俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「炭治郎!伊之助!宜しく!」
「「あぁ/おう!!!」」
俺の掛け声によって彼らが消える。全く目で追えないその剣戟に二人が加わったのがわかるだけマシ。どういう攻撃を仕掛けてるのかはマスターである俺にはあまり関係ない。彼らが今どういう状態で、どの位置にいるかを把握していれば良い。
「(セイバー・我妻善逸に“予測回避”)」
暫く続く一回だけ回避してくれるスキル。きっと善逸さんなら危ない時しか攻撃を喰らわないだろうから、これで充分だ。
突風が吹き目の前に腕を持っていって耐える。生み出される雷たちは容赦なく周りに被害を出していて、砂塵となり舞い上がる。結構な後方にいる俺にさえこの衝撃だ。きっと中心地は半端ないに違いない。そんな中に放り込んでしまった罪悪感と彼らならやってくれるという信頼感が渦まく。
でも、俺がやれるのは後方支援だけだ。
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「“晴れの新年”、リトル・ギフト!」
対象は。
「マスター!!行けるぞ!」
炭治郎の声。
「腹が減ったァアア!!足りねぇ!」
伊之助の声。
「バーサーカー!嘴平伊之助!」
「ッしゃァアアアアア!!!!!」
伊之助の雄叫びが響く。獣のようなそれに鼓膜はビリビリと震え、いつの間にか隣に居た善逸さんは耳を押さえて文句を言っている。ただ文句を言っている割には何処か嬉しそうで懐かしそうな雰囲気を醸し出していた。多分だけど生前にもこういうことがあったのだろう。こういうところを見るとやはり彼らは親友なんだな、なんて思う。
「善逸さん!宝具放てる!?」
「えっ、宝具!?マスターから魔力引っ張れば放てるけど」
「じゃ二人の後に放ってくれ!!」
マジか!なんて叫ぶ彼から目を離して、炭治郎からね!と己のサーヴァントの名前を呼んで、ファースト・シャインを発動させる。三人共にスキルが発動したのを確認してから、魔術礼装を変えた。
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懐かしい白色の制服が身を包んだ。
「禰豆子!」
「むーん!」
己を通じて魔力が引かれている気がした。炭治郎を中心に焔が渦巻き、彼が持つ刀へと集約していく。
「是成るは神に捧げる剣舞、我が家に伝わりし神楽の舞」
半歩脚を引き、大きく腕を引き、構えを取った炭治郎の髪が靡き、側にいた禰豆子ちゃんは炭治郎の反対側で背中合わせに両腕を広げて構えている。
「フーーーッ!!」
「あぁ禰豆子、一緒に行こう」
何処までも。
「『爆血刀・ヒノカミ神楽』」
炭治郎の持つ刀が赤く染まり燃え出す。
「「喰らえぇええええ!!!」」
そして二人は金時へと突貫していった。鮮やかな焔の色が様々な剣戟を繰り広げる。それを見た俺は伊之助の方を向いた。
「伊之助!宝具解放!」
「グァハハハハハハ!!!山の王の前にひれ伏せ!!」
またもや引かれる魔力。でも本来より小規模に頼んでいるのでまだマシだろう。宝具の概要を聞いた時マジか、なんて開いた口を防げなかった。なんでそんなのできんの?って聞いても山の王だからな!としか言われなかったけど。
「俺は山の主だ!山の王だ!!だから、俺の山にあるモノは全部俺様のモノ!!」
