俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「おう、よろしくな。悪いがしばらく世話になる。オレの事はゴールデンと呼んでくれ」
そうお決まりの召喚口上を言った坂田金時は改めて自身を召喚したマスターを見た。
随分と整った顔立ちをしている男だ。身なりも整っており、その自信ありげな雰囲気から位の高さを感じ取った。金持ち、か由緒正しい魔術師の家系か……金時には判断できなかったが、その狡猾そうな見た目に相性が悪いなと考える。
事実、彼の口から出て来た言葉に顔を顰めたのだから読みは当たっていたのだろう。
「なんだこの派手な奴は……」
「オウ、随分な言い草だな!派手なのは認めるがゴールデンだと言ってくれ!で、大将アンタの名前は?」
「まず自分から名乗れ。そもそも目上である私に親しくするな、礼儀がなっていない」
「それはすまねぇな!オレっちは坂田金時!さっきも言ったがゴールデンと呼んでくれや」
「そうか、坂田金時。貴様が……」
ふむ、と思案顔で佇むその姿は気品に溢れているが、まるで災いを呼ぶブラットムーンの様に赤い瞳は金時には少し不気味に写った。
そもそもだ。召喚された時から思っていたが今回の己のマスターは鬼だ。純粋な鬼種ではないが、確かに鬼の気配がした。きっと後から変質した類なのだろう。己の内側に小さく流れる鬼の血が彼の血を嗅ぎ分けた。
そこまで考えて、ふと腕を見た。龍神の尺骨が埋められた己の腕。赤く染まっているそれは普段なら二の腕まで来ないはずなのだが、どうにも腕全体が染まっている。そして内側から感じる大きな神性にサングラスの下で金時は目を見開く。
「(神性がゴールデンアップしてるじゃん……どういう事だ?)」
それに何か変なものが内側に流れてる。どこか気持ち悪いそれは、目の前の男から感じ取る鬼の血とは違う何かと同じだった。
「金時!」
今回のマスターはハズレ枠と言って良いか。そう達観した目で見ていた時、親しげに名前を呼ばれて硬直する。嬉しそうに己の名前を呼ぶ人物は知っている。これはかつて自分の上司だった人の声だ。声音だ。
振り返った先にいたのは案の定、生前に仕えた大将であった。
「頼光の大将……」
「あぁ金時も呼ばれたのですね。ここには羽虫ばかりで心休まる時がありません。えぇ、えぇ!親しい間柄がいるのはとても心強い。息子が二人に増えたのも嬉しいことです」
「いやオイラは息子じゃねぇって前から何度も……って二人?」
もう一人いるのだろうか。もしかして四天王の誰かが来ていたり?
そう首を傾げた金時に母を名乗る人物は嬉しそうに笑顔になり、そこにいるでしょう?と言った。
「貴方を召喚したマスターが新しい息子です。マスターであり兄弟です、仲良くしてくださいね?」
その言葉に驚いた。頼光は一等鬼のことを嫌っていたはずだ。鬼の気配のする彼を息子と言い、金時に対して仲良くしろと宣う。
可笑しい、とても可笑しい。
……そのはずなのに。
召喚したマスターを息子と呼ぶのは頼光らしいと納得してしまってる自分もいた。
それからというもの、彼の生活は平和のそのものだった。
どうやら金時が最後に召喚された様で、聖杯戦争はないのか?と聞いてもないの一点張りで、他にも召喚されたサーヴァント達と話すだけでやる事なんてなかった。
他のサーヴァント達に何をしているのかを聞くと大抵は遊んでいる。自分勝手に過ごし、偶に来る命令に偶に従うだけ。なんとも楽な仕事だ。
「……」
ただ、己の中にある違和感は膨れ上がるばかりだ。
生前に恋をした鬼はまぁいつも通りって言ったらいつも通りに接して来るがなんだか少し違う気もするし。そのお供の菓子好きはそのままだが、以前にも増して京言葉の鬼にべったりな気もするし。
鬼と罵られた人妻は生前になかった遊びに講じてはダラダラとし、それに付き合う女子高校生の振りをした偽狐は使えもしないガラパゴス携帯を弄っている。
破滅的なボーカルはまぁいつも通りだけど少し歌がマシになってるし、それと仲良しな嘘嫌いな竜はマスター大好きなくせに纏わり付かない。
雀で鬼な彼女に至っては獄卒の鬼とマスターの鬼は同じ鬼なんて言って、人肉をかっ捌いてる。
可笑しい。マシなのは千代女ぐらいだ。
「(いやあいつもちょっと違う気もするんだよなァ)」
何かって言われればわからないけど、原因は己の中にある不快感か。徐々に馴染もうとして、かと言って己の神性に負けているこれ。最後に召喚されたこそ弱まっているのか、原因はわからないが……なんとなくここにいては駄目な気がした。
もう少し何かの後押しがあれば、そう考えて何かってなんだ?と首を傾げた。
