俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第八節 少しずつ歩み寄る。3/4

 

 

 

「「すみませんでした」」

 

皆さまこんにちは。私はセイバー、真名を我妻善逸と申します。

現在のマスターに近づくなと言われて縁側で休憩中、突進してきた伊之助(サーヴァント)の相手していたら思いのほか興に乗ってしまい、伊之助が型を放ったあと習うように放ったのですが、雷の呼吸特有の雷鳴音が屋敷中に響いてしまいました。えぇ、この時点でもうわかるでしょう。

 

「謝れば良いっていうものじゃありませんよ?」

 

絶賛、怒ったしのぶさんに対して土下座中でございます。

 

「手合わせぐらいなら許しましょう。しかし刀を持ち出し、型を使った時点でそれは戦闘です。そもそも言ってくだされば、道場ぐらい貸し出します。次手合わせするなら仰ってください。ご用意します」

 

いや、多分もうないかと。

 

「で、どちらがこれをやったのですか?」

 

にこりと微笑むしのぶさんの笑みはまさしく女神そのものだけれど、纏う雰囲気は般若のそれで俺は恐怖でガタガタと震えた。

彼女の視線の先には先程伊之助と戦いあった庭がある。良い感じに木々や池があるその場所は本来の姿とは違う様子を醸し出している。というのも先の戦闘で庭が、そう……ぐちゃっと……うん。

斬り落とされた木々の枝達や切り傷があり穴の空いた竹製の塀。綺麗に敷き詰められていた土は少し盛り上がり、奥にある池にいた鯉はぷかりと水面に浮かんでいた。あれは死んでる。

改めて見ると悲惨な光景だなー、あはは。そう現実逃避していると、チャキと刀を抜く音がした。即座に伊之助を指差す。

 

「「こいつがやった/やりました」」

 

同時に伊之助もこっちを指差していたようで、パチリと視線が交差する。

 

「あん?紋逸がしたんじゃねぇか」

「いやいやいや!?少なくとも木と塀は伊之助だろ!?土と鯉は多分俺だけどさ!」

「俺は木なんて斬ってねぇぞ!型を放っただけだ!!」

「その直線上にあった木なんだから伊之助が犯人だろ!!」

「ちっげぇー!テメェがやった!!」

「やってねぇよ!!!」

 

俺が叫んだ後にコツンといった音が響いて、背筋を伸ばす。恐る恐る聞こえた方を向くとしのぶさんは笑っていた。

思わずひっ!という悲鳴が漏れ、ススっと後ずさる。ここから逃げるような真似はしないけれど、彼女から聞こえる地鳴りのような怒った音が怖すぎて腰が引けそうになるのだから後ずさるのだけは許してほしい。

表情と感情がここまでかけ離れているのは初めて見たわ。

 

「貴方達の言い分はわかりました。聞いた私が悪かったとは思いますが、責任転嫁はやめましょうね?」

 

みっともないので。

そう言って圧が増したしのぶさんの言葉に俺たちはハイとしか言い返せない。しのぶさん怖すぎる。

 

「しかしやってしまったことは仕方ありません。時は戻らないので……ですので、罰を与えます」

 

罰、とな。謝罪だけじゃ済まされないことをしたとは思っているので、その申し出は有り難い。できることであれば何でもする所存です。いやサーヴァントなので大抵のことはできるとは思うけれど。

 

「まずは庭の整理。これは当たり前ですよね」

 

そうですね、当たり前です。遊んだ後の後片付けは大事ですもんね。二人でやります。

 

「伊之助君ですが、貴方には隊士達の機能回復訓練の相手となってもらいましょう。明後日ぐらいから、軽傷者達を対象に始める予定ですので」

 

機能回復訓練とは所謂リハビリだが、その内容は結構ハードである。一般人より体力があり呼吸法によって超人的な力を手に入れている鬼殺隊ならではの方法だが、普通の人がやったらすぐに病室送りだ。まぁ落ちた体力を取り戻すにはあれが一番だとは思うけれど。

だが、相手にするのは一般隊士だ。伊之助にとっては物足りない相手なんだろうじゃないか。

 

「なんで俺が!」

「良・い・で・す・ね・?」

「イイデス!」

 

しのぶさん相手となると伊之助も弱いよな。片言で返事をした伊之助に満足した彼女は、次はこっちだとばかりに俺の方を向いた。整った麗しい(かんばせ)を綻ばせている。いやぁ美しい。彼女から聞こえてくる怒りの音さえなければ、頬を染めて浮かれていたというのに。今は多分俺の顔は青ざめているだろう。

