俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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肆ノ型

 

 

4.お揃い

 

 

 

「ふふ」

 

 隣にいた金色が揺れる。まだまだ小さな頭から覗く頬はほんのり赤く染まっていた。嬉しいのだろうか、確かにここの饅頭は生前でも好みだったから彼もそうだろうし。

 善逸が雷に撃たれ療養中の今、全快した後で厳しい修行がまた待っているけれど、気分転換にと前に話していた善逸お気に入りの饅頭が売っている店へと来ていた。甘味処である為に軒先きの椅子に座って二人で食べていた時だ、彼が小さく笑ったのは。

 

「何が嬉しいのです?」

 

 こてりと首を傾げて、金髪になってはっきりとわかってしまうようになった旋毛を見ながらそう問いかける。すると彼はさらにふふふと笑った。

 

「こうして二人で食べるのが。どう? 美味しい?」

 

 そりゃまぁ、美味いよ。

 

「えぇ、とても。柔らかい生地にほんのりと小豆の香りが相まって、口にした瞬間に広がる甘みがさらに際立ちますね」

 

 食レポをしてやると彼は呆れたような表情をしてため息を吐く。そんな事を求めていたわけではないようだ。ふむ、と少しだけ考えてから口を開いた。

 

「と、言葉を並べましたが、一言で言えばとても美味しいです。流石善逸のオススメ、ってところですね」

 

 そう言うと彼はえへへと笑った。この答えで良かったらしい。ふ、と息を吐いて笑ってから饅頭を頬張る。うん、美味い。

 しかしながらこの善逸はやはり俺ではないようだ。俺ならば、“この俺”がいる時点でパニックになり得る。その兆しもなかった事を考えれば、彼は正真正銘の本物の善逸だ。

 

 ……俺がいる時点でちょっと違うかもしれないが。

 

 俺は彼だった。俺は所謂成り代わりと言う奴で、令和から大正に転生した奴である。わかると思うが成り代わった先は我妻善逸。だが最初は前世の記憶など持っておらず普通に彼として過ごしていたのだが、先日の善逸のように雷に撃たれて思い出した。

 まぁそれは良い。そのあとはただただ我妻善逸を貫いただけの話だ。こうして英霊になるとは思ってなかったけれど、あまり面白みもない話である。今は今を生きている彼の話。

 善逸は決められた運命のように雷に撃たれる。そこまではいい、だがその後だ。一度落ちた後にまた落ちる前の音がした。それが俺が出張り、善逸を庇った理由。二回落ちるなんてあり得ない事なのに。

 

「(……俺がいる事でバタフライエフェクトが起きてるのだろうか)」

 

 善逸自身もなんかちょっと違うし。幼少の頃から一緒にいた影響だろうか、少しだけ甘えん坊な一面もあるし、女の子とあまり付き合ってない。これが意外だ。女好きなのは俺も彼も同じである。なのに付き合っていない。あの! 我妻善逸が! である。

 ……いやこれ言うと俺も同じになるんだけどね。自分で自分を貶してる気がするな……。それに借金作ったのは善逸も俺も同じだしな。

 

「あら? 聖刃ちゃんじゃない」

 

 声をかけられた気がして前を向く。するとそこにいたのは以前働いていた場所で色々と教えてくれたおばさんだった。善逸だけでは身を滅ぼすな、と己自身も働きに出た時に怪しくても雇ってくれた良い人である。あの時は感謝しかなくて少し泣いてしまった。元々涙腺は緩々だし、良い人の音するしで決壊したのが正しいが。

 そんなこんなで俺は聖刃と名乗り働いていた。名前はもちろんセイバーからなのと、この口調の元であるアルトリアからなのもある。だって聖剣使いだしね。

 

「おば様、お久しぶりです」

「えぇ久しぶりねぇ。貴方が辞めちゃって主人がめっきり凹んじゃってねぇ。また顔だけでも出してくれないかしら」

「えぇ、是非」

 

 お願いね、と朗らかに微笑う彼女に此方も嬉しくなる。もう辞めて何日も経つのに覚えてくれていて、それでいてご主人が惜しんでくれていたと聞いて嬉しくない奴なんているだろうか。いやいない。

 

