俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第五節 雷に愛された男。4/4

 

 

 

「ん……」

 

パチリと目を見開く。窓の隙間から見えてくる光で朝だと気づいた。

朝、朝だ。聞こえてくる音からするとそろそろアオイちゃんが薬が入った湯呑みをもってこの部屋に来る。隣にいる伊之助はまだ寝てるし、奥にいる炭治郎に関しても疲れているのかまだ寝ている。彼女の事だから起こさずにいてくれるだろうけど、もう少し休ませてあげたいと思う。腕の中にいるこいつも、もう少し休ませたい。

 

「(サーヴァントと言えど精神的には疲れるって言ってたから……)」

 

多分セイバーも疲れたんだろう。昨日ずっと泣いていたし、炭治郎が帰って来ても気づかなかったから相当疲れてたんだと思う。普段とセイバーと全く似つかないその姿に、見た目に合わせて幼くなってるのかな?なんて思ったり。

さすりと黄色い頭を撫でる。毛先にかけて橙色になるその髪色までもが同じで、これでずっと気づかなかったことに笑ってしまいそう。

こんこんこん、小さくノックされた。そうして開かれた扉からアオイちゃんが湯呑みを乗せたお盆を持って入ってきた。

 

「失礼します……起きていたんですね」

「俺だけね」

 

腕の中の存在を起こさないように起き上がる。アオイちゃんは俺の側に来て、ベッドの側の小さな机の上に湯呑みをコトリと置いた。そして小さい紙袋も一緒に置く。

 

「朝の分の薬です、朝食までに飲んでおいてください。それとこれは痛み止めですね、もし痛みで辛くなれば飲んでください。あまり他の薬と併用すると効果が薄れるので」

 

俺のことを考えて痛み止めまで用意してくれるなんて優しい、結婚しよって普通ならなってたかもしれないけどアオイちゃん相手はそうは思わなかった。彼女の気質は俺は少し苦手だから。ぎゅっと寄せられた眉を見ると痺れている手足がさらに強張った気がする。

 

「良いですか?絶対に飲んでくださいよ。貴方の手足は治るものです。なのに薬を疎かにすると治りませんからね」

 

他の二人を起こさないようにかわりかし小さな声でそう言って来た彼女に善処しますと返せば、善処じゃなく絶対にやってくださいと念押しされた。そこまで念を押さなくて良くない!?

 

「飲まないと治らないなら飲むよ、めっちゃ嫌だけどさ」

「ったく、最初からそうしてください」

 

いやだって騒ぎたくなるぐらい苦いんだものそれ。一度飲んでみたらわかると思うけど、まぁ調合した本人がそれをわかってないはずがないので別に良いんだけどさ。

私は仕事に戻りますんで、と頭を下げたアオイちゃんを見送る。こんな朝早くから起きて蝶屋敷を手伝ってるなんて、本当に偉いなぁ……尊敬しちゃう。苦手な相手だけどさ。

立てかけてある時計を見る。言われていた朝食までの時間にはまだ遠くて、二度寝を決め込むことに決めた。するりと起きていた体勢から寝転がり、隣で寝ているセイバーの顔を覗き込んだ。どこからどうみてもやっぱり“俺”で違和感があるけれど、でも俺じゃないってのがなんとなくわかる。ちょっと何言ってるか自分でもわかんないけど、すやすやと気持ちよさそうに眠る彼を見たらどうでも良くなってくるよな。

 

「ちょっとは距離が近くなったよね」

 

するりと左手で頭を撫でた。いつも側で寝てくれることはなかったから、こうして無防備に俺の隣で寝てくれるのはきっと心を許してくれたからだと自惚れてみたり。

 

「ウェッヒヒ」

 

