俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十節 鬼王の歌声。2/4

 

 

 

 

 

 ———きゃぁあああああ!!!!

 

 ん? 悲鳴……?

 だいぶ前からエリちゃんの歌声が聞こえなくなって可笑しいなとは思ってたけど、何故悲鳴が聞こえてくるんだろう。そして何故その声がエリちゃんにそっくりなんだろうか……嫌な予感がして仕方がない。

 悲鳴が聞こえた方を向きその弾道が見えた瞬間、俺は未だ座っていた少年を抱えその場を去る。

 

 ———ドォオオオオン!

 

 刹那、衝撃を伴って何かが落ちてきた。少年の体を羽織でしっかりと包み込み、爆風と砂塵から守ってやる。そうでもしないと吹っ飛んでいきそうだった。

 いつかの上弦の参の登場の仕方と酷似した展開にため息を吐きたくなる。あの時は多分近くに鬼殺隊がいるから、ついでに殺しとこうみたいなノリで来られたんだと思うが、今のはそんな感じではない。ただきっと飛ばされてここに着弾しただけだ。頭から地面に突っ込んでいくのをはっきりとこの目で見てしまったからな。あれは絶対に痛い。いやサーヴァントだから痛くないのかもしれないけど、衝撃がヤバそうではある。

 

「もー、いきなり人を飛ばすなんて失礼な奴らね。しかも円盤投げ! アイドルをなんだと思ってるのよ! あのセイバー!!」

 

 あ、それ多分アルターエゴ。

 セイバーに見えるけど、むしろ本家がセイバーだが多分君を投げたのはアルターエゴのセイバー顔である。いやもうこれわかんねぇな。

 とにかく、地面に勢い良く激突したのにも関わらずピンピンしているあのサーヴァントから少年を守らなきゃならない。ついでに多分倒せってことなんだろう。街中でライブしていたはずのエリザベートJAPANがこんな街の外にある草原の隅に出てくるなんて、沖田オルタが飛ばしてきた以外に考えられない。街中に置いてきた獪岳の嫌がらせだろうな。

 正直修行時代の獪岳にやられた嫌がらせよりまだマシだと思って知ってる自分がいるからもう駄目だ。こっちの方が死ぬ可能性が高いというのに。

 少年を下がらせて対峙する。少年を逃してやりたいけれど街までの距離は遠すぎるし、そこまでの道のりで鬼が出ないとも限らない。うわ、そうだよ鬼だよ。サーヴァント相手しながら鬼が出てきたらそいつの相手もしなくちゃならないとか何それ地獄。難易度が高い。雑魚鬼ならまだ一瞬でケリ付くけど。

 腰にある刀に手を添えると彼女は漸く此方に気づいたのか、マイク型の槍を地面に突き立て何処からか日傘の様なものを取り出しくるくると回し始める。先程まで地面に激突していた人物とは思えないぐらい優雅だ。

 

「ごきげんよう、貴方も(アタシ)のファンかしら?」

「えっ、違うけど」

「違うの!? そんな熱烈な視線を送ってくるからてっきり」

「可愛いなとは思うけれど、ファンじゃないね。可愛いけど」

「お前……」

「いやそんな目で見るなよ! 少年! 本当なんだから!」

「やっぱりファンなのね!」

「違うからぁ!?!?!?」

 

 何この話の聞かなささ!? 狂化かかってない!? 絶対かかってるでしょ!!

 まぁ良いや。結局のところ彼女は倒さなきゃならない存在だ。金時の時は例外なだけで、こちらに鞍替えするなんてことないだろうから。それに聞こえてくる音が途轍もなく嫌だ。何がと言われても嫌悪感しか湧かないと言った方がいい。千代女や金時の時は感じなかったのにな……。

 チャキと鯉口を切り、刀身を抜く。雷の呼吸の使い手特有の色をした刀の鋒をエリザベートに向けた。

 

「ファンじゃなくてごめんな。俺は君の敵だ。言ったら鬼舞辻の敵だけど」

 

 そう言えば理解したのか、目を伏せた彼女はそうと呟いて傘を閉じた。どこかに消しやり突き刺していた槍を持ち上げてくるくると回す。何処からか星々が輝きエリザベートを彩った。

 

「そう……というか、貴方良く見たら子ブタが言ってた奴じゃない」

「子ブタ?」

「ムザンよ。あいつ一方的に念話で、金髪の狐面の男殺せって言ってきたのよ? その時ライブ中だったから無視したけど」

 

 Oh……自分の命令を無視される鬼の首魁って一体。

 というか俺の事知られてんのね。金髪の狐面とか俺しかいない。多分日常的に狐面付けてるの俺と鱗滝さんの弟子(一部)ぐらいだろう。金髪のとなれば更に。この時代で金色の髪を持ってる人なんて外国人ぐらいだ。

 ピッと刀を振るい、腰を低くした。きちんと納刀し息を吐いた。やれ、やろう。怖いけど、でも彼がいるこの世界なら俺は頑張れる。この名を背負っているのだから。

 

「先に謝っとく……すぐ決着付いたらすまん」

「ハン! 言うじゃない! (アタシ)だって全然歌ってないし、まだまだ満足してないんだから!」

 

 ———雷の呼吸。

 

「壱ノ型」

「この(アタシ)の歌声、しかと聞き届けなさい!」

 

 ———霹靂一閃!!

