俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第六節 雷神の子。3/5

 

 

 

目の前で蹲っている善逸さんを見る。あの屋敷で見た善逸さんより幼いその風貌は、この時代の彼らしい。思ったより幼い顔立ちしてるな、なんて思ってたけど彼から飛び出た言葉に俺は固まった。

今、彼はなんて言った?サーヴァントでセイバーな我妻善逸?まさか知ってるの?

 

「よっ、とと。ありがとう炭治郎」

「どういたしまして」

 

立ち上がろうとして余る裾に躓いた彼は炭治郎に支えられていた。どうしてそんな余るような物を着てるのだろう?と思って見るが、なんだか頭身が合ってないような気がする。五頭身ぐらい?現実で見ると変だな。

 

「手足の痺れは大丈夫か?昨日の今日だろう?」

「ん?あぁ覚えてんの?凄いな。大丈夫じゃねぇよ、めちゃ痺れてる。でも今はセイバーの事だよ!」

 

余った袖を振り回している善逸さんから離れて炭治郎に耳打ちする。手足どうしたの?と聞けば、蜘蛛の鬼の毒で短くなってると言われた。えぇ……なにその毒。何と喰らえば半刻ほどで蜘蛛になるという毒らしい。痺れと痛みが凄いとは俺たちの耳打ちを聞いた善逸さんの談だ。

そんな手足でベッドから出てきたのか……それほどあの善逸さんが心配なのか、ふんす!と鼻息をした彼はビシッとこっちを指差した。指なんて袖でわからないけど、その先に視線を動かすとあるのは右手にある令呪。

 

「それ」

 

これ?と持ち上げる。最初に一画使ってしまったが、もう三画になった令呪をそろりと撫でた。

 

「それさ、令呪でしょ。って事は藤丸さんはマスターなんだよね?状況的にそこの炭治郎と伊之助がサーヴァント、でそのマスターが藤丸さん」

 

違う?と首を傾げる彼に驚く。事情に精通し過ぎている。炭治郎と俺は顔を見合わせた。

 

「その反応なら合ってるんだな。そっか、だから炭治郎は……いや、今これはどうでも良いか」

 

何やら考え込んでいる彼の名前を炭治郎は呼んだ。金髪に似合う蜂蜜色の瞳が此方を見る。

鬼殺隊本部の方にいた柱の一人である桜餅の人みたいに日本人にはあり得ない髪色だ。白髪はまだわかる、脱色したんだなとは思えるから。まぁ、日本一有名な人斬りは桃色の髪をしているけれど。

 

「どういう、ことだ?善逸は善逸の事情を知ってるのか?」

「その呼び方凄くややこしいな、わかるけど。あぁ知ってる!というか当事者!俺はセイバーのマスターだからね!!」

 

どどん!と胸を張って言う彼に今度こそ俺は顎が外れるかと思った。

ま?

 

「「ま、マスター!?!?」

 

えっ!?嘘!?マスター!?

今まで特異点でマスターという存在はいなかった。いやいたけど、そういうのは聖杯戦争というものが行われている場所と時間だった場合のみだ。この時代では聖杯戦争はない。ダ・ヴィンチちゃんに言われなかったし、そういうのはないと思って良い。

だからその聖杯戦争がない時代でのマスターという存在はいない。マスターになってから習った事だけど、本来サーヴァントを呼ぶには個人での魔力量では足りない。だから大聖杯から借りて喚ぶ。契約時やその他でも魔力がいるが、聖杯からのバックアップは欠かせないらしい。

第一特異点にいた竜の魔女は聖杯を通じてサーヴァントを召喚していたし、第七特異点の最古の英雄王はその時代に有りあまりすぎる魔力を用いていた。でもそれは神代だから出来ること、神秘が薄れている現代では到底無理だとか。よくわからないけどそんなことを言ってた気がする。

……でも目の前の彼はあの善逸さんのマスターらしい。

 