 

「次に聖刃さんですが」

「ハイ!」

「明日から一ヶ月ほど、蝶屋敷の手伝いをしてもらいましょう。那田蜘蛛山での傷病者が多すぎて人手不足なので」

 

え、でも俺。

 

「医療知識とかそんなからっきしですけど」

「包帯ぐらいは巻けますよね?」

「……巻けます、けど」

 

よく自分一人の時に怪我した時とか応急処置できるようにってそういう知識だけはあるから。ただ医療となると全くもってわからないのが現状だ。

 

「では大丈夫です。ここでの仕事は炊事洗濯掃除、傷病者の方達のお世話となりますので。炊事洗濯掃除はできますよね?何せ、西洋のお菓子を作れるぐらい器用な貴方なら簡単でしょう?」

 

お菓子作りと炊事洗濯掃除は全くもって違うと思いますけど、今のしのぶさんの言葉には逆らえないので一所懸命に頷いた。不満なんて持ってませんとも、全てしのぶ姐さんの言う通りでっせ。

 

「では、そういうことで今回の一件は不問としましょう」

「ありがとうございます!」

 

にこりと笑って去っていくしのぶさんにもう一度土下座しながら感謝する。一度は頭を下げたのだからとそっぽを向いていた伊之助の頭も引っ掴んで土下座させた。

何しやがる!という抗議の声を無視して、彼女が見えなくなるまで頭を下げ続ける。美人て顔が整ってる分、怒ると怖いよね。禰豆子ちゃん然り、炭治郎然り、隣にいる伊之助然り。まぁガチで怒ってるわけじゃなかっただけマシか。

……それにしても周りに美人しかいないじゃないか。どうなってんだこの世界。

 

「よし、伊之助。片付けるぞ」

「俺に指図すんじゃねぇ」

「俺が指図してんじゃなくて、しのぶさんの命令だからな?やらないとまた怒られるぞ」

 

ぐっと言葉に詰まる伊之助に苦笑する。彼女の怒りは伊之助にだって怖いものだ。彼が素直に謝るのは彼女相手ぐらいである。

やがてまた怒られる想像をしたのか、罰が悪そうにそっぽを向いたまま彼は眉を寄せた。

 

「何すればいい」

 

小さくそう呟いた言葉に俺は笑って、切り取られた枝達を指差した。

 

「まずはあの枝を拾おうか。拾った後は好きにして良いぜ?」

 

お前、枝とか好きだろ?と言うと、利用価値があるからな!!と返された。利用価値なんて言葉知ってたのか貴様。まぁ猪突猛進ていう言葉知ってるんだもんな……決して叫びながら突進するような四字熟語でもないのだけど。

 

「俺にも持ってってやるか!」

 

俺、っていうのはこの時代の伊之助のことだろう。絶賛落ち込み中な彼に枝を持って行って喜ばれるかはわからないが、まぁ未来の本人からのプレゼントだ。嫌がらないことは…………いやまてよ?何気にプライド高い伊之助のことだ、自分に煽られた!なんて思っても仕方なくないか?絶対伊之助のことだから、良い枝とか見つけたら自慢するし、そんなのをあげたら嫌味になるのでは??伊之助に嫌味が通じるかはさておき。

可能性は全く無いいことは無いので、とりあえず、止めてやろう。

 

「伊之助、非常に言いにくいんだけどやっぱ止めたほぶッ!?」

「あ、悪りぃ」

 

庭に降り立って伊之助を止めようとすれば飛んできた枝に顔がぶつかった。痛く無いはずなのに何故か痛い枝がめり込んだ顔面を押さえてると、彼は素直に謝ってくる。

何すんだと文句を言ってやろうと目を開けて伊之助の方を見ると、散らばっていた枝達が更に散らばっている。なんか散らばってる範囲が広がってるし、何なら塀に枝が突き刺さってたりしている。えぇ、どんな力を入れて放り投げたのさ。

 

「伊之助……何してんの」

「おう!枝を選んでた!!」

 

ニカーッととてもいい笑顔でこの枝とかどうだ!?と聞いてくる伊之助に、俺もにこーっと笑い返して拳を握った。

 

「余計な」

 

そうして脚に力を入れて全集中の呼吸。

 

---雷の呼吸

 

「仕事を」

 

---壱ノ型

 

「増やすなァア!!!!」

 

---霹靂一閃・神速!!

