俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第九節 鬼竜娘の公演。1/4

 

 

 

 

 

 東京から少し離れたとある県にあるとある街。

 日が落ち、白熱灯が星々の代わりに輝いている午後六時頃。都ほど栄えた場所でもないが、それなりに行商人が行き交う活気ある街ではとある催し物が開催されようとしていた。

 街の中心にある大広間にある丸い台座。そこでは日夜、芸達者なもの達が芸を披露したり、街の有権者達が演説したりと様々な催し物をするのにと作られた場所だ。

 

「チュンチューン! 鬼王朱裸の初生ライブ!」

「ライブ配信でしか見れなかったエリちゃんJAPANを生で見れるなんて幸せチュン!」

 

 そこで何やら騒がしく楽しそうに喋る何者かの話につられて、街の住人達がなんだなんだと集まっていた。

 最前線には雀の置物がコロコロと転がり、翼を広げたりしている後ろで暇だからと夕食を取り終わった人や、今から家に帰ろうとしていた人、またゆっくりと休憩中の御仁が優雅に茶屋の軒先で緑茶を飲みながら台座の方を眺めている。

 

「あの雀達どうやって話してんだろうなぁ」

「腹話術じゃないか? これから始まるのも腹話術で何かするんだろうよ」

「中に人が入ってるのかも知れんね」

 

 台座の前に集まる雀達について、その後ろにいる街の住人達が好き勝手話しだす。あの雀はなんだ、変な形だな、なんて言ってはいるが決して暴こうとはせず、ただ良い話題ができたとばかりに楽しげに談笑していた。

 そしてそんな人集りがやがて壁の様になり始めた頃、台座から少し離れた場所にある裏路地で黒い服を着て目だけを出す覆面をした一人の人物が、こっそりと覗いている。

 背中には大きく“隠”と刺繍されていることからどうやら、鬼殺隊の非戦闘要員である隠らしい。主に情報収集や、小物作り、後処理など様々な雑用をこなし、鬼殺隊の剣士を陰から支える存在である。

 

「(妙な噂があるって話だから来たけど、なんだあれ。雀みたいなのが喋ってる)」

 

 どうやら情報収集の為にこの街を訪れていた様だ。

 

「(鬼の血鬼術? 喋る雀を生み出す、とか? 意味がわからんな)」

 

 考えてもわからない。しかし何かが始まるのは確かだ。愛用の万年筆を取り出し、メモ帳を構える。目の前で起きる出来事を残さず記す為だ。もし鬼の仕業だとすれば、頸を斬るために何か助力になるかも知れないからだ。

 そうして目の前に注力して。

 

「ハァアーイ! お待たせしたわね! (アタシ)の魅力に取り憑かれた子トリ達!! そしてそして! 新しく(アタシ)の虜になっちゃう子ウサギども!! 和風ヴィジュアル系ロックバンド『鬼王朱裸』のヴォーカル兼リーダー、エリザベートJAPAN! ここに現・界☆ さぁ、(アタシ)の歌に酔いしれなさい!!」

 

 突然現れた存在に、その場にいた人間達全員の目が点となり。

 

「「「イェエエエイ!!! エリちゃーーん!!!」」」

 

 世にも奇妙な雀達はこの時代にないはずのペンライトを振り回していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖刃さんは二〇一から二〇五号室の担当を。きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんは一〇一から一〇五。私は残りの三〇を担当いたします」

 

 とある日の蝶屋敷、午前十時。蝶屋敷の従業員室で俺はアオイさんの言葉に頷き、廊下を速歩きで移動していた。

 坂田金時戦があったあの日、善逸に接触禁止を言い渡され、しのぶさんに怒られたあの日から数週間ほど経った。言い渡された仕事にもこれもう剣士じゃなくて看護士に転職しても良いんじゃないだろうかってぐらいに慣れ、平和な日々を送っている。

 望月千代女戦から坂田金時戦のスパンが短かったのでこんな事してていいのかって時々思ってしまうけれど、これはしのぶさんから言われた罰でもあるので放り投げるわけにもいかない。少し離れた場所にある道場では、伊之助の笑い声と名も知らない隊士達の悲鳴が聞こえてくることだし、俺だけが仕事を放り出しても面目が付かない。だってあの伊之助がちゃんと手加減して隊士達と向き合ってるのだから、やらなくてどうするって話だ。

 