『ハァーイ、呼ばれてないけどダ・ヴィンチちゃんだよー!あり得ない結果が出たからお届けするねー!』

「うぇ!?何!?いきなりめちゃくちゃ可愛い感じの女の子の声が聞こえてきたんだけど!?女の子の音聞こえないのに!?怖!どっから!?」

 

あいで!?と威張ってた状態から驚いたのかずっこけてしまった彼は頭を打っていた。いだぁあいと短くなっている手で頭を抱えるその姿は大きくなり過ぎて頭を打ったバニヤンに似ていた。大きさをコントロールするのが苦手だった時にカルデアの天井に頭を打ってしまって、そのまま縮んで頭を抱えたまま涙を浮かべていたりしていたのを思い出す。

くす、と笑ってしまうと何笑ってんだよ!と怒られた。ごめん。

 

「ダ・ヴィンチちゃんの説明は後でね。で、どうしたの?」

『そこの彼を密かにスキャンしてたんだけどねぇ、面しんん゛凄い結果が出たから、映すね!』

 

面白いって言いかけたな。

まぁ事態を面白がるのは彼女の特徴だ。きっと困り眉のまま笑ったりしてるんだろう。ふざけたりするのは彼よりも素直な彼女なりの励ましだとわかってるから、別に怒ったりはしない。寧ろ便乗したりするしね。

腰につけた方と別の左腕に付けた通信機器を持ち上げる。どうして二つ持っているのかというと、腰が本体、腕に付けてるのは子機みたいなもの。走ってる時に聞こえないなんてありえるし、片方壊れたらもう片方も使えるという事で両方ある。

薄透明色の画面が映し出される。世界共通語で書かれたそれは棒グラフと共にある事を表していた。

 

「これは……」

『そこの彼の分析結果。驚きだろう?』

 

いや、驚きって程じゃない。

 

「あり得ない」

 

棒グラフは三つある。一つは目の前の彼の、一つは俺の、そしてもう一つは一般的な魔術師の平均値。

三つ並んだそれは急激な階段のようにできている。しかし俺の値から一般的な魔術師の値まで差があるし、魔術師から善逸さんの値も同じくらい……いやそれ以上の差がある。

 

『立香君が一としよう、一般的な魔術師は百。当然この値は目安なので参考にしないように』

 

そして肝心の彼は。

 

『万、だ』

 

ごくり、と誰ともわからない唾を飲み込んだ音がした。

 

『再三言うけどこれは目安、しかしそれ程離れていることになる。これがおかしい事ぐらいは魔術に精通してなくてもわかるよね?』

 

ダ・ヴィンチちゃんの姿が見えなくても浮かべている表情はわかる。きっと困ったような表情をしていることだろう。俄かに信じられない結果が値として出てしまったんだから。

 

『そしてあのサーヴァントのマスターと聞いて納得したよ。きっと触媒は彼自身がなってしまったんだろうね。でもリソースはなんなのか、それが気になってたけどこの結果だ。……でだねぇ、このあり得ない値を裏付ける検査結果が出てね』

 

それがこの、とダ・ヴィンチちゃんが何かを言おうとした途端に、主殿!という言葉と共に小太郎が現れた。

急に現れた彼に驚いた善逸さんがひぇ!?と悲鳴をあげるのを他所に、俺は小太郎の方を向いた。俺を呼ぶ声が焦った様な声音だったから自然と緊張が走る。

 

「話を遮ってしまいすみません!急用ですので!」

「良いよ、それでどうしたの」

「はい!僕は主殿の言いつけ通り蝶屋敷を調査、その後に周辺を調査していたのです。最後にこの近くにある商店街へと赴いていたのですが」

 

そこで、と続ける彼の言葉を待つ。その最中普段は隠されている赤い瞳と目が合ってしまった。今の彼の雰囲気と合った鋭い眼はより厳しさを増していることに、自然と唾を飲み込む。

 

「サーヴァント反応が」

 

誰の?