口の端から漏れる笑いを堪えながら、目の前の存在を抱きしめる。ぐぅ、なんて呻き声が聞こえた気がするけど無視して瞼を閉じた。

とくとくとく、聞こえてくる心音に耳をすませて緩む頬をそのままに、俺はやってくる眠気を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュチュン!と雀の鳴き声が聞こえた気がした。心配しているような怒っているようなそんな声は生前最後に聞いた声と同じで思わず苦笑いを浮かべてしまう。そうしたらきっと怒ったような声を出すんだろうけど。

 

「ヂュン!」

「あいたッ!?」

 

スッコーン!というとても良い音がして頭に衝撃が走る。あまりの痛さにガバリと起き上がれば目の前に広がるのは肌色の羽毛。あと黒と茶色。目の前に引っ付いている己の宝具に思わず半目になってしまう。素早く手を動かしそれを掴めば、ヂュ!という抗議の声が聞こえた。いや目の前に引っ付く方が悪いだろ?

 

「なんだよチュン太郎、勝手に出て来たりして。人が折角微睡んでるときにさ」

「ヂュウ」

「鼠みたいな声出すんじゃないわ。お前は黄色い電気鼠か。何?報酬?お館様へ手紙出したことへの?」

「チュン!チュチュチュン!」

「はぁ!?ティラミスが欲しい!?舌が肥えた雀だな!地味に作るのが面倒なの選びやがって!この時代にあるのか!?ティラミスって!」

 

というかあの桃のケーキすら材料集めにちょっと苦労したんだからな!?

オーブンが家庭にない時代。オーブン無しでケーキ焼くのも苦労したけど……ティラミスっておま…………いや喫茶店行けばワンチャンあるかもしれないな。高そうだけど。

はぁとため息を吐いてベッドからそっと降りた。散々騒いだ気がするけど何故か隣で寝ている善逸は起きてないし、その他二人も爆睡中だ。ちらりと時計を見る。朝食の時間まであと一時間ぐらいか。街に行って帰ってくる程度なら時間はある。

 

「……(散々迷惑かけちゃったな)」

 

気持ち良さそうに笑いながら眠る彼を見てそう思う。昨日はらしくないことをしたとは思ってる。散々泣いたし。泣くのは彼の専売特許なのにさ、頭とか撫でてくれて……保護者かよって言いたかったけど、その温もりが返って涙腺を緩めちゃったんだから文句も言えなかった。

嬉しかったな……俺が我妻善逸で居ていいと許してくれて。俺は俺だって言ってくれて。

生前にも大切な友人達には柱になった後ぐらいに我妻善逸じゃない事を話したのだけど、炭治郎も伊之助も俺は俺だって言ってくれた。でもそれで心の中は曇ったままで、本当の“我妻善逸”な彼に言ってくれたことで晴れた気がするのだ。彼らには申し訳ないけれど。

乱れた布団を正し、その頭を撫でる。いってきますと零せば、むにゃりと返事をくれた気がした。

 

「ウェへへ」

 

心がすっきりしているのか漏れ出る笑い声をそのままに俺はその頭を撫でて部屋から出る。最初に来た道を歩んで行き、玄関へとたどり着いた。ぴょんと軽く飛び草履を実体化させる。ポーチからガマ口財布を取り出し中身を確認する。ティラミスの値段にはよるが、蝶屋敷へと土産を買うぐらいはできるぐらいには余裕で入ってる。でもこのままでは金が尽きるな。

 

「……なんかバイトでもするか」

 

短期バイトが良いかな。

正式雇用ではなく何かの手伝いでも賃金は出たりするのがこの時代のいいところ。まぁその代わりちゃんと働かないと意味がないのだけど。この三ヶ月間は療養に専念するから俺は暇になる。今がチャンスだ。鬼殺隊に所属しているわけではない俺が鬼狩り以外で稼ぐ方法はこれしかない。

 

「でも……彼奴らの動向も気になるし」

 

鬼舞辻達の動向ね。

千代女の口から出てきたサーヴァントの名前でも、酒呑童子、茨木童子、そして源頼光がいることがわかる。生前殺し殺されをしていた彼女らが鬼舞辻の配下になるとかどういう星の巡りなのかと思ってしまうけれど、倒さなくてはいけない相手だ。勝てる気がしないけど!!

