俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「(思わず視線を逸らしてしまった……!)」
絶賛混乱中の俺、藤丸立香(男)と視線を二度も交わしてしまい、両方とも逸らしてしまった。本物の立香だ!やべぇ!とか思ってたのをバレてしまっては気まずいからな!あんまり顔合わせたくありません!逸らす度に怒ったような音を出す向こう側の炭治郎は無視してだ!
そもそもここに俺以外のサーヴァントがいることに驚いてたのに、そのサーヴァントが炭治郎達だなんて聞いてない。しかも付いてるのはカルデア側。俺が召喚された時点で歪んでるとは思ってたけどさ、まさかカルデアが干渉してくるまでだとは思わないじゃん。しかもあれは第二部の衣装だ。目の前で投影された映像に映ってるのはロリのダ・ヴィンチちゃんだし。レイシフトなんて言ってるところからすると、時間軸はきっと第三章が終わった後ぐらいだろう。雀のお宿には行ったんだろうか、それとも第四章が終わった後?ラスベガスを楽しんだ感じ?別にいつでも良いけれど、俺のこの状況が変わらないからね。
『むー、思ってた反応と違うけれどまぁ仕方ないね。大正はまだ一般には西洋絵画が広まってないからね。君達を見るからにそういうのには疎そうだし、期待しないでおこう。でも後でこの名を思い出しても驚かないように。どちらも私だからね!』
それはレオナルド・ダ・ヴィンチの名前を知って、目の前のロリンチちゃんを思い出しても知らないからとかそういう。確かにダ・ヴィンチは万能の天才だ。その名は世界中に轟くほど、あれ程の天才はもうこの世には現れないんじゃないかってぐらいに。まぁ目の前に映ってるダ・ヴィンチはレオナルド・ダ・ヴィンチ本人ではないのだが。
ただ万能の天才とはいえ、その名が広く知られるのは絵画が主だ。最後の晩餐やモナ・リザが有名か。最初のはキリスト教のイエス・キリストを題材にした作品だし、その次のに至っては美しすぎる人物画。くるくる回る目の前のロリンチちゃんを大きくした感じだ。いや動くモナ・リザ見たかったけどそれは高望みというもの。ここに来たのはノウム・カルデアの諸君。彼はもういない。
『では、説明に移らせてもらおう。惚けてる時間はないよ?手短に行くから!あ、質問は話し終わった後に受け付けよう。あくまで、質問だけだからね』
にこにこと楽しそうに笑いながら告げるロリンチちゃんに抗議の声を上げようとした柱達だが、お館様が軽く片手をあげたことによって黙った。シーと指を口に当てて微笑むだけで、柱達を黙らすお館様、まじでお館様。怖すぎ。
『まず、彼らの正体を教えよう。彼らは人間じゃない、サーヴァントと呼ばれる使い魔だ。身体は魔力という見えない力で構成されていて、普通の攻撃じゃ傷一つ付けられないし、まず人間では敵わない程の身体能力を持っている。そこに寝転がってる炭治郎君と、立香君の後ろにいる炭治郎君の容姿が同じだからって同じ実力じゃない。天と地程も違う。きっと戦ってもすぐさま伸されると思うよ』
「ダ・ヴィンチちゃん、俺相手にプレッシャーをかけないでくれ」
『あっ、ごめんごめん!ちょっと悪戯心が出てきちゃった☆』
とんでもねぇダ・ヴィンチちゃんだ……!
