俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
「みたらし団子お待ちー」
「ありがとうございます」
皿に乗って運ばれてきた三本のみたらし団子のうち一つを手にとり口に運ぶ。もちっとした食感に団子自身の甘味とみたらしの甘味と香りが口の中に充満して鼻から抜けて行った。美味しい。ほっとひと息をつく。
二つ目を頬張りながら茶屋の軒先で街を観察する。先程は動揺してしまったけれど、見た目は至って普通の街だ。俺みたいに視覚以外で人間じゃないかを判断できる奴でなければこの街に異常なんて感じないだろう。
「(……この音どっかで聞いたことあるんだよな)」
どこだったか。
街にいる全員が人間じゃない音をさせているとはいえ全部が全部それというわけでもない。ちゃんと人間の音もするので、言うなればハーフみたいな感じだろうか。でも多分この音が人間の部分を全て食い潰すのは時間の問題かと思われる。
暖かい緑茶が入った湯呑みで手を暖めながら目を閉じた。耳を済ませ気配を探る。街全体となるとそれなりの範囲だが、異形の音と気配というのは分かりやすいものだ。例え街の人たちがそんな音をさせているとしても、それらに比べれば薄いのなんの。
暫く探り目当ての音と気配を見つけられなかった俺はため息を吐きながら隣に置いていた皿の上にあるみたらし団子へ伸ばされていた手を引っ捕らえる。いで! という驚いた声も聞こえた。細っこい腕だ。きっとそういうことなのだろう。
「盗みは駄目だからな」
パチリと瞼を押し上げる。腕を掴んでいる方を向くと痩せ細った子供がキッ! とこちらを睨んでいた。この子からも当然あの音が聞こえる。
「離せ!」
「離さない。お前一人か?」
「お前には関係ないだろ! 離せよ!」
えぇ……典型的な孤児っ子じゃないですか。そんな風に強かな方が生きていけるが、でも盗みは駄目だ。働いたら働いた分だけ跳ね返ってくる。周りからの信用も失うってもんだ。でも盗まなきゃやっていけないのも道理で。
にしても気が強そうだから奉公先に見限られたのだろうか。着ている着物はズタボロだし、鼻にツンとした匂いがくる事からずっと風呂に入ってないことがわかる。例え孤児であっても金が無くとも仕事をきちんとしていれば湯浴みぐらいはさせてもらえるはずだ。見目だけは整えておかないとどこで誰がどう見ているか分からないから、それだけはきちんとしてくれる。ソースは俺。
だからこの子は今、働き先を見つけてはいない。はぁとため息を吐いた。
「ほら」
「え」
逃げない様に腕を離さずに残っているみたらし団子を反対側の手で差し出す。三本セットでまだ一本しか食べてなかったから、あげたとしてももう一本ぐらいは残ってる。懐が寒い中頼んだみたらし団子だけど、これぐらいはわけない。うん、別に……なけなしの金だったけど、みたらしの一本! どうって事ないから!
「…………変な奴」
心のうちでみたらしをあげるあげないで葛藤していると子供がそうぽつりと呟いた。聞こえたけど脳が処理できなかったようで、なんて言ったかわからなかった。聞き返すけれど彼は離せよと言うだけで教えてはくれなかった。
「……これは貰っておく」
「おう、あげたから盗んだわけじゃないしな。好きに食え」
「ふん」
ぷいっとそっぽを向いた彼は俺の隣に座って黙々と食べ出した。一つ小さく口に加えた彼は表情を輝かせてから慎重に食べている。時折聞こえるお腹の音からして腹が減っていたのにも関わらず、団子ひとつ一口で食べやしない。
仏頂面をしていたはずなのにいつの間にか緩みっぱなしな顔を見て此方もほっこりして、最後の一本を貰う。こういうのは自分でも食べないと警戒されてしまう。全て与えては何か企んでるんじゃないかって思ってしまうのだ。これもソースは俺である。一時期人間不信に陥ったことあるから……まぁ持ち前の胆力で翌日にはケロリとしていたけど、今思っても幼少の俺神経図太いな、どうなってんだ。前世の記憶を思い出す前だとしても、メンタルが変に強すぎ。思い出した後の方が緩い気がする。
頬を押さえて、んー! と頬を綻ばせる。美味い。美味である。このご時世に食べる甘味は本当に心を癒してくれる。少し値が張る分美味さを保証されてるんだから良いもんだよね。因みに鰻とかメロンは生まれ変わる前より安かった記憶がある。まぁそれは値を比べての話なので、大正となるとそんなもんかってぐらいの値段だ。だって銭がまだある時代だからな。
口いっぱいに幸せを広げていると視線を感じて目を開ける。ゆるりとそちらを見れば呆れたような目をした彼が此方を見ていた。
「お前、本当に変な奴だな」
「いきなり罵倒された!? 何だよ突然の冗談とか拾い切れないぜ?」
「いや事実だ」
「より酷いな!?」
俺が驚きながらそう言うと彼はツボに入ったのか笑い出した。それなりに大きな声で耳の良い俺にとっては大音量すぎて思わず押さえ、周りを見渡す。往来の人々もなんだなんだ? とこちらを見ていた。野次馬精神強いな!?
