俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第三節 蜘蛛に紛れて蛇が這う。2/4

 

 

駆ける、駆ける、駆ける。

ただの身体能力のみで駆ける。魔力はまだ温存しろ、速く駈けつけろ。これ以上被害を出す前に、尻尾をつかみ損ねる前に。

耳を澄ませ、気配を探る。近づいてきたのがわかったので木々へと飛び移り、音を出さないようにして静かに迅速に移動した。やがて森の中で不自然に開けた場所に出て脚を止めた。

 

「ッ!」

 

思わず息を呑んだ。ぐちゃり、ねちゃり。倒れている隊士の中に手を突っ込み、掻き回してから何かを引き抜く誰か。夜目が利くのでハッキリとそれが見えてしまうのが恨めしい。ぶちぶち、と嫌な音を立てて引き抜かれた心臓はその可憐な口の中へと消えていく。じゅるり、生き血を啜り小さな喉が上下する。

あぁ嫌な光景だ。生前散々グロ耐性が付いたと思っていたけど、鬼じゃない時点でちょっと吐きそう。中には何もないので吐いても何も出てこないが。

 

「んぐ。ふぅ……やはり足りませぬな、お館様の上質な魔力には及ばない。仕方ないとはいえ、このままでは……」

 

あのサーヴァントはやはり誰かに召喚された者らしい。しかし事情からして魂喰いをしなくてはいけなかったのか。相手方の事情は良くはわからないので通常放置するが、ここに来る隊士を喰べるってのなら話は別だ。マスターにも危険が及ぶ可能性がある。

トン、と木の枝を蹴ってそのサーヴァントの少し離れた場所へと降り立つ。静かに降りたけれど、やはり相手もサーヴァントだ、バレたらしい。隊士の死体から離れて何かを構えた…………アレは短刀か?ならば忍?少し暗くて見えないけれど、光るそれは確かに刀だった。

 

「何奴!?」

「それはこっちのセリフ。魂喰いなんてする外道なサーヴァントは誰だっての」

 

そう呟きながら一歩近づくと、ずっと曇っていた空が晴れて月明かりが辺りを照らした。そうして見えて来る相手方の顔を見て、は?と驚いてしまった。アサシンだろうからしてハサンの誰かだとは思ってたけど、そうだよ、今じゃ普通の聖杯戦争は行われていない。ならば決まってアサシンを呼べばハサン・サッバーハだとは限らない。他のアサシンクラスが呼ばれる可能性だってある。それに構えてる武器がどう見ても日本のものだ。

短刀ではなく脇差を構えたその人物は見覚えがあった。俺はまだ記憶力の良い方だ、遥か昔と言って良いほどの前世での記憶。どう暮らしていたかなんて覚えてないけれど、この世界での事はまだ朧げながらも覚えている。Fateもそうだ。だから見たことがある、目の前の彼女は俺が持っていた端末の中にもいたのだから。

緩く纏められたツインテールに右目を隠す眼帯、頭には花を模した大きな飾りが付いており、身に纏う装束は忍らしく動きやすそうな形だ。一言で言えばノースリーブの着物で、帯の代わりに大きな縄がその腰に巻き付いていた。特徴的な袴を履き、その隙間から見える足には何か黒い帯が巻き付けられている。

極め付けはちらりと見える縄の締め後の様な痣に、彼女から聞こえて来る蛇のような音。

敵前なのに顔を覆いたくなった。少し予想外すぎる。彼女が召喚されていることもそうだが、彼女が魂喰いをしている事も。そりゃぁ忍だから人の生き死には慣れているだろう。しかしこうして人目も憚らず喰べていたという時点で何かがおかしい。忍なのに忍んでない……どっかの音柱かな??

 

「(アサシン、パライソか…………真名は確か……あぁー、パライソっていうのが印象強すぎて覚えてない)」

 

まぁわかったとしてもあまり役に立たないだろうけど。

 

「その黒い服、刀。お館様が言っていた鬼殺隊か?しかしその気配、サーヴァントでござるな?」

「そう言うお前こそ、サーヴァントだよな?誰に召喚された?」

「教えると思うでござるか?」

「いいや、マスターを守るのがサーヴァントだ。教えてくれるわけないと思うぜ」

 

だから。

 

「聞き出してやるに決まってるだろ!!」

 

---壱ノ型 霹靂一閃!

 

脚に力を入れて最初からその頸を狙う。雷鳴が辺りに響き、閃光が俺を包んだ。慣れたこの動作の後には必ずと言っていいほど敵の首が転がっていたが、相手は鬼でなくサーヴァントだ、軌道を逸らされて斬らされたのは彼女の後方にあった大木。木が焼け焦げた匂いが充満する。

 

「危ない、危ない。咄嗟に刀を添えてなければ拙者の頸が跳んでいた。鬼殺隊とは皆、こうであるのか?そうならば、お館様の身が危ぶまれる」

 

振り返った先で笑うパライソ。やっぱり知っている彼女と何処か違う気がする。確か彼女は混沌・悪という属性持ちだし、ストーリーでは間違いなく悪役ではあったが忠誠心がとてもあり、忍ということを除けば混沌・悪?なんて首を傾げる程の良い奴だった気がする。俺の記憶が彩られていなければ、だが。

