俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十一節 夢幻への誘惑。1/4

 

 

 

 

 

「た、ただいま、戻りましたぁ」

 

 エリザベート・バートリーの一戦から二週間後、俺はやっと蝶屋敷に帰って来ていた。

 あの一戦後、街の人全員が人間ではなく鬼になっていたのでその処理と、偽装工作する隠の皆さんに指示を出したりとかして大忙しだったのだ。流石に街まるまる一つとなると大分時間がかかる為に、俺達が必要なくなるまで手伝っていた。それがまさか二週間かかるなんて思ってなかったけど。

 疲れた、めっっっっちゃ疲れた。

 

「チッ、だらしねぇな。それでもサーヴァントかよ」

「いやだってさぁ、蝶屋敷(ここ)って実家みたいな安心感あるから仕方ないじゃん」

「テメェ実家あるのかよ」

「ないに決まってんだろ、サーヴァントだぞ」

 

 やいのやいのと隣にいた獪岳と話しながら廊下を歩く。だらしないのなんだと言われてるが正直、節々が痛いし、怪我はまだ治ってないのだから仕方ないだろう。流石に他県にある街で魔力パスは繋がっているとはいえ、完全回復まではいかなかった。早く魔力供給してほしい。

 因みに獪岳への敬語はやめた。獪岳が何故か気持ち悪ィと別の生物を見るような目で見てくるからだ。最初はなんの間違いだとずっと敬語でいたら、獪岳もずっとその顔でいるから諦めた。威厳もへったくれもない。俺の心が弱すぎた。

 

「マスター、マスター。街におでんが売っていたぞ、後で食べに行こう」

 

 獪岳の後ろを歩いていた沖田オルタが獪岳の着物の袖を引っ張ってそう言ってくる。おでん本当に好きだな。冬に食べたら最高なそれを今売ってるのは謎だけど、まぁいつ食べても旨いから関係ないか。

 心なしかキラキラとした目で見つめてくる沖田オルタに、獪岳はため息を吐きながらそっぽを向いた。ここで殴って罵倒しないあたり本当に丸くなったと思う。俺が同じことしたら蹴り倒されてた。

 

「給料入ったらな」

「給料!」

「んだよ」

 

 獪岳の言葉に思わず反応した俺に、彼は不機嫌な眼差しでこちらを見る。いやそう見えるだけで、機嫌はまだ良い方だな。ただ単にうざったそうにしてるだけだ。

 

「いや、給料良いなって思っただけ。俺は鬼殺隊に所属してないからさ、貰えないんだよね」

「は?」

 

 怪訝そうな表情だ。その視線の先には俺の服がある。獪岳はこう言いたいのだろう。鬼殺隊の隊服を着ているのに何故、鬼殺隊所属じゃないのかと。わかる、だよな。そう思うけど、俺が英霊になった原因が鬼殺隊なのだから仕方なくね? 寧ろこの時代でどうやって強くなって、どう英霊になれと? 

 無理ですね。あとこの服、意外と着心地良いから着替えようとも思えないんだよな。目立つけど。

 

「まぁ、こんな格好してるけどな? 違うから。いやでもマスターは鬼殺隊所属だし……成り行きで俺も所属してるって事にならないかな」

「知るか」

「なけなしのお金は団子でふっとんだし……手伝ってくれたお礼になんか奢ろうと思ってたんだけど」

「は? 誰にだよ」

「そりゃ、獪岳とまじんさんへだよ。エリちゃん押しつけられたけど、手伝ってくれた事には変わりないから」

「……寝言は寝て言え」

「ひっど」

 

 ケッ! とそっぽを向いた獪岳に俺はジト目になる。本当に嫌だという音がする。そこまでか、そこまで嫌がるか。俺だって沖田オルタと二人きりで出かけたいわ。でもマスターがお前だからお前も誘ってるんだよ、わかれ。

 はぁとため息を吐いて廊下の角を曲がった。まだ聞こえない右耳を塞いで、左耳から聞こえてくるマスターの音と繋がってる魔力パスの位置からしてあと少し行った先の道場の中にいる。

 …………ん? 道場?

