俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十二節 夢幻の如くなり。1/5

 

 

 

 

 

「すっごーい! 列車だ! 蒸気機関車! 映画みたいだ!!」

「主殿、あまり騒がれては。蒸気機関車などこの時代ではさして珍しくもありませんし」

「こいつぁゴールデン立派だぜ。なぁ、イビルウィンドもそう思うだろ?」

「ハイ! その通りです!」

「ガハハハ! 何言ってんだ! 子分四号(マスター)!! こいつはな、この辺りの主なんだぞ!」

「やっぱそうなんだな!! どうやったら勝負できるんだ!?」

「いや、守り神だよ」

「そうだぞ伊之助、この辺りを治めてるのかも知れない。礼儀は大切にな」

 

 何このカオス。

 機能回復訓練で合格を貰った炭治郎、伊之助、善逸はとある街から発車する列車の駅の前にきていた。改札がない! と驚く立香に彼は都会育ちかぁなんて思ってしまう。改札がない駅なんて田舎には結構あると思うし。

 そうして駅の中に入ったところで見えたのは静かに佇んでいる発車待ちの列車。それを前にしてそれぞれのリアクションが上記のそれである。うん、カオス。

 善逸と目を見合わせて同時にため息を吐く。流石にこの人数の天然ボケにいちいち突っ込む程の気力はない。俺達だってツッコミかボケかって言われたらボケ方面なのだから勘弁してほしい。いやまぁ大体はわざとじゃないんだけどね。

 

「くっそー! これってカメラ機能なかったっけ!? マシュ!」

『すみません! 通信機能ぐらいしかないです!』

「だよね!」

 

 他に機能使ってるから容量なさすぎなんだよなぁー! なんで叫ぶ立香に同情の視線を送った。たまにデジカメあったらなーなんて思うことは俺も多々あるので、彼は相当あるだろう。

 隣にいた善逸が立香にねぇ! と話しかける。ペタペタと列車の壁を触っていた彼は善逸の声に反応して振り返る。わぁめっちゃ楽しそうな顔している。折角、スーツ姿なのだからもう少しきっちりとしていれば良いところの御坊ちゃまに見えるのにな。馬鹿にしてるわけじゃない……足長いなとか、イケメンだなとか妬んでるわけじゃないから。ないからね?

 呼ばれた立香は何? と首を傾げながら、善逸と俺の前に立った。

 

「結局、誰が列車に乗るの?」

「あ、切符買わなきゃだよね」

「全員乗るの結構な料金になるから」

 

 そっかぁと呟いた立香はうんと頷いて手を叩いた。他のお客さんまで注目を集めたけれど、それを気にすることなく立香は自身のサーヴァント達に向き直った。

 

「サーヴァントのみんなはこれから適当な場所で霊体化してきて戻ってきて。今すぐに、ハリーアップ!」

「いきなりすぎんじゃん!?」

「はぁ!? 俺様はこれからこの主と戦わなきゃいけねぇのに!?」

「お金節約する為にね。あと戦うものじゃないよ、伊之助。わかったら俺と現代の鬼殺隊の人以外は全員消えてくださーい」

「言い方……!!」

 

 俺のツッコミも虚しく、立香は早く早く! とサーヴァント達の背中を押した。まぁ霊体化するところを一般人に見られるわけにはいかないから別に良いのだけど、もう少しやり方みたいなものはあるだろうに。なんか雑だなぁと思いながらも駅から離れて、手頃な街角に消える。路地裏に入った様に見えただろうし、この先行き止まりだったけど誰も気にしないだろう。Uターンしながら霊体化して、駅へと戻る。

 霊体化すればサーヴァントはお互いにどこにいるか分からなくなる。文字通りの霊体になってるので干渉はできないのだ。唯一の連絡手段はマスターとの念話のみ。それ以外しようと思えば実体化しなければならない。

 

「全員、戻った?」

「立香さん、誰に話しかけて?」

「何かいるのか? 強いのか?」

「そればっかだな、伊之助。違うって藤丸さんはサーヴァントの人達が戻ってきてるか確認してんの」

「さ……?」

「話聞いておきながら理解してなかったな?」

 

 伊之助だし無理はないと思うけど。ただめちゃくちゃ強いのだと認識しているのか、善逸の霊体化についての説明を聞き、消えたら強くなれるのか!? なんて叫ぶ。強くならないから静かにしてほしい。伊之助の格好はただでさえ目立つし、警官……この時代じゃ憲兵が来るかもしれないから。通報されててもおかしくない格好だよな……上半身裸の時点で周りの方々には刺激が強いと思う。

 サーヴァントほどじゃないけど!

