俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

56 / 135
第十一節 夢幻への誘惑。3/4

 

 

 

 

 怒っている音がする。

 ふつふつと鍋が沸騰しかけているように、閉じ込めた蓋を持ち上げようと蒸気を発生させている音だ。わいわいがやがやと楽しそうに話しているのにセイバーからも炭治郎からも怒っている音が鳴っていた。

 それが俺には怖くてこわくて、ずっと涙目になりながら和まそうと俺の話題が出た瞬間に声を荒げても、その音は消えることはなかった。耳を手でおさえながら縮こまり、なるべく気づかれないように炭治郎へと泣きついた。

 

「まぁふざけては言ったけど、俺は至って真剣だ。相手方は既存の鬼達に加え、サーヴァントまでいる。俺達が削ぐことができた戦力は十騎中、四騎。でも俺達は? 何騎だ?」

「……金時さん入れて八人」

「そう八———、いやちょっと待て?」

 

 六騎じゃないの!? あと二人誰だ!? とセイバーが叫ぶ。

 

「俺とお前と伊之助と小太郎さんと坂田金時と沖田オルタで六騎では?」

「あと二人、いるんだ。燕青さんと龍馬さん」

「さっきも出てたなその名前……リョーマって坂本龍馬か? で、燕青は水滸伝の」

「そうだな」

「……なるほど。それにしても一人一騎相手しても余るな」

 

 うーんと何かを悩むセイバー。考えていることは流石にわからないけれど、きっと俺ではわからないことを考えてるのだろう。今の会話だってちょっと意味がわからなかったし。

 

「でも相手のサーヴァントを考えるとかなり心許ない……」

「そうだろうか?」

「そうだよ」

 

 はぁとため息を吐いたセイバーにびくりとする。そのため息にも怒気が含められているのだから怖い。なんでそんなに怒ってるんだろうか。怒るセイバーは珍しいけど静かに怒るその姿を見てしまえば、理由をあまり聞きたくはなかった。気にはなるけど。

 

「サーヴァントの相手はサーヴァントにしか務まらない。俺達がそれらを相手取るとして、鬼達も倒さなきゃならない」

「……つまり、こちらの戦力をこれ以上削る必要はないと?」

「そういうこと。きっと戦況も変わる。許してくれるなら、俺はそうするぜ」

「…………それは、あの人を利用するという意味か?」

「……そうとってくれても構わない」

「ッ!」

 

 ガタリと椅子を蹴り倒して立ち上がった大人炭治郎に悲鳴が上がる。俺のだけど。怖い怖いと縮こまり、伊之助はわくわくと二人を見ていて、炭治郎は困った様にセイバー達を見ていた。

 立ち上がった炭治郎はセイバーの襟首を掴み上げて立ち上がらせた。中腰のような状態になったセイバーを彼は睨み付ける。紅い瞳が爛々と輝いていて、それはまるで全てを燃え上がらせる炎の様で、かと言って人々を温め照らしてくれる陽の様にも見えた。

 

「お前はッ!! あの人のッ」

「生き様を侮辱するのか? って」

「……っ」

「そんな事するわけないだろ。ただ生きていて欲しいだけだ。あの人だけじゃない。みんな、だ」

「それは……でも」

「やってみなくちゃわからない。でもやらなきゃ後悔する……それが例え無駄になっても」

 

 睨み合う彼らは一触即発な雰囲気を醸し出していた。それが怖いけれど、セイバーが言った言葉を俺は頭の中で反芻して、その言葉の意味に顔が青くなる。

 

「(生きてて欲しいって、誰か死ぬってこと!?)」

 

 いやこんな職業だ、いつ何処で誰が死んだっておかしくはない。俺だって今までなんとか生きてるけど、死ぬ可能性はいつだってあった。セイバーに会う前とか、雷に撃たれた時とか、最終選別とか、任務とか。後半二つぐらいはセイバーも助けてくれたって良いのに助けてくれなかったから、ほんとなんで生きてるのかわからない。死にたくないし、セイバーがいるから死なないけど。

 セイバーが誰の事を言っているのかはわからないけど本来死ぬはずだった人を助けるという事をしようとしてるのはわかる。それが歴史を変えるという事になるから、炭治郎が渋ってるんじゃないだろうか。安直な推測だけど、多分そういう事だと思う。

 

