俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第七節 鬼舞辻という男。2/4

 

 

むかしむかし、あるところに病弱な一人の若者がいました。

その若者は生まれた時から病にかかっており、ずっと床に伏せておりました。

一歩も外に出ることは叶わず、来る日も来る日も毛布の中で窓から外を眺めるばかり。父も母も若者にはあまり会うことはなく、話し相手はもっぱら召使いと偶に来る医者のみ。

若者は思います。何故私だけなのか、何故私だけこんな思いをしなくてはいけないのか。

手足に力が入らなくなるその時まで若者はずっと健康な者達を呪い続けました。

そうして月日が経ったある時のこと。最早何人目かわからない医者が若者にある薬を打ちました。

医者は言います。これは私が開発した薬だと、打てばたちまち健康になり動けるようになると。

若者は思います。そんな眉唾物があるはずもない、馬鹿を言うな。

しかしそんな若者の考えとは裏腹にその薬は効果を発揮しました。最初に痛みが走り、次は動悸が激しくなり、息が苦しくなりました。

若者は思います。これは死ぬのではないだろうか。

酸欠になりながらも必死に息をし、死という単語が頭を過っても生きる為に足掻き続けました。そうしてその症状が治まったとき、若者は衝動のままに側にいた医者を殺します。

ぐっちゃぐっちゃ。血を啜り肉を食べ、爪は伸び、牙ができました。若者は肉を食べるのは初めてであったためか、その美味しさに夢中になって貪りました。

そんな中騒ぎを聞きつけた召使いが現れ扉を開きました。若様、どうなされ。その言葉は続かず悲鳴に変わります。

召使いは叫びます。鬼、鬼がいる!

若者は思いました。あぁ私は鬼なのか、と。

 

そうして鬼の首魁、鬼舞辻無惨は生まれたのでした。

 

めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、朝っぱらから嫌な夢見せるんじゃないわよ」

 

手元に持った傘をくるくると回しながら無限城の中を歩く少女はそう呟いた。

昨日は久々のライブを終えて、気分ウキウキで帰ってきていたのだ。それを寝た途端自分自身のマスターの見たくもない夢を見せさせられて気分は落ちていた。

サーヴァントは夢を見ない。見るとすればそれは記憶であり、己かマスターの違いなだけ。今回は少女は見せられた方であったようだ。

 

「はぁーぁ、気分が落ちた。最悪だわ。子ブタに文句言いに行こうかしら?それとも気分転換に次のライブ場所でも見つけようかしら?」

 

派手なピンク色の髪を靡かせ少女は考える。

元々考えるのが得意ではない彼女はゆるりと周りを見渡してとある人物に目がいった。自分に負けず劣らず、百年前の人間だった者にしては面白い格好をした鬼。確かあの鬼の拠点には沢山の人間達がいたのではないだろうか。そう考えて、少女は片手を振り上げた。

 

「ちょっとー!ちょっとそこの貴方!まるで髪に墨を垂らしたかのような見た目した貴方!」

 

そこまで言ってやっと振り返った鬼に少女は近づいた。大分タッパのある鬼だ。見上げるほどのそれに少し離れて対峙する。鬼は少女が近づくと花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

「別に髪に墨は垂らしてないぜ?お嬢さん」

「そんな事どうでも良いわよ。貴方、確か教祖かなんかしてたわよね?」

「そうだけど、なんだ?お嬢さんも万世極楽教に入信でもしたいの?君みたいな女の子は大歓迎だぜ?」

「嫌よ。アイドルが胡散臭い宗教に入信してどうすんのよ。きっとパパラッチ達が嗅ぎつけて週刊誌に載せたりするんだから!世界三大宗教ならまだしも新興宗教なんて論外よ、論外!ま、(アタシ)のキャラ的に?宗教全般が論外でもあるんだけどね」

 

よく喋るなぁと思った鬼であった。

笑みを崩さないその鬼に少女はそうじゃなくって!とビシリ、長い人差し指を指す。

 

「今度、貴方んとこでライブさせなさいよ」

「らいぶ……?」

 

なんだそれは。

聞いたこともない単語に鬼は首を傾げて、新たな単語か何かだろうか?と思い耽る。一応新興宗教の祖とはいえ、それなりの信者を持っている鬼は他の鬼とは違い世間には聡いはずであった。弐と刻まれた方の瞳を閉じて考えるけれどやはり思い付かず、かと言って別に気になるほどの単語でもないので目の前の少女の言葉を待った。

 

「ライブも知らないの!?貴方、時代に取り残されてるわよ!アイドルと言えば歌とダンス、歌とダンスと言えばライブでしょう!煌びやかなステージの前で(アタシ)のファン達が待っているのよ。だからライブを開くの、おわかり?」

 

わからない。

長年生きてきた鬼ではあったが、少女の口から飛び出す言葉は異国の言葉が混じっていて半分も理解できない。

最近ハイカラな格好をしている無惨様なら何かわかるだろうか、なんて思考をどっかに飛ばす鬼に少女は睨みつけた。どうして睨みつけられてるのか分からず、鬼は首を傾げる。

 

