蜘蛛山から鬼殺隊隊士と思われる人物がよれよれのまま下りてきていた。満身創痍で気配も隠していないような彼にここまで近づかれて気がつかなかった己に嫌気が差す。どこまで気を緩めてる、ここはもう敵地だ。常に耳を澄ませ、気配を探れ。己はもうサーヴァントなのだから。

目を閉じ、耳に魔力を流す。気配の探り方なんて俺はあんまり得意ではない。唯一頼りになるのがこの耳だ。色々なものが聞こえる、余計なものまでも聞こえる可笑しな耳。それを強化して今まで以上に澄ませる。

俺も並行して強化魔術試してて良かった。自分としてはできてるかはわからないけど、前よりかは聞こえる気がする。

 

「大丈夫ですか!?」

 

そんな俺を他所に炭治郎がすぐさまその隊士に駆けつける。側に寄ると彼も気づいたのか、縋るように炭治郎の羽織の裾を握っていた。

 

「お前、階級は?」

「えっ、(みずのと)ですけど」

「癸!?なんでそんな新米が!?もっと強い人をっ!うわぁあ!?」

「どうしたんですか!?」

 

ザザッと音が聞こえた。焦るような心拍音と汗が吹き出す音。まだ!まだ繋がってたんだ!と焦り出す隊士を他所に、その身体がぐいっ!と引き上げられるように宙に浮いた。あまりの事に呆然としてた炭治郎は必死にそれを追いかけて手を掴もうとするが遅く空高く飛んでいく。あの隊士はどこに落ちていくんだろうか?と軌道から落下地点を推測してその付近を探り……ぞくりと背筋に悪寒が走った。

 

「(まさか、これはっ!)」

 

このままにしておくと十中八九あの隊士は助からない!鬼に弄ばれて食べられるからではない!文字通り魂から食い殺されるからだ!

そう判断した刹那に脚に呼吸を回し、力を入れる。そうしてできたバネの力を瞬時に解放して、刀を出現させながらその隊士へと近づきキラリと見えた糸を切る。そして魔力放出で勢いを殺し、方向転換。隊士を抱き上げて地面に着地した。

ビリビリ、と魔力放出の余韻によって溢れ出た魔力が辺りを焦がす。隊士を下ろして、俺は立ち上がった。

 

「善逸」

「はい!!」

「私は先に行きます」

「はい!!……は?」

 

反射神経で答えたであろう彼にニコリと笑ってから、もう既に納刀してある刀へと手を添えた。カチャリと音が鳴る。

 

「この隊士が飛ばされそうになった先に私が戦うべき者がいます。この山にいる鬼でも、ましてや鬼殺隊最高戦力である柱でも敵わないであろう相手……サーヴァントにしか務まらない相手が」

 

この隊士が飛ばされそうになった先にいたのはサーヴァントだった。それもとびきり邪悪な、言うなれば混沌・悪かも知れない程に歪んだ霊基を持つサーヴァントがいる。あの気配は、聞こえてきた音は途轍もない異常だ。

 

「どういう……?」

 

疑問に思ったのだろう。表情を青くしながらも此方を真っ直ぐ見つめてくる彼から視線を外し、山をジッと睨みつけた。

 

「サーヴァントがいます」

「ッ!」

「人を食べたサーヴァントが」

 

鬼じゃないのに人を食べるの?なんていう疑問符が飛んできている気がしたので、アレが居る場所を失わない様に監視しながらもふぅと息を吐く。今は時間がない。簡潔に、冷静に説明をする。サーヴァントの魂喰いについて。

 

「サーヴァントが現界するには魔力が必要と言いましたね?」

「うん……」

「魔力を補う方法は主に契約したマスターから供給されるのが一般的ですが、それでも足りない場合は霊脈という魔力が通る道から取り上げる等様々な方法で補います…………その中で一番外道で、残酷で、非道なのが魂喰い」

「たましい、ぐい?」

 

静かに聞いていた炭治郎が思わずといった様に声を上げる。彼にはサーヴァントのなんたるかは教えてないのに、何故か静かに聞いてくれて居る。隣の伊之助も空気を読んだ様に声を上げない。寝転がってる隊士も同様だ。

何かと長い付き合いになりそうな炭治郎達には後で説明しないとな、と心の中で予定を決める。

 

「魂喰いとはその名の通り、魂を喰べること。魂とは情報の塊、つまりその人自身の魔力の塊です。それを吸収し、魔力を補う」

「それってつまり」

「えぇ、人を殺すと同義。それを行なってるサーヴァントがいるという事です」

 

見た目的には人を喰っているのと変わらないのでただのカニバリズムにしか見えない。それを言ったら鬼もだけど、サーヴァントは鬼じゃないからな。鬼の気配がしない者が人間を食べていたら、鬼殺隊は殺していいか迷う。鬼というわかりやすい異形ではない、ただの守るべき人が人を食べてるという絵は動揺を誘う。アレは鬼を斬る役目を持つ者が相手するものではない。

くるりと振り返って未だ三角座りしている善逸の下にまで歩いて行く。片膝をついてしゃがんで、頭を撫でた。

 

「ですので、私は別行動です。危険になったら呼んでください、私はマスターの矛であり盾だから」

 

ふっと微笑んで立ち上がった。

 

「行ってくる、マスター」

「セイッ」

 

善逸が俺を呼ぼうとしたことを無視して俺は彼らの目の前から消える。ただ移動しただけなんだが、きっと彼らの目には消えた様に映っただろう。ずっと後ろで聞こえてくる彼らの声を聞き流しながら、目の前を見据える。

さて、英霊になって初のサーヴァント戦だ。

 

「(善逸(マスター)の危険は排除する、それだけに俺は)」

 

恐怖で止まりそうになる脚を必死に動かしながら、俺はただただその場所に向けて走った。

 

 

 

 

 




伊之助が動いてくれない……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。