俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
楽しい! 愉しい!! タノシイ!!!
エリザベート・バートリーはステージの上で歌う中ずっとそう思っていた。
エリザベート・バートリーはアイドルだ。何故か召喚の折に若くして呼ばれた彼女は現代文化を学ぶ中でアイドルという職業に出会い、惹かれた。きらきらと輝き、ファンに笑顔を振りまく存在。歌って踊り、幸せを届ける存在に彼女は心惹かれた。
最初は楽しそうだと思った。人間達に好かれ、目立つから。最初はそう思っていたけど、今はもう何故アイドルを目指していたのかすらあまり思い出せない。彼女の根底にあるのはただアイドルとして歌いたい、踊りたいということだけ。そしてみんなを幸せに。
だから今回の召喚でもエリザベート・バートリーは歌うのをやめられない。だってそれがエリザベート・バートリーという英霊の性質なのだから。
「(こんなに楽しいのは初めて!)」
いつもは歌う時に誰もいなかった。いやいたけど、
アイドルというのは人間達を楽しませ、笑顔にさせるものだ。自分だけ楽しんで、相手を困らせていてはアイドルとは言えない。相手に気を使わせては本当のアイドルじゃないだろう。
でもこの状況はなんだ。皆が笑っている、皆が喜んでいる。己の一挙一動をずっと見守り、己が求めるものを返してくれる。楽しくて、楽しんでくれて、楽しませている! それがエリザベート・バートリーは嬉しくてたまらなかった。
最初は一日だけのライブにしようと思っていた。でもその一日目で味をしめ、二日目、三日目と来てしまった。毎回の移動を鳴女に任してしまってるのは申し訳ないが、それでもこんなに楽しいライブはアイドルになってから初めてだから。
「(ずっと……ずっと歌っていたい)」
ずっと踊っていたい。ずっとこのステージの上で皆を喜ばせたい。
楽しい、愉しい。この状態が永遠に。
「(続けば良いのに……)」
そう願いながら、エリザベート・バートリーは今日も
何かが頬を流れた。
「(ぁ゛ぁああああ!? なんだこの爆音!?)」
茶屋の軒先で獪岳は聞こえて来る爆音に耳を塞ぎ、子供が見たら一発で泣くであろう形相で歯を噛み締めていた。
『彼女の歌、壊滅的だと思うので耳を塞いでやり過ごすがここから離れた方が良いですよ』
彼の言葉を思い返す。
先程獪岳の師範とお揃いの羽織を着たサーヴァントが立ち去ってから数秒後、街中には聞いたこともない爆音が流れた。音の発生源はわかる。中央の広場にいる鬼の様な出立をした少女だ。セイバーが言うには彼女こそが今回の目的のサーヴァントである。
「(歌が下手とかどうこうじゃねぇ!! 音を通じて何かが入って来る様な感覚だ! 気持ち悪ィ!!)」
あと煩い!! と獪岳は内心で叫んだ。
この爆音の発信源である場所には様々な機材が置かれていた。いつの間に用意したんだと突っ込む気は起きないが、少女が持つマイクにエレキギターにベース、キーボードにドラム。まだこの時代にあるはずもない物なので獪岳には何が何やらさっぱりわからなかったが、楽器の類だとは推測できる。
「(こんな煩せぇ楽器があってたまるか!!)」
現にあります。
獪岳の悲痛の叫びも届くことなく、エリザベート・バートリーのライブは続く。一曲歌えば終わりというわけでもなく、少し休憩してから次の曲へと移っていった。
終わらないのかと獪岳は軽く絶望したとき、そっと耳を塞いでいる手を誰かに握られた。瞬間にふっと何かが軽くなった気がした。厳密には先程の気持ち悪い感覚が無くなったと言えば良いのだろうか。とにかくまだ“音”としては煩いが、聞くに耐えない音ではなくなった。
獪岳はそのことに驚いて顔を上げて耳を塞いだ人物を見る。白髪に赤い独特な格好をした獪岳よりも背の高い女性。紛れもない、そこにいたのは己のサーヴァントであった。
「何をした……?」
助かったことには助かったが、それをこの女がしたということが獪岳には気に入らなかった。
沖田オルタは戦闘特化だ。俗に言うキャスター枠に多い回復などの支援系ではなく、前線に出て戦う近接特化である。幕末にて名を馳せた新撰組の人斬り沖田総司のオルタナティブである彼女にとってそれは当たり前の事実。この爆音を和らげる事など手を添えただけではできない事なので何かしたのは明白なのだが、先述の事から何かできるとは獪岳は思ってなかった。
