俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
かける、駆ける、翔る。
刹那の内に田畑を超え、山を過ぎ去り、川を横断する。そうして駆けた先にあるとある街で俺が相手をしなくちゃいけないものがいる。
「(先に立香達が向かうはずだったらしいけど!)」
俺が向かっている街ではなく別の街に、違う奴がいるとのことで数日前から向かっていっていた。何故か伊之助だけが蝶屋敷に置いてかれてたのは蝶屋敷の護衛らしい。伊之助にその気はないだろうが、本人も気づかないうちに守る役目を仰せつかっていた。
なので今は俺一人である。
「(嫌ぁ、無理無理無理。また一人かよ。サーヴァント相手に一対一だったら良いけど、相手増えたらこっち不利だし、何より坂田金時みたいに相性不利にだったら無理じゃね? 無理。誰か一人ぐらい来てくれたって良いじゃんか)」
伝令ィ! と言う鴉の声が脳内で反響する。
『北北東二アル街デサーヴァントト思ワレル者ヲ発見! 報告二アッタ外見的特徴ト一部違ウ為、見テ来テ欲シイトノ事ダ!! 倒セルナラ倒セトモ!』
因ミ二立香達ハ他ノ街へ行ッタゾ!
「いや、戦力の偏り方半端ない!!! 別に良いんだが!!」
何せ立香の所には三騎のサーヴァントが、そして俺は一人。マスターを前線に連れて行くのだからその数は最低限なんだろうけど、でも俺の方に回してくれたって良くない? 理不尽。
因みに俺のマスターである善逸は蝶屋敷にて療養中のままだ。治ってきているとはいえ重傷者と言って良い善逸を連れ回すわけにもいかない。それに激しく動いて仕舞えば、治っているはずの蜘蛛の毒を全身に行き渡らせてしまい、結局元に戻れなくなってしまうかも知れないからだ。そんなのは嫌すぎる。
幸い、マスターとの魔力パスは近くにいなくても繋がっているし、俺が向かってる街までぐらいなら平気で魔力が流れてくるし、問題はない。万が一にも魔力パスが千切れたっていうことにはならないはずだ。まぁ蝶屋敷に置いてくるのに一悶着あったけども。
三回も黙ってどっかに行ってしまった俺を信用できないのか、絶対嘘でしょ!! と叫びながら腰回りに抱きついてくる善逸を宥めるのに苦労した。俺を信じるって言ったのに信じてくれないのか? って聞いたら、信頼はしてるけどお前のその言葉は信用できん! と叫ばれて顔を覆ったのは良い思い出だ。ちょっと傷ついて、その通りだと頷いたけれど。
嘘をあまり吐かない善逸と違って俺は平気で嘘を吐くので、俺の言葉を信用しないのは得策だ。感や五感が鋭い奴には嘘吐かないけどな。吐いたら吐いたで何で嘘吐いた? って聞かれる事間違いなしだから……そういうの相手には真実だけ話して事実は言わなければ良い話だ。実際に嘘が分かるほどに耳が良い善逸を説き伏せる為にこの方法を使ったのだが、面白いぐらいに大人しくなってくれた。
「(伊之助と炭治郎の視線が痛かったけど……って)着いたな」
街の入り口と思われる場所より数十メートル離れた林の中で立ち止まる。このスピードのまま行けば街の住人達に怪しまれるので、こうして離れた場所から歩き出す。ずっと歩いてきましたよというのを装いながら、街の様子を伺った。
「普通の街だな……」
見た限りと聞こえてくる音を聞いた限りだと至って普通の街だ。サーヴァントなんているのだろうかと考えたところで、あっと思い至る。
「……名前聞いてないぞ」
立香がしのぶさんに報告した外見的特徴と今回発見したサーヴァントの外見が微妙に違うので本当にそうなのか確かめてこいって話である。しかしその姿が変わっているサーヴァントがどのサーヴァントかを聞くのを忘れた。伝えにきていた鎹鴉は立香に支給された陽蜂だし、俺には宝具であるチュン太郎しかいない。だから今更詳細を聞くことすらできないのだ。
まぁ街に潜んでいるのなら気配探れば分かるだろう、と安易に街の境界線を潜った。
「———っ!?」
途端に変わった雰囲気にはく、と息が溢れる。なんだ? 何が起きた? 目に映る景色は先程と一緒だ。けど肌に感じる、この耳に届く音はハッキリ言って異常だった。
そこかしこから聞こえてくる雀の鳴き声に、楽しげな雰囲気を出す街。いや、普通なんだ。見た目は凄く普通なんだ。活気ある街なんだなって思うけど、でもこれ…………これ!
