俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「今回は柱合会議の前に裁判があります。お館様からはその時に其方の話を伺うと」
場所は此方です、と隠の人に案内される。俺の宝具であるチュン太郎を通じてお館様へ直々に話を聞いてもらうように手紙を送った後、隠の人が派遣されてきた。了承を得られたのでこうして本部へと足を運んでいた。
「ぐれぐれも柱の方やお館様の手前、粗相のないようお願い致します」
案内されたのは裏庭。生前と変わらない風景にお面の下で目を細める。ここの手入れはいつも大変だろうなと思っていたんだ。生前は他の柱が怖すぎて考える余裕はあまりなかったけれど。
「おやめください!風柱様!勝手に持ち出されては!」
「ハッ!何を丁寧に扱う必要がある?この中にいるのは鬼だぞ?」
そうして裏庭に入った瞬間に見えた白銀の髪を持つ傷だらけの男と、持っていた箱を取り上げられる隠の女性。うわ、女性に乱暴するとか万死に値すんなあの柱なんて思いながら見守っていると、彼が広めの裏庭の方へ、数人の強者の音がする方角へと歩いていく。
自慢げに持ち上げる箱をなんとなしに見ると……あれ、あれって禰豆子ちゃんが入ってる箱だよな?なんで柱が持ってんの?
嫌な予感がして案内してくれた隠の人が静止してくるのを無視して小走りで後を追う。そうして曲がり角を曲がって明るく広い場所に出たと思いきや、怒りや驚愕、恐怖という感情の音を放つ寝転ばされている炭治郎とその目の前で刀を抜き放ち箱へと刀を突き刺そうとしている柱の姿が目に入った。
それを見た瞬間プツン、と何かが切れる。景色がスローに流れている。スゥと息を吸って右手を刀の手に添えて抜刀。トン、と地面を蹴って緑色をした柱の刀をすれ違いざまに弾いて禰豆子ちゃんの箱を奪い返した。そのまま炭治郎の前に立ち、納刀。
チンと音が鳴り、景色が元に戻った。
「あ?」
「えっ」
風柱と呼ばれていた奴と後ろにいた炭治郎の驚いた声が耳に届く。他にいた柱や隠の人の驚愕した音も聞こえた。
炭治郎の側に禰豆子ちゃんをそっと置いて、庇うようにもう一度立つ。炭治郎にセイバーさん?と呼ばれたけれど無視して、風柱の方へと向いた。
「テメェ、今何したのか分かってんのか?何でここに柱でもねぇ隊士がいるのかは知らんが、テメェがやってんのは隊律違反だって知ってんのかよ!テメェも切り刻むぞ!!」
「やれるもんならやってみろよ」
びくり!と後ろの炭治郎の身体が揺れた気がしたが、気のせいだろう。俺は今、怒っているけれど別にお前に対しては怒ってないのだから。そう目の前の男に怒っているのだ。
あぁ、あぁ思い出したぞ。風柱、不死川実弥。読み方はしなずがわさねみだ。漢字だけ読んでも本名にたどり着けないやつ。いや、大体の柱がそんな感じなんだけどもそれはともかく。
その見た目と裏腹に常識人だし、他の柱より関わりが少なかったからすぐ思い出せなかった。禰豆子ちゃんを傷つけようとした時点で思い出す価値もねぇけど。
「私は、怒ってんですよ。鬼だから頸を跳ばせ、敵である鬼を連れてるから粛清を。鬼殺隊として柱として何一つ間違っちゃいない」
「だったらその鬼寄越せ」
誰があげるかバーカ。
「何一つ間違っちゃいないですけど!だったらすぐさま頸を飛ばせ!何故突き刺す!何故此奴を試すような真似をする!!アンタのやってる事は粛清じゃねぇ!!!ただの遊びだ!!!!」
「此奴に鬼を連れてる意味を教えてやんだよ!!!」
「はぁ!?その為に甚振って痛ぶっていたぶって!!それから殺すってか!?んなの快楽殺人鬼と何ら変わりねぇでしょ!!!アンタが鬼に何の恨み辛みがあるかは知りませんが、こんなことしてる時点で鬼と同じだわ!バーカ!!バーカバーカ!!」
「子供か!!!!」
風柱を指差してひたすら罵倒していると相手から突っ込まれた。仕方ないだろ、子供並みにしかボキャブラリーがないのだから。
「おやめください!!風柱様!聖刃様!他の柱の方々の前ですし、何よりお館様がもう少しでいらっしゃいます!」
「だって此奴が!!」
「子供ですか!」
隠の人にも言われてしまった。俺ってそんなに子供ですか……これでも善逸の保護者としてやってきたんですけど。周りにはお兄ちゃんねなんて言われてたんですけど……良くしてくれたおばちゃんにだけだけど。
わりとショックを受けてしゃがみこみながら地面の砂利に縁を描いてると目の前にいた筈の風柱がいなくなっている事に気付いて、刀にそっと手を添えながら立ち上がる。背後を振り返ればまたもや刀を突き刺そうとしている風柱の姿が。へぇ、ほぉ?またやっちゃう?