『サーヴァントと言うのは、座に刻まれた英霊達を器に入れて喚びだすことによってこの世に現界する。英霊というのは、過去未来現在で歴史を変え、名を残した英雄の事を指す。そうだねぇ、この時代でいうと沖田総司や新撰組の事、あとは江戸幕府を作り上げた徳川とかそういう人たちが英霊となる。そしてそんな彼らを喚ぶんだ。簡単に言えば過去の偉人を喚んで使役してるって言えば良いかな?』
「それがどうして炭治郎君達と繋がるのです?」
『蝶飾りの君!質問は後でって言ったけど、まぁ君なら良いや!可愛いしね。前の私と同様、私も美しいものに目がない。うん、後でモデルになって!きっと前にはない良いもの描けるんじゃないかな!実力は届いてないし、そんな時間ないけども!』
キラキラと目を輝かすダ・ヴィンチにしのぶさんははぁ、と曖昧な相槌を打つ。きっとモデルという意味をわかってないのだろう、笑いながらも少し首を傾げていた。怒ってる音も聞こえてくるから、ちょっと後ずさってしまったけども。
『話を戻そうか。炭治郎君達のことだね。英霊達が刻まれている座というところには時間の概念がないんだ。今までの英雄達、これからの英雄達がいる。けど時代が進むごとに英雄というのはだんだん居なくなるから大体は過去の偉人を喚ぶのだけど、でも例外もある。つまり今現在、この大正からしての未来で英霊になった者を喚ぶことも可能だよ。確率は少ないけれど、喚ぶための触媒とリソースがあれば充分。きっとそこの金髪の彼はそうして喚ばれた。リソースは気になるけど、喚ぶための触媒は彼本人が生きた時代だから充分あるだろうしね』
で、だとダ・ヴィンチは続ける。
『こっちにいる炭治郎君は我々が召喚した。さっき言った通り、我々は未来から来た。つまりは大正に生きた彼は、私達の時代からすれば過去なんだ。召喚する事に何の抵抗もないね!』
「つまりそこの隊士は英雄になり得る事をこれからするってことか!!はは!この俺を差し置いて派手な事をしやがる!」
『まぁそうなるね。彼によると本当はちょっと違うらしいけど、最終的に座に刻まれるよ。妹の禰豆子ちゃんと一緒にね』
「む!」
あっちの禰豆子ちゃんがヨッ!と手を挙げた。挨拶のつもりだろうか、サーヴァントになれど精神は鬼の時に引きづられているらしい。確かに炭治郎の全盛期であろう姿に合わせたらそれが一番なんだろうけども。座で会った時は人間だったのにな。音も人間だった。人間に戻すって約束して成し遂げてみて、座に刻まれて喚ばれてみれば妹は鬼に逆戻り。何とも遣る瀬無い。
スッと視線を逸らす。俺は炭治郎がどうやって英霊になったのかを知っている。確かに彼は鬼の首魁である鬼舞辻を倒した凄い奴だけど、鬼殺隊自体は政府非公認、歴史の陰に埋もれる存在だ。勝てば官軍、負ければ賊軍とはこの事で、鬼の首魁が消えたのをこれ幸いと鬼なんていなかった事にしていた。数年がかりで鬼が完全に居なくなった後、鬼殺隊が解散した後でも歴史の資料には一切そんなものはなかったし、鬼殺隊の本部も他の人々から見ればただの凄い屋敷。鬼に関する資料は次代のお館様の命で残らず廃棄。これ以上鬼を生み出さないように、これ以上悲劇を繰り返さないように。
だから炭治郎が座に刻まれることはない。英霊になる事はないのだ…………彼自身が望まなければ。
俺?俺は柱として動いてた時に何故かカミナリ様だと思われて、伝承として残っちゃったんだよな。助けた人達が広めたんだと思うけど、それで祭り上げられた。でもそれだけで召喚される事はないとは思ってたけど。
『そんなわけで、この子達は本人だよ。ただ自身の生涯を生き抜いた先輩でもあるから、決して同じというわけではないけど……こんな感じでどうかな?Mr.産屋敷?』
「うん、皆も少しはわかってくれたようだから充分だよ」
くるりと見えない目で辺りを見渡したお館様は最終的に俺の方へと向く。そして目を細めてにこりと笑った彼は、ゆらゆらと揺れる声音で聖刃、と俺を呼んだ。脳内に浸透するこの声が少し気持ち悪い。
「いや、善逸。さっき言っていたサーヴァントの情報を全て言ってもらえるかな?」
その為にここに来たと言っていいのでこくりと頷く。
「サーヴァント、アサシン。真名、望月千代女。これが私が出会ったサーヴァントです。那田蜘蛛山にて鬼たちと紛れ、魂喰いをしていたところを発見し戦闘。勿論、打倒済みです」
ちらりと藤丸立香を窺うと、彼は驚いたように此方を見ていた。聞こえてくる音も同様だ。心の底から驚いているのだろう……まぁ知り合いのサーヴァントが敵に出て来たら驚くよな。しかもただのサーヴァントではなく、魂喰いを行なっていた。それがどれだけ非道なことがわかるのだろう、ぎゅっとズボンの裾を掴んでいる。