いつの日か、己のマスターに聞いたことがある。どうしてこの面子なのか。
そう聞くと彼は少し思案してから、知らぬと言った。
「知らない?」
「あぁ知らん。あの不気味な奴の言う通りに召喚しただけだ」
どうして十騎なのかは前に聞いたことがある。これが限度なのだと彼は言った。どう言った限度なのかは彼自身も理解していないらしいが。
さす、と自分自身の胸をさすって彼は目を細める。思い出しているのだろう、その不気味な奴という者を。
一体誰なのだろうか、好奇心があった金時はそのまま口に出した。その不気味な奴は誰なのか。そして帰って来た言葉は。
「知らん。正体もな。目以外何も見えない奴だった。この私が攻撃しても通じないような奴だ、考えても無駄だろう。力が欲しいと言ったのは私だ、そして其奴は私に願いを叶える杯を渡した。そこは利害の一致という奴だろう……得をしたのは私だけなのが、些か懸念ではあるが」
この話は終わりだとばかりにそれっきり黙ってしまった。金時が詳しく聞こうとしても口を開かず、やがて諦めて部屋を出た。
上下左右、重力が床や部屋によって違うこの場所はこの時代の鬼によって作り出された空間だという。そんな事をできる鬼がこの世にいるのは少し意外だった。金時の知る鬼達は純粋な力を持つただの種類だったからこそ、妖術の類はあまり使ってはいなかった。それを使うのは専ら人間で、こうして不可思議な現象を生み出すのは時代の変化か……それとも。
いや今はそれはどうでも良い話か。これからどうしようか、と金時は当てもなく歩いてしばらく、ぱたりと立ち止まった。念話が来た。己のマスターからだ。千代女が殺られたという情報で、その殺ったサーヴァントの外見的特徴もあった。
探し出し、殺せと言うマスターに金時は少し思案してからにっと笑う。
「別に殺さなくて良いんじゃねぇか」
きっと他のサーヴァント達は探しもしないだろうから。力比べをして助言をするのだ。自分ではマスターを殺せないから、出会った時には相手の利になるように振る舞おう。
大丈夫、マスターには逆らってないことになる。大きくなっていた不快感にそう語り続けた。
「んで!アンタに出会ったわけだ!ゴールデン助かったぜ!ありがとな!」
「お礼言われても嬉しくないわ!!」
「んだよ、本当に感謝してんだぜ?こっちは。不快感も消えたしな。こうして新しいマスターにも出会えた。オレっちとしてはそのゴールデンなマスターの方が良かったんだが」
「善逸はやらんぞ!!」
「オウ!だろうな!」
隣にいる善逸を抱きながら威嚇するけど相手は快活そうに笑うだけでなんとも思ってないようだ。何度もお礼を言われては要らないと断る。お礼を言われるようなことしてないし、正直あんまり金時は好きではない。肌が合わないんだろうか、よく分からないがムッとしてしまう。
「で、結局自分語りで終わったけど」
そろりと藤丸立香を見る。途切れ途切れすぎる自分語りで終わったが、普通に重要な情報はあった。その事に気付いてるのか、腕を組んでうーんと唸っている。その眉は顰められていて、口は少し引き攣っていた。嫌な予感がしたのだろう。千代女の口から聞いた名前も去る事ながら、金時が言った特徴からしてもサーヴァントの概要がわかってしまったから。
「……マシュ、相手のサーヴァントの名前わかる?」
『はい先輩。金時さんの言った特徴からすると、源頼光さんを含めて八騎』
まず初めに源頼光。次に酒呑童子、茨木童子。巴御前に鈴鹿御前、エリザベート・バートリー、清姫。そして舌切り雀の紅閻魔だ。
『望月千代女さんは善逸さんが倒しているのでカウントしていません。ダ・ヴィンチちゃん、これは』
『うん!厳しいね!!』
「はっきり言われちゃった!!」
顔を覆って天を見上げる立香に同情してしまう。はっきり言ってあまり相手したくない人達ばかりなのだろう、苦々しい音が聞こえてくる。隣にいる炭治郎や伊之助はこの名前を聞いてもはてなマークを浮かべるばかりでわかってないらしい。この際名前だけじゃなくて良い、約八騎ものサーヴァントが鬼舞辻に仕えているという状況だけでも理解して欲しい。本来はマスター一人にサーヴァント一騎が普通だから、これは異常だ。
リソースが無ければ召喚すらできない最高の召喚魔術。それを十回も鬼無辻はした。
ヤバイ、化け物だ。鬼となり千年生きただけでなく、本当に人の範疇を超えた事をしている。手が震える。抱えていた善逸を話して震えてる方の手を押さえた。押えろ、抑えろ、恐怖を抑えろ。だって鬼の首魁だ。今更どういうことしてたって可笑しくはないだろう。カルデアが来る事態なのだ、それぐらいのことしてたって可笑しくはないだろう。