 

拳が鳩尾にクリーンヒットして塀を越えて飛んで行った伊之助をふん!と鼻息を鳴らして見送る。落ちてきた綺麗な枝をパシッと受け止めて、腰に手を当てた。

 

「お前に片付けを頼む方が馬鹿だったよ」

 

外で大人しくしてろ。

 

そうして片付けに専念し始めた俺の前に般若どころか鬼神もかくやな雰囲気を纏ったしのぶさんが現れて速攻で土下座をキメることになるのだが、それは余談だろう。

怒りのままに塀を壊さなかっただけマシだと思ってた俺の心を見透かしたしのぶさんはめちゃくちゃ怖かったとだけ言っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「善逸」

「……」

「善逸ー?」

「…………」

「ぜん……!」

「………………」

「いつ!!!」

「だぁああもう!!何さ!?炭治郎!!」

 

ガバリと起き上がる。潜り込んでいた布団を押し上げ呼びかけていた人物を睨みつけた。ずっと自分の名前を呼んでいたその同期はにこりと笑ってやっと起きたと言った。はえ?と声が溢れる。あれ、俺が知ってる方の炭治郎じゃ無いじゃん。

 

「って、大人の方の炭治郎かよ」

 

くっそイケメンだな。滅べ、ケッと吐き捨てながらもう一度布団に潜り込もうとすると服を掴まれて座り直された。その時に首が締まり、ぐぇと蛙が潰れたような音が喉から出たのは不可抗力だと言っていい。ゲホゲホと咳き込んでは、何すんだ!と大人炭治郎を睨みつけた。

俺が知っている炭治郎と全く同じ音を立てている大人炭治郎は、すまないと一言謝る。

 

「しかし流石に何度も呼んでいたのに、何事も無かったかのように布団に潜り込まないで欲しい」

「へーへー、悪うございました。で、何よ」

 

俺は今不貞寝中なのだからそっとしておいて欲しい。手足の痺れもあるし、苦い薬を飲んだばかりなんだ。安静にしておいてくださいとアオイちゃんから言われたしさ。

 

「そうやって引き篭もるのもなんだから、日に当たりに行かないか?」

「俺、安静にしてろって言われたんだけど」

「そうだろうけど、鬼の毒で手足が短くなってるんだ。日光に当たるのも治療の一つだぞ?」

 

いやそうだけどね?微妙に論点がずれた回答をしないで欲しい。確かに日光に当たるのも治療の一つなので、なるべく日の当たる場所へいてくださいとは言われていたけど、今は安静にしてろって話だからベッドで寝てたんだよ。何も出歩けとは言われていないし。

意味わかってんだろうか、この長男。と大人炭治郎を見れば、彼は笑うばかりでこちらの意図を理解していない。うーん、大人になって鼻が鈍くなったんじゃないの?それとも匂いを嗅いでもわからないとか?

 

「それに禰豆子もいるぞ」

「行きます」

 

キリッと表情を正して間髪入れず答える。それ言えよ、先に言えよ。禰豆子ちゃん案件は第一に言え。

俺の言葉に何故か苦笑した炭治郎は、行こうかと俺の両脇に手を入れてベッドから持ち上げた。思わずスンと表情が削げ落ちる。気分はあまり懐いていない人間に持ち上げられた猫だ。俺が猫だったら直ちに爪を立てて炭治郎の顔を引っ掻いてるな、うん。代わりに余っている袖をぱちりと当ててやったが。

 

「降ろせ、歩ける」

「歩けるだろうけど、善逸の足では遅いだろうから抱えて運んだ方が早い」

 

むん!とした表情を出した炭治郎は俺を小脇に抱えて歩き出す。いや運び方よ。もっと良いのがあるでしょうと考えるけれど、それだとまた抱え直される羽目になるので黙っておく。頑固な炭治郎は大人になっても治らなかったらしい。石頭なまんまなんだろうなぁ。

手足をプラーンと宙に放り出しながら、何処へ行くのだろうかと考える。普通に考えて縁側だろうけど、そこまでの道順を知らないが為に何処へ向かってるのかわからない。この屋敷って簡単そうに見えて結構複雑な作りになってるから、迷子になりそうで油断できないんだよなぁ。俺は耳があるからある程度場所はわかるけど、そうじゃない人達はきっと一回は迷っていると思う。