「その際、約三名の隊士が魂喰いにて命を落としておりました。私が駆けつけた頃には既に間に合わず…………申し訳ありません」
そっと頭を下げると、お館様はそうかいと呟いて顔を上げるように言ってきた。言葉に甘えて頭をあげる。
「私の子供達が亡くなった事は本当に残念だ……けれど、その命を無駄にはしてはいけない。まだ言うことがあるだろう?」
「はい。重要なのはその隊士達が一定時間を得てから動き出したことです。敵の術でもない、彼女も少し驚いていました。しかし少なくとも事情は知っているようで話してくれました」
誰かが口を挟もうとして来たが、お館様が手を上げて止める。今は俺に話させてくれるようだ。
「彼女曰く……自分達が殺した者がなる現象であり、その殺された者達は動き出すと生者を探し殺し、そしてまたそれに殺された者も動きだし生者を探す……という特徴があるそうです。また、その者らの身体からは泥のようなものが溢れ出ており、それらは周りの草木を枯らしておりました」
一旦、息を吸ってまた吐く。
「……明らかな異常。腹を突き破られているのに動く隊士は死んでいました。首を刎ねられても止まることなく、ならばと腕を刎ねても止まらず。最終的に細切れにする事で事なき得ましたが……」
手脚が震える。死体を蹴ると言っていいものを俺はしたのだ。思い出してみれば、罪悪感と人の身体を斬ったはずなのにまるで泥人形の頸を刎ねた様な感覚が手に蘇る。気持ち悪い、申し訳なさに包まれる。あの時は細切れに、とは思ったけど手脚斬るだけでもよかったんじゃないかって思ってしまう。いや、ま、それしたらあまりのグロさに気絶しそうだけどさ。
「今のを聞いたかい?聞いたことあるような話だろう?担当地域で似たような話を聞いたことある、という者は手を挙げて欲しい」
お館様の言葉で柱の人達が手をあげる。その数は二人程。少ないかと思われるが、あの泥の感染者が鼠算式に増えるとなると多い方だと思われる。
「何人、挙げたんだい?」
「二人です、お館様」
「不死川様と、宇髄様が手を上げておられます」
「そう……もう下げていいよ」
目が見えないお館様の代わりに隣にいる童子達が誰が手を挙げたのかを告げた。その報告を聞いたお館様は思ったより多いね、と呟いた。二人で多いとなると、一人だけだと思っていたのだろう。その方が俺もまだ希望的観測を取れるが、二人となるとそれだけ被害があったということ。担当地域を任されているとはいえ、柱に話が通るのはよっぽどのものだけだからだ。
「この現象と先ほどのサーヴァントこそが、鬼舞辻が新たに増やした脅威だよ。サーヴァントはカルデアの方々にしか対処不可能らしいからね、そちらを任せようと思う。だから彼らがもし協力を仰いできたのなら助けてあげて。そしてこの現象を耳にしたのなら迅速に対処を。それが彼らと手を結んだ理由だ」
詳細はまた会議でね、と呟いたお館様に柱の人達が御意と頭を下げる。一斉に下げた頭はどこか壮観だ。
「さて、話が逸れてたね。炭治郎と禰豆子についてだけど……まだ納得していないよね」
「その通りでございます。カルデアとなる者についてはわかりました……この怪しい面の者についても」
あ、怪しい面て俺のことですかね?
「しかしまだ隊士が連れている鬼については納得などしておりません」
「そうだね、実弥は実に真面目だ。だから……」
「む!」
「「禰豆子!?」」
風柱とお館様の話を遮るようにして、カルデア側の禰豆子ちゃんが立ち上がった。ピン!と手を上げて陽が当たる場所、つまりは庭へと出ようとしてきていた。それを見たサーヴァントの炭治郎と、寝転がってる炭治郎は驚いたように禰豆子ちゃんの名前を呼んだ。カルデア炭治郎は純粋な驚き、寝転がり炭治郎は悲鳴に近い声だった。
サーヴァントである禰豆子ちゃんは今の禰豆子ちゃんと姿形は一緒だ。だから鬼だし、聞こえてくる音は確かに異形の音だ。けれど日に当たっても死ぬことはないだろう。だって彼女はサーヴァントだ。
「むっ」
ぴょん、と跳ねて庭に降り立つ。鬼の気配をさせていた者が自ら日の光を浴びにきた事に柱の人達は驚きながら見ていた。しかも日を浴びても焼かれることもなくスタスタと歩く彼女に言葉を失っている。
そして俺の目の前まで来ると、むん!と言って両腕を差し出した。彼女は今サーヴァントだから、きっと生前の事も覚えているんだろう。人間に戻った彼女から聞いた話では鬼の時は記憶が朧げとは言っていたけど、鬼でありサーヴァントである今関係ないのかもしれない。
「良いの?」
そう言うとコクリと頷く彼女。むむ!と腕を更に伸ばす彼女は早くしろと目で語っていた。
「禰豆子ちゃんが良いなら、良いか」