ゆっくりと目を閉じてからまた開く。そうすれば震えていた手は止まった。
「セイバー?」
心配そうに覗いてくる善逸に苦笑いを浮かべ頭を撫でて誤魔化す。お前に心配されることでもないよ、と心の中で呟いた。
「その八騎の名前がわかっただけで儲け物か。本当なら分からないなんてことあるし」
ふぅと息を吐いた立香は腰につけた通信機器を取り出した。本部の方で見たそれと同じものを俺たちの中心に置き、スイッチを押す。飛び出るのは麗しのダ・ヴィンチちゃん。キャピ、とピースを頭の上に持っていきポーズを決めている彼女が映った。
『ダ・ヴィンチちゃーん!立体バージョン!』
「何この可愛い美少女!?!?ってこの声さっきの!!」
『ハーイ、そこの小さい善逸君、嬉しい反応ありがとう!でも本当の私を知って幻滅しないでね?今はこっちがダ・ヴィンチちゃんさ!』
「どういう?」
善逸が説明を求めるように此方を見てくるが、そっと目を逸らした。説明する気は無いですね、きっと幻滅というか発狂するので。この時代には性転換という発想はないだろう。男は男、女は女という考えだ。まぁ性同一性障害はあるかもしれないが、多分世には出ていない。だから男が女になったなんて知って、それがおっさんから美少女なのは色々と衝撃だろうから。ダ・ヴィンチの自画像、歳食ったおっさんだからな。
『話を戻すけど、相手が召喚したサーヴァントはどれも厄介だ。会ったことのある立香君ならわかるだろう?』
「うん……性格も含めて厄介だと思うよ」
『だろうねぇ、イロモノばかりだ。で、だ。これを全て一度に相手するとなると絶望的と言わざるを得ない。でも逆に言うと』
「一人ずつなら何とかなる」
ダ・ヴィンチちゃんの言葉を炭治郎が引き継ぐ。こくりと彼女が頷いた。
『そうなるね。まぁ源頼光は相当厄介だ。何せあの源家であり、酒呑童子や土蜘蛛を退治した武に優れた将でもある。その逸話の数々は後世に伝わるほど』
「知名度もあると?」
『多少はあると思うよ。何せそこは日本だ。織田信長までは無いにせよ、千年も経てば伝説として語り継がれる』
大正でどこまで広まってるかは知らないけどね、なんて言う彼女に俺は苦笑した。多分そこまで広まってないとは思う。まだここは明治の名残が多い。田舎は本当に田舎だし、海外のものに触れれるのは大きい街だけ。電気は普及してるものの、それは電灯や各家庭の照明のみ。首都である東京でも少し離れれば、ここ東京か?なんて思うほどの長閑な風景が広がるばかりだ。
歴史なんて学ぶのはきっと金持ちの子だけじゃ無いかな。俺たちは無いと不便だから文字を独学で習ったし。俺はまだ右から読むのにあまり慣れてなかったりするけどさ。
「そこはあんまり無いって願っとこうかな……現実的じゃ無いけどね」
頬を掻いた彼は金時と名前を呼んだ。室内であるのにサングラスを外そうとしないそいつは、立香の方を向いた。
「金時達が普段いた場所って?」
「ん?語った時に言わなかったか?鬼が作った空間だ。そこにサーヴァントやら鬼やらがいる、勿論元マスターも偶に」
上下左右建物だらけで複雑な造りをしたそこにいると、大体琵琶の音が鳴ると外に放り出されることがあると言う。その鬼が作っているからこそ、その鬼に頼まないと目的地にたどり着けないこともあるんだそうだ。
そこまで聞いて確信する。そこは。
「「「無限城だな」」」
炭治郎と伊之助と言葉が被った。思わず彼らを見ると同じように頷いている。やはりあの最終決戦は忘れられるようなものではないのはこいつらも一緒だったのだろう。
「鬼舞辻が召喚しているのだからそこに居てもおかしくない、が」
「無限城に招待されるまで倒しとかないと厄介だよねぇ、上弦に加えてサーヴァントとか勘弁して欲しいわ」
「ガハハハ!どれだけいようと関係ねぇ!全部ぶっ倒す!!」
伊之助さんや、それは無謀というものだよ。
刀を掲げそうになる彼から刀を取り上げて鞘に納めてやる。そしてそのまま座らせた。ストンと腰を下ろして胡座を掻いた彼に息を吐いた。お前の相手する方がちょっと疲れるわ。
室内で刀抜くの禁止!と言うと落ち込んだ音が聞こえたから慌てて今だけな!と言った。もう反応が大人になってもこれなのだから、手間がかかる。良いんだけどね。
「ちょっと待って!仲良く談笑してるのは良いけど、ほんとちょっと待って……」
両腕を広げて掌をこちらに向けた立香は、俺、伊之助、炭治郎の順に見てから一つ聞きたいと炭治郎の目を真っ直ぐ見つめる。
そこからすうっと息を吸って吐いた彼は、ぽつりと呟いた。
「無限城って……何?」
因みに禰豆子ちゃんは箱の中ですやり、小太郎は部屋の隅で気配消して待機してます。
お久しぶりです。