俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「セイバー!!お前また俺に黙って出てったな!!!これで三回目だぞ!!というか今の危なかったでしょ!わかってんのか!!じぃちゃんから諦めるなって教わっただろ!!」
ふんふん!と怒りを表す彼は炭治郎の背から降りようとしていた。それを汲んだのか炭治郎はそっと降ろしたけれど、短い手足では感覚がわからないのかよろめいてしまう。
「マスター!」
わわ!と手をバタつかせた彼を抱き止めた。まったく危なっかしいったらありゃしない。治りかけとかじゃないんだ、本当はあまり動いてはいけないのにここにいる己のマスターに怒りたくなる気持ちが出てくるけど、多分俺が黙って出てきたのが悪かったのだろう。怒った彼に怒り返す気は起きない。
言い訳するならい朝食前には戻るつもりだったんだよ?時間をとうに過ぎてたのは本当に申し訳ないけれど、お前もちょっと自分の身体心配しろよ。
「善逸、どうしてここに?」
「そりゃお前が心配だったからに決まってんだろ!」
「ぇ、ぁ、いやそれは嬉しいのですが、わざわざ来なくても良かったのでは?そもそもまだ歩けるような身体ではないでしょう!朝の薬は飲みました?」
「飲んだわ!!ぐびっとな!くっそ苦かったけど!!というか俺よりもセイバーだよ!さっきやられそうになってたじゃん!!どういうつもり!?」
「どういうつもりも何も、そうなったからとしか言えないんですが」
「言い訳無用!!!」
「えぇ……」
理不尽な。
今日何度言ったかわからないような言葉を飲み込んで、善逸を抱き上げる。そのまま側にいたしのぶさんに預けた。
「えっ、えっ!?」
突然の美女に抱き上げられるというシチュエーションに顔を真っ赤にした善逸を見てからしのぶさんを見下ろす。
「善逸をお願いします。きっと貴方の言うことなら聞きますから」
「お受けしました。医者の観点から言わせて貰いますと、外に出られるのは困りますので蝶屋敷に連れて帰りますね」
にこりと笑った彼女のこめかみには青筋が浮かんでいて雰囲気や音からも怒っている音がしている。本来出歩いて良い状態じゃないからね、怒っても仕方ない。
そんなしのぶさんに苦笑して、ヒィ!と悲鳴をあげた善逸の頭を撫でる。
「セイバー?」
「マスター、大人しくしていてください。貴方に何かあればサーヴァントである私は立つ瀬がありません。必ず帰りますから、説教はその時にお願いします」
しのぶさんと同じような笑顔を浮かべれば善逸は不満そうな音をさせながらも頷いた。了承してくれたことに嬉しくなりもう一度頭を撫でて、しのぶさんにお願いする。
「では聖刃さん、お気をつけて」
「えぇ、しのぶさんも」
ま、柱だから必要もないことだろうけど、彼を守れるのは彼女だけだし、知人の心配ぐらいはさせてくれ。
そうして軽やかに去っていった彼女を見送ってから振り返り、炭治郎の隣に立つ。少し先では立香が伊之助に何かを指示していた。よくあいつが言うこと聞くもんだなぁとしみじみしてると、隣からの視線が気になり炭治郎の方を向いた。
「いや、何その別の生き物を見るような顔」
久し振りに見たわその顔。もはや懐かしいと思えるほどには。
笑うように仮面の下で目を細めると、炭治郎は更にぐぐと眉を寄せて口を開いた。
「お前、本当に善逸か?」
「あっ、マジで別の生き物見てる顔だったのね!俺だよ!?不躾ながら我妻善逸を名乗らせてもらってるけど!?」
「お前は我妻善逸だ!!生前からそう言ってるだろう!」
「いや今お前が疑ったんだけどぉ!?!?」
もうやだ!この長男!!