そんな彼女ら、特に鬼組が何かやらかしてないかとヒヤヒヤする。だって既に村一つ滅ぼししてるし。

うーん。

 

「……どうしよ」

「善逸君じゃないですか、どうしましたか?」

「ひょ!?」

 

肩が跳ねた。ついでに変な声も出た。

どっかのカードを海に捨てた虫野郎みたいな声出たじゃないか!いやもう誰だよ!心臓まろび出るかと思ったわ!!

そう悪態を心の中で吐きながら振り返ると蟲柱こと胡蝶しのぶさんがいた。

 

「し、しのぶさん!?」

「おはようございます、善逸君。こんな朝早くからどこへ?そもそも貴方は出歩ける状態では……あぁ」

「えっ何です!?今の何で納得したんで!?」

「貴方、聖刃さんの方ですね。そうですよね?」

「!」

 

そう言われて気付く。俺は今どういう姿をしている?ばっと後ろ髪に手を持っていくと触れるのは短い結んでもいない髪の毛のみ。左手には髪紐。あっこれ俺の全盛期の姿、っていうか善逸と同じ姿だわ。

いやまってどう言い訳しよう。人が縮むとかそんな真実はいつも一つみたいな現象起きてるのはおかしいし。

 

「いや、そのあのっ」

「どうしてそんな姿になっているのか知りませんが……サーヴァントというものは私達にとって未知の存在ですから、そういうこともあるのでしょう」

「へ……?」

 

毒を作れる人だからかやっぱりこの人頭いいのかな!?なんかよくわからないけど納得してしまった!?

惚けてしまった俺に彼女はふふと笑ってふわりと腕を組んで来た。急に近くなった距離に身を引こうとするが、それよりも強い力で引き返される。

 

「あの……しのぶさん?」

「貴方とは一度話してみたかったんです。炭治郎君や立香君とは後で話す予定がありますが、貴方とはまだ話すかどうか決まってませんし。そういえば何処へ行こうとしていたのです?私も行きます」

 

花京い、じゃなくてしのぶさんも来るのか。いやほんと大した用事じゃないのだけど。

 

「ただ街に行って来るだけですよ?」

「それなら丁度いいですね。私も買い出しに行こうかとここに来たのですよ。気が合いますねぇ」

 

たまたまだと思いますけど気が合いますね!!

そうしてニコニコと笑顔を崩さないしのぶさんに俺は折れるしかなかった。元々美女、というか女の子には弱い俺である。女性からのお出かけのお誘いを断れるはずもなかった。

 

ってこれ、デートじゃん!

 

いやぁ〜はっは!ごめんねぇ!善逸、全世界の胡蝶しのぶファンの方々ー!俺は!今から!しのぶさんとデートしちゃいます!

いやぁ優越感半端ないですねぇ!

 

「ふふ、ウェヒッヒヘヘヘ」

「何を笑っているのです?少し気持ち悪いですよ?」

「へぁ!?」

 

笑顔で毒吐かれた!?流石毒使い!鋭い毒をお持ちで!

驚いたけれど、それよりも行きましょうとしのぶさんに腕を引っ張られて蝶屋敷の外に出る。後ろから見えるその姿は愛らしい少女そのもので、でも今の俺よりも低いその身長と小さい体躯からでは想像できないほど強い存在。彼女から聞こえる音は強者の音がしていて、それでいてどこか健康な人とは違う不規則な音が聞こえる。

……生前での彼女の最後は覚えている。いやその最後に立ち会ったわけではないのだけど、同期のカナヲちゃんに教えてもらったのだ。伊之助もいたらしいけれど彼は説明下手で全然わからなかったし……まぁでも伊之助らしくないその落ち込み様を見て良い死に方をしたわけじゃないと気がついて身を構えられたのだけれど。