 

「急激な魔力放出も感知できました。恐らく戦闘中です、となると限られてくるのは」

 

バッ!と善逸さんの方を見る。彼は涙目ながらに俺と小太郎に視線を行き来させていた。理解していないながらもわかっているのだろう。瞳の奥で燃ゆる何かを俺は感じ取る。

膝立ちの状態から立ち上がって、炭治郎と呼んだ。

 

「なんだ」

「善逸さんを運んであげて、多分行くって聞かないから連れてく」

「わかった」

「小太郎」

「何なりと」

「その場所まで案内して。小太郎や俺の予想通りなら、彼が戦ってる。味方は多い方が良いだろうし」

「御意に」

 

最後に。

 

「伊之助」

「おう」

「着いたら真っ先に攻撃しかけて。直前まで気づかれないようにね」

「腹が鳴るぜぇ!」

「腕だろ」

 

腕を組んで笑う彼に笑い返す。そだな、腹が減った。帰ってきたらみんなで朝食にしよう。きっとこの善逸さんも、あっちにいる彼も食べてないだろうから。

 

「それじゃぁ」

 

ふぅ、と息を吐いてから俺たちは。

 

「行こう!」

 

一歩を踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ!!まだまだァ!!!」

「この力馬鹿!!!!」

 

剣戟の音が響く。正確にはマサカリに刀が弾かれる音だけれど。

力馬鹿過ぎて攻撃が通らない。普通にスピードもある為に霹靂一閃を使わずに攻撃するだけでは通らない。かといって目で追えないスピードで攻撃したって雷への絶対耐性のお陰で傷一つすら付けられない。不毛だ。不毛な戦いすぎる。罵たって良いだろ、これは。

 

「ッ!」

 

バチバチ!

大きな斧が頬を掠める。こんなでかい得物を何の抵抗も無く振り回しているその剛腕に舌打ちをしたくなった。見た目からバーサーカーである為にランクは低いが狂化が掛かってるし、見た目にそぐう筋力があるのだろう。質量のある攻撃というものはそれだけで脅威だ。

 

「っしゃらァア!」

 

掠めた攻撃をそのまま地面に落とす。そのマサカリからは雷鳴が轟き光る。俺は地を蹴って距離を取るが、地面をなぞるように走ってきた雷に脚が取られた。

それに気取られるとまた落雷の音。視線を上げるとそこには迫ったマサカリが。咄嗟にしゃがんで躱し、そのまま手を付いて足払い。まぁ喰らってくれるわけもなく跳んで躱され、それに俺は彼に向けて脚を伸ばして鳩尾を蹴り上げた。はっという息を吐く音が聞こえた時には俺は坂田金時から離れて体勢を整える。

体術とか久し振りにしたわ。生前に刀が無い時にと少しやってて良かった。まさか死後に役に立つとは思ってなかったけど。

血が垂れた頬を拭う。やっぱ相手の攻撃は通じるらしい。なにこの不利すぎる状況。もし俺がマスターだったら、ふざけんな!と匙投げてたわ。

いや今も投げたいんだけどさ!

 

「雷の呼吸 壱ノ型」

 

ぐっと力を入れる。相手が地に足を付けた瞬間に飛び出した。

 

---霹靂一閃!

 

雷鳴が轟く。しかしやはりというか斬りつけた感覚はあれど、肉を断った感覚はない。滑り落ちるように刃が逸らされた気がした。これが彼の絶対耐性だ。何度やっても逸らされる感覚しかない。傷を付けられない。ほんと相性最悪。

体勢を低くしたまま滑るように振り返る。相手はまだ体勢を整えてない。時間稼ぎの意味も含めて畳み掛けるなら今だ。

 

---雷の呼吸 壱ノ型

 

「シィイイイッ」

 

---霹靂一閃 十連!!!!