「なんで、なんで……!?」
善逸なら発狂してた、泣き喚いていた。炭治郎なら顔を顰めていたはずだ。伊之助なら昂っていたはずだ。
「
耳を押さえながら蹲りたくなる程、嫌な音がそこかしこから鳴っていた。
「…………手遅れだった?」
「物の見事にな」
「むー」
ぎゅっと拳を握りしめる。目を逸らしちゃいけないとわかっていながらどうしてもあげられない瞼を更に閉じて、歯を噛みしめた。
瞼を閉じていても分かる焔の色。ゆらゆらと暗闇の中で揺れるそれは確かに幻想的だが、炭治郎達が放つ優しく包み込み、そして力強く燃え盛る焔とは違う悪意しかない焔だ。
聡明な青色と純粋な赤色。それは彼女自身が人を憎み憎しみ恨んで怒って、そうして転じた際に扱えるようになった炎。
ぱちりと瞼を上げる。暗闇の中で密かに燃えていたそれは開けて視界の中で轟々と此方を包み込む勢いで燃えていた。
「……清姫か」
焔を扱えるサーヴァントは他にもいるが、青い炎と赤い炎を混合で使えるサーヴァントはあのメンバーの中では清姫しかいない。もしかしたら清姫プラス誰かかも知れないけど、片方は清姫で確定だろう。
「街一つ滅すとなるとよっぽど怒りに触れたか、それとも」
「清姫なら嘘吐きがいたら速攻で燃やしちゃうから……」
「それが動機だとしてもやり過ぎじゃないか?」
「……まぁ、確かに」
清姫は特定の人物に対してだけ激情する。言うなれば恋慕う相手とか、安珍とか。嘘吐きは彼女が嫌う人種だが、それ以上に自身が恋した相手が嘘を吐くと全く関係ない人が吐いたというのよりも重い罪となる。それぐらいじゃないと多分、街一つ燃やそうとは思わないはずだ。
「でも、サーヴァントが起こすものは全部神秘が纏ってる。すぐには消えないだろうし元々一部だけ燃えてて、移ったのかもしれない」
燃えるものが炭となっている今でも地面を這うように燃え盛る炎達。その一つ一つが蛇のように見えるのは、やっぱり使い手が清姫だからだろうか。
「これ清姫が現界してる限り燃えてそう」
「俺の炎で打ち消そうか?」
「火力が違うから無理だと思う。炭治郎のは付属効果みたいなもんでしょ? 清姫のはそれ自体が武器だから」
「むー!」
「禰豆子ちゃんの爆血も言わずもがな! そもそも血を伝って燃えるんだから街全体ってなるとそりゃ洪水並みだよ? 足りないよね、血。ほぼ不死身と言えるサーヴァントだって自分から傷ついて血を流しすぎたら核にまでヒビが入るかも知れないから」
「むぅ」
不貞腐れる禰豆子ちゃんの頭を撫でて落ち着かせる。多分俺がやるせない怒りを持っている事を感じ取ったのだろう。心配そうに覗き込んでくるその瞳に微笑んだ。
大丈夫、大丈夫。これでも人類最後のマスターの称号を二年ほど飾ってるんだ。きっと大丈夫。
無策、とか言っちゃいけない。
「主殿、ご報告に参りました」
策はこれから考えるんだから。
「やはり生存者は皆無。焼死体を何体か発見しましたが、どれも何処の誰かわからない程に焼け焦げてました。中には地面に人の形をした焦げ跡もあったので、燃え尽きてしまった者も多数いるかと」
………………っ。
「……そっ、か。うん、ご苦労様! 小太郎!」
「いえ! 主殿の為ならば」
生きてる人がいたらなんて希望的観測を少ししてたけど、やっぱりそれは難しいようだ。小太郎の報告を聞きながら拳を握りしめ、皆を動揺させないように明るく振る舞う。この空間では不適切な態度かもしれないけど、そうでもしないと泣き出したくなるから許して欲しい。
「大将」
「うん、金時か。どうした? 何かあった?」
大きなマサカリを担いだ坂田金時がゆったりとした足取りで向かってくる。派手な格好をした彼はこの燃え尽きても燃えている街でも良く目立った。
「何かあったって程じゃねぇが……マァ、マスターにとっちゃぁ朗報というか悲報というか」
「何それどっちなの」
くすくすと笑う。いまいち煮え切らないような表情をさせた彼はガシガシと後頭部を盛大に掻き回し、マサカリを構えた。
「じゃぁ、朗報っつう事で!! いっちょ派手に暴れてやるか!!」
バチバチ、バリバリと雷が空気を裂く音が響く。マサカリに集まっていく雷鳴は彼自身の魔力であり雷神の力だ。本来の金時よりも父親の雷神の要素しかなくなった彼は、鬼と雷神の子供というよりも。
「(雷神そのもの……!!)」
一際光を放ち、思わず目を瞑って腕で顔を覆う。轟という音と雷が落ちるような音が同時に響き、瞼の裏を照らした。
「な、にが……?」
「清姫が襲ってきた」
「むんむー」
「主殿! 僕の後ろに!」
へ!? 清姫!? とっくにどっかに移動してると思ってた!!