 

「うん、俺のところは全員帰ってきてるね。善逸は?」

「あっ、えっと、セイバー? いる?」

 

 全員が帰ってきたのか一つ頷いた立香は善逸の方を向き、立香の言葉に善逸はキョロキョロと周りを探し始めた。いや目で探したって見つかるわけないでしょう、耳でも聞こえないって。霊体では音を発生させることができないのだから。

 ふぅと息を吐き、キョロキョロと見渡す彼の目の前で手を振る。当然気づくことはない。

 

〝何でしょう? 善逸〟

〝戻ってきてる?〟

〝来てるよ。目の前で手を振ってます〟

「エッ嘘! ごめん気付かなかった!」

〝いや霊体なんだから気づくわけないだろ……〟

 

 驚いて手で口を覆う彼に若干ジト目で見てしまうけど、それも彼に届くはずもなく。善逸が突然違うこと話し出した事に気づいた立香が彼の名前を呼びかけ、心配そうに様子を伺っているがそんな心配ご無用だ。ただ単に念話で話すのを忘れただけだ。

 

「大丈夫? いた?」

「う、うん! いた! 目の前にいるらしくて! セイバーも意地が悪いよね」

 

 そう言って笑う善逸に立香はお茶目だねぇと苦笑した。誰がお茶目だ、誰が。

 四人のうち切符の買い方を知っている善逸が切符売り場に消えていき、去っていく前に善逸に刀を隠す様言われた炭治郎達はいそいそと刀をしまっている。廃刀令を布かれている今、刀を持っているだけで捕まってしまう。そもそも世間にとっては刀なんて必要ない時代になったのだから廃刀令を気にする必要もないのだが、俺達はそうもいかない。これがなければ鬼を斬ることができなくなってしまう。それはとても困る。

 悲鳴嶼さんとか日輪刀どうやって隠してんだろうな、なんてわりとどうでも良い事を考えていると善逸が戻ってきた。三人にそれぞれ切符を渡して、汽笛が鳴った電車の中へと歩み始めた。まだ発車の合図は鳴っていない。余裕だな、と油断していたところでピー! という甲高い音が聞こえた。即座にそちらを振り向くと、一組の憲兵らしき人達が警棒を持ってこちらに来ている。そこの不審者ー! 待ちなさい! なんて叫ぶ辺り、これどこの泥棒映画だろ? って思ってしまう。まぁ狙いは彼らの視線が伊之助に向かってる辺り、彼なんだろうけど。

 猪頭に上半身裸だ。通報されないわけがなかった。というかフラグ回収早すぎ。

 

「なんでこっちにまっすぐ来るの!? 俺たちなんかしたっけ!?」

「したというか多分怪しすぎたんだと思うな。炭治郎達、峰打ちとかできる?」

「なんでそう実力行使に走るの!? 藤丸さん!!」

「いや、その方が楽だから?」

「怖いっ!」

 

 そんな言い合いの最中でも憲兵達の勢いは衰えることはない。何だあいつら! 敵か!? なんて叫ぶ伊之助と、あの人達どうして必死な匂いさせてるのだろう? と首を傾げる炭治郎の首根っこを掴んだ善逸は列車の中へと慌てて逃げ込む。いや、入りかけだったとは言え列車の中は狭いから逃げるのには適してないと思うんだけど。

 

〝何とかして! セイバー!〟

 

 多分サーヴァント達を止めてるのだろう憲兵達の様に必死な音をさせた立香を押しつつ、列車に逃げ込んだ善逸からそんな念話が届いた。いつもの頼り癖だろうけど、まぁ俺ぐらいにしか頼める相手がいないのだろうな。ま、マスターの命令なので断る気はないが。