「どうしてそんな目で見るんだい?可愛い顔が台無しだけれど」

「貴方がライブを理解してくれないからよ。もう良いわ、貴方のとこでライブするのは辞めとく。よく考えれば、胡散臭い宗教者に(アタシ)の尊い歌声が理解できないでしょうし」

 

ふいっとそっぽを向き歩き出した少女に鬼は振り返ってねぇ、と呼びかける。派手な姿をした彼女は鬱陶し気に髪の毛を払って振り返った。

 

「君って無惨様が呼んださーゔぁんと、ってやつだよね?」

「そうよ?(アタシ)はアイドルだけどね?」

 

あっさりと認めた少女に鬼は笑った。

最近無限城に上弦の鬼以外の誰かがいるのはわかっていた。無惨からの報告でサーヴァントなるものがいるとは言われていたが、良くこの場所に居座っている上弦の壱である黒死牟から伝え聞く以外に全く知らなかった相手だ。

初めて見た。あれがサーヴァント。確かに人間でもない鬼でもない、でも近しい何かだとその賢い頭で鬼は理解した。そして好奇心に駆られる。

鬼は女の子が好きだ。柔らかい肉に油が程よく乗ったその身は男を食べるよりも極上である。しかしそれは建前で、実際は女の子を食べた方が強くなれる気がしているからに過ぎないのだが。

もし、その未知数の相手であるサーヴァントであり、そして女の子な彼女を食べたらどれだけ強くなれるのだろうか。鬼の頭にそんな疑問が湧き上がり、そして口を開いた。

 

「君達って美味しいのかな?」

 

一見して意味わからない言葉。けど少女はその一文だけで理解して、鼻で笑った。

 

「きっと美味しくないわよ」

 

だって、(アタシ)たち。

 

「肉なんて持ってないもの」

 

そうして少女はぴょんと飛び跳ね、廊下の真下にある襖の奥へと消えて行く。

 

さて。

 

「次はどこでライブをしようかしら」

 

くるり、くるり。傘を回し少女は歩く。

人々から、そして鬼達から“そうであれ”と謳われた彼女は角は変わってもその変わらない竜の尾をゆらゆらと揺らしながら笑う。

 

「ねぇ、鳴女」

 

良いところないかしら?

 

 

---べべん。

 

 

どこからともなく琵琶の音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無限城は一人の鬼が作り出した城の名前だ、鬼舞辻の拠点だと思う」

 

無限城って何?という藤丸立香の質問に炭治郎と伊之助と顔を見合わせてから、炭治郎が口を開いた。彼が説明するらしい。

でも意外だ、炭治郎のことだから鬼舞辻のことなんて説明はとっくにしてるだろうとは思ってたのだけど。そう思いのまま問うと、彼は鬼の事や鬼舞辻の大まかな立ち位置や性格などを説明しただけで拠点とか十二鬼月などの説明はしてないらしい。

うん、俺が言うのもなんだが……そこら辺は説明しとこうぜ。俺が言うのもなんだけどね。

 

「鬼舞辻は基本、人間に擬態して生活している。俺が生前に初めて会った時は、とある家族の父親をしていた」

 

見た目はさながら夫婦円満。匂いで鬼と、鬼舞辻とわかるからこそ気持ち悪かったそうな。多分それ再婚か何かだろうな。鬼と人が交わって子供作れるかどうかわからないし、そこまで子供が成長する程入れ込んでもないだろうし……十年も姿変わらなかったら多分気付かれると思う。

 

「だけどそこに部下を集めたりできないだろう?だから鬼達だけの空間がいる。鬼殺隊に本部があるように」

「それが無限城。上弦の肆……今は上弦でもなんでもないのかな、まぁ鳴女って言う女性の鬼が作り出してる空間だよ」

 

炭治郎の言葉を引き継いで説明する。

 

「その鳴女が相手の位置を把握していれば、何処にいようと無限城に招き入れることができる。逆に彼女がいなきゃ外にも出る事すらできない。この世の何処にもない全く新しい空間……ここまで来ると正直妖術なんて生易しいもんじゃないと思うね、俺は」

 

無限城に招かれれば最後、鬼の腹の中と言ってもいい。彼女の琵琶が鳴る度にこちらは翻弄されるだけだから。空間系能力者はどこでも強い、そういうもんだ。

 

『規模はどのくらいなのかな?』

「さぁ、それはわからない。名前の通り無限、なんじゃない?」

 

多分端と端が繋がってるとかそんなんだと思うけど。小規模な地球がある、みたいな。何言ってんだこいつ?と思われるかもしれないけど、言いたいのは空間が四角形ではなく球体かもしれないという事だ。

 

『固有結界、ではないだろうね。我々が使う魔術とそこの鬼達が使う血鬼術とやらは全くの別物、として考えた方が良さそうだよ』

『血鬼術の説明は炭治郎さんから聞きました!力をつけた鬼が使う術だそうですが、血を媒介にしているとしても不思議な現象ですね』

「魔術はあくまで等価交換、でも血鬼術は違うか。うーん、ファンタジー」

 