慌てて小太郎の言う通りに後ろに周り様子を伺う。彼の赤い髪越しに見えるのは大きなスリットが入った黒い着物を着た女性。美しく手入れされている白い髪からは、着物と同じく真っ黒な何かが生えていた。一見髪飾りに見えるそれは、彼女が想い人を追う際に蛇へ転じ、竜へ転じた証……角だ。
炎を模した扇子で口許を上品に隠している彼女の瞳は強かに燃え盛っている。その炎は憎悪か……それとも誰かに向けた恋慕か。
「清、姫」
小さく呟く。ぱちりと彼女が此方を向いた。
「あら? 今わたくしの真名を仰いましたか? 変ですわね……あなた様のような殿方にお教えした覚えはありませんのに」
記憶が……いや、記録がないのか。
『立香君が召喚したサーヴァントとは別物だよ。彼女の霊基は確かに登録されたものと殆ど一致するけれど、その彼女は別人だ』
「え、でも」
カルデアにいたサーヴァント達は去年いっぱいで一度退去した。だから記録だけは持ち帰っているはずだ。例えそれが過去に召喚されていようと座に存在する場所には時間の概念はないので、例え未来に呼ばれていようと記録は持っている……と習った時にそう聞いた。だから俺がどういった奴かなんて知っているはずなのに、まるで初めて見たかのように彼女は振る舞っている。
……否。
「(初めてなんだ。本当に)」
清姫は嘘吐きが嫌いだ。それはそういう人種が嫌いというわけではなく、ただただ“嘘”というのが嫌いなんだ。相手を守る優しい言葉、相手を傷つける言葉、自分を守る言葉、自分を傷つける言葉……どんな言葉でもそれが“嘘”ならば彼女は絶対に許さない。怒り、憎み、慕い、想い、そして燃やす。
だから彼女が発する言葉は全て真実……いや彼女にとって事実だ。
「これをやったのはお前か?」
臨戦態勢のまま炭治郎が言葉を発する。小太郎の横に並んでいた彼は一歩前に出て、彼女を睨みつけた。金時はそんな炭治郎を見ながらも体勢を解く事はしない。勿論禰豆子ちゃんも小太郎も己が武器とするものを構えている。
「これ、とは?」
清姫は武器である扇子を広げたまま、唯一隠れていない目を細めた。ゆるりと弧を描いたそれはとても楽しそうな雰囲気を醸し出しているけど、俺達にとって全然楽しくないものだ。
「この街を、この街の人を全員燃やして殺したのはお前かって聞いているんだ」
後ろからは見えないけれどきっと彼は怒っている。ゆらりと燃ゆる焔が見えた気がした。
炭治郎の言葉に清姫は扇子をパチンと閉じた。炎を模したそれはなくなりずっと隠していた口許が見えたけれど、その小さな唇が描く曲線に俺は鳥肌を立たせてしまう。
なんだあれは、清姫か? 清姫なんだろう。でも彼女があぁも楽しげに、それこそただただ
「えぇ、そうですが?」
「———ッ!!!」
瞬間、大地に振動が走る。少しよろけながらも彼らからは視線を外さず、清姫からも目を離さない。
「何故」
「何故? 何故と聞かれますか、このわたくしに。わたくしを知っておられるのならば、予想ぐらいはできましょう?」
くすり。くすくす。あははは。
笑い声が響く。小さく押し殺すように笑っているはずなのに何故か響くそれに俺は半歩退がりたくなってしまった。でもここで後退してしまえば負けてしまう気がするから、己を奮い立たせてぎゅっと拳を痛いぐらいに握る。知っているのに知らない相手を俺はずっと見続けた。
「嘘を、吐かれたからです。このわたくしに向かって、このわたくしを前にして。よりにもよって優しい嘘を」
炎が舞う。激しく轟々と青色と赤色のそれらが混じり合い蛇のように髑髏を巻く。清姫を中心として発生したそれの熱は到底目を開けていられるようなものではなく、ずっと見ていたのにここに来て目を瞑ってしまった。
「大丈夫ですか!? 主殿!」
「大丈夫! ありがとう!」
小太郎が心配し庇ってくれたのにお礼を言いながら、俺は小太郎の背越しに清姫をもう一度見る。先程とは違った姿。髪飾りのような角は大きく変化して、頭全体を覆うような形となりより角らしく尖っていた。扇子は相変わらずあるし、服装もこれといって変わっていないけれど、見え隠れする彼女の肌はまるで竜のように鱗が生えている。最初より怒りが増したのだろう、彼女は感情を昂らせると竜へと転じてしまう。
