俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第八節 少しずつ歩み寄る。4/4

 

 

 

ポカポカと当たる日が心地良い。少し眩しいけれど、丁度いい暖かさが身体に染み渡る感じが気持ち良かった。うん、蜘蛛の毒に効いている気がする。気がするだけで本当に効いてるのかはわからないけど……鬼の弱点の一つが日光なのだから、血鬼術の類だろうこれにも効いているはずだ。効いてもらわなきゃ困る。一生このままとか嫌だからね、俺。

 

「善逸さん、ごめんね」

 

日の光に目を細めていると、藤丸さんがふと謝ってきた。何がだろうと疑問符を浮かべると彼は申し訳なさそうに眉を下げて、いやねと続けた。

 

「炭治郎ってちょっとこう強引なところがあるからさ」

 

無理矢理連れて来られなかった?と聞かれてすぐさま首を振る。最初はそりゃ断ったけど、最終的に頷いたのは俺の方だ。藤丸さんが謝る事でもないでしょ。

 

「それなら良いんだけど」

「どうして?」

「呼ぼうって言ったの俺だから、彼を責めたりしないでって言いたかっただけ」

 

あぁ、藤丸さんが俺を呼んだのか。炭治郎はただ日の光に当たりに行こうとしか言ってなかったから、別に彼に呼ばれたという気はしてなかった。ただ行く先に藤丸さんがいただけで。

 

「善逸で良いよ」

「えっ」

 

ぽつりと零した言葉に彼は反応する。ぷらぷらと縁側の縁に座っているのに地面に届かない脚を揺らしながら、俺は言葉を続ける。

 

「呼び方。歳上の人にさん付けされても、なんかこそばゆい感じ」

「けど」

「どうせセイバーをそう呼んでたからその延長線ってだけでしょ?俺とあいつじゃ違うから」

 

俺は歳上の人にさん付けされる程偉くはないし、セイバー程凄くもない。だから気楽に接してほしい。まぁ俺はさん付けするけどね。藤丸さん、どう見ても歳上だしさ。身長だって今の俺よりも高い。あぁでも身長高いから歳上ってのは単純過ぎるかな。

ふと苦しそうな音がした。顔を上げると藤丸さんを挟んで反対側に座っている炭治郎から聞こえていた。その音に違わず、顔を顰めている長男は唯一の妹に頭を撫でられてる。元気出して、と言う様に兄の頭を撫でる禰豆子ちゃんは本当に可愛いなぁ。

 

…………って!

 

「禰豆子ちゃん!?!?」

 

驚きながらそう呼べば、彼女はむん!と掌を此方に向けて立ててきた。まるで軽い挨拶をしている様な彼女は、明らかに日の光に当たっている。なんなら半分ぐらい光ってる。め、女神。

……って違う!

 

「禰豆子ちゃん太陽に当たっても大丈夫なの!?!?」

 

彼女から聞こえてくる優しい音に混じった鬼の音。他の鬼とは少し違うその音は確かに異形の音で、彼女が鬼だと言う証拠になり得る。けど日の光に当たってもなんともない様だ。ほけほけと笑っている。可愛い。

 

「禰豆子と俺はサーヴァントだ。肉体を持っているわけじゃないから日の光は効かないんだ。藤の花は嫌がるけど」

「むーん」

「藤襲山に行った時ヤバかったよね。禰豆子ちゃん、くしゃみと鼻水が止まらなかったし。鬼って重度の藤花粉症なのかも」

 

多分、普通の鬼が藤に近づくとアレルギーショックでも起こすんじゃないだろうか。

そう続けた藤丸さんに乾いた笑みを浮かべるしかない。多分その症状は特別な鬼である禰豆子ちゃんだけなんじゃないだろうかって思うんだけど、どうなんだろう。鬼が藤を忌み嫌うのは花粉症のせいとかそんな新発見いらないよ。謎のままでいて欲しかった。

 

『聞いている限りじゃ不思議な生命体だよね、鬼って。我々が知っている鬼種とは違うようだし』

『酒呑童子さんは生粋の鬼種、茨城童子さんは人から鬼へ転じた鬼種ですが、この世界の鬼とは鬼舞辻無惨という方が人へ血を摂取させる事により変容するとか。日の光で消滅し、日輪刀と呼ばれる特殊な刀で首を斬ることしか倒す方法がない……』

「日光が弱点で血で眷属増やすって吸血鬼にしか聞こえないよね。これ言ったらぐっちゃん先輩が怒りそうだけど」

『確かに、純粋な吸血鬼。つまり精霊種な彼女にしてみたら、地雷を踏んでるような存在だからね』

 

なんか前より声増えてない?