「それに……人を利用するだなんていつもやってる事でしょ? なぁ、守護者さん?」

「お、まえ……ッ!!!」

「小を捨て大を救うんじゃない、小を救い大を救う。お前がしてきた事に比べれば魅力的な提案だと思うが?」

「人が悪いぞ! 善逸!!」

「残念サーヴァントなのでヒトじゃないですね。それともなんだ? そういう仕事は回されなかったのか?」

「……」

「図星かよ……流石掃除屋。良く心が壊れなかったもんだ」

「それは……善逸が」

「は? 俺がなんだって?」

「いや……一人じゃなかったからな」

「あー禰豆子ちゃんね。ほんと禰豆子ちゃん巻き込んだの今でも許してねぇから」

「それはほんと、すまない」

「……俺に謝るのはお門違いだよ」

 

 一番許してないのお前だろうに。

 そうセイバーが呟き、大人の炭治郎はその言葉を聞いて黙ってしまった。苦い顔をしていることからきっとセイバーの言う通りなのだろう。彼らが何の話をしているかは皆目検討も付かないけれど、何かに禰豆子ちゃんが巻き込まれたんだろうな。それは俺だって怒るし、家族想いの炭治郎が怒らないわけがない。彼は自分自身を責めるはずだ。出会って数ヶ月しか経ってないけど、クソ真面目なのはわかっているからそう予想できる。

 セイバーの襟首を掴んでいた炭治郎は苦虫を噛み潰したような顔をしてからゆっくりとセイバーを解放した。ストンと来客用の椅子に座り直した彼は重いため息を吐きながら顔を片手で覆った。表情は見えなくなり、代わりに何かと葛藤するような音が聞こえる。

 

「じゃぁ参考までにこの時代の彼らに話を聞こう。善逸」

 

 掴まれていたお陰でシワが寄った襟首を正してからセイバーは俺の名前を呼んだ。何? と震えそうになる声を抑えて返事をする。

 

「これから死ぬ人がいる……でもそれは俺達なら助けられる相手だ。お前はどうしたい?」

「直球!! ずっと聞いてたけど、それ本当は死んでる人なんだよね? セイバー達が過ごした時代じゃ死んでた人なんだよね?」

「善逸はやっぱ賢いですね。馬鹿だけど」

「馬鹿は余計だ!!!」

「貴方の言う通りです。私達は未来を知ってる。だからこそ助けられる可能性がある。でもそれは歴史を変えることと同義……けど、大きな歴史には影響はない。鬼殺隊というものは歴史の陰に埋もれるものだしな」

 

 鬼という存在もそれを狩る存在も、今でだってあまり信じられてない。鬼は死体が残らないから、いたという事実さえ残らないから立証する証拠がない。なら、鬼がいなくなった世界ではきっと鬼殺隊なんてものがあった事すら無いものとされてるんだろう。そんな遥か未来、俺には到底想像できないけれど。

 

「で、どう思う?」

「……それは鬼殺隊の人だよね?」

「はい。それなりに強い方です」

「…………なら助けても誰にも責められないと思うよ。助けられるなら俺は助けるし、それに炭治郎が人助けに何か悩んでるのはらしくないっていうか……」

 

 うん、らしくない。とても優しい彼は助けれる命は全て助けようとするお人好しだ、と思うし、歴史が変わるからって人が死ぬのを見過ごす炭治郎って考えただけでも違和感が凄い気がする。

 

「じゃぁ次、炭治郎」

「え、あっはい! えっと、よくわかってないんですが」

 

 わかってないのかよ。

 

「助けられる命があるなら俺は助けたいです!!!!!」

 

 とても大きい声を出すものだから思わず耳を塞いだ。セイバーをちらりと見ると彼も同じように塞いで苦笑している。仕方ないなという顔だ。炭治郎だもんな。彼の方を見ると、炭治郎はふん! と言い切った! みたいな顔をしていた。その顔は炭治郎にとっては真剣なんだろうけど、なんだか面白い。

 

「最後に伊之助ですね」

「んぁ?」

「寝てたなお前」

 

 よくこんな状況で寝れたな。ある意味強者な伊之助に呆れてると、セイバーは簡潔に今までの事を話した。俺にとってはわかりやすいまとめだったけど、伊之助には難しかったみたいで終始首を傾げている。猪頭が無ければ怪訝そうにする伊之助の顔が見れたはずだ。

 

「わかんねぇが、そいつは強ぇのか?」

「強いです。でももっと強い奴に殺される」

「なら決まってんだろ! その鬼を殺して、俺様の方が強いって証明してやんだ!!」

 

 伊之助の言葉に微笑んだセイバーは伊之助らしいなとだけ呟いて、大人の炭治郎の方へと振り向く。聞いたか? と首を傾げた。

 

「もうこいつらには関係ないんだよ。世界なんてな。こう言ってくれてんだ、俺は何と言われようと実行するぜ?」

 

 で、どうすんだよ? 守護者サマ?