 

六連より四つ、八連より二つ多くした霹靂一閃を放つ。これ以上はちょっと酔うというか平衡感覚が馬鹿になりそうなので出来ない、精一杯の連続攻撃だ。

目の前が真っ白になるような感覚がする。己が吐く息と土を踏み締める足、技の影響で鳴る雷の音が耳の奥に届いて反響した。

一、二、三。一つの霹靂一閃を終える度に納刀してはまた敵の方を向く。様々な足場を使い斬りつけては、一より五、五より十と速さは増していった。

そうして十の閃光が走り去った先に見えたのは赤い腕を握り締める男の姿。盛り上がった筋肉の上には血管が浮き出ており、マサカリをくるりと回してはこちらを向いた。傷一つないその姿にハァアアと盛大なため息を口から吐く。

 

「どうしたってんだ、ため息なんか。ゴールデンな攻撃だったのに」

「いやアンタの所為だからな!?!?」

 

ビシリ!と指を指す。

 

「何で傷一つ付いてねぇの!?俺の!精一杯の攻撃!!十回、いや何回受けても傷付いてねぇじゃん!!何でだよ!?!?いや理由聞いたけどさ!!!!理不尽じゃん!!理不尽すぎじゃん!?!?こんな相性ゲーある!?どっかのノッブじゃないんだからさ!!Fateに相性ゲー持ってくんな!!!ハッ!そういやFGOって相性ゲーじゃん!!!いや待て!セイバーとバーサーカーならどっちも与ダメ倍増だろ!なんでバーサーカーだけ無傷!?ハーーッ!!!ふざけんな!ふざけんな!?こんなことってあるぅ!?!?いっぺん雷に撃たれろ!!この野郎!!!!!」

 

---ドォオオオオオン!

 

人差し指を突き出した形から親指を立てて逆さまに勢い良く変えると、雷が落ちた。

 

「………………は?」

 

もう一度言おう、雷が落ちた(・・・・・)

 

「こんなことある……?」

 

思わず呆然とする。だって雷に撃たれろって言った瞬間に撃たれたんだよ?おかしくない?こんな偶然ありますかね。上を見ても晴れてんだけど。晴れ間のかみなりってかなり命中率低めではありませんでした?命中率どれくらいか忘れたけどさ。雨じゃなかったらあんま当たらない気がするんだけど。いや雷落とすような雲は一つもないんだけどね!おかしいな!

ヒクつく口角を無視して撃たれた相手を見る。熱からか全身から湯気を出している彼はハッ!と笑った。

 

「痛ェじゃねぇか!」

 

瞬時に迫るマサカリに息を呑む。刀に手を添えるも遅い。狙っているのは胴体だ。やけにスローモーションで見える視界でそう判断して俺は。

 

「(やられ……っ!)」

 

「諦めるなッ!!!!!!」

 

ッ!?

 

「オリャァアアアア!!!」

 

目の前に迫っていたマサカリが消える。元のスピードに戻った景色の中、パチリと瞬きをすれば見えてきたのはムカつく程やけに整った顔。長い揉み上げがゆらりと揺れ、女性よりも長い睫毛がふるりと揺れた。うわめちゃくちゃ見覚えある顔、というかなんか成長してる。

 

「伊之助!?」

「ボーっとしてんじゃねぇぞ!善逸!!ガハハハッ!アイツは俺が貰うぞ!!!」

 

ハッハー!と笑いながら坂田金時に斬りかかっていく彼を見送る。

 

「善逸!!」

「善逸さん!」

 

振り返ると懐かしい姿をした炭治郎と藤丸立香がいた。心配そうな表情をした彼らを見、そして後ろにいるしのぶさんが手を振った。彼女に頭を下げると彼女はニコリと笑みを深くした。

 

「セイバー!!!!」

 

頭を上げると慣れ親しんだ声が聞こえた。さっきの諦めるなと言った声と同じ、俺の……私の。

 

「ま、すたー?」

 

大人の姿になった炭治郎の背から飛び出た黄金色に俺は目を見開いた。

 

 

 

 

 




途中で合流したしのぶさんであった。
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