「はーい、野郎ども。診察のお時間ですよ」

 

 スパーン! とスライド式のドアを開けて、ベッドにお世話になっている野郎どもへと笑顔で話かける。ドアを開けた衝撃でズレた狐面を少し直してから、持っていたお盆をベッド脇の机の上に置いた。

 

「…………」

「ナイスバディなナース姿のお姉さんじゃなくて残念だと思いますがね、そうもいかないのが看護士というもので」

 

 俺が話しかけても無視をする奴を俺は無視しながら一人で話し続ける。湯呑みに入った飲み薬をそいつの近くにある机の上に置き、隣で寝ている猪の皮を被った野郎を叩き起こす。

 

「な、ないす……?」

「貴方は知らなくて良い言葉ですね、純粋朴念仁野郎」

「純粋朴念仁野郎……?」

 

 喉に優しい薬を無理やり飲ませてから、首に巻いてある包帯をスルスルと解いて交換していく。終始大人しくしているのは文字通り落ち込んでいるからだろう。最初よりマシになったとは言え、ここまで引き摺る奴だったとは。

 はい、安静にしていてくださいね? 決して猪突猛進などと叫ばない様に? と念押しして猪の頭を被り直させる。

 

「次は貴方です」

「あ、はい」

 

 赤みがかった瞳を困惑しながら此方に向ける彼に口元でだけ笑いながら、包帯を変えていく。ほぼ全身にあるそれを慣れた手つきで剥がし、痛がるのを無視して薬を付けてまた巻いていった。血が滲んでいる包帯をお盆の上に置き、痛み止めの薬を持たせる。

 

「あの、せ、いやぜ、ん!?」

 

 何やら言葉を続けようとした彼に俺は笑顔でその両頬を片手で引っ掴んだ。顎の骨が折れてるのでなるべく優しくだが。

 

「私はただの看護士ですよ」

 

 その名前を持つ奴はお前と同じくベッドで寝ているだろう。お前にとってその名前はそいつで、俺は同じ名を持ってるけど違うから。だからお前は呼んじゃいけない。ま、俺の知ってる方は生前の俺と関わった方だから仕方ないんだけどね。

 そう伝えることはできないけれど、代わりに人差し指でシーと黙る様にサインすると彼は快く頷いてくれた。うん、優しいな。

 

「では、私はこれで。療養なさってください」

 

 回収したそれらを持って扉の前で一礼してから閉める。

 

「あー、そうそう」

 

 が、もう一度開けて慌てて目を逸らした金色の髪を持つ少年に向けてにこりと笑ってやる。

 

「不貞腐れるのも良い加減にしません?」

 

 あの日に言われた“暫くほっといて”という言葉はずっと頭の隅にある。会いにいけば良いのか、彼から許可が得るまで避けていれば良いのかわからなくて看護士の仕事を覚えるまでずっと放置して、いつの間にか彼からも何も言われなくなったりしてさらに分からなくて。

 そんな俺達の状態を知ったアオイちゃんが俺の担当部屋をこの部屋に割り振れてくれて。俺は看護という名目を得て今日まで話しかけていたのだがずっと無視されていて、正直進展はないから申しわけがなかった。けど良い加減、終わりにしないといけない。ずっとこのままじゃ駄目だ。

 ぴくりと肩を揺らした彼に向かってため息を吐いた。

 

「正直に言いますと、貴方のそれはいらないものです。必要のないものです。私が一体誰のサーヴァントだと思ってるんです?」

 

 お前のだろう。

 

「それに敬語の方が楽なんです。私の本来の口調は貴方とはちょっと違うので違和感半端ないですし、私はセイバーだから……セイバーであれるから敬語の方を好む」

 

 駄目、ですかね?

 そう問うと彼は悩んだ音を出しながらも、駄目と小さく呟いた。

 

「…………………………あぁ、もう! わかった、わかりました!! 私の負けです」

 

 振り返った彼からそっぽを向きながら頭を掻く。

 

「全く数週間も無視するとか頑固だな。誰に似たんだか……」

 

 敬語になりそうなのを我慢しながら話す。何年もこれでいっていたのだ。正直今更敬語外す方が難しいのだが、マスターが折れないんじゃ仕方がない。

 嬉しそうな音を響かせるそれに眉を下げながら、一歩下がった。

 

「こ、これから、これから外していく様に善処しますので待っててください」

 

 彼を前にすると敬語じゃないのが逆に違和感が走って、少し気持ち悪い。

 

「っでは、私はこれで」

 

 ピシャッ! と扉を閉めて俺は逃げる様に速歩きで次の病室へと向かった。

 暫く経ってから、それ絶対外さない奴じゃん!!!! と叫んだ善逸の声は無視しておこう。今まで散々無視されてきたんだ、今更ひとつやふたつされても文句は言えないだろう?