 

「どうだろうな、鬼殺隊とは力比べしたことないからサーヴァントにどれだけ迫るかはわからん」

「なれば貴様の首を取れば、お館様の身はより安全になるという事でござるな」

 

此奴はマスターの事をお館様と呼ぶ。そして鬼殺隊の戦力を気にして、サーヴァントであり鬼殺隊である俺が倒れればマスターが安全になると言っていることから敵対勢力に属してることがわかる……つまり、此奴のマスターは鬼だ。

で、鬼が潜んでいるこの山で鬼が用意した鬼殺隊を貪っている。という事から、この山の鬼がお館様だってのが推測できるけど、いくらなんでも早計すぎるか。問い質しはしない。まだ気を緩めている相手が自分から情報を零すまで、我慢しろ。

 

「覚悟召されよっ」

 

脇差を構えて瞬時に移動してきたパライソに面食らう。だが驚いている場合ではない、忍なのだから静かな速さは彼方の方が分があるだろう。気を緩めるな、既に戦闘は始まっている。

まずは小手調べと言う様に胴体めがけて振るわれた脇差を同じく刀で弾き、返す刀で振り下ろした。余裕で躱されるが、気にする事なく納刀した。

 

---霹靂一閃 二連

 

少し後ろに下がったパライソを置き去りに頭上に飛び上がり、魔力放出で空中で翻した。ほんと魔力放出って便利、充分に魔力が与えられていなければ出来ない芸当だけれど。

空中から彼女の頸を標的にぐっと脚を力に入れて霹靂一閃を放つ。

 

が。

 

「それちょっと卑怯じゃない!?」

「卑怯なものか、これは拙者の宝具の一部であるからな」

 

黒い炎で包まれた巨大な蛇が俺の刀を防いでいた。するりと刀をずらして地面に着地、瞬時に離れる。彼女を見ると巨大な蛇の頭は消えていた。宝具の限定的な展開らしいが、厄介な事この上ない。宝具を小出しできる時点でできない奴とは地力が違う。消費魔力も違うだろうけど、そんな事を気にする性質でもないだろうな……ずっと此方を見ている。

シィイイイ、口から空気を吐き出す。途端に目の前に迫った彼女の頸、ではなく腕に刀を滑らした。しかしまた蛇に防がれ、少し離れてからまた接近する。ヒットアンドアウェイを繰り返すが、傷を付けられそうにない。彼女に隙がないのだ、その隙が現れるまで決定的な傷を付ける事は出来ないだろう。

 

「はは!はははは!!その程度か!その程度か!!!」

 

やっぱなんかキャラ違うくない!?

心の中で突っ込みながらもその言葉を無視して、攻撃をするがまた防がれる。体勢を立て直す為に一旦離れるが、今度は私だと言うばかりに苦無を大量に投げてきた。それら全部は黒い炎に包まれており、うねりうねりとまるで蛇を思わせるような有り得ない軌道で迫ってきた。着弾する直前で避けても、追いかけてくる。そして増える苦無達、いや巫山戯んな!?

仕方なく踵を翻し迎え撃つ。刀を素早く抜き取り苦無を叩き落とす。地面に突き刺さるそれらを見届けてから、パライソに迫る。キィイン!と金属が震える音が響き、動きが止まった。敵の脇差と俺の刀で鍔迫り合いになる。

 

「拙い!拙いぞ!刀での斬り合いは苦手でござるか!?そんなのでは拙者には勝てぬぞ!貴様の刀なぞ、ライコウ殿に比べれば幼子にも等しい!!」

「うるっ、さいな!もう!!!」

 

身を引いてくるりと回る。後ろ手で斬りつけるがそれすらも躱された。相手も脇差で斬りつけてくるが弾き俺も斬り返す。そして同じく弾かれ、返す刀で袈裟斬りをしてくるがそれは下がって避けた。

 

はずだった。

 

「ぐっ」

 

痛みが走る。左下から斬りつけられたそれは躱しきることなく切り傷を作ってしまった。隊服が破れ腹から血が流れる。丈夫な繊維でできた隊服は俺がサーヴァントになっても受け継がれているが、やはりサーヴァント相手には意味ないらしい。元から強い鬼にはあまり意味をなさないらしいし、仕方ないと言えるのかも知れないが。

切り傷を押さえて止血の為の呼吸をする。魔力も回して回復を施した。治癒魔術はできないけれど止血の呼吸は生前からできていたので、それに魔力を加えることによって自分限定で治癒魔術っぽい何かはできるようになってたのだ。生前欲しかった能力だなこれ。

傷が塞がったのを確認してからパライソを見る。彼女の手には脇差ではなく打刀が握られていた。あれで間合いを騙したらしい。避けられない筈だ。

 

「いつの間に刀を」

「拙者は忍故、武器の入れ替えなど造作もないでござる。しかし、種を明かすならばただ霊体化を解いただけのこと」

「夢を壊してくれてどうも」

 

身体の何処かに隠せるサイズじゃないもんなそれ。某忍者漫画みたいに巻物に封じ込めてるとかそういうのは無いんだろうな、わかってる。わかってるよ……生前に音柱が鼠を通して諜報活動してたからって、忍に結構夢見てたとかそんなんじゃないから!