 

「はぁ!?」

 

 うぉ!? なんて驚いた獪岳は無視して走り出す。ドタバタとらしからぬ程に音を立てながら慌てて走り、たどり着いた道場の扉をスパーン! と開け放った。扉がひしゃげた気がするけど無視して、顔を上げる。そこには驚いたようにこちらを見る善逸の姿が。マスター! と声を上げた。

 

「は、はい! おかえり! セイバー!!」

「はい! ただいまです! でも一体、これは! どういうことですか!」

 

 ちょっと意味がわからないです! と心の中で叫びながら、善逸に触る。そろりと善逸の魔術回路を流れている魔力を確認する。うん滞りなく流れてるし、軽く手足を触診しても問題はなかった。いや問題なさすぎなのだ。

 那田蜘蛛山から帰ってきてまだ一ヶ月。たった一ヶ月しか経ってないのに、目の前の善逸は後遺症なんて無いほどに完治している(・・・・・・)

 

「なんで傷が綺麗さっぱり消えてるんです!? 可笑しくない!? 人間じゃなくね!?!?」

「やっと帰ってきたと思ったら急に罵倒されたんだけど!?」

「いやいや! 全治三ヶ月の診断だったはずじゃありませんか! 罵倒したくもなりますよ!!」

「そこは普通、治ったの? おめでとう! じゃないのぉ!?!?」

「ないです!!!」

「なんでぇ!!!」

 

 がくがくと善逸の肩を持って揺らしながらそう叫ぶ。可笑しい可笑しい、どう考えても可笑しい、絶対に可笑しい。しのぶさんの診断は完璧だ。鬼の血鬼術にかかれば、しのぶさんに見て貰えば十中八九解決する。だから彼女が下した“全治三ヶ月”という診断は余程の事がなければ覆らない。患者が治療を拒否して遅くなるならまだしも、たった三分の一の期間で治るなんてそんな事……超常を超えた何かでしか…………ぁ。

 

「まさか…………聖杯……?」

 

 ぎくりと善逸の肩が揺れる。彼の目を見ると申し訳なさそうに視線を明後日の方に逸らしている様子を見て、ひくりと頬が引き攣った気がした。

 

「願ったんですか!? 聖杯に! 使い方教えたつもりないんですけど!?」

「い、いや、ちょっとね。毎日五回のクッソ苦い薬に、ちょっとしたことで来る手足の痺れの痛みに嫌になって……早く治れーと思ってたら、治っちゃった」

 

 治っちゃった☆(テヘペロ)じゃぁないんだわ! 聖杯の危険性について教えませんでしたっけ!? 教えてないですね!! すみません私のせいです!! でも安易に聖杯頼らないでくださいよ!! それまだどんなタイプかもわかってないんですから!!!

 そう叫べば、ごめんて! ごめんて!! 酔うからやめてぇ!!! と叫び返された。ずっと善逸の肩を揺らしていたらしい。うっ、と顔を青くした彼に申し訳なくなった。慌てて彼の背を摩るけど、その揺れすら気持ち悪いらしく止められた。えぇ、そこまで?

 

「聖刃さん、おかえりなさい。無事なのは喜ばしいことですが、もう少し静かしていただけると助かります」

 

 吐きそうになってる善逸に困惑していると、善逸の相手をしていたのであろうアオイちゃんが話しかけてくれた。彼女の言葉にただいま帰りましたと返してから騒いだのはわかっていたので素直に謝る。

 

「すみません……善逸の怪我が治ったのが予想外で……」

「それは私達も驚きました。何せしのぶ様の診断よりも早く治るなんて今までありませんでしたから。それで? 貴方は事情を知っているようですが? せいはいとは何の事ですか?」

 

 あっ、ちょっと怒ってない?? 怒ってるよね? 怖いや。

 でもあまり聖杯について言い触らすのも良くない。鬼舞辻無惨が同じものを持っている以上、聖杯の情報というのは有力なものになる。というか余計力を手に入れようと善逸を狙うかもしれないから話せられない。今俺がめっちゃ叫んじゃったけどね。ノーカンでお願いします。

 別にアオイちゃんを信用してないわけじゃない。彼女を危険に晒さない為だ。こっち関連の話は多分、柱の人達と善逸達みたいにこっちに関わらずを得ない人、そして獪岳のようにサーヴァントの事情を知ってしまった人にしか行ってないはずだしな。

 

「それは……話せません」

 

 彼女の目を真っ直ぐ見ながらそう告げると、アオイちゃんは怪訝そうな表情をしながらもわかりましたと納得してくれた。引いてくれたとも言う。

 