 

「これは駄目だ……駄目な奴」

 

 頬に熱があるのがわかる。狐面のおかげで見えてないだろうけど、ちょっとこれは言い訳できない気がする。

 何年も一緒に過ごしてるのに、こうして本当の彼に偽りの口調で取り繕えないというのは。

 

「なんでこんな、恥ずいんだ……」

 

 吐き捨てる様に言ってから、俺は忘れろと頭を振った。まだ仕事はある。ここで止まっていてはアオイちゃん達に迷惑がかかるから、テキパキしないと。

 そうして仕事に没頭し全ての部屋の患者の手当てを終え、お昼ご飯を作っているアオイちゃんの代わりに朝に干した洗濯物を取り入れる。今日は日がとても暖かい日なので、完璧に乾いていた。いそいそと籠の中へ入れて、代わりのものを干していく。真っ白いシーツを軽く伸ばして、息を吐いた。

 サーヴァントになって炊事洗濯掃除をするとは思わなかった。戦闘ばかりなんだろうな、とか思ってたから。うん、気分はそう某赤いアーチャー。紅茶君である。

 洗濯籠を重ねて持ち、側にある縁側のすぐ横の部屋へと入っていく。籠をひっくり返して畳の上にシーツ類をばら撒き、そのうちの一つを手に取って広げた。畳の上に陽だまりの匂いをさせたシーツがパサリと舞い落ちる。

 

「(陽だまりの匂いって死んだダニの匂い、だったっけ?)」

 

 ついでに言うと匂いって微粒子が鼻に付着して感じ取れるものだから、死んだダニの匂いってのは粉々になってしまったダニの微粒子を取り込んでしまってるんだろうな。

 

「(死骸のくせに良い匂いってなんだかなぁ……)」

 

 そういや炭治郎はその微粒子を感じ取れる部分がちょっと人と何処か違うのだろう。感情の匂いってのも、人が発汗したときの臭いとか、ストレスによる臭いとかそういうのを敏感に感じ取ってるんだろう。

 俺は鼓膜の震え方とその震えをどういう音なのかを判断する場所が異様に発達しているのかもしれないし、伊之助の肌は神経が人よりも皮膚の近くに寄っていってるのかも。カナヲちゃんの目の良さは……玄弥の顎の強さ。

 つらつらとシーツを畳みながらどうでも良いことを考える。ここ鬼殺隊には生まれながらにして特異体質の人が多いな、なんて。俺の同期は全員見事に五感に分かれて優れているし、他の人達だって……パッと思いつかないけど、まぁ凄い人は結構いる。というか体質抜きにしても鬼殺隊では生き残れないしな。

 

「あれ? 聖刃?」

 

 最後のシーツをシワも無く綺麗に折り畳み、ひとつ頷いたところで名前を呼ばれた。振り返ると嫌にさらさらした黒髪が目に付いた。うざったい程にさらさらだ。俺に喧嘩売ってんのか? ってぐらいにさらさらだ。

 そして、この時代でそんなキューティクルな髪を持つ奴は一人しかいない!

 

「村上さん」

「村田だよ!!!」

 

 おっと村田さんであったか。これは失敬。別にその髪の毛の印象が強すぎて“村”しか覚えてなかったわけじゃないからね? 本当だよ?

 

「で、村田さんは蝶屋敷に何しに?」

「経過検診。一応鬼の血鬼術浴びたからさ、なんともないかどうか調べるんだよ。まぁ今日で最後だけど」

 

 あぁこれでまた任務に出なきゃいけない、と息を吐き出す彼の姿はどこか善逸に似ていた。まぁ彼はそれ以上に喚いて鼻水と唾と涙を飛ばしまくるのだが、それはさておき。

 

「次任務失敗とかすればどやされるんじゃないかって冷や冷やするな」

「あー、那田蜘蛛山の後で柱達に怒られたんでしたっけ? 何でも最近の隊士は質が落ちてる云々とか。そんなの知るかってんですよね。新人が簡単に死んでいくような環境でどう質を上げろって言うのか」