シィイ、息を吐く。雷が落ちて目前にパライソが迫る。しかしそこに現れた何者かの頸を斬り落としてしまった。ハッとして離れると彼女の前には死んだはずの鬼殺隊が首が無い状態で立ち塞がっていた。

 

「酒呑殿に聞いていたが、ここまでとは。生きていた頃によって身体能力が変わるのでござるか?」

 

今ちょっと聞き捨てならない名前が!なんならさっきも不穏な名前があった気がするけど!それよりもだ!

 

「何あれ、気持ち悪ッ」

 

立ち塞がった首の無いはずの鬼殺隊が刀を持って迫ってくる。斬り落とした首の断面からは黒い何かが溢れ出ていた。泥のような何かはしきりにこぷりと溢れ出ては、地面にある草木を枯らしていっていた。

振り被られた刀を避けて退がると、他にも死んでいた二名の隊士も立ち上がった。その目は虚ろで聞こえてくる音もあの気持ち悪い泥の音以外は聞こえてこない。なのに動いている……視覚と聴覚の齟齬に吐き気がした。

 

「一体全体どうなってんのさ」

 

思わずそう呟く。

首が落ちた隊士からすると頭が司令塔というわけでも無いようだ。落ちた頭はずっと放置されているし、隊士の一人は頭の首が折れていて文字通り首の皮一枚で繋がっているかのようだ。いやキモい、気持ち悪い。これ昔の俺だったら気絶してる。それぐらい気持ち悪い。

月の光に反射しているはずの蜘蛛の糸は見えないので、この山にいる鬼が操っているわけでは無いのがわかる。となれば原因はただ一つ、あのドス黒い泥だ。いやちょっと意味がわからない。ケイオスタイドですか?違うよね、ラフムいないし。あの新人類はちょっとまだ早いと思う。

 

「そこの忍サーヴァント!これが何かわかんなら教えてくれ!!」

 

何かわからないなら敵に聞こう。もしかしたら答えてくれるかも知れないと、やってくる刀を去なして声をあげる。彼女はこちらの様子を見ながらふむ、と思案した。やがて答えが得たのか、一つ頷いてからこちらを見る。

 

「教えても損はないと判断した。それらは拙者達が殺した者がなる現象でござる。詳しいことはわからぬが、一定時間経つと動き出し生物を求めて歩み出し、見つければ殺す。そしてそれに殺された者もまた同じようになる。酒呑殿が面白いとそれで一つの村を滅ぼしていたそうな。あとそうなった者の血肉は臭くて不味いが癖になると評判でござるな」

「最後の情報は別にいらなかったかな!!!」

 

というか鼠算式に増えるのかよ!!鬼より厄介だな!!!日輪刀で頸を刎ねても死なないしさ!!!

というか拙者達って言わなかったかこの忍。さっきから出ている名前もそうだし、この現象の原因であるサーヴァントっぽいのが何人もいるという事だろう。しかも人を殺すのに抵抗は無さそうだ……村一つ滅んだって言ったし。えっ待って、その村に鬼退治に行った鬼殺隊は無事か!?嫌な予感しかしないんだけどもう!!!

 

「あ、滅んだ村の住人は全て酒呑殿と茨木殿が食べていたでござる。拙者も同伴に預かれば良かったかもしれぬな」

 

バキ!と隊士の脚を折り千切って食べ始めた彼女から全力で目を逸らしながら、それ!先言って!!!と言いたくなった。全員が鬼の腹の中とは少し、いや大分不謹慎だけど安心した。これが広がるよりはまだマシだ。

迫ってきていた一人の隊士の腕を俺は刎ねる。日輪刀と斬れた腕が宙を舞うが、そんなのも気にせずもう一つの腕で攻撃してこようとするそいつの腹を思いっきり蹴った。後方にあった大木に盛大に打ち付けるが、それを気にする事なくまた立ちあがる。

頸を刎ねても、腕を斬っても、脚を千切られても動くそれらにやはり死んでいるのだと認識した。生きているのならもう既に絶命してるし、痛みで呻いている。傷口の断面図からはもう中身それしかないんじゃないかってぐらいに、泥が溢れ出ているしで。

仕方がない。

 

「死体すら残らないけど、勘弁してくれよな」

 

もし親しい人とかいたならごめん。遺品さえも残らないかも知れないから。

納刀した刀を持って壱ノ型の構えをする。雷の呼吸独特の息の吐き方をして、全身から魔力放出をした。

 

---雷の呼吸

 

「捌ノ型」

 

脚に力を入れて踏み込み、そして轟音が鳴った。

 

---旋風迅雷(せんぷうじんらい)ッ!!!!

 

竜巻が辺りを覆う。

 

 

 

 




ちょっと口調がわからない、パート3。パライソちゃんウチのカルデアにはいないもので。

ところで残酷描写入れてるけどR-15も入れておいた方が良いのだろうか。
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