そう喚けば、いつもの善逸だ!と喜ばれた。炭治郎の善逸かどうか診断はどこを基準にしているのだろうか。なんとなくわかるけれど聞きたくないような気がする。
逃げるように先にいた立香の隣に並び立ち、倒せる?と聞くと彼は難しいなと答えた。
「知ってるサーヴァントだけどなんか違うんだよね。今、マシュが解析してくれるらしいけど」
「詳細がわかってない感じか」
なら、先に言っても問題なかろう。そもそも情報共有は戦闘の基本だ。相手の手の内がわかるほど、味方の手の内がわかっているほど戦いやすい。俺は少しずれてるお面の位置を直してから口を開いた。
「本人から聞いたんだけど、雷のルーツを持つ者の攻撃は一切効かないんだそうだ」
「一切……?」
一切。
斧と二刀流が繰り広げる剣戟を見る。刃毀れの激しい刀と質量のあるマサカリでは耐久値が全く違うと思うけど、それでも伊之助は手数の多さでカバーしているようだ。ただ姿勢の低い彼相手に背の高い坂田金時は難なく対応している。やっぱり山で猪相手でもしてたんだろうか、手慣れてる感がある。
「ここに来た時全く傷が付いてなかったろ?」
「うん、気にはなってた。結構時間経ってたのにって」
「一応攻撃してたんだぜ?でも全然効かないのなんの。ふざけてると思わない?」
「善逸さんは雷のルーツを持ってるの?」
「雷の呼吸の使い手だからね」
「ん?呼吸?」
ん???知らないの??
思わず振り返る。斜め後ろにいた炭治郎は苦笑いをして頬を掻いた。言ってないんだなわかった。確かに全集中の呼吸の説明とか人理修復には関係ないからな。こういう技なんだ、で事足りる。技というか型だけど。
まぁ俺の場合雷のルーツは呼吸だけじゃないのだけど、それはともかく。
『先輩!解析終わりましたのでご報告します!』
「ありがとうマシュ、送って」
映し出される画面。腕時計型の機械から飛び出るそれは未来を思い浮かばせる。科学と魔術の融合は未来科学みたいだ。きっと学園都市みたく先を行ってるのだろう。いやほんとこれ凄いな、テンション上がるんだけど?これで上がらない男子いる?いないだろ。後で触らせてくれないかな?なんて思いながら覗き込む。
「……英語」
ポツリと呟く。よ、読めない。全くもって読めないや。いやディス、とかはわかるんだけどね。それ以上は全く。これ読めんの?立香って。凄いな、日本人だよね?まさか翻訳用のコンタクトとかしてたりします?それはちょっと未来的すぎる。
読めないから良いや、と顔を上げると伊之助が少しピンチに陥っていた。具体的に言うと傷が多い。俺よりも治りが遅いそれに首を傾げながらも眉を顰め、止血の呼吸!と叫ぶ。ハッ!と此方を見た伊之助と同時に息を吐いた。
「雷の呼吸、壱ノ型」
---霹靂一閃
落雷の音がした。うわ!何!?と驚く立香に心の中で謝りながら、伊之助に迫ったマサカリを弾く。キィインと甲高い音を響かせるそれはやはりというかビクともしておらず、刀を逸らして地面と追突させた。
「何すんだ!紋逸!!俺の獲物だ!!」
そこからくるりと回って後ろ手で刀を振るうと相手は後退してくれた。素直で優しいこと。