「だよなぁ! そんなの俺たちに言われても困るって話だよ! 文句は育手か鬼に言ってくれって……俺が彼奴らに愚痴ってたの聞いてたのか?」

「えぇまぁ。なんだか面白、いえ騒いでるなぁーと思いまして」

「俺の苦労を面白いって言いかけたな!? お前!!」

「なはー」

「何だよその笑い方!」

 

 いや、村田さんも苦労してんだなって。

 聞いたところ村田さんの階級は“(かのえ)”。善逸達のように新人階級の“(みずのと)”より三つ上の階級だ。それなりの実力者だし、鬼殺隊に所属している以上俺達には知らない事情があるのだろう。だけど彼と接しているとそんな気は全くしないのだから不思議なものだ。モブでもない、しかしメインでもない微妙な位置付けの人だからかなんて考えるけど、こういう位置にいる人って結構凄い人だったりするもんだ。

 生前にだって無限城で助けてくれたりしたし、柱稽古では良く話したから……懐かしいな。

 

「聖刃?」

 

 まぁ目の前の彼は俺の知ってる彼ではないのだけど。

 心配そうに見てくる優しい村田さんに何でもないと首を振って、暇ならその籠持ってくるの手伝ってくれます? と聞きながらシーツを持ち上げる。サーヴァントの身ではあまり重たくは感じないけれど、それなりの質量があるこれのシワをできるだけ付けないように頑張って歩き出した。

 

「話聞いてたか? 俺、今から検診なんだけど」

「私が行く場所と診察室はすぐ側なので」

「それならまぁ」

 

 俺の後を籠を持ち上げ付いてくる村田さん。優しいな。THE普通な感じが落ち着くというか。その髪のキューティクルは普通じゃないが。

 てくてくと歩き、ベッド関連の置き場へと到着する。毛布やらシーツやら枕やらが戸棚の中に所狭しと並べてある一角に、洗濯したもの! と書いてある場所にシーツ達を置いて任務完了だ。村田さんか籠を受け取り、籠置き場へと置いた。

 

「じゃぁ診察室に案内します」

「あぁありがとうな」

「今しのぶさんいるかは知りませんが」

「いやいなかったら困るんだけど……何の為に来たんだよ」

「さぁ」

「さぁってお前……」

 

 まぁいるから安心したまえ。

 己の耳に聞こえてくる音はもう聞き慣れたしのぶさんの音だ。此方が向かっている診察室の中で紙をめくる音も聞こえてきた。何かの資料でも見てるんだろう。多分村田さんのカルテだろうけど、俺には関係ない話だ。

 診察室の前に辿り着き、コンコンコンと三回ノックする。部屋の主の許可を得てからスライド式の扉をそっと開けた。

 

「こんにちは、しのぶさん」

「はいこんにちは、聖刃さん」

 

 様々な薬の戸棚がある部屋の中、扉よりも先にある机の前でニコリと微笑む彼女は和かに挨拶を返してくれる。

 

「何かご用ですか? 貴方は私を頼る事はないと思いますけど」

 

 サーヴァントですから、そりゃ怪我に関してはお世話になりませんて。

 ふるりと首を振って俺じゃない事を示し、俺は中に入って横に逸れた。扉から恐怖の音をさせた村田さんが入ってくる。

 

「け、経過検診に来ましたっ!」

「あぁ用があるのは貴方でしたか。わざわざご苦労様です」

 

 それでは始めましょうか、と告げたしのぶさんの前に村田さんが座ってから扉を閉めた。

 そしてそれと同時にカァ! という力強い鴉の声が聞こえ狐面の下で眉を顰める。

 

「伝令!! 伝令!!!」

 

 鴉が空を舞う。

 

「セイバー及ビ、ソノマスター我妻善逸二、オ館様カラ伝令ィ!! カァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 




☆出落ち感———!!

スマホをアプデしたら空白がちゃんとした空白になったので、段落の前に空白を付け加えました。白ちゃんは可愛い。
読み易くなっているのであれば、これまでの話も編集しようかなと思ってるんですが……全話編集となると面ど((

番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】

  • 良いんじゃないか?(ここに載せる)
  • ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
  • 嫌な予感しかしない!!!(始めない)
  • それ私もいます……??(回答が気になる)
  • 俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)
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