 

『ただ……藤の花が弱点というのは、最初は一人しかいなかったのかもしれない』

『それが原点である鬼舞辻無惨という方なのでは?というのが私たちの見解です。その方が全ての鬼の中にある血を操れるのだとすれば、彼自身が忌み嫌っていたものが鬼自身へ刷り込まれていてもおかしくはありません』

『アレルギーというのは時として思い込みでも発症するからね。あり得ない話じゃない。きっと鬼に藤の花や、藤の毒が効くのは人とは違い容量が全くないからだと思うよ』

「そうなの?」

『ま、これは私たちの予想だ。本当の事は鬼舞辻無惨って奴に聞くと良いさ!倒す分には要らない情報だろうけどね!』

 

まぁ鬼の首魁に藤の花の毒なんて絡め手通じないと思うよ、俺だって。普通の鬼だってあんなに怖いんだもの、毒摂取させるなんて無理でしょ。藤の花を直接ぶん投げても避けられる未来しか思いつかないけど。

脳内にいるやたらめったら強そうな鬼の首魁にこんなもの効かぬ(低音)と藤の花の枝をぶん投げ返されたところでハッとする。姿も見えない第三の可愛い子の声は誰なのか、はっきりさせなければならない。

 

「藤丸さん、ダ・ヴィンチちゃん以外に聞こえてくる声の子って」

 

彼の七分袖をくいっと引っ張りながらそう問いかけると、彼はんん゛と咳払いをしてからあぁと頷いた。咳払いのとき苦しそうな音を出していたけど大丈夫だろうか。にこやかに笑いかけてくれる藤丸さんを密かに心配しながら、言葉の続きを全く。

 

「マシュのことかな。俺の後輩だよ」

 

ほう、後輩とな。

しかしマシュ、とは。異国人なのだろうか。藤丸さんは正真正銘日本人だろうから分かるけど、彼女らは異国人だろうに流暢な日本語を話すもんだ。街でたまーに出会う異国人は日本語を話せても片言なのに。

 

『ご紹介に預かりました、マシュ・キリエライトです。マスター・藤丸立香のサーヴァント兼後輩を名乗らせていただいてます。今回はナビゲーションとしての参加となっています』

「映像はまた今度ね。今充電中だから」

 

聞こえてくる優しい声音にでれっとしてしまう。これはわかる。めちゃくちゃ可愛い子だ。見なくてもわかる。俺のセンサーがそう言っている。

 

「そっか、マシュちゃんね。俺は我妻善逸、よろしく」

『はい!よろしくお願いします!善逸さん!』

 

すぐさま返ってくる清く正しい返事に俺は頬を緩ませた。めっちゃ良い子じゃん。絶対めっちゃ良い子でしょ。なんか藤丸さんと仲良く話してるところ見ると多分二人はそんな関係、一歩手前ぐらいなんでしょうね。甘酸っぱい青春をしてるんでしょう。ハーーー、これだからイケメンは。何もしなくても可愛子ちゃんが付いてくる。いやこれ言っちゃったら女の子に失礼だから言わないけど、男として妬むぐらいはさせて欲しい。応援はしますって、ただ羨まらせてくれ。

 

マシュちゃんは何が好き?

好きとは?

何でもー。

そうですね……せ、せん、ぱい(小声)とか。

あ゛ーーー。

 

「善逸」

 

そんな会話を頬を緩ませたり、固まったりしながらしていると炭治郎に呼ばれる。なんだよと顔を上げると、炭治郎は禰豆子ちゃんの頭を撫でながら申し訳なさそうに八の字に眉を下げていた。

 

「マシュさんは善逸より歳上だぞ」

 

え。

 

「エッ!?まじで!?」

 

思わず藤丸さんの方を向くと彼はこくりと頷いた。

 

「善逸は確か十六だったよね?なら歳上だよ。マシュは去年で十七になったから。因みに俺は十八ね」

「えぇ!?まじで歳上だ!ごめんなさいね!?歳下だと思ってました!」

 

藤丸さんの言葉に驚き、マシュちゃんに向かって謝る。見えないし音も聞こえないから、どういった心境かはわからないけど、慌てたようにいえ!と返してきたことからするとあまり怒ってなさそうだ。

 

『私にとっては皆さんの方が先輩でもあるので!無理に畏まらなくても大丈夫です!』

「そ、そう……?ちょっと意味がわからないけどマシュさんがそう言うなら良かった」

『あ、敬称も先程ので構いません。好きに呼んでいただければ』

 