「あら、そちらの子は?」

 

 ニコニコと笑っていた彼女がふと善逸の方を向いた。今まで気づいてなかったようだ。少し驚いた音を出していたが、俺は気にせず善逸の頭を撫でた。人見知りを発揮しているのかおずおずとした表情をするものだから、大丈夫だよと背中を軽く押してやる。

 

「あ、我妻善逸です」

「あらあら、ご丁寧にありがとう。可愛いわねぇ、聖刃ちゃんの弟?」

 

 弟? 善逸は俺でもあるのだけど、まぁ感覚的にはそうなのかもしれない。あと見た目的にも。

 

「そんなものですね」

「そう! だと思ったわ! だってこの金色の髪なんてそっくりだもの!」

 

 特に毛先にかけて濃いところなんて。

 そう言って善逸を優しく撫でる。その目は慈愛に満ちていて、初めて感じたであろう視線と音に善逸は困惑しているらしい。お揃いの羽織をぎゅっと掴んできていた。それを見ればまだ子供なんだなーなんて思ってしまう。見た目完璧自分なのにさ。

 

「二人だけのお揃いね、羨ましいわ」

 

 それだけ言って彼女は時間だからと去って行った。まるで嵐のようである。おばちゃんはどの世界でも嵐のように現れては消えていくらしい。良い人だから別に良いんだけどね。

 最後の最後にあげるわ! と包み紙に包まれた金平糖を渡されたものだから、ラッキーモンスターかな? なんて一瞬思ってしまった。ごめんなさい。

 

「良かったですね、善逸。金平糖ですよ」

「うん」

「……? どうしました? 甘いもの好きでしょう?」

 

 善逸は金平糖を左手で抱えて、右手で自分の頭を撫でていた。そしてそのまま掬うように髪を目の前に持って行き、ウェヘヘへと笑った。とても嬉しそうだ。同じ金の目が此方を向く。

 

「お揃い、だって」

「えぇ、そうですね?」

 

 何が??

 

「俺、俺ね。この金髪、外国の人に間違われそうだからあまり好きじゃなかったんだけど、そうだよ考えてみればセイバーとお揃いじゃんて、思ってね」

 

 それにね、と善逸は続けた。

 

「俺たち、兄弟に見えるんだなって……」

 

 またウェヘヘへと笑い始めた善逸に俺は息を呑んでいた。

 

「(これか……!)」

 

 そうだ、そうだよ! この善逸と俺との違いはこれだ!

 成り代わりとかそういうのは置いておいて、思い出す前の善逸()と今の善逸()には明確な違いがある。俺がいるかどうか、だ。何が、バタフライエフェクトが起きているのだろうかだよ! ハッキリと起きてるじゃないか!

 だって! だって……!

 

「(この時の俺は一人だった……!)」

 

 じぃちゃんに会うまで一人だった。獪岳に会うまで兄弟なんて考えなかった。友達なんて出来たのは炭治郎初めてで、家族の形を絆を知ったのは彼と禰豆子ちゃんのお陰で……それで、それで…………つまりは俺は一人だったはずなのだ。

 でも、この俺(善逸)には俺がいる。偶然とはいえ俺を喚んでしまい一人じゃなかった。ずっと側にいてくれる、褒めてくれて支えてくれる存在がいるのなら、そりゃぁ性格もちょっと変わるわ。変わるわ!

 いやまぁ良いんだけどさ!! 性格が変わるぐらいなら。なんならあんま変わってない気もするしな。元がもうわからないから、一緒かどうかなんて証明しようもないし。

 ただ、ただな。

 

「(俺に依存してたらどうしよう……)」

 

 それが心配だ。英霊とは死者である。元々いない存在だ。いてはいけない存在だ。それに今は安定して現界してるとは言え、いつ不安定になり消えるかもわからない。

 そんな俺を家族だと思い、依存されてたら。

 

「ウェヘヘへへへ、お揃い」

 

 …………うん、手遅れかもしれない。

 

 頬を綻ばせる善逸の横で、俺は顔を覆って空を仰いだ。

 

 

 

 

 

 これするの、二回目だよちくせう。

 

 

 

 




頬を(気持ち悪く)綻ばせる善逸。
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