 

「はやっ!?」

「と言いながら避けるなよ!」

 

 一直線に突撃して行った俺の刃をさらりと避けられてムッとする。側にあった木の幹に着地してもう一度放つけれど、そのマイク型の槍で防がれる。鉄と鉄がぶつかる音がして即座に上段からの斬り付けに変更するが、くるりと回った槍に防がれて更には突きを繰り出される。けれどそは咄嗟に斬り返した俺の刀によって弾き、霹靂一閃の要領で離脱する。

 

「(よ)」

 

 良かったなぁああああ! 伊之助と戯れてて良かったぁあああ!! ただの木刀での勝負みたいなもんだけど、二刀流の伊之助に対抗するために抜刀術をやめてただの剣術をどうにか使えるまでに持っていけた。というか生前呼吸術で戦うことしかしなかったし、いつも壱ノ型で終わっていたから炭治郎や伊之助に比べて剣術は拙い。確実に弱いって言える。多分鬼殺隊随一、剣術できない男だ。いや抜刀術も剣術の一部だけど! それはともかく。

 きっと刀剣の使い手ならば俺の方が押し負ける。けれど相手は槍の使い手、それもサーヴァントになってから使い始めたはずなので槍術はそんなにない。キラキラとしたエフェクトをまき散らしながら槍に乗って飛んで来るんだから、絶対に槍の使い方分かってないだろ! というか大事なマイクをそんな使い方すんなよ!? いくら丈夫だからって扱いが雑すぎる!

 

Rock you(ロッキュー)☆」

 

 パチリとウインクしながら突っ込んできたエリザベートを避け、立て直す前に斬りつける。腕を斬り付けれるけれど、とても浅い。

 

「いったーい!! アイドルの肌を傷付けるなんて、警察沙汰ね! 捕まると良いわ!」

「サーヴァントに警察は関係ないので! 捕まりそうになっても霊体化して逃げるから!」

「まぁそうね。じゃぁ鮮血魔嬢らしく、こう言えば良いのかしら? 貴方の血で以って償いなさい? って」

 

 八重歯を見せて妖艶に笑うその姿は確かに数多の少女の血を啜った伯爵夫人の面影を見せていた。けどその刹那にはいつもの笑顔に戻っている。

 

「ま、でも今の(アタシ)は鮮血魔嬢ではなく、鬼王。今の(アタシ)の在り方であり、ロックバンド《鬼王朱裸》のエリザベートJAPAN! 世界に打って出るアイドルなんだから!」

 

 そう言い放つやいなや、大きく息を吸い込むエリザベート。身体を仰反らせ、胸いっぱいに膨らませるその姿には嫌な予感しか覚えない。

 ザッと踵を翻して少年を抱き上げる。低姿勢のまま霹靂一閃を行い、即座に離れた。耳を思いっきり塞げ! と指示を出してから自分の耳も守り、エリザベートの方へと振り返る。

 

「ボェエエエエエエ!!」

 

 火の粉が舞う。

 赤黒い炎は音波の様に波打って迫ってきた。それと同時に酷い音もやって来るんだから、悪態を吐きたくなる。耳の良い俺にとって地獄だ。頭の奥がキンキンするけど、何もしなければ炎に包まれるだけである。

 

 ———雷の呼吸 捌ノ型

 

「改ッ!」

 

 ———旋風迅雷・波

 

 本来は霹靂一閃をしながらくるりと回ることによって竜巻を引き起こし斬撃を仕掛ける技だが、これはちょっと違う。納刀し抜刀する瞬間に魔力放出を行い、霹靂一閃をする。そして一周回ってから地面に刀を撃ちつけた。

 発生した竜巻が周囲にではなく前方に向かっていく。上手くいった。本来なら俺の周りを巨大ハリケーン並みに風と斬撃が覆い尽くすのだが、それをすると少年が文字通り死ぬのでできない。だから規模を少し小さくして方向性を決めた。炎を巻き込みながら進む竜巻は少しだけ幻想的だ。

 

「ッてぇ……」

 

 右耳を押さえながら後退する。鼓膜が破れた気がする。耳を押さえている時にいつも聞こえる自身の身体の音が聞こえない。右掌に滑っとした感覚があることから血も出てるらしい。

 

「宝具を撃ったわけでもないのに……これとは」

 

 ちょっと相性が悪いです、ハイ。金時の時とはまた違った相性の悪さですね。

 けどまだ左耳は聞こえる。戦えないわけじゃない。夜目は職業柄効くけど、大部分は耳で判断してたから厳しいかな。

 息を吐く。独特な呼吸音が周辺に響いた。

 

 ———壱ノ型

 

「霹靂一閃・六連」

 