「それで、善逸の身体はもう何ともないんですよね?」

「えぇ、しのぶ様によると健康そのものだそうです。蜘蛛の鬼による毒は全て抜けきっているとか。あとはこの一ヶ月で落ちた筋力を取り戻すために、機能回復訓練をしているところです」

「それはいつから?」

「今日からです」

「アッ(察し)」

 

 なるほどなるほど、まだカナヲちゃんと相手してないんですね。きっと今は女の子と触れ合える喜びを楽しんでいるんだろうけど、これから絶望を味わうから……うん、善逸どんまい。

 

「何その同情的な視線と音!! 嫌な予感がして仕方ないんだけど!?」

「まぁ、うん、そのなんだ……頑張れよ」

「いやぁあああ!!! やめてぇええ!! セイバーにそんなこと言われるとほんとに嫌な予感しかしない!!!! 死ぬの!? 俺死ぬの!? やだやだやだ!!! 死にたくないぃいいいい!!!」

「うるっせぇ!!!!!」

「ぎゃァアア!!!!!」

 

 いきなり善逸が吹っ飛んだ。ズザザ! という効果音を出しながら道場の床を滑っていった善逸に目を見開き、下手人を確認する。獪岳だった。青筋を浮かべた獪岳が拳を握りながらキッと睨んできている。思わず背伸びしてしまったが、獪岳は俺のことを無視して善逸の方へと歩いて行ってしまう。その背を追いかけて、視線を彼らに向けた。

 

「いったい! 何も殴ることなくない!? いや昔からだけどさぁ!! 獪岳!」

「煩せぇっつったのが聞こえなかったのか、このカス。鬼殺隊になってもギャーギャーピーピー、それでも先生の弟子かよこのカス」

「カスカス言い過ぎじゃない!? このクズ!! というか久しぶりに会ったのに、挨拶もなし!? 手紙も全部無視するしさ! 返事してくれても良いじゃん!!」

「テメェの手紙は長ったらしいんだよ。いつもいつも何枚も同時に送ってきやがって。簡潔に、三行にまとめてから送ってこい。そしたら鳥の餌にしてやってもいい」

「結局読まないやつでしょ!! それぇ!!!!」

 

 ボコスカと獪岳が怒って殴り、善逸が泣き殴り返す。力関係では獪岳の方が上なので、徐々に獪岳だけが殴ってる状態になりつつある。あぁもうエスカレートし始めてるし、アオイちゃんが引いてるし青ざめてる。ごめんな、これがこの兄弟の常だから。修行時代からこんな感じだったからさ。心配しないで欲しい、じゃれあいみたいなもんだ。

 でも、少しやり過ぎかな。

 

「壱ノ型以外できるようになったのかよ! カスが!!」

「そう言う獪岳こそ壱ノ型はできるようになったんですかぁ!?!?」

「なってねぇわ!! どうせテメェもできてねぇだろ!!!」

「そりゃできてませんけどぉ!? 寧ろそんな暇ありませんでしたからぁ!!」

「あ゛? 私は働いてます偉いでしょ? って言いたいのかよ!! かまってちゃんは回れ右して部屋の隅で泣いてろ!!!」

「現在進行形で泣き喚いてます!!!!」

 

 あの、壱ノ型云々は俺にも刺さるからちょっとやめてほしい。いやほんと、ね? 我妻善逸だけどそうじゃないから、壱ノ型以外もできるんじゃ? って期待して落胆した時のこと思い出すから。その時に鼻で笑った獪岳が目に浮かぶからやめてくれ。イラッて来る。

 最初は冷静に罵倒していた獪岳だけど、だんだんと叫び始めては殴るのをやめて蹴りの体勢に入っていたので間に入り蹴ろうとしてた脚に俺の脚を添えて止める。衝撃が来たけれど魔力の乗ってない攻撃は全然痛くないので大丈夫だ。

 

「はいはい、じゃれあいはそこまでです。アオイちゃんが引いてますよ」

「「セイバー……!!」」

「はいはい、セイバーですよーだ」

 

 今のはヒロインXね。

 

「獪岳、貴方は私のところではなくしのぶさんのところへ行くはずでは? 歌の影響がないわけではないでしょう」

 