俺は禰豆子ちゃん絶対守り隊ではあるけど、彼女自身の意思を無下にする程落ちぶれてもいない。彼女が良いと言うのならばそれに従う。それに痛いだろうけど危険ではない事だから、俺は素直に隣にあった箱を禰豆子ちゃんに渡した。
「むーむ」
箱を丁寧に手渡せば、彼女は微笑んだ後良い子良い子と言うように頭を撫でてきた。思わずポカンとすれば、眼を細めた禰豆子ちゃんは踵をくるりと回して屋敷の方へと帰っていく。え、待って?禰豆子ちゃんに撫でられた??嘘でしょ。
不味い、頬が緩む。駄目だ、笑うな。俯いて耐えた。ウェヒ、と口の端から笑いが溢れた気がするけど気の所為だ!うぉおおお、禰豆子ちゃんに頭撫でられたの久し振りだからって気が緩みすぎだろ!!!ぐ、俺はセイバー!俺はセイバー俺はセイバー俺はセイバー俺はセイバー。
「うぉ!?何だよ!!力強いな!クソ!」
「むー!」
何とか抑えてから顔を上げると、禰豆子ちゃんに脇に抱えられた風柱がいた。
「んぐっ!」
眉を顰めて、喉から湧き上がってきた何かを抑えつける。いやこれ吹き出さなかった事を褒めて欲しい。油断していたとしても一柱が少女相手に脇に抱えられるとかいう地獄絵図を想像してほしい。しかも傷だらけの形相の悪いガタイの良い男がだ。噴き出しそうになるだろ?他の柱も笑い堪えてるしさ。俺だけじゃないんだと思って安心する。
風柱を連れた禰豆子ちゃんは屋敷の中に戻ると、彼を座らせてから箱を開いた。起きていたのかのそりのそりと出てくる禰豆子ちゃんは目の前にいた禰豆子ちゃんに驚きもせずにこてりと首を傾げた。ぐぐ、と同じぐらいにでかくなった彼女はなでこなでこと自分自身を撫でている。そんな彼女に禰豆子ちゃんも撫で返した。禰豆子ちゃんがゲシュタルト崩壊起こしてるけど我慢してほしい。
「む!むん、むむ!」
「む?……むーん」
「むむむっ!むんむーん!」
「む!むんむん!」
何だあれ、天使かな?
むーむー言いながら身振り手振りで話す彼女らにほっこりする。可愛い、可愛いの権化だった。あそこが天国、ヘヴンだったんだ。俺って天国を覗いてるんだな……にしても要らないものが映ってるけど。
隣に座ってる風柱ほんと邪魔だな、画面外から消えてくれ。禰豆子ちゃんと禰豆子ちゃんのきゃっきゃうふふを邪魔するんじゃないよ。というか、傷と三白眼のせいで分かりづらいがあいつも結構顔整ってんだよな!なんだよ!柱って顔整ってなきゃなれない階級かな!?ってぐらい顔面偏差値が高い。まぁ俺がなれてた時点で顔面は関係ないとは思うけれど。彼の顔を画面越しに見ていた時は整ってるだろ?なんて思ってたけれど、いざ鏡で見たらそうは思えなかったんだよな。これが二次元と三次元の差か、なんて思ったり…………自分の顔と思うとより普通に見えてくるからまぁ不思議だ。
「むんむ!」
やがて納得したのか、箱に入ってた方の禰豆子ちゃんがふんす!と鼻息を出して頷いた。両腕を広げてさぁ!こい!という意思表示までして。それに頷き返したサーヴァントの禰豆子ちゃんは風柱から刀を抜き取った。彼女から聞こえてくる音には決意と、罪悪感が少し乗っている。そしてそんな禰豆子ちゃんを見たシスコンサーヴァントが禰豆子……!なんて涙目で口を覆っているのを見て、聞こえてくる感動の音に眉を下げる。
「(あいつ、これからする事わかってんだろうに……)」
なんでそんな感動してんだよ、とは思うけれど……だからこそという事はわかっている。
自分の意思でけじめをつける。そんな妹に感動や嬉しさと、少しの悲しさを含ませて熱い音を響かせている。わかるからこそ俺まで悲しくなる。
そこまで考えて、はぁとため息を吐いたのと。
---ザシュッ!
「む、……ッ!」
禰豆子ちゃんの肩を刀が貫いたのは同時だった。
ぽたり、と血が滴る。
痛々しいその姿に人知れず吐いたはずの息を呑み込んだ。
柱合会議編、終!
この後は認めて原作通り(カルデアや鯖善逸がいるが)普通に終わるので書くのもなぁと思った次第で、次回は幕間を挟んでの蝶屋敷編です。さて、マスターとの再会ですよ?善逸さんや。
おまけ。禰豆子ちゃんの会話。
「む!むん、むむ!」(あのね!ちょっと協力してほしい!)
「む?……むーん」(え?……えーと)
「むむむっ!むんむーん!」(お兄ちゃんの為!だから協力して!)
「む!むんむん!」(え!それなら良いよ!)
「む、むむ!むん、む」(私、食べない!のを証明するの)
「む〜ん?」(どうやって?)
「む、ん!む、ん!む、むむん!」(刀で、刺す!血、垂らす!でも、食べない!)
「むん!むんむ!」(なるほど!わかった!)
む、のゲシュタルト崩壊。
……映画化とか聞いてないぃぃいいいやぁああああああ!!!!!