裏通りの周囲に山々が現れる。本当に小規模にしてくれた。まだ家屋ほどの高さしかないそれからは様々な動物の鳴き声が聞こえる。
本来は本当の山と同じぐらいの大きさらしいのだが、ここは街中だ。抑えてくれた伊之助に感謝しかない。
「行くぞ!子分ども!!!」
周辺の山々から聞こえた鳴き声の分だけの動物達が現れ、金時を睨んでいる。宝具を出し終えた炭治郎達は休息も兼ねて飛び上がり俺の隣に並び立った。
「これが嘴平伊之助様の力だァアア!!」
いつの間にか現れた猪に乗って突っ込んで行く彼に、いつも同じ料理しか作らない魔女が思い浮かんだ。豚と猪じゃ結構違うけどさ、何となく似てる。
「あれが伊之助の宝具か。伊之助らしいな」
「俺この後に行かなきゃならないの!?伊之助の宝具が凄すぎて見劣りしない!?大丈夫!?絶対順番間違えたよな!そうだよな!?」
いやそこ心配するとこじゃないよ。
喚く善逸さんに笑顔を浮かべてサムズアップした。大丈夫!という意味を込めたこれをお気に召さなかったのか、何でそんないい笑顔なのさ!?と怒られてしまった。顔が怖い。ぐだぐだ組並みに表情が崩れる人だな、この人。
まぁいいやと善逸さんに掌を向ける。
「瞬間強化、と。炭治郎の宝具には鬼に対してのスタン効果、伊之助の宝具には防御力大幅ダウンと弱体耐性ダウン、宝具封印の付与がある。もし貴方の言う通りなら」
「スタンが取れて、攻撃してくる」
痺れて動けないのであろう金時を見る。彼の中にはまだ鬼がいるからこそ炭治郎の宝具の効果が現れた。でもそれがなくなったらきっと攻撃を仕掛けてくる。
あと伊之助のは保険だ。防御力ダウンで攻撃を弱体耐性ダウンで俺のガンドを通りやすくしておく。それに宝具を放たれるのも困るから、彼の宝具は相手に最適だ。それに。
「ん?力が」
「伊之助の宝具には味方全体の攻撃力アップもあるから」
「なるほど」
赤く光る彼は前を向いた。シィイイイ!という独特な息の吐き方と共に白い吐息が彼の口から漏れ出ていた。その様子にここから宝具を放つんだろうと判断して、炭治郎と禰豆子ちゃんと共に彼から離れて見守る。
「紋逸!!」
「これぞ我が力、我が忌み名。さぁ雷神がお通りぞ」
そして、彼は消え。
「『
一柱の鳴神が舞い降りた。
「いやぁ!助かったぜ!やっぱオレっちの読みは当たってたみてぇで安心した!オウそこのゴールデンの、感謝する」
「いやその呼び方止めろよ、お前と一緒にされたくないんだけど?」
「じゃぁホーリーブレードが良かったか?」
「おちょくってんのか、貴様。その頸余程要らないんだな?そうなんだな??」
「まぁまぁまぁ!攻撃通らないのわかってるでしょ!善逸さん抑えて。金時も煽るような事は言わないで、俺たちもう仲間だし」
チッ!と舌打ちをして刀を仕舞う。正座に戻ればあからさまにホッとため息を吐かれた。
ところ変わって蝶屋敷。俺たちは休息を求めてここにやってきた。まぁそれだけじゃないのは明白だけれど、闘いが終わった今あの場所に居続けるのは的確ではない。雷やら山やらが現れた裏通りとか、憲兵達が駆けつけてきてもおかしくは無い程の被害だった。今度やるなら草原とかがいいな。日本には無いと思うけど、もうやりたく無いけど。
「主殿、連れて参りました」
「ありがと、小太郎」
「ここどこ!?蝶屋敷の中だよね!?ってあ!セイバー!」
「善逸!?」
えっなんでいんの!?