チャキンとはばきが鯉口に納まった音が響いた。
「っ!」
「私がいる前で傷付けられるとは思わないでくださいね」
怒りが一周回って冷静になった。お面の下でにこーと笑いながら勢い良く振り返った風柱にそう言ってやれば、その怖い顔が歪んでいた。聞こえてくる音は気持ち悪さと、恐怖。そっとしのぶさんを見てるところから見ると、彼女に恐怖を抱いているらしい。アンタ傷だらけだもんな、鬼殺隊の医療を任されているしのぶさんに何かされたんだろうきっと。ははは、可哀想に。美女に迫られるシチュエーションか、ははは想像しちゃったじゃねぇか羨ま死ね。
「テメェ、さっきと雰囲気が違うじゃねぇか」
「あぁ、これが素なんですよ。言ってませんでした?」
「嘘吐け!!!!」
そう叫んで斬り付けてくる風柱の刀を防ぐ。何回も何回も何回も斬りつけてくるから、その分だけ抜刀と納刀を繰り返して防いだ。身体的には疲れないけれど精神的には疲れるんだからやめてほしい。居合というのは普通に抜刀して斬りつけるのよりも行程が多いのだから早く終わって欲しいものだ。俺は居合しか極めなかったから普通に斬りつけようとしても確実に防がれてしまう。それに他よりも素人な太刀筋では、彼の斬撃すらも防げるかはわからない。居合だからこそってのもある……まぁカッコつけたいだけなんだけど。
「くそッ!(此奴が刀を抜いたのが全くわからねぇ!防がれてるから抜いてんのは確実だが!)」
キッと風柱に睨みつけられる。やーい小物感。
「あらあら、あの不死川さんが傷を付けられないなんて……彼、何者でしょう?」
「よもや!よもやだ!不死川を相手にあの余裕!!うむ、継子に欲しいな!!」
「はは!髪も羽織も派手で良いじゃねぇか!」
「(あの雲なんだっけ……)」
「あぁ、あの強さを持ちながら鬼を庇うのはきっと鬼に惑わされているのだ。あぁ可哀想に……」
「(あの人あんなに強いなんて、なんて素敵……私より強いのかな?)」
「チッ、不死川は何をやってるんだ。柱でもないそんな奴相手に手間取ってるなんて、腕が鈍ったんじゃねぇか。柱が情けない。例え柱になっても鍛錬を怠らないのが普通だろう。そもそも其奴ばかり狙うのが駄目なんだ、鬼を狙え鬼を。その隊士の相手はその後で良いだろ」
「……………………(誰だ?竈門の知り合いか?」
「(凄く冨岡さんに見られてる……!)」
柱の皆さんに何かめっちゃ言われてるけど、無視しよう。良い加減飽きてきたし、お館様もやってくるだろう。遠くから畳の上を歩く音が聞こえてきているし、襖を開けている音も聞こえる。軽い音が二つに、ゆっくりと歩む音が一つ……多分これがお館様だ。
「(あれ……?)」
もう三つも足音がある。音の大きさからして、年は若い。誰だろう。さっきの三つはお館様とその娘達だとはわかるのだけど。
不死川の斬撃を防ぎながら目を閉じる。彼から聞こえる音にも注意を置きながら、その三つの音の持ち主を探る。伊之助の様に気配を探り、ぞくりと背筋に寒気が走った。つぅと冷や汗が頬を流れる。やばい、これはやばい。なんでお館様と一緒にいるの。なんでこの時代に……俺以外の。
「なん、で」
サーヴァントがこっちに向かってくるの。
「余所見していて良いのかァ!?」
「しまっ……!」
思わずお館様が向かってくる側を見ていたからか、風柱の斬撃を防ぐのを忘れてしまい首に迫り来る刀を受け止めそこなった。ガキィイイン!!と首から振動が脳に伝わる。思わず頭を抱えた。
「なっ!はっ!?」
驚いているらしい。魔力も乗らない斬撃なんてサーヴァントに効くはずもないのに。あぁいや俺がサーヴァントかなんて知らないもんな、ごめん。元からお前の斬撃は防ぐ必要性もなかった。
きっと鬼ならばスパーンと綺麗に飛んでいたであろう頸をコキリと鳴らす。風柱の刃にゆっくりと指を添えるが、俺の親指が刀の先端を滑ってもまるで切れる様子もない。俺としては幼児用の鋏に手を添えてる気分だ。
