俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十節 鬼王の歌声。3/4

 

 

 

 

 

「あ゛ぁあああ!! うざってぇ!!!」

 

 ———雷の呼吸 陸ノ型

 

電轟雷轟(でんごうらいごう)!!」

 

 黒い雷の斬撃が周囲に広がる。それと同時に落雷にあったかの様な死体が出来上がる。鬼の様に消滅はしない。けれど、できた死体からは嫌な気配は消えていった。

 

「マスター、こっちにまで飛び火しているんだが」

「煩せぇよ、自分で防げんだろ」

「マスターの太刀筋はよく分からないから難しいぞ」

「嫌味か」

 

 街の中央、表通りのステージ前。エリザベートを街の外へ追い出した二人は変質した街の住人たちの対処に追われていた。

 最初の頃は襲って来る人々から逃げ回りなんとか傷付けずにいたのだがそれも数分しか持たず、その場にいた全員が呻き声を上げて理性を失くした。額からは角が生え、涎を撒き散らしながら自身を追ってくる姿は鬼そのもの。放っておけば人を殺すと判断した為に首を落とした。

 最初は鬼になったと思った。獪岳が知っている鬼になる為には全ての鬼の祖である鬼舞辻無惨の血を取り込まなくてはならない。しかしこの場には鬼舞辻無惨はいないし、いたとしてもサーヴァントである。血を与える素振りも無かったのにどうして鬼になったのだろうか、と考えていた。けれど違った。

 チャキンと納刀する。粗方片付いた。この街にある家からも嫌な気配が漂ってくるが外に出ようとはしていないので放置し、今し方首を刎ねた住人の一人へと近づいた。

 

「消えねぇとはな……鬼じゃねぇのか?」

 

 スッと額から生えている角を触る。綺麗な一本角だ。周りを見るが、どれもこれも一本。しかしその一本の付近に小さな突起の様なものもある事から、後々角は増えたのかもしれない。

 

「いや、鬼だ」

「あ?」

 

 蹲み込んでいた獪岳の隣に沖田オルタが立つ。大きな大太刀を左手に持ちながら、此方を見下ろしていた。

 鬼、鬼と言ったか? この女。

 

「どういう事だよ、鬼なら日輪刀で首を刎ねると崩れ落ち消える。それがねぇって事は鬼じゃねぇだろ。お前の刀で斬れたのもその証拠だ」

「そういう意味じゃない。マスターの言ってる鬼と違う鬼だ」

 

 ますます意味がわからない。もう少し言葉を足せないものだろうか。沖田オルタは少しだけ、いや相当口下手なところがあるのは知っているが、聞いているこっちの身にもなって欲しい。

 獪岳は殴りたかったが、彼女を殴ると痛いのでやめた。

 

「この気配、どこか見覚えがあると思っていた。いたけど、確信はなかったから黙ってた……でも、うん。そうだな」

「……なんだよ」

「これはやっぱり鬼だ、マスター」

 

 いやだから。

 ちゃんと説明しろという意味を込めて沖田オルタを睨みつけた獪岳だが、逆に彼女から普段にはない真剣な眼差しを貰って押し黙る。

 そうして黙った獪岳に向けて沖田オルタは盛大な爆弾を落とした。

 

「つまり、妖としての(・・・・・)鬼だ」

「はぁ?」

 

 ちょっと意味が獪岳にはわからなかった。

 妖としての、というのはどういう意味なんだろうか。獪岳達が対峙している鬼は元は人間だが人を食べるし、原理がわからない術を使うし、人にはあり得ない強靭な肉体を持っているし、日光に当たれば何故か死ぬし、藤の花が嫌いだ。これの何処が妖じゃないのだろうか。血鬼術と名付けられた術は獪岳の師範は妖術と言っていたことがある。つまり妖だ。何が違う?

 獪岳は沖田オルタを睨んだ。

 

「何が違う。俺たち鬼殺隊が狩ってるのは鬼だ。妖しげな術を使う、妖怪の類だろ」

 

 そう言えば彼女は違う、ときっぱり言った。

 

「あれは違う。私は鬼の首魁と呼ばれてる奴に会ったが、あれは人だったものであって鬼じゃない。鬼のような何か、だ」

「は? 鬼舞辻無惨に会ったのかよ。良く生きてんな……」

 

 やっぱり英霊は何処か違うのだろう。なんでそう鬼の首魁に会ったことがあるというのに平然としてるのだろうか。

 

「お竜さんも言っていた、中途半端な奴だと。龍馬が言っていた、可哀想な人だと。ヒトでも妖でもない中途半端な何か。でもここにいる人達はそれとは違う。鬼のような何かになりかけてたんじゃない、鬼になりかけてた」

 

 沖田オルタの言っていることは獪岳には良くわからなかった。しかし言おうとしている事はわかる。つまりこの鬼達は、鬼舞辻無惨がふやした鬼ではないという事だ。

 呆気に取られてた獪岳は視線を沖田オルタから目の前の死体へと戻した。そうかよ、と一言だけ呟いて彼女の言葉を肯定してやる。確信を持って言ったことを否定されるのは辛い事だと、獪岳は知っていたから。

 

「でも、何故鬼になりかけてるのかはまじんさんもさっぱりだ」

「そこはわかっとけよ!! そこは!!!」

 

 最後まで締まらない奴だな!