えぇ……めっちゃ優しい。

思わずそう呟けば、だろ!と言いたそうな藤丸さんの表情が見えた。娘、息子を自慢する親みたいな表情だ。以前街中で見かけた子連れの母親達がそんな表情をさせて、恐ろしい音をさせていたのを思い出す。きっとあれは対抗心の音だ。綺麗な笑顔を浮かべながらそんな音を出してるんだから、世間のお母様方は怖いななんて思いながら側を通り過ぎた気がする。まぁ目の前の彼はそんな恐ろしい音は出していないけど。

 

「そういえば、聞いたよ。善逸って耳が良いんだってね?」

「え、うん、そうだけど?」

 

藤丸さんのいきなりの問いに戸惑いながらも頷く。左の耳を軽く引っ張って首を傾げた彼は俺の言葉に嬉しそうに頷いた。何が嬉しいのだろう。聞こえてくる音もどこか楽しそうだ。

 

「感情の音とか聞こえるんだよね」

 

凄いなぁ。

そう呟く彼に驚く。

 

「…………気持ち悪く、ないの?」

「えっ、全然?驚きはすれど気持ち悪くなったりしないよ!あっ、プライバシーのこと気にしてる?気にしないで!沢山の英霊と過ごしてるとプライバシーもへったくれもないから!」

 

プライバシー、という言葉の意味は知らないけど彼にとってこの耳は気持ち悪いものでもないらしい。確かに考えてみれば炭治郎と一緒にいる人だ。彼は俺と違って正直で愚直なところがあると思うから、何でもかんでも匂いが何やらと言いそうだ。普通なら感情の匂い、音なんて言葉信じない。俺たちもそう知ってるから気にしない。けど、彼は知っていて理解していてなお、気持ち悪いと思わないらしい。

そっか、と小声で返す。俺の周りは優しい人ばかりだな、なんて思ったり。

 

「で、聞きたいことがあるんだけどね」

 

鬼と人で音が違うらしいけど、サーヴァントと人の区別はつく?

そう彼に聞かれてすぐさま首を振る。少なくともセイバーは人と同じ音をだしているし、そこにいる炭治郎や禰豆子ちゃんも例外ではない。見分けもつかなければ、音でも判断はつかない。

 

「あ、でもセイバーや伊之助は炭治郎とちょっと違う音が混じってる」

「どんな?」

「よく分からないけど……人間の音じゃないよ、鬼でもないけど」

 

今度は藤丸さんがそっかと言う番だった。

大人炭治郎から聞こえてくる音は確かに人間の音と同じで、禰豆子ちゃんから聞こえてくる音は鬼の音だ。それは確かにこの時代の炭治郎と禰豆子ちゃんと変わらない音だった。

でも、伊之助はどこか違った。人間の音はするけれど、何か違う音も混じってるんだ。セイバーもそう。伊之助よりは弱いけど、確かに何か混じってる。それが何なのかはわからない。でも鬼の音ではないのは確実だ。

俺の返答に暫く考え込んでいた藤丸さんは、違うこと聞くねと前置きをしてから質問をしてきた。

 

「……炭治郎みたいに人の嘘はわかる?」

「わかる、けど」

 

何度も聞かれた質問だ。嘘がわかるのか、それこそ嘘だろう。大人達が俺の耳の事を知った時に言う言葉だ。セイバーに出会うまで何度も。俺が嘘吐きだと言われた原因で、俺が一時期無視していた音。

それがわかると知った彼は、今から俺の音が嘘ついてないかどうか判断しながら聞いてほしいと真剣な表情を浮かべた。思わず背筋を伸ばす。

 

「……聖杯が君の中にあるって言ったの覚えてる?」

 

こくりと頷く。

あの魔力がめちゃくちゃある杯。黄金の杯。願いを叶える器。それが俺の中にある。

正直生まれてこの方一度も身体に違和感がなかったから、そんな事を急に言われてもピンと来なかった。

でも魔力という単語を知って、ちょっと思い出したんだ。俺にはあり得ないぐらいの魔力があるってセイバーが言っていたのを。絶対に口渇しているはずの魔力が尽きないのは可笑しいって言っていたのを。きっとその原因はこの聖杯なのだろう。

 

「善逸には話しておいた方が良いと思ったんだ。俺が……いや」

 

静かに瞼を伏せていた藤丸さんは、その蒼い青空のような瞳を此方へ向ける。

 

「俺達が知ってる聖杯について」

 

にゃーんと、何処からか猫の鳴き声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 




少しずつ歩み寄る(何が?)

次回は14日か!

番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】

  • 良いんじゃないか?(ここに載せる)
  • ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
  • 嫌な予感しかしない!!!(始めない)
  • それ私もいます……??(回答が気になる)
  • 俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)
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