ただ彼が笑っているとわかると関わりたくないのか、また歩き出した。中には顔を顰めて何かを言って去っていく奴もいて、俺も眉を顰める。耳を塞いでいるから聞き取れなかったが絶対ろくでもない事言ってたな。
「はぁ……久しぶりにスッゲェ笑った」
笑いが治ったのか団子を頬張りながら脚をぶらぶらさせる彼は楽しげだ。ようやく止まったと耳から手を離して、皿に戻していたみたらし団子をもう一度口に運んだ。
「お前、街の外の人間だろ?」
ん? そうだけど。
「なんでわかったんだ?」
俺の問いに彼はニヤリと笑う。きっと彼本来の性格なのだろう。最初より良い表情をしていた。
「そりゃお前みたいな変な仮面に金髪、見たことないから」
変な仮面って。これ友人の師範が作ってくれた奴なんだけど。
俺が狐面の下でジト目をしていると彼はそれにと続けた。
「お前の色、街の奴らと違うから」
は? 色?
思わずきょとんとしながら彼を見る。彼は俺の反応に何も言わずにただただ自慢げに笑った。ニヤという効果音が似合うような表情をさせた彼は、自身の目を人差し指で指す。
「俺、目だけは良いんだぜ」
……………………カナヲちゃんかな???
「理解してねぇな」
そりゃね?
目が良いと自称した彼は様々なものには色が付いていると言った。それは俺達が知覚している光の吸収加減で見える色ではなく、彼にしか見えない色らしい。
「人にも色が見えるんだ。そいつの性格や体調、感情で色が変わる」
だから街の人間ではないと一発でわかった、とか。
「最近は変な色させた奴らばっかだしな。お前の色は綺麗だし、目立つからすぐわかった」
褒められてんのかな?
彼曰く、その目の所為でもうこの街での受け入れ先がないようだ。意外と正直者っぽい彼は行く先々で見えたものを色々と言っていたらしい。そして気持ち悪がられ、また捨てられるか他の場所へたらい回しにされるかの二択だったとか。
ふーんと相槌を打つ。たらい回しにされるのは俺もそうだったが、段々と耳の事を話さなくなった俺とは違い、彼はこれでもかと言うぐらいには話している。ついさっき会った初対面な俺に対しても話したのだ。周りと違うことを理解していてなお、自分自身を殺さない奴らしい。メンタル激強かよ。
「お前、なんで街に来たんだ? 変な格好してるし、行商人ってわけじゃないだろ」
変な格好ってお前。
確かに鬼殺隊の服は変な服なんだろう。学生服なのか軍服なのかわからない中間の仕様だ。俺的にはデザインは好きだけど、側から見れば変なのだろう。今は羽織を着ているといえ目立つ格好だ。
慣れって怖いな。この服に何も思ってなかった。
「まぁな。物を売りに来たわけじゃなくて、退治しに来たんだ」
「退治……?」
「……うーん、悪い奴退治?」
「なんだそれ」
いやサーヴァント相手だから鬼じゃないし、なんて言えば良いかわからなかったから。
呆れる彼に苦笑して周りを見る。昼過ぎにも関わらず往来の人々が途切れる事はない。皆が皆何かしらの仕事をしたり、話し込んだりしている。奥の方に見える奥さん方は時折こちらを見る仕草から俺たちの話でもしているのだろう。聞こえてくる言葉は、うん……良くある世間話だ。相手を貶すタイプの。
「最近、変わったこととかないか?」
陽蜂によると伝令が出たのは今日、そしてサーヴァントをこの街で見たという報告を受けたのは昨日らしい。鎹鴉の飛ぶスピードから考えれば半日はかかる距離なので、サーヴァントが出現したのは一昨日ということになる。
移動してなきゃ良いけど、と息を吐いた。
「あるぞ」
あるんだ。
「街の中央に丸い台座があるだろ。あれ」
少年が指差した方向を見ると、広場になっている場所に丸い台座が置かれていた。ポツンとあるあれはステージ場にも見える。ほら、テーマパークとかにある奴。そういうのにそっくりだった。
彼が言うには普段は流れの芸達者な者達が自分の芸を披露したり、この街の有権者や所有者が演説したりするのに使われるらしいのだが、一昨日あたりから毎夜の如くある人物が使っているらしい。
「あいつが歌い出してからみんなの色が少しずつ変わってったんだ。変な雀だって見かけるようになったけど、みんな気にしねぇし」
「あいつって?」
「名前は覚えてない。名乗ってるけど異国語だから覚えられない。でも外見は覚えてる」
こんなやつ、と言って地面に指で人物像を描いていく。砂を押しやり線を描くそれはやがて一人の人物を思い浮かばせる。