 

「悩むなら、元飼い主か現飼い主に聞いてきな」

 

 グルル、と獣が唸るような音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぷつりと、また何かが途切れた。

 今まで丈夫に繋がっていたのが途切れたような……誰かがハサミで切ったような感覚が鬼舞辻無惨に走った。

 

「…………またか」

 

 今度は二回もだ。

 無惨はその細い眉を顰めながらそう呟く。サーヴァントに繋がっていた魔力のパスが二つも途切れてしまったのだ。

 

「(今度は清姫とあの異人か……頼光が荒れるようなことはないだろうが…………)」

 

 つい最近、二週間前ほどの話だ。坂田金時との魔力パスが途切れた。いや途切れたというよりは、誰かが割り込んでその糸の結ぶ先を変えたような感覚だった。言うなれば奪われたということだけがわかり、無惨は折角の戦力をみすみす逃した事になった事に気付き怒ったが、それ以上に坂田金時が誰かに奪われたことを知った源頼光が泣きながら荒れ狂い無限城を半壊させた。

 二週間経った今では金時を奪った不届き者を塵芥にしてきます、と無限城を出て行ったので無限城に平和が訪れたのだが、あまりの惨状に鳴女の声が涙声になっていたのを無惨は思い出して遠い目になる。触らぬ神に祟り無し……止めようにも止められない形相であった。きっとあの時声をかけていれば死んでいたのは、金時を奪った者ではなく無惨だったに違いない。

 

「(……どうして、どいつもこいつも役立たずなのだろうか)」

 

 十二鬼月も、サーヴァントも。

 十二鬼月に関しては“前”からなので最早諦めてる節があるが、サーヴァントは違う。確かに無惨はとあるサーヴァントを殺せと命じたはず。それなのにその返事もなく、ましてや進展の報告も無し。そしてむざむざとやられる始末。しかも二騎もだ。一騎当千のはずのサーヴァントが続け様にやられた。

 ペラリとページを捲る。紐閉じで作られた本に囲まれながら無惨は頬杖を付いた。これも外れだ、と持っていた本を放り出し新たな書を取り出す。

 どうすれば、どうすればいい?

 

「(“前”と同じ様にすればほぼ確実に私が負ける……それだけは許せない、赦されることではない。あぁ、苛々する)」

 

 新たに取り寄せた著書達の中にも青い彼岸花に対しての情報はほぼ無し。まだ全て見ているわけではないが、この分では確実だろう。

 今読んでいた本をまた放り投げ、粉々に粉砕する。読み終わった本も細切れにし、まだ読まずに残っていた二冊の赤い表紙の本と藍色(・・)の本さえ塵に変えた。

 変形させていた指を元に戻し、無惨はその赤い瞳を細めた。

 

「……鳴女」

『ここに』

「下弦共はどうなっている?」

『現在無限城の一室にて監禁中でございます。下弦の弐、参、肆様は理性を飛ばしておりません。下弦の陸様は前回同様でございます』

 

 ふむ、と無惨は考える。誰が誰かはまるで覚えてはいないが、獣の様になったやつは使いようがあるのではないだろうか。

 サーヴァント達がいつ、どこでやられるかは無惨にはわからない。しかし鬼に関してはわかる。次は上弦の陸、堕姫と妓夫太郎のはずだ。

 

「そうだな、鳴女。最早理性を失くした獣がいるだろう?」

『…………下弦の陸様でございましょうか?』

 

 少し返事が遅かった気がするがまぁいい。

 

「そいつを堕姫の元へと送れ。私からの贈り物だと、有効に使えとな」

『承知いたしました』

 

 唯一の失敗作と言っていい獣は片付けた。さて、次はどうしようか。

 

俊國(としくに)? 読み物は終わりましたか?」

 

 突然割って入った声に無惨は舌打ちを零したくなりながらも我慢し、なるべく高い声を意識する様にして、ゆるく微笑む。

 

「はい、たった今終わりました。義母(かぁ)様」

 

 齢十歳の俊國と呼ばれた少年はとてとてと、自室の扉に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アッ私からのプレゼント……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。