だよね。俺も血鬼術って意味わからんと生前からずっと思ってる。呼吸はまだわかるよ?肺活量を多くして筋肉の活性化とかしてんだろうな、って漠然と思ってるだけだけど……まぁ血鬼術使ってる鬼達も理屈はわかってないんだろう。にしては厄介な奴ばかり開発してるんだから。上弦に至っては初見殺しにも程があるし、特に……。

頭を振る。かつて対峙した鬼の事など今は考えなくて良い。この時代にはもう、多分だけど生まれる事はないから。

 

「それで、上弦ってのは?」

 

今度は十二鬼月の説明だ。

鬼舞辻によって鬼になった者たちにも才能というものがある。鬼の素養と言って良い。鬼になって必ず人よりは強くなるけど、血鬼術を使えるとは限らないし、ましてや沢山食べてもずっと強くなれるとは限らない。

そんな中で強さを認められ、鬼舞辻の直属の配下となるのが十二鬼月。

 

「十二鬼月には上弦と下弦がいて、それぞれ六ずついる。だから十二鬼月」

「鬼の首魁に認められた実力者達。ただ上弦と下弦にはハッキリとした差があって、ここ百年ほどは上弦は入れ替わってないけど、下弦は何度も入れ替わってたりしてる。鬼殺隊最高戦力の柱でも上弦と対峙するのは文字通り命懸け、寧ろ敵わないことなんてザラだ」

「え、じゃぁ」

「あぁ柱すら上弦にあっさり殺される。それが今の鬼殺隊の現状だな」

「それに加えてサーヴァント……善逸さんの言ってた意味がわかったよ」

 

それは良かった。いや良くないけど。

 

「だったら尚更頑張らなきゃね」

 

最終目標は鬼舞辻の頸だ。その為には上弦もサーヴァントも邪魔になる。だから倒す。特にサーヴァントにはサーヴァントでしか対処できないのだから、尚更やる気出たらしい。立香らしいとも言っておこう。

 

『立香君が気持ち新たにしたところで、次の話だ。聖杯、についてだよ』

 

ついに来たか聖杯。カルデアとは切っても切れない縁だろう。小聖杯はサーヴァントの霊基向上にも使えるし、こういった場所では必ず聖杯が関わっていることが多い。事象を変更するには膨大な魔力が必要だからだ。

 

『金時さんの話からすると、鬼舞辻という方は確かに“願いを叶える杯”と言っていたということなので』

『そ、相手が聖杯を持っている事は確定事項になった。元々予想でしかなかったけれどね』

「でも当たっちゃったか。うん流石って言っとこうかな、本人はここに居ないけど」

 

誰の事を言ってるのだろうか。後で連絡しなきゃね、と言った彼は微笑みダ・ヴィンチの方を向いた。彼女は彼の言葉を肯定して、そういえば!と人差し指を上げる。

 

『聖杯といえばだよー、そこの小さな善逸君の結果まだ送ってなかったね!』

「あぁ、膨大な魔力を持ってる裏付けだったっけ?」

『そうそう!もうわかってると思うけど、送るよー』

 

そんな事してたの?

確認するような隣にいる善逸の方を向くが、彼はこちらを見てふるりと首を振るだけでよく分からない様な表情を浮かべていた。聞こえてくる音は疑問と不安。彼自身も意味を理解してないらしい。

腕時計型の機械からパネルを映し出した立香を見る。膨大な魔力ってのはまぁわかる。俺を現界させるほどの供給量があり、宝具を撃っても消える程枯渇するわけでもない。こうして現界だけしてれば寧ろ余る程だ。

 

「……あー、なるほど。うん、これオケアノスのパターンと同じ?」

『オケアノス、第三特異点のことだね。大丈夫、記録は読んでいるよ。で、君が言いたいのはフランシス・ドレイクの事かな?』

「うん、まぁ」

 

頬を掻き苦笑する立香にダ・ヴィンチはにっこりと微笑んだ。美少女の笑みはとても綺麗で、それだけで周りに花が飛んでいる様にも見えるけれど、対峙している立香はそうも思わない様だ。苦笑いを浮かべながら冷や汗をかいていた。

 

『流石立香君!その通りだともー!』

 

くるりと立体的な彼女がこちらを向き、楽しげに微笑んだ。その視線の先には善逸がいて、なんだか嫌な予感がする。具体的には俺が懸念していた……いや予想していた事態が起きていたみたいな。

 

『そこの彼、この時代の我妻善逸君の中にはね』

 

 

にんまり、三日月型に目が細められる。

 

 

 

『聖杯があるんだよ』

 

 

 

 

 

 




ここまでタイトル詐欺な話があるだろうか。いやない。

因みにこれ書いた後に過去話を探して読み返し、内容が違っているのに気づき書き直すか考えましたが止めました。医者殺して鬼になるのには変わりないので。
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