 立ち上がりながらそう突っ込んだ。

 

「まじんさんはあまり考えるのが得意じゃないからな」

「今、自信満々に鬼とは何かを俺に説明しときながらか? 頭カスなんじゃねぇのか? カスは一人で充分だってのに」

 

 間違えた、二人だ。

 弟弟子である善逸の手紙、そして坂本龍馬から説明されたサーヴァントについての説明によって獪岳はある一つの可能性に辿り着いていた。考えれば考えるほど荒唐無稽な推測だが、獪岳は自身の考えが間違ってるとは思えなかった。

 詰めが甘い、いつもそう思っていた。

 

『こんのックソ兄貴ッ!!!!』

 

 全く、何様のつもりだ。

 

「おい、クソ鴉」

 

 上空を飛んでいた己の鎹鴉を呼びつける。カァ! と力強く鳴いたその鴉は獪岳が持ち上げた腕に綺麗に着地した。

 

「ナニ」

「これは隊律違反になるか?」

 

 鴉は獪岳が示した辺りを見渡した後、ナラナイ! と叫んだ。

 

「鬼殺隊ハ鬼ヲ滅シ人々ヲ守ル! 形ガドウアレ、コレハ鬼ダ! 人ヲ襲ウダロウ! ソレヲ未然二防イダ獪岳ハ立派ナ鬼殺隊! ダカラナラナイ! ナラナイ! カァ!」

 

 そしてまた飛び立っていった鴉を見送ってから獪岳は一言そうかとだけ呟いて、沖田オルタの方を向いた。先程までの饒舌さは何だったのか、ぼーっと空を見ている沖田オルタを呼びつける。

 

「何だ、マスター」

「セイバーんとこ行くぞ。ここは隠の奴らに任せて加勢する」

 

 嫌な予感もするしな、と呟いた獪岳に沖田オルタが返事する前に一気に空模様が変わった。雲一つ無く、快晴だった夜空に雷雲が立ち込める。それは街の外を中心に広がり、まるで台風の様に渦巻いていた。そうして中心にある雷雲から落雷が連続的に落ちていき、辺りを照らし轟音を鳴らした。

 その超常現象にさしもの獪岳もあんぐりと口を開けて驚く。天候を変え、落雷を何度も落とすなんてこと今まであった血鬼術使いの鬼にだって到底無理な芸当だ。そもそも天候を変えるなんて、それこそ神の所業である。

 一際大きな落雷音。雷で形作られた龍が天に向かって咆哮を上げたところで、獪岳は理解するのをやめた。

 

「(……サーヴァントってやべぇな)」

 

 今更過ぎる感想だった。

 雨も降ってないのに、雷だけが鳴り響く。きっとあの落雷を起こしたのは黄色過ぎるサーヴァントだろう。人外にもなると天気すら操れるらしい。きっとあの時出会った上弦の壱すらそんな事はできないと思われる。

 次元が違い過ぎる。そんな事は隣にいるサーヴァントと会った時からわかっていた事だが……あのカスがとなると何とも言えない感情が湧き上がってくる。嫉妬? 羨ましい? そうじゃない。きっともっと違う感情だ。

 多分、多分だが……あそこまで雷が似合う人間もいないだろう。今でも修行時代の時を思い出すとイラッと来るし、嫌いだが……でもそれでも、逃げる時に見たあの姿は、鳴柱と名乗った後ろ姿は輝いて見えたのだ。

 

「チッ、オルタ。早く行くぞ」

「む? わかった。おぶって行こうか?」

「やめろ」

 

 妬ましい? 羨ましい? 違う、そうじゃない。獪岳はずっと彼に、彼らに。

 

「(死ぬんじゃねぇぞ。借りはまだ返してねぇし、お前らにまだ一泡吹かせてねぇ)」

 

 憧れていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ゛ぁぁああああ!!!!」

 

 断末魔が響く。

 エリザベートの宝具を最近気づいた俺の権能による落雷によって打ち消し、その合間を縫って宝具によって突貫した。相性が悪い相手との戦闘を長引かせる必要はないとわりと魔力もりもりで宝具撃ったのだが、仕留め損なったようだ。エリザベートの悲痛な叫びが辺りに響いた。

 

「いやよ、いやぁ。まだ、まだ! (アタシ)のステージはまだ! 輝いてるんだから!!」

 