突然のマスターに驚きながら藤丸立香を振り返ると彼は苦笑しながらも説明してくれた。これからの話し合いには俺のマスターである善逸も無関係では無いから、療養中には悪いけど連れ出してきたと。成る程、マスターを連れて来るほどの内容なのか。別にそうでは無いと思いたいけど……普通に話すのは鬼無辻についてだよなぁ……マスターを巻き込んで良いのだろうか。彼の意思を聞かなくて良いのだろうか。
そう悩んでいるとくいと羽織の袖を引かれた。反射的にそちらを見ると善逸が不安げに眉を下げながらも俺の方をジッと見ている。どうしたんだろ。
「他に炭治郎や伊之助がいるのに、何で俺だけ連れてこられたのかって思ってたけど今ならわかる。セイバーが何かに巻き込まれてるからだ。正直意味わからんこと多すぎてすっごく怖いし、あの金髪野郎はセイバーのこと殺そうとしたのに平然といるの許せないけど、セイバーが俺だけ離そうとしてるんだろなってわかっちゃったから俺も巻き込まれることにする」
「…………すみません」
「謝ることじゃないよ。だって俺はセイバーのマスターだ。巻き込まれるのが当たり前だわ、怖いけどな!」
短い手でわしゃわしゃと頭をかき混ぜられる。時折お面が邪魔だな、なんて呟いてたけど絶対に今は外せない。きっと目が真っ赤だろうから、こんなの見せられないから。
最近ほんと涙腺ガバガバ過ぎて嫌になる。“善逸”らしいとか言われたらそれまでなんだけど。
「善逸、一ついいですか」
「なんだよ」
「金髪野郎は貴方もです」
「それを言うならお前もだわ!!」
お互いにわしゃわしゃとかき混ぜあってくすくす笑い合う。いやほんと、一生マスターには敵わない気がしてきた。死んでるけどさ。
一通り撫で回した後で髪の毛を整えてやり、俺の髪も整える。ずっと待っていた彼ら、いやカルデアのマスターである藤丸立香に向かって頭を下げた。
「待っていてくださりありがとうございます」
それから頭を上げてお面を消した。きっとこれから手を取り合って戦う相手だから、いつまでもお面をしていたら失礼だろう。鳴柱と呼ばれた頃の姿を以って対峙する。
「貴方方の目的は知っております。それは鬼の首魁である鬼無辻を倒すこと、そしてこの時代を正すこと。私はその意味を知っております。今更説明は不要……それを踏まえて私セイバー・我妻善逸と、そのマスター・我妻善逸は貴方方、人理継続保障機関フィニス・カルデアに協力することをここに宣言します」
ジッと藤丸立香の瞳を見据える。ここでの長は彼だ。人類最後の希望として、マスターとしてフィニス・カルデアを代表してここに来ている。それがどれだけの重圧かなんて体験してない身からすればわからないけど、でも彼に協力しないという手は存在しない。
きっとこの世界は俺の知っている世界ではない。でも救える世界だ。隣にいる彼がずっと笑っていられるようになる可能性を秘めた世界だ。だから俺は彼らに手を差し出す。利害は一致しているのだから。
「……俺、藤丸立香はカルデアのマスターとしてその申し出を有り難く頂戴します」
スッと頭を下げた藤丸立香に俺は安堵する。断られるとは思ってなかったけれど、もしもの可能性は捨てきれなかったから。それにもし相手からの申し出でも、俺と善逸以外全て敵でもあったこの空間では断れるはずもなかった。
「元々貴方達に協力を申し出ようとしたのは俺たちだし、そう言ってくれるのはとても有り難い」
「嘘吐け。マスターまで連れて来て、断らせる気なかっただろ」
「うーん、バレてた?」
「気づいてないの伊之助ぐらいだ」
そろりと彼を見ると整った眉を顰めて此方を睨んだ。話をあまり聞いてなかったらしい。急にこっち見たから怒った感じだ。
「んだよ?」
「何にも」
ゆるり、首を振って否定する。ふん、と息を吐いた彼はそっぽを向いた。話に加わる気ゼロらしい。伊之助には難しい話だろうからそれが正解だけども。
その伊之助から立香を挟んで反対側にいる炭治郎は困ったような表情で立香の名前を呼んだ。目の前に座る彼は何?と首を傾げる。
「立香、やっぱりそういうのは」
複雑な音がする。きっと彼はこういう脅しというのはあまり好きではないのだろう。まぁ愚直な彼は無意識に脅してたりするんだけどそれはともかくだ、それで立香を責めたりするのはお門違いだな。竈門だけに。
炭治郎、と名前を呼んだ。赫灼の瞳が動く。
「自分のマスターを責めるなよ?ここではこれが最善手だ。俺が知ってる限りでも敵対相手との戦力差が激しい。ちょっとでも協力が欲しいのは当たり前。それは俺も同じだし、そもそも俺が先に言ったんだ。結果的には藤丸さんは脅してないことになるよ」
「それは、そうだが」
言い淀む彼にふんす、と鼻息を出した。
それだけじゃないみたいだな。ちらりと動く瞳が善逸を見ていた。俺と同じ心配をしている。この時代の善逸が本当に巻き込まれていいのかどうか。
でもそれはさっき善逸の言葉を聞いていたら心配することでもないだろう。いや心配はして欲しいけど、断ることでもないって事で。
隣にいる善逸の頭を撫でる。わ!という驚いた声が聞こえた気がしたけど、無視して片手で撫で続けた。
「炭治郎も聞いたろ?善逸は巻き込まれてくれるって。だから俺は巻き込むよ?でも疎かにはしない。己のマスターだから、絶対に守る。それに俺はめちゃくちゃ臆病だぞ?そんな俺が考えなしに危険なことに飛び込むと思う?」
「……思う」
「えっ、信頼されてねぇ」
まぁ信頼されるようなできた人間じゃないけどな。
そう心の中でごちてると撫でていた手を止められた。なんだ、とそちらを見ると善逸が両手で俺の手を持ち身体の前に持って行っている。そしてそのまま、ぎゅっと握った。握られてるのに全然痛みがなく、伝わってくる振動で彼の手が震えていることに気づいた。不安の音がする。怖いのだろう、最終的な相手が鬼無辻だと聞いたからかもしれない。安心させるように握り返すと一度驚いてから手の震えはピタリと止まった。
夕焼け色の瞳は此方を見ぬまま炭治郎を見据える。
「炭治郎、俺なら大丈夫だぜ。俺はセイバーを信じてるから。セイバーがやること成す事は全部信じてるから、俺は大丈夫」
全幅の信頼が重いんだけど……?