しかし何故か、訝しげに見つめて来る獪岳の言葉に見た沖田オルタは意味がわからないと首を傾げた。
「マスターが煩そうにしていたから」
「あ? それだけで? 掌一枚分増えただけでこんなマシになるかよ」
「私はマスターではないのでその差はわからないが、楽になったのなら良かった」
そう純粋に微笑む沖田オルタに獪岳はぎゅっと眉を顰めて沖田オルタの腹を殴った。当然痛みはこっちに来る。
殴った方の手を押さえながら獪岳はチッと舌打ちを零す。
「とりあえず、あのクソサーヴァントを止めるぞ。このままじゃ歌で気が狂いそうだ」
「だがマスター、どうやって止めるんだ? 周りには街の人がいる」
確かにサーヴァントがいるステージ場の周りにはこの街の人間達がいる。しかもサーヴァントの後ろで謎の楽器を鳴らす人々も人間だ。攻撃を加えて止めようにもその衝撃で周りの人間達に危害を加えかねない。
今の獪岳はサーヴァントを従えたマスターではあるがその前に鬼殺隊の隊員である。世間に知れ渡っていないとは言え、トレードマークの詰襟は何かと目立つ。もしここでこの街の人間を殺しでもしてしまったのなら、この目立つ容姿から特定されてしまうだろう。それに本来人々を守る鬼殺隊が一般人に牙を向けば、鬼殺隊を信用し協力してくれる人達を裏切る事となる。つまり組織の一員であるからこそ、下手な真似はできないのだ。
沖田オルタの指摘にぐっと息を詰まらせた獪岳は暫く考え込む。きっと作戦を考えているのだろう。沖田オルタにとって獪岳は坂本龍馬と同じ様に賢い人物だと思っている。彼女は考えることが苦手なので、こうして任せきりにするしかない。
やがて沖田オルタに耳を塞がれながら何かを考えていた獪岳はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「実力行使できないのなら、あいつ自身に止めさせれば良いんだよ」
どういうこと? と首を傾げる沖田オルタに、思い付いた作戦を伝え終えてから獪岳は平和的解決ってやつだ、と笑った。
曲の終わりと共に告げられた言葉を沖田オルタは理解できず、そんな沖田オルタから彼は視線を外した。そしてすぅと息を吸い込み、ステージの上にいるエリザベートに向かって彼は叫ぶ。
「じゃぁ次の歌行くわよー! しっかりついて来なさい! 子ウサギた「下手くそ!!!」…………ちょっと、今の誰が言ったの?」
満面の笑みを浮かべていたエリザベートは突然聞こえた自身への野次に固まる。それから眉を顰めて周りを見渡す。
誰が、誰が言ったのだ。折角二曲目が終わって気分が上がって来たところだというのに。エリザベートは自身の気分が下がっていくのを実感しながら、視界の端でニヤニヤと笑う男を見つけた。全身真っ黒な地味な色合いなのに、やけに目立つ格好をした奴だ。
「下手くそっつったんだ、ヘンテコ女」
「ヘンテコ女!?」
エリザベートが此方を見つけたことに気づいた獪岳は更に笑みを深めて、近づいていく。まるでモーゼの奇跡の様に掃けていくエリザベートのファン達を一瞥してから、彼は背中の刀に手を添えエリザベートを見据える。
「ちょっとちょっと! クレームなら後にしてよね! 今ライブ中!! 人が折角気持ちよく歌ってるときに水を差すのはタブーよ!! 合いの手なら良いけれど、中断させるのは以っての外! 警備員に連れ出されるのがオチね! いないけど!!」
「は? 日本語話せよ」
「日本語だけど!? 寧ろハンガリー生まれの
んなこと知るか。
「テメェこそ、その下手くそな歌を我慢して聞いてるこっちの身にもなって欲しいなァ。歌の良し悪しはわかんねぇが、気持ち悪ィのだけはわかる。その気持ち悪ィ歌をすぐさまやめろ、歌うな、黙れ。んで俺に斬られろ」
「嫌よ!? なんで見ず知らずの貴方に斬られなくちゃならないのよ!? 殺傷沙汰にも程があるわ! アイドルがライブ会場に来ていた人に斬られるってとんだスキャンダルよ!」
「だから、日本語話せって!!」
シィイイイイイ。
「雷の呼吸」
———伍ノ型。
「オルタァア!!!」
「了解、マスター」
———熱界雷!!