聞こえてくる強くて優しい静電気みたいな音とは反対方向へと炭治郎は進んでいる。少なくともセイバーに会うことは無さそうだと安堵して、その先にいる人の音を拾った。この大きな器が泣き声で反響してるような音は、藤丸さんだ。聞き慣れない鼻歌を歌って、じゃりっと砂が擦れる音がした。縁側で足を振っているのだろう。規則的にその砂の音は鳴っている。

 

「藤丸さんのとこか」

「わかるのか?」

「そりゃぁあんな特徴的な音、一度でも聞いたら覚えてるよ」

 

どんな音だ、と呆れる炭治郎から視線を逸らす。そりゃぁお前みたいな泣きたくなるような優しい音じゃないけど、似たような優しさを持った音だ。こっちまで泣きたくなるような音。

俺が視線を逸らしたのを見た炭治郎は、でもそうかと呟いた。何かを納得したような音もする。

 

「善逸は耳が良いんだったな」

 

その言葉を聞いて一瞬理解できなかった。俺が耳が良いのは当たり前の事実で、俺が独りになりそうだった理由で、唯一の取り柄って言って良いやつで、それでセイバーも持ってるものだ。改めて実感する事実でもないんじゃないだろうか。

だってこの炭治郎は一生を既に終えた炭治郎だ。

 

「どういうこと?」

 

思わずそう尋ねると彼は苦笑しながら曲がり角を曲がった。

 

「いや、深い意味はないんだが……俺とは違って善逸はあまりそういう話をしないから忘れてしまいそうになる」

 

大人になってからはあまり一緒にいる時間もなかったから、と続けた炭治郎は少し寂しげだ。

 

「任務も被らなかったの?」

「滅多にな。柱同士が同じ任務となると十二鬼月相当の力を持つ鬼ぐらいだからな」

 

だから会うのも半年に一度の柱合会議ぐらいだ、と宣った炭治郎に俺は何を返せば良いのだろうか。驚きのあまり固まるしかない。

柱?柱ってあれだよな?昨日聞いた鬼殺隊の最高幹部、めちゃくちゃ強い人達。会ったこともない雲の上の人、みたいな印象だけど……え?今の話を聞いてる限りじゃ、炭治郎もセイバーも柱になってたって事か?

 

「た、炭治郎?」

「ん?なんだ?」

 

うわ、自分の失言に気づいてない顔と音だ。思わずジト目になってしまう。

 

「今の話じゃ、炭治郎とセイバーが柱だったっていうことになるけど……?良いのか?」

 

そんな話を俺にして、とまでは言わなかったが彼は理解したのか、あっと口を開けて間抜け面を晒した。眉を顰め、後悔してますっていう表情を浮かべる。やらかしたと呟いてることから無意識だったのは確定なようだ。

このうっかり炭治郎め、と短くなった手で炭治郎の脚を叩いた。

 

「あー、内緒にしておいてくれ。あまり話して良いものじゃないだろうから」

「話を聞いた後に言われてもな……」

「因みに伊之助も柱だったぞ」

「内容を増やすなよ!!!」

 

何故ここにきて新情報を明かすのだろうか。そりゃ炭治郎やセイバーが柱になってるなら伊之助もなってるだろうな、とは思ってたけど。少し一緒に過ごしただけでもわかるあの負けず嫌いのことだ、俺もなる!とか言って軽率になりそうだ。俺はなりたくないけど、なれないけど。

でも……うん、そっかぁ。

 

「セイバー、柱だったんだなぁ。流石だわ」

 

ピタッと歩みが止まった。あともう少しで藤丸さんの所へ着くというのに何故いきなり止まったのだろうか。不審に思って炭治郎を見上げると彼は此方を見ていて、思わずひぇと小さく悲鳴をあげた。

 

「前から思っていたんだが……善逸は」

 

俺は?

小首を傾げると彼は眉を顰めた後、複雑そうな音を出しながらまた歩き出した。言葉の続きを言うつもりはないらしい。そこまで出たなら言えよ!と叫びたいところだったが、藤丸さんの嬉しそうに呼ぶ声によってその気力は削がれた。

 

「おかえり炭治郎!そしてさっきぶり、善逸さん」

 

その整った顔を笑顔に綻ばせた藤丸さんは、案の定縁側に座っていた。

じゃり、と砂が擦れる音がする。

 

 

 

 

 




これを書きながら思ってたことが、(某猫ふぉるめな善逸って自分の可愛さをわかっていて人間に媚びるタイプの猫と見たけど、善逸的にそんな事はしないだろうなっていう矛盾があるんだよなぁ)という。
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