「伊之助は下がってろ!あっ藤丸さんのところまでな!!今多分作戦考え中だからそれまで休憩!」
「あん!?まだまだイケるってぇの!!」
「一応だから!それに後で凄い事させてもらえるぞ!多分!!」
「わかった!休憩する!」
「素直で結構!」
伊之助にとって面白そうな餌をぶら下げてやると面白いくらいに釣れるから楽だ。人参を目の前にした馬かって程に、ずっとは走ってくれないだろうけどそれぐらい簡単に操れる。
腰にある刀に手を添えて前を見据える。ゴールデンが口癖な彼は嬉しそうに口角を上げた。
「やっぱ相手はゴールデンなアンタじゃなきゃな!あの猪野郎もゴールドな攻撃だったがアンタが一番だぜ?」
「そりゃどうも、嬉しくないけどね」
お前に全く通じない攻撃なんて褒められても嬉しくはない。だってそれはただの余裕の様に感じられるからだ。
「……この際だ、一つ聞いて良いか?」
相手からの攻撃が来るかもしれないと気を抜かないまま問いかける。彼はとんとんとマサカリで肩を叩きながら疑問符を浮かべた。なんで質問をして良いのか聞くのはわからないが別にどうでも良いのだろう、すぐさま表情を戻して清々しい笑顔を浮かべてくれた。
「良いぞ、なんだ?」
「なんで、鬼舞辻に仕えてる?」
サーヴァントに対しての質問とは思えないものを突き出す。こうして現界して契約を結び、敵を倒すためにいることから仕えてるのは当たり前なのに、それ故に何故と俺は敢えて問うた。
だって俺は知ってる。彼が、坂田金時の性根と鬼舞辻の性格は全くもって正反対だから。
血を分け与えられた鬼というわけでもない、サーヴァントとマスターという契約のみで自由に動ける彼がただ仕えてるはずもない。マスターが気に入らなければ退去すれば良い、それだけの話だ。
「……召喚されたから、ってのは納得しねぇよなァ」
「納得しない」
全くもって。
召喚された奴にも拒否権はあるのだ。それを放棄してまで仕える様な存在でもないと思う。魔術師という生き方故の性格じゃない、個人的に歪んだ性格の持ち主なのだし。それにこの世界には願いを叶える聖杯はないから、マスターを勝たせるというのもない。
綺麗な金はふるりと頭を振ってから此方を見た。
「召喚された時、大将の隣に頼光の大将がいてな?まぁ大将にゾッコンみたいなもんで、従わざるを得ないっつーか。あとはそう不快感」
「不快感」
「オレの中に何かがあるんだよ。オレ自身を変えるような何か。それが気持ち悪りぃ、取りたい、でも取れない。マァ、これは個々人で全く違うんだけどな?折り合いを付けたり無視したり、受け入れたり様々だ」
……。
「これがある所為で自分の発言が矛盾しても気付かない。頼光の大将なんか特にな。だから大将を裏切れない、仕えてしまう。ま、命令無視することもあるが」
いや俺が源頼光と坂田金時の関係性を知っている様な口ぶりは止めてくださいませんか?知ってるけど、知らない体なの。
ただ今はこんなことどうでも良い。問題は俺の考えが通じるかどうかだ。
「ただオイラの場合、召喚に手違いがあった所為で一際薄いんだけどな!ハハ!」
「それは」
「あ?」
それは、取れるのか?