首からその刀を離して風柱を見る。鬼の気配もしないのに刀を首に受けて死なない人間がいるなんて思っても見なかったのか、ずっと驚いたままだ。そんな彼の間合いから離れて炭治郎の前に立つ。もうすぐこっちにくるはずのお館様とそれと一緒にいる人間とサーヴァント。何がなんだかはわからないけれど、白髪の少女達がお館様が来たことを告げた。
一斉に頭を下げる柱達の中、禰豆子ちゃんが入った箱を持って柱達の後ろへと後退する。一応この場の主役である炭治郎は放置だ。本当は後ろに来させたら良いんだろうけど、何言われるかはわからないので放置。ごめん炭治郎。禰豆子ちゃんは俺が守るからさ、許して。
跪きこうべを垂れる柱達に続き、俺は立ちながら礼をする。童子達にはバレるが、彼らがお館様へと告げなければお館様は何もわからない。まぁ一応、今の主人以外には頭を下げたくないっていうのもあるしな。
変なところでプライドあるなって?俺は矛盾した存在である、わきまえよ。
「久しぶりだね、私の子供達。半年に一度の柱合会議を顔触れが変わりなく迎えられたことを嬉しく思うよ」
ゆらゆらと鼓膜の奥に届き脳を揺らす音が響く。人の脳に直接作用するこの声は、耳が良い俺にとって毒も同然で、意識が持っていかれない様に下唇を噛んで我慢する。普通の人達でも無条件に彼を慕いたくなるものだ。人の何倍もの音を拾う俺がどうなるかは考えたくもない。
生前柱になって任務も嫌ではあったけど、お館様に会うのも嫌だった。だってしっかりと意識を保ってないと自分の意見を満足に言えないし、何でもかんでもお館様の言葉に頷いてしまうかもしれなかったからだ。他の柱は怖いし、お館様の声に無条件に従ってしまうのも怖かった。いや、尊敬はしてるんだけどね。
「お館様もお変わりないようで安心致しました。つきましてはお館様、この隊士が連れている鬼についてと、一人部外者がいる事についてをお聞きしたく存じます」
部外者って俺ですかね。
「うん、まずは炭治郎と禰豆子についてだね。この二人については皆に認めてもらいたかったから連れて来たんだ。 一度皆の意見を聞きたいんだけども」
そう言って見えない目をそろりと動かすお館様。彼に見られた柱達は順番に意見を述べていったが、流石に反対派多数というところだろう。鬼殺隊として、柱として認めるわけにはいかないと。至極当然の意見だ。寧ろ俺みたいに鬼でも受け入れてる方がおかしいのだろうな。
お館様はそんな彼らをわかっていたらしく一つの手紙を取り出した。横にいた童子がそれを広げ読み上げる。送り主は元柱の鱗滝左近次さんだった。鱗滝さんは水柱である冨岡義勇と炭治郎の師だ。俺も座では会ったことがある。このお面を作ってくれた人だ。身バレして弱そうだからと狙われたくない、強キャラ感出したいと泣き付いたら、ため息を吐きながら作ってくれた優しい人である。彼自身も天狗のお面を被っているのだがその理由が顔が優しすぎるからとか何とかで、多分俺の言い分に共感してくれたんだろうなとは思ってはいる。
そんな彼からの手紙であり、内容は炭治郎が禰豆子ちゃんを連れてる事を了承して欲しいという事と、もし禰豆子ちゃんが人を食べてしまったら殺して鱗滝さんと冨岡さんが腹を切ってお詫びするというもの。勿論その中には炭治郎の名前も入ってはいるが、重みは鱗滝さんや冨岡さんの方が重いだろう。何せ元柱と現柱だ。その違いは比べ物にならない。
腹を切る……致命傷にならない為に死ぬまでに時間がかかるし、何より腹の中に血が溜まる感覚というのは嫌なものだろう。どくどくと本来生きる為に脈打つ心臓が死に近づけていくのも、聞いていて耳を塞ぎたくなるものだ。時は大正、時代錯誤にもほどがあるけれど……今回の件はそれ程の事なのだと理解させられる。
しかしそれでは納得しないのが柱達で。
「納得できません。死ぬなら勝手に死ねば良い!此奴が隊律違反をした事には変わりありません!」
「うむ!不死川の言う通りだ!ここはスッパリ頸を斬るべきです!」
「頸斬りなら任せな!派手に飛ばしてやる」