私だって間違えることぐらいありますよ?と言ったら、俺なら間違いだらけなのはわかってるけどセイバーだし信じてる、と言われて黙るしかなかった。
昨日の話し合いとも言えないような話から思ってたことだけど、善逸はずっと俺を信じてくれてるようだ。幼い頃からずっと。さっきも言ったけど俺は信じられるような人間ではない、でも彼は“我妻善逸”だから信じるんじゃなくて他でもない俺だから信じてるって言ってくれたから……俺はその信頼に値する何かを返さなくてはならない。
今だってほら、俺を信じて危険なところへ自ら来てくれた。だから俺も信じるしかないのだろう。他でもない、彼を……我妻善逸を。
だって彼は俺じゃないから。
「だから炭治郎だってセイバーを信じてあげて、藤丸さんのことだって」
善逸の言葉を聞いた彼はぐっと押し黙り俯いた。小さくこくりと頷いたのはきっと善逸への返事だろう。
「信じてるよ、善逸も伊之助も禰豆子もみんな、勿論立香も…………そうだな、俺が悪かった」
すまないマスター、と炭治郎は隣に座っている立香へと頭を下げる。慌てて両手を振って俺は大丈夫!と言う立香に彼は複雑な表情を浮かべた。
「立香がとても良いマスターなのを知っているのに苦言を言ってしまった、すまない」
「いいよいいよ、寧ろ意見を言ってくれた方が助かる」
炭治郎の前では裏系禁止か、と呟いた言葉は炭治郎本人には届かなかったらしいが、俺たちの耳には届いた。とても強かだ。大量の混沌・悪なサーヴァントとやっていくにはそれぐらいが良いのだろう。きっと犯罪紳士と仲良く談笑できるマスターなんてこの世に彼しかいないだろうし。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
パンと手を叩いた立香はにこりと笑った。それから対面する俺たちを見るように座っている金時の方への向く。彼は和室の中で上座に位置する場所へと胡座をかきながら、サングラスの下に手を入れてぐすっと鼻水を啜っている。え、泣いてる?
「どうしたの金時?」
藤丸さんがそう聞くと今更気づいたかのようにハッとして目元を拭ってからこっちに視線を戻した。鼻と頬は赤いままだけど言わない方がいいだろう。
「ゴールデン良い奴らだと思ってな。頼光の大将には悪いが、鞍替えして正解だった」
ニッ!
眩しい笑顔でそんな事を言ってのけた金時に目を細めてしまう。本当に良い笑顔をする。見た目はアレだけど。
「話は」
「あぁ!するぜ!任せておけ!」
どんと分厚い胸板を叩いた金時は、何から話そうかねと呟き、しばらくしてからそうだなァと語り始めた。
「召喚されたときからにすっか!」
頭をかき回すのを見てる立香「……(我妻’s、推せる!)」
心の中で喚いてるんじゃないかな、多分。
ところでまたもやお休み頂きます。というかこの調子だと投稿が間に合わない気がしてきたので、一節分を投稿する度に一週間ほど休みを頂く方針で行こうかと思っております。
なので一週間後、25日にまた!申し訳ない!!
……元々遅筆なのによく今まで毎日投稿できたな、これ。