額から伸びでる日本の綺麗な角に最初は鬼か? と思った。でも違う。描かれてるのは長髪で、酒呑童子はボブショート、茨木童子は長髪だが前髪がない為に違う。ぴょんぴょんと跳ねる髪は纏まりがなさそうだ。
「俺には色が邪魔してはっきり見えなかったけど、周りが言うには桃色の髪の毛してたって。それでテカテカ光る変な着物に、尻からは蜥蜴の尻尾みたいなのが生えてたとか言ってた」
あー……誰かわかった。
そもそも鬼じゃなくてサーヴァントという時点で絞られるし、俺がここに来たのは鬼舞辻が召喚した奴って報告した姿に似てるけどなんか違うから見てきて欲しいっていう依頼みたいなもんで。鬼舞辻のサーヴァントは全八種だから簡単に絞ることができる。
改めて情報を整理しよう。
・街の人全員から人間ではない音がする。
・一昨日からステージ場で歌い出した奴がいる。
・そいつの姿は二本の角を生やした蜥蜴の尾を持った人物。
・髪色は桃色、つまりピンク。
上の一つはわからないが、下の三つを合わせればどういったサーヴァントがいるのかがわかる。というかもう、歌を歌うって時点で外しようがないわ。
つまりこの地に居るのはエリザベート・バートリー。通称エリちゃんだ。
「(……何度も出てきて恥ずかしくないんですか?)」
いやふざけてる場合じゃないんだけど、本当にこれ言いたいんだよ。というか日本生まれのサーヴァントばっかりなのにエリちゃんだけ海外生まれだから浮いてたのに、ここに来るまで違和感を感じなかったのだから俺もちょっと毒されてるのかも知れない。いやなんでいるのエリちゃん……。
そもそも比較的ギャグ鯖として扱われてはいるけど、サーヴァントとしての性能は申し分ないから敵になったら厄介だ。FGOでのエリちゃんしか知らないけど、毎年とばかりに特異点を作っちゃってるんだからやべぇ奴なのは間違いない。まぁ半分ぐらいはエリちゃん関係ないんだけれど。
「…………(帰りたい)」
切実に、
「なんでため息なんか吐いてんだ?」
「いやこっちの事情だから気にしないで。で、この人が毎日夜には歌ってんだな?」
「おう、日がきっちり落ちた後に何処からか台座の上に上がってきて叫ぶんだ。その後に歌い出して、雀達が光る何かを振ってる。つっても人垣ができててちゃんと確認できてないけど」
「ふーん」
ちょっと良くわからんな。いやエリちゃんの音楽性の話ではなく、ちょくちょく出てくる雀の事だ。
変な雀が光る何かを振ってるってだけで言葉の意味を理解できない。鎹鴉並に賢い鎹雀なチュン太郎だって嘴に物を加えるのが精々だ。飛ぶ為の翼は物を持つ為にあるわけじゃなく、雀の足は物を掴むのには適していない。だから何かを振ってるって時点でそれはもう雀じゃないんじゃないだろうか。
気になってどんな雀かを聞く。彼は暫く悩んだ後、あれ、とある方向を指した。俺達がいる通りより台座を挟んだ向こう側の通り。台座の近くで雀達が鳴いていた。
「あいつら」
その言葉に俺はその雀達を凝視する。耳も使って探るとあの雀達が何かを話しているのが聞こえた。その嘴から発する音は雀特有の鳴き声ではなく、日本の言葉。つまり日本語を雀達は話している。
よくよく見れば大きさも可笑しいし、何か前掛けを着ている。普通に考えて普通の雀ではないな、あれ。サーヴァント関連と見て良い。つまりは。
「(舌斬り雀の紅閻魔……)」
正確にはその部下みたいなもの。彼女が仕切る閻魔亭の従業員達だと思われる。
気配を探っても紅閻魔らしき奴はいないし、雀達だけがここにいるのか? なんでだ?
「…………とりあえず、夜を待つか」
わからん事を考えていても仕方がない。
共感覚の人の視界がどうなってるのかは完全に理解できないけど、オーラ的なのが見えてても不思議ではなさそうだな。→そうだ!そういう奴出そう!
番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】
-
良いんじゃないか?(ここに載せる)
-
ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
-
嫌な予感しかしない!!!(始めない)
-
それ私もいます……??(回答が気になる)
-
俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)