「鬼は全て滅すべきだ。誰が何を言おうとそこに例外はない。お館様、どうかもう一度ご一考を」
「考えを変える気は無いよ、小芭内。それに炭治郎は鬼舞辻無惨に会っている」
その情報に全員が驚く。声がやたらとでかい奴らは炭治郎にどんな容姿か、どんな力を持っていたのかを聞いてきているが、それがわかっているなら確実に殺されてるだろう。鬼舞辻無惨は自分の情報が漏れるのを嫌がるからだ。そこまで知られたなら生かしては置かないはず。ここに炭治郎がいる時点で情報はほぼないと言って良い。まぁ容姿はわかるだろうけど、大体あいつ変えてるからなぁ。
勿論俺は知ってるけれど教える気は無い。
ほんのちょっとだけど尻尾を出した鬼舞辻無惨を獲り逃したく無いお館様は当然炭治郎や禰豆子を生かそうとする。きっと彼らが鍵になると確信してるからだ。
「私はね、鬼舞辻が出した尾を逃したくないんだ。きっと炭治郎には何かある、勿論鬼なのに人を食べない禰豆子もね。それに、そこにいるだろう聖刃も鬼舞辻に迫るものを持っている」
へ。
「君が出会ったサーヴァント、だったかな?それを遣わしたのが鬼舞辻というのは本当かい?」
いきなり俺に話題転換したんだが!?なんで!?嘘でしょ!!ずっと炭治郎のターンだと思ってたんだけど!!ずっとドロー!モンスターカード!じゃないのか!!!
いや、冷静になれ俺。話題を振られたんならば話さなければ。俺がここに来た理由は何も禰豆子ちゃんを守るだけじゃない、那田蜘蛛山で出会ったサーヴァントについてだ。明らかなイレギュラー。相手はアサシンだったし夜だしで苦労したけれど、何とか倒した。消滅する前に鬼舞辻の名前を言っていたから、あのサーヴァントを送って来たのは鬼舞辻だ。多分偵察のつもりだったのだろうけど、俺が感知してしまったばかりに消える事になってしまった。それだけはご愁傷様と言える…………初のサーヴァント戦でめっちゃビビったけどさ!
「本当です。消滅する間際、鬼舞辻の名を言っていました。そのサーヴァントは召喚した者に対して忠義を尽くす者、主人以外に謝罪を述べながら消えるとは考え難いですね」
考える仕草をしながらそう述べると、お館様はそうかと頷いた。しかし何故か此方に注目した柱の方々からの視線が痛い。ちゃんと答えたよ?俺。
「テメェ、さっきから思ってたが何故立ったままなんだ。お館様の前だぞ!?」
あ、そういうこと。
「確かに私は元々はお館様に仕えていました……けれど今は仕える方が違います。主ではない方に膝を着けない。申し訳ありません、無礼をお許しください…………まぁ仕えてる方は鬼殺隊に所属してるんですけども」
「じゃぁ跪けや!!!!!!」
「あいた!?膝カックンはないでしょう!殺意を感じましたよ!?さては攻撃全部防いだ事根に持ってますね!?」
「うるせぇ!!さっさと跪け!!!!!」
禰豆子ちゃんの箱を守りながら膝カックンの猛攻から耐えながらギャーギャーワーワーと風柱と戯れてると咳払いが聞こえた。けふんけふん、小さな咳払いが。思わず身体が硬直する。まるで俺にだけに聞こえるようにする咳払いには覚えがある。そんな、そんな馬鹿な事ある?
スゥと襖が開く音がした。そうだ、ここにやって来たのは合計六人なのに何故か三人しか出てこなかった。親方様と童子達だけ。サーヴァントの気配のする二人と人間一人は襖の向こう。少し警戒してたんだけど……いや、いやいやいや!何で気づかないの俺!?そんな事ある!?嘘すぎでしょ!!!
こんな泣きたくなるような優しい音出す奴、あいつしかいないじゃん!!!!
「お館様の御前だぞ?善逸」
「た、ん……じろ」
襖の隙間からスゥーと細められた目に俺は固まるしかなかった。
後でお館様に、君も隊律違反してたよね?とやんわり言われることになるさねみん。
因みに日輪刀には薄っすらと神秘が宿ってますが、薄過ぎてわりと高い神性持ちの鯖善逸には効きません。
神性待ってなければ死んでた事に気付かない鯖善逸でした。
というか文字数!六千て!!倍!!