「取れるぜ?」
勘、だけどな?と続けた彼はマサカリをビシッと此方に向けた。
「アンタの攻撃で剥がれてってる気がする」
もしくは押し出されてる。
そう言って笑った彼に笑い返す。なんだよ最初からそう言えってんだ。力比べなどややこしい事言いやがって。でも良いぜ、その案に乗ってやろう。知識のないただの勘と同じぐらいの信憑性のない予想に賭けてみようじゃないか。
「壱ノ型 霹靂一閃」
きっと。
「八連」
アンタがいるなら心強いから。
『真名・坂田金時。カルデアにいるバーサーカークラスの金時さんと然程変化はない様に思えますが……』
「これって、鬼と雷神のが本来半々な所を雷神側に押し切ってる感じ?」
『そうなります。それ故に神性がBとなっているので、偶にしか防がない筈の攻撃をすべて無効にしているかと』
「善逸さんにとっては最悪の相手だね」
映された画像に指を添えてスライドさせる。細やかな説明もあるけれど、大抵は最後に結論が書かれているものだ。文の最後に示されたその言葉に俺は顔を顰めた。
いつの間にか隣にいた炭治郎にどういう事だと聞かれたので俺は一から手短く説明する事にした。
「あのサーヴァント坂田金時って言うんだけど父親が雷神なんだ。だから高い神霊適性を持つんだけど母親が鬼だからそれも落ちて、神性スキルもランク低め。で、雷神の子だから雷に関しての絶対の耐性があるんだけど、それも鬼の血で効果落ちて稀にしか発動しないんだ。だから本来は善逸さんがここまで苦労することはないと思うんだけど」
「その雷神の血が何故か多く出てるから攻撃が通らない?」
「そういうこと!」
一発で理解してくれた炭治郎に流石長男!と言うと当たり前だろうと微笑んだ。褒め方が母親の教育そのものなんだけど良いんだろうか。彼の長男へのこだわりが半端ないのはわかってるけどさ。
善逸さんの攻撃が通らないとなると炭治郎と伊之助でどうにか倒すしかない。小太郎は相手が金時っていうことで席を外し、今頃胡蝶さんとこの時代の善逸さんを護衛してることだろうし。
「おい!リッカ!」
「惜しい!今のはツを大きくして……って伊之助!?善逸さんは!?」
「鈍逸と代わってきた!休憩したら凄いことさせて貰えるって聞いた!!」
「んー!!三歳児!!!!」
キラキラと目を見開かせて此方を見る伊之助は身体はデカイのに三歳児だ。おもちゃを与えられた三歳児だ。胡桃入れ過ぎて顎壊すどころか、全然入らねぇじゃねぇか!って投げて首まで折りそうな純粋さ。
思わず顔を覆いながらふと善逸さんの方を見る。きっと伊之助を此方に追いやったのは休ませる為と時間を稼ぐ為。作戦を思いついてない今とてもありがたいけれど、攻撃が一切通らないという絶望感を感じてるであろう善逸さんは大丈夫なのか?と思ってしまったのだ。
そろりと指の隙間から覗くと、何故か警戒を解いているゴールデンとずっと目を合わせている善逸さんがいた。その口元は動いていて何か話しているのがわかる。
「(何を話して…………ッ!!)マシュ!!」
『ハイ!なんでしょうか!先輩!!』
「善逸さん達の会話拾って!俺から左方向に四五度!」
『了解しました!』
しばらくして出ます!と音声が流れた。
納得しない、と低く言った善逸さんの言葉が流れる。凄い低い声出るんだな、怖いと恐れ慄いていると結構重要な話が流れてきた。マシュ!と思わず叫ぶとハイ!先輩!と良い返事を貰えた。きっと調べてくれている。ダ・ヴィンチちゃんやホームズ、新所長、ムニエルさん、他の皆さんもきっとこの通信機の先にいる。キャプテンとシオンは別作業があるとかで今回不参加らしいけど。
なんだか頼もしいなぁ、としみじみしていたらまたデータが送られてきた。
「金時の言ってる通りか。理屈はわからないけど、その何かってのが彼の行動を抑制してるなら追い出しちゃえばこっちのもの。善逸さんが攻撃する度に神性の値が上がってるんだよね?」
『はい。俄かに信じられませんがその通りです。先程Bだったランク値が今やA+です!』
「その影響かステータスも軒並み上がってるけど……彼のマスターの性格が聞いたままなら正気に戻った金時なら耐えられない」
絵に描いたような悪役だと聞いているから、ヒーローな彼はきっと下に付くのを嫌がるだろう。
「よし!炭治郎!伊之助!作戦伝えるよ!」
彼らを集めて肩を組む。比較的身長は近いのでこうして組めるのは結構嬉しい。中学時代の部活を思い出すなぁ。
一通り教え終え、特に伊之助に再三確認してから肩を離し腰に手を当てた。ハッハー!と笑う。
「これで無理だったら諦めよう!!」
先輩!?という後輩の戸惑った声が聞こえたが無視だ。これぐらい気楽に行きましょう!
私も理屈わからないんだが?教えてくれ。