 煙が晴れエリザベートの姿がはっきりと見えた。もう身体に力が入らないのかうつ伏せになって這いつくばっている。ズル、ズルと少し動いているけれど、それと同時に血や内臓が溢れ落ちる音が左耳に届いた。どうやら首では無く腹を切っていたらしい。軌道をずらされた気がしてたので仕方がないのだが、俺の宝具は対鬼に対しては必中で当たるモノ。流石に因果逆転の槍程ではないが、外れる事はない。軌道をずらされても、防がれても何処かしら斬れるようにはなっている。でも、うん……ちょっとグロ画像ですねコレ。

 

(アタシ)はまだ、終わってっ……アイドルとして、せっかく……いや、いやいや! こんなの、楽しくない、楽しませれない。ここで終わったら、ファンの、みんながっ、これからってときに……!!」

 

 某青い鳥の呟きで注意勧告されて逆に見る奴だぞコレ、と勝手にドン引いていたらエリザベートが立ち上がろうとしていた。更に溢れ出す内臓と血に小さな悲鳴をあげながら俺は近づいた。

 

「やめろやめろ!? 何してんだよ! それ以上動いたら霊核に罅が入んぞ! というか絶対入ってるけど! 自分から消滅するような真似してどうすんだ!?」

「ぃゃ、ぃゃっ」

「聞いてねぇな!!!」

 

 小声で何かしら喋ってるエリザベートに落ち着けよ! と肩を押さえようとしたらパシン! と跳ね除けられてしまう。掌に感じる痛みに俺は間抜けな顔を晒した。

 

「うっるさいわね!! 何なのよ! いきなり現れて! (アタシ)の邪魔して!! ファンだって思ったらファンじゃないし! (アタシ)の一張羅と髪の毛切るし!! (アタシ)の特設ステージを壊すし!! 何なの! 何なのよぉ!! (アタシ)はただ! ファンのみんなと楽しみたかっただけなのに!! ファンでも何でもない貴方が邪魔すんじゃないわよッ!!!!」

 

 キッ! と血だらけで睨みつけてくるエリザベートに俺は返す言葉が浮かばなかった。

 これは彼女の心からの叫びだ。彼女はいつだってアイドルとして振る舞ってきた。それはこれまでもこれからも、ずっとそうするのだろう。伯爵夫人でも鮮血魔嬢でもなく、ただ一人の少女として彼女はアイドルを目指す。それがきっとエリザベート・バートリーという英霊の生き方だ。

 でも……でも、何かが違う。彼女は何かが違うんだ。

 

 エリザベート・バートリーはこんなにも、意地汚くアイドルに執着していただろうか。

 

 ふらふらと立ち上がるエリザベートから離れる。近づけば殺されそうな気がしたから。こんなにも疲弊している相手に対して遅れを取るほど俺は落ちぶれてないけれど、そんな気迫が彼女にはあった。

 

「ぃゃょ、ぃゃ。ぃや、いや……嫌、いやっ、いや! いや、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやイヤイヤイヤイヤイヤァアアアアアアアーーーーーッ!!!!」

 

 膨れ上がる嫌な気配をした魔力に、響いていく金切り声。まだ残ってる左耳に魔力を回し強度を上げる。必然的に耳も更に良くなるけどそれは己の手で塞いで暖和した。

 それでも脳髄の奥に響く声に耐えられずよろよろと下がっていくけれど、一際感じたゾッとするような嫌な気配に俺は反射的に退がっていた。だいぶ離れたらしい、隣には少年がいるしエリザベートは小さくなっている。でもここまで彼女の声は聞こえてくる。

 その声はずっと悲鳴を上げていたけれど段々と声質が変わり、エリザベートの声ではなくなっていった。そしてその音と連動するように視界でも変化が訪れる。

 

「なん、だ、あれ……」

 

 少年が呆然とエリザベートを見ている。

 

 否。

 

「(あれはもう……)」

 

 エリザベート・バートリーではない。

 

『ぉ、ぉ゛ぉおオオオオオオオオオ゛』

 

 いつものエリザベートの声と野太い違う声が混ざり合い全く別物のように聞こえる。しかし変化はそれだけじゃない。エリザベートを中心にに赤黒い炎が現れて辺り一帯を包み込む。俺の落雷程ではないにしても放って置いたら山火事になりそうな程の熱量が集まる。

 雄叫びを上げ続けるエリザベートからは泥が溢れ出し、やがて一つの姿を形成していった。

 

(アタシ)は鬼王! 鬼王朱裸! またの名をエリザベートJAPAN! チュウチュウうざったい子ネズミなんか踏み潰してあげる!!』

 

 赤黒い炎に包まれた鬼の巨人が雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ゴーーン!(第二ラウンド開始の合図)

番外編『Fate/キメツ学園物語!』始めちゃう?【第十節終わるまで掲載】

  • 良いんじゃないか?(ここに載せる)
  • ガハハハ!!腹が減った!!(新しく連載)
  • 嫌な予感しかしない!!!(始めない)
  • それ私もいます……??(回答が気になる)
  • 俺いなさそうなんだけどー!!(興味ない)
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