きっと今の彼女も無理をしている。彼女から聞こえてくる生命の音は人よりも少し劣っていて、でもしっかりと命を繋いでいた。彼女の決意に口を出しては駄目だ。でも無残に殺される未来をこのまま放っておくはずもない。

これから彼女は善逸(マスター)の一部となる。だから助ける。独り善がりな願いだけれど、これが俺がしたいことだから。彼女が死にそうな時には駆けつけられる様にしなくては。

 

「(まぁカルデアがいる今、生前と同じ展開になるかって言ったら怪しいけれど)」

 

死亡フラグが立ってる人は必ずどこかで揺り戻しが来る気がするのは俺だけなんだろうか。今んところ獪岳はピンチに陥ってないし、しのぶさんに至っては出会ったら普通に死にそうだし。

で、お世話になったとかなんとかでブレスレットを渡……あぁいや待って、女性にアクセサリー渡すのって意味があるんだよね。無難な、なんでもない様な意味を持ったアクセサリーでしのぶさんがいつも身につけそうなもの……ついでに容量の良い宝石が付いている奴。……うーん…難易度高いなぁ。

 

「聖刃さーん?着きましたよー?」

 

道端で考え込まないでくださいね、通行の邪魔です。と言われて顔を上げると視界に映るのはガヤガヤと賑わう街の風景。いつの間にか街に着いていたらしい。

 

「いつの間に……」

「元々蝶屋敷は街外れの住宅街にありますからね。少し歩けばこの通り、商店街へと着くことができます。ここでは色々な材料が売ってて便利なんですよー」

 

その材料ってのは薬のですかね。それとも毒のか。でも薬と毒は同じもので、用法と容量を守らなければ意味がないものたちだ。でもそうか、材料が売ってる場所なんですね。在庫確保に来た感じで?

 

「じゃぁしのぶさんの買い出しって」

「えぇ。調合する薬の材料を買いに。聖刃さんはどうして街に?」

「俺はチュン太郎にケーキを買いに。ご褒美が欲しいって聞かないんですよ」

「チュン太郎?」

 

しのぶさんが首を傾げた瞬間、チュン!という鳴き声が聞こえたかと思うと目の前にチュン太郎がいた。もうこいつ俺の意思関係なく出てくる様になってんな……なんでだ?

 

「あら可愛らしい雀さんですね。飼われているのですか?」

「いえ。こいつは俺の鎹雀ですね」

「……鎹、雀……?」

 

きょとりと瞬きをするしのぶさん。そんな表情も可愛いなぁなんて思っていると、彼女は鎹鴉じゃないのか?なんて言って来た。違うんですよ、俺に支給されたのが雀だったんです。

 

「善逸に付いてる鎹鴉も雀ですよ。こいつと同じなので仲良くしてやってください」

「チュチュン!」

 

宜しく!という意味を込めて俺の頭の上で片方の翼を持ち上げるチュン太郎。そんなチュン太郎に触発されたのかニコリと笑って、宜しくお願いしますと返していた。まぁ少し怯えた音も聞こえたのだが、それは無視しておこう。後でチュン太郎に不用意に近づかない様に言っておかねば。

毛が生えた動物が苦手だとは覚えてたけど、鳥までも苦手なんだなぁ。哺乳類と鳥類では結構違うと思うけれど、このふさふさが駄目なのかもしれない。

 

「とりあえず行きましょうか。しのぶさんから先に用事を済ませちゃいましょう。俺のは生ものですから、後でいいです」

「そうですか……では荷物持ち、頼まれてくれますか?」

 

有無を言わせない様な口振りだけれど断れるはずがなかった。ま、例え断れる状況でも俺は女性からの頼みを断らないけどね。

 

「えぇ、喜んで」

 

にっと笑った。

 

 

 

 




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