 雷に包まれる。周りの景色が瞬時に切り替わるけれど、俺の手は慣れた様に相手を斬り付けていく。首を狙うのは分かり易すぎるので、腕や脚、胴をランダムに斬り付けていく。レザーの着物が裂ける。槍によって軌道を変えられる。髪が一房切り離される。血が舞う。避けられた。そして意識してなかった竜の尾によって脇腹を叩きつけられた。

 息が一瞬詰まる。脇腹に直撃したそれの衝撃を殺すことなく俺は吹っ飛び、木の幹によって止まる。痛い。思ったよりも結構痛い。質量ありすぎ。本当に竜の尾だ。

 

「ゲホッ、ごほ(実際の竜なんて見たことないけど)」

 

 咳をしながら立ち上がる。口から血が滴ることから、内臓がちょっとやられたのか。どこかやられたのかなんて俺にはわからないけど、まぁ痛みにはもう慣れたものなのでどうでも良いか。動けるんだから。

 

「ちょっとちょっと! (アタシ)のこのステージ衣装はたった一つしかない特別な一張羅なのよ!? どうしてくれんのよ! 貴方が直しなさいよね! サラマンダーを狩って革から作り直しなさい!」

「そっから!? 英霊なんだから服ぐらい直るだろ!」

「それぐらい反省しなさいって意味よ! 頭の悪いネズミね!」

「ねずっ!?」

 

 お前まで俺を鼠判定するのか!? どっかの猪突猛進野郎も俺のこと鼠だと思ってる節があったしさ。何? 俺ってそんなに鼠っぽいのか? 傷付くぞ?? 泣くぞ???

 

「それにアイドルや女にとって髪は命。それを斬り捨てるなんて、とんだブタがいたもんだわ。反省させるどころか、地獄まで蹴落としてあげる」

 

 まどろっこしいのは苦手なのよ!!

 そう叫んだ彼女はマイクを地面に突き刺した。

 

「サーヴァント界最大のヒットナンバーを聞かせてあげる!!」

 

 先程とは比にならないぐらいに膨れ上がる魔力に俺は小さく舌打ちを零して、俺が駆け出した頃にはエリザベートの背後に大きな西洋城が現れる。彼女専用のステージ、チェイテ城だ。つまり宝具が飛んでくる。

 

「フィナーレよ!」

 

 思いの外近くにいた少年を抱き上げ、バチバチと白い雷を放出して最大限脚に力を入れた。

 

「口閉じとけよ」

 

 噛むぞ。

 それだけを言って彼の頭を守り、溜めに溜めた力を解放する。音が無くなる。一歩進めば景色が変わる。

 

「『鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)』!! La(ラァ)〜〜〜♪」

 

 音波の暴力が俺に迫る。例え遠くに逃げようとも彼女の宝具である歌声は俺にまで届くだろう。ただ音というのは空気の震えだ。波となって人の耳に届き鼓膜を震わせる。そしてその音が大きいほど衝撃となって襲いくるのだ。それが彼女の宝具。まぁ宝具の時点でもうそれはただの歌声ではないのだけど……でも原理は変わらないだろう。

 地面を抉りながら迫る見えないそれに、少年をおろして背に庇う。さっきと同じ構図だけど、そんなの俺に気にする余裕はない。魔力放出の出力を上げた。

 

「さぁ……さぁさぁさぁ! 雷神と比喩された鳴柱の勇姿、とくと御覧じろ!」

 

 俺から前方に雷が落ちる、落ちる。雷鳴を響かせ、空気を震わせる。その度にエリザベートの宝具が削れていくのがわかる。

 目には目を、歯には歯を、爆音には爆音を。

 

 ———シィイイイ。

 

「宝具開帳」

 

 息を吐く、吸う、吐く。酸素を回す、魔力を回す。頭が冴える様に熱くなる。

 

「『雷の呼吸 漆ノ型 火雷神(ただひとつのことをきわめぬくもの)』」

 

 軽く一歩進み、少年から離れる。

 もう耳を震わせる歌声は聞こえなかった。

 

「……是が、俺の全力だッ!!!」

 

 ドォンと一際大きな雷鳴と共に雷龍が現れ、俺の周りを飛び雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっ」

 

 目の前に龍が迫って来る。己の様な竜ではないドラゴンではない、本当の龍神が、雷の化身が迫って来る。己の首を刎ねに。

 そう理解した瞬間、エリザベートの目には涙が浮かんだ。

 

「いや、いやいやいやっ!」

 

 まだ歌い足りない! まだ満足してない! まだアイドルとして、ライブが終わってない!

 

「いやよ、いやいや! 死ぬのは嫌! (アタシ)はただ! 歌いたかっただけなのに! 認めてもらいたかっただけなのに! 肯定してもらいたかっただけなのに!! 折角、せっかく……!!」

 

 (アタシ)の歌を聞いてくれる人が、喜んでくれる人がいたのに!

 

 ————ドォオオオン!

 

 雷鳴が鳴り響き、目の前が真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

 

 




えっ、エリちゃんの出番もう終わりなの?早くない?

番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】

  • 良いんじゃないか?(ここに載せる)
  • ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
  • 嫌な予感しかしない!!!(始めない)
  • それ私もいます……??(回答が気になる)
  • 俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)
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