 一緒に蝶屋敷に向かう事になった理由はここにある。獪岳はエリちゃんの歌声を至近距離から聞いたので、後遺症がないかどうかだけ確認する為にここに来た。鬼舞辻の鬼が使う血鬼術とはまた違ったものだが、鬼関連なので何かわかるんじゃないかという憶測のもとであの街から歩いてきたのだ。空振りにしろ本当だったのにしろ、まずはしのぶさんに出会わなくては意味がない。

 

「チッ」

 

 こちらから視線を外し舌打ちを零した獪岳にため息が吐きたくなる。殴って来ないだけマシかぁと思いながら、俺は口を開いた。こうなっては最終手段だ。

 

「舌打ちで返事しない。まじんさん、獪岳を連れてってやってくれ。その後におでん奢ってくれるってさ、獪岳が」

「はぁ!?」

「何? そうなのか? それならもっと早く言ってくれマスター。ほら行こう、すぐ行こう。おでんは温かいうちが美味しいんだ」

「おい! ちょっと待て!? こんの! クッソ馬鹿力!! 離せ! オルタ!!」

「嫌だ、おでんを奢ってくれるまで離さない」

「おでん馬鹿!!!」

 

 ずりずりと引き摺られていく獪岳に笑顔で手を振ったら、覚えてろよ!! カスが!!! と典型的な三下みたいな台詞を吐いて消えていった。沖田オルタをほっぽって善逸と喧嘩する獪岳が悪いし、そもそもこの道場で殴り合いを始めないで欲しい。俺が俺のところの獪岳と出会ったら十中八九そうなりそうなのは置いておいて、だ。

 まぁ、この場所であの喧嘩を見られるとは思ってなかったけれど。彼が鬼になっていれば、マスターになってなければ見られなかった光景だ。泣きそうになるのを笑みを深めることによって誤魔化す。

 でも。

 

「セイバー?」

 

 この耳が良いマスターにはバレるのだろうけど。

 心配させない為にかぶりを振って何でもないと答えた。俺の言葉にあまり納得してないのか、その太い眉を寄せた善逸が小声で嘘吐けと言ってきたけど嘘じゃないってば。耳でわかるでしょうよ。俺じゃ自分の音は判断できないけど、嘘は吐いてないのにそんな事を言われるとは心外だ。別にマスターだから良いけどな。

 

「それより、炭治郎と伊之助はどうしました? あと大人の方の伊之助はどこへ?」

「あいつらはまだ療養中。あと数日で機能回復訓練に参加だって。大人の方の伊之助はいつの間にか消えてたって」

 

 えぇ……どういう事なの。

 

「俺はよく知らないんだけど、ここで一緒に訓練してた人達が目撃してて、急に青色に光って急に消えたって。柱の人達が移動した時に似てるー、とかなんとか」

 

 あー……なるほど。理解しました。瞬間移動したな。もしくは空間移動。多分、立香に令呪で呼ばれたのだろう。令呪に宿る魔力は魔法に近い事をやり遂げる。ま、対象がサーヴァントだからってのもあるだろうけど。もし生身ならば多分身体が耐えかねないんじゃなかろうか。

 戦力が足りなくなったか、伊之助を呼ぶ事によって事態が好転すると思ったのかはわからないが、場所が分からないので加勢しようにもないな。

 

「(……無事だと良いけど)」

 

 折角会えたんだ、もう少し話ぐらいはしたい。まぁ伊之助の性格的に腰を据えて話すなんてことはないだろうが。

 

「で、セイバー」

 

 くいっと羽織の袖を引かれた。そちらを見ると善逸がムスッとした表情でこちらを見ていた。怒ってそうな音が俺の左耳に届いた。実はまだ右耳治ってなかったりする。

 

「怪我だらけだし、頬の火傷とか見てて痛々しいんだけど……どういうこと……?」

 

 ゴゴゴゴ! という漫符が背景に見える気がした。ジョジョかな?

 

「あー、えーっと……結構、苦労しまして」

 

 そう目を逸らしながら答えると、彼はドバッと涙の大洪水を起こしながら勢い良く抱きついて来る。

 

「死なないでぇえええええ!! せいばぁああああああ!!!!!」

 

 死にませんて。

 

 

 例えやられたとしても。

 

 

 

 

 座に還るだけですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カスとクズって呼び合うの良いよね。

18巻発売日だ〜!
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