下から上に斬り上げられ斬撃が飛ぶ。黒い雷が纏わり付いたその斬撃は地面に一本線を残しながらエリザベートに向かって行った。明らかに人が為せる技ではない様に見えるけれど、それでも目の前の人間が放った技にエリザベートは驚き、マイクの形をした槍を持ち上げそれに対抗する。慣れた様に槍を振り、空気を裂いていたそれを払うと目の前に黒い塊が迫り、咄嗟に刃を槍で受け止める。ギリギリと鉄が擦れる音がした。
「何々! なんなのよ! 貴方誰なの!? 人間とは思えない動きしてるけど!」
「お生憎様人間様ですよ、サーヴァント様」
「嘘よ! 嘘嘘!! 人間の動きじゃないわよ!」
慌てた様な表情を浮かべるエリザベートを隔てた向こう、ステージに並べられた機材の前にいた人々がいなくなったのを確認して獪岳は笑った。
槍と刀だが鍔迫り合いをしていたのをやめて反転。脚に呼吸を集中させ、エリザベートの鳩尾に蹴りを一発入れる。突然入れられた全力のそれに踏ん張ることができなかったエリザベートは飛んでいき、街の大通りを通過していく。しかしそれは持っていた槍を地面に突き刺す事によって威力を下げられ、思ったよりも飛んでいかず舌打ちを零す。
けどまぁ。
「(充分だ)」
その先にはオルタがいる。
「アイドルを蹴っ飛ばすなんて失礼な子ウサ「失礼するぞ」……はっ?」
何事もなかったかの様に立ち上がり獪岳に文句を言うエリザベートだが後ろから聞こえた言葉に動きが固まる。そろりと後ろを見ると覚えのない人物がそこにはいた。
クレームを入れた獪岳にしか視線がいってなかったエリザベートは沖田オルタがいることすら知らず、それ程戦闘が得意でない彼女は簡単に背後を取られた。ずんむ、と己のアイデンティティでもある竜の尾を引っ掴まれて血の気が引いた。
一体何をする気なのかとエリザベートは慌てる。
「人の尻尾引っ掴んで何する気!? 離しなさいよ!」
「ん、こうするんだ」
「はっ? いや、いやいやいや!? ちょっと待ってよぉおおおお!?!?」
両腕でエリザベートの尻尾を持ち上げた沖田オルタはそのまま遠心力を使ってエリザベートを振り回し始めた。つるっとした見た目に反して掴みやすいその尾に感心しながら、彼女は加速していく。
いぃいいいいいやぁあああああ!!!! という悲鳴が響く。獪岳は耳を塞ぎながら弟弟子が良くこんな悲鳴を出してたなと思い出した。少し機嫌が悪くなる。
そんな獪岳を他所に風が舞うほど振り回した沖田オルタは手を離し、エリザベートを飛ばした。所謂円盤投げではあるけれど、飛ばされた方はたまったもんではなく涙を浮かべながら飛んでいく。そもそも目を開けたくない。翼を広げて速度を落とせば良いのだろうが豪速球の如く飛ぶ己の身体を止めるにはそれなりの空気抵抗がいる。十中八九翼が折れると思ったらエリザベートは素直に飛ばされていった。
「ドラゴンフライにも程があるでしょぉおおおおおおぉぉぉぉ」
そんな捨て台詞と共に。
「良く飛んだぞ、マスター」
「記録を競ってるわけじゃねぇから。ちゃんとあのカスの下に飛ばしたんだろうな?」
「そこはまじんさんの筋力を信じてくれ」
「筋力じゃなくて器用さの問題だろ」
そんなパラメータはないが。
しかし筋力Bもある沖田オルタによって飛ばされていったのだから確実に街の外には出て行っただろう。それだけ満たせていれば充分である。自分にここを押し付けたあのサーヴァントにはエリザベートの相手をしてもらうのが一番だ。
「さて、あとはこいつらをどうするか……」
「もう殆ど人間じゃないぞ、マスター」
「あぁ、わかっている」
ステージの前に集まったエリザベートの歌を聞きに来た住人達。バラバラな大きさをしたエリザベートファンの雀達は除けば、全てこの街の人間たちだった。
そう、
「どうすりゃいんだよ……」
「え、ぇ゛ぇあ゛ァアア」
「ゔゥ、ヴうううう」
「ぁ゛だま゛がァぃ゛だダダダダ」
「ぐっぉ゛ぉおお」
人、人人人人人人。けれどもう、
まるで何かに耐えられなかったかの様に顔にある穴から血を流している人間だったものたちは辛うじて理性はまだ残っているらしい。でもそれも時間の問題だろう。
ガシガシと獪岳は頭を掻いた。あぁ面倒くさい。でもやらなくちゃいけない。
「…………はぁ」
殺しても、良いのだろうか。
もう鬼殺隊として、なんて言い分は意味がない気がして来た。
エリちゃんはトンボだった……?
因みに沖田オルタ、対魔力B待ちです。つまりそゆこと。
獪岳のエフェクトは人間の時から黒かったら良いなって思ってます。黒い雷は厨二心くすぐるわ……。
番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】
-
良いんじゃないか?(ここに載せる)
-
ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
-
嫌な予感しかしない!!!(始めない)
-
それ私もいます……??(回答が気になる)
-
俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)