「あぁ……あぁ! 憎い、憎い憎い憎い憎い憎い僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧僧———!!! 安珍様のような優しい嘘でわたくしを、わたくしを騙した! 騙そうとした!! 許しません、赦さない。わたくしは一等嘘が嫌いでありますから。えぇ、えぇ。だからこそ燃やしたのです。全て、全部。だって
……は。
「———それは一人の人が嘘吐きだったから、街に住んでる人全員が嘘吐きだと思ったから殺したと……?」
「いいえ、少し違いますわ。思ったのではありません。わたくしを前に嘘を吐いた、そして周りもそれを容認した。その時点で、その場にいた全員が嘘吐きなのだと判明したのです。つまり街そのものが嘘吐きと決定したのも同然、燃やして何の問題がありましょうか」
問題ありまくりなんだけど。
「? 何をそんなに睨んで来ているのです? ……あぁもしや、わたくしが嘘を吐かれていると? そんなことがあろうはずがございません。嘘を嫌うわたくしが嘘を話してどう致しましょう。わたくしが話していることは全て真実ですよ。どうせなら、燃やすどころか消炭にさしてあげたかったのですが……どうにも火力が」
「———れ」
「……? はい? 何か仰いましたか?」
轟! と焔が燃え盛る。同時に地面が振動した。清姫が出す炎に負けず劣らずのそれに彼自身が相当怒っているのがわかった。顔色を窺わなくてもわかる。自身に向けられたものでもないのに、威圧に……いや殺気に押し潰されそうだ。
いつの間にか炭治郎の隣に並んでいた禰豆子ちゃんが身体を大きくさせていた。大人の女性と言った姿に彼女自身もいつになく相当怒りを表しているのがわかる。心優しい彼らにはきっと清姫の言い分に納得できなかったのだろう。俺もできなかった。
「黙れと言った」
「ヴーーッ」
チャキリと濃口を切る音がする。金属が擦れる音を響かせ、炎の様にも波の様にも見える模様をさせた刀の切っ先を清姫に向ける。明確な敵対行為。もう金時の様に理解しあえるものでもなかった。
「わたくし、何か可笑しなことを言いましたでしょうか? 黙れ、などと。本心から仰られているのがわかりますが、どうしてその様な事を言っ」
「黙れって言ったのが聞こえたなかったのか、貴様」
上段に構えた刀。重心を落とし、独特な呼吸音を響かせる。
「これからずっと俺がその頸を落とすまで、一切話すな喋るな口を開くな。目障りだ、不愉快だ。その声すら煩わしい」
———全集中・水の呼吸
「清姫ッ!!!!」
———漆ノ型!
「俺は! 俺たちは! 絶対に! お前を! 赦さない!!!!」
「ヴゥゥウウウうう!!」
———
私の中でのベストオブ炭治郎は刀鍛冶編での、半天狗との戦いで倒せないわけじゃないと確信した時の主人公とは思えない悪どい笑みをした炭治郎です。
番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】
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良いんじゃないか?(ここに載せる)
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ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
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嫌な予感しかしない!!!(始めない)
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それ私もいます……??(回答が気になる)
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俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)