 

〝少々野蛮ですが、ってな〟

 

 そう呟いて続け様に列車の中に入ろうとした憲兵達の背後を取り、手刀を喰らわす。他人に何かしら影響を及ぼす為には実体化が必要なのだが、それを最小限にして見えない攻撃を喰らった様に見せかける。両の手が首に当たる一瞬のみ実体化さてまた霊体化する。霊体化実体化にも魔力を持ってかれるのであまり使える手段じゃないが、こういう場面では結構便利だろう。倒れ行く憲兵達を支えてやれないのが難点だけど。

 

「な、何が起こって?」

「エッ怖! 怖い!! 急に倒れたんだけど!?」

「気を失ってるだけみたいだな……何かの発作とか?」

「それだと二人同時が意味がわからない!」

「何言ってんだよ、紋逸に権八郎。主の怒りに触れたに決まってんだろ!」

「だから主じゃなくて列車だし! 俺の名前は善逸!」

「伊之助、俺は炭治郎だ!」

「というか、サーヴァント達が善逸がやったって言ってるんだけど」

 

 立香の言葉によって注がれた三人の視線に善逸は勢いよく首を横に振った。千切れて飛んでいくんじゃないだろうかってぐらいの勢いだ。いつもわりかしボサッとしている髪が更にボサボサになっていく。

 

「あ、善逸じゃなくて善逸さんだって」

「善逸さん……?」

「セイバーの方のね」

「あぁ、立香さんはセイバーさんのこと善逸さんと呼んでるのか」

 

 俺もそうした方が良いかな? という炭治郎に俺と善逸は全力で首を振った。見えてなくても振る。やめてくれ、炭治郎にそんな他人行儀に呼ばれたら多分死ねる。今まで仲良かった友達にさん付けされるなんて気まずいことこの上ないし、炭治郎や伊之助相手だと何があったのかと気が気でなくなる。

 セイバーさんの方がまだ良い。だってセイバーだし。

 

「で、善逸さんが手刀で眠らしたって」

「やるじゃねぇか! デケェ方の元逸!」

「善逸ね!!」

「見えなかった……俺もまだまだだな……」

「サーヴァントと人を比べちゃダメだと思うけど」

 

 そうこうしているうちに汽笛が鳴り響く。発車します、という声から分かるほどに暗い雰囲気を纏った車掌の掛け声が耳に届いた。

 善逸達が慌てて列車の扉を閉め、汽笛を鳴らして蒸気機関車が出立する。

 行き先はさて……何処へやら。

 

「(夢幻に旅立ち、二度と帰ってこない。だからこそ無限、なのかね)」

 

 俺が言えた義理ではないけれどネーミングセンスがないなぁーなんて思いながら、ふわりと俺は飛び上がり列車の上に頓挫する。列車の中にいても良いけど、狭い車内にいては動き辛いだろうからここにいる事にする。あぐらを掻き、欠伸を零す。

 他のサーヴァントの方々はどうしてるのやら。騒いでいる伊之助を抑える善逸の声が鼓膜を震わす中、霊体化している故に感じるはずのない風を一身に受けて目を細める。

 これから行うは俗に言う救済、原作改変だ。今までだって原作と隔離した出来事が起きているし、一応後に鬼として出て来る兄弟子を鬼にしまいと助けたので原作改変はしてると思う。でもそれらは所謂画面外での話。紙の上に過去としてしか表示されなかった出来事をちょいちょいと変えただけだ。

 けれど今回は。

 

「(サーヴァント全員で上弦の参を殺す)」

 

 彼にも辛い過去があった? はぁ、そんなのは俺たちには関係ない。鬼になって人を食べた以上、鬼殺隊にとっては粛清対象だ。人食べてないなら俺もちょっとは考えるけど、そうじゃないなら遠慮する必要はない。何より、人間時代に何かあったのならもう鬼としての生を終わらせてやるのがせめてもの慈悲だろう。彼らは死ぬことでしか報われない……哀しい生き物だ。人を食ってないならまだしも。

 うまい! うまい!! と叫ぶ声がする。車両が全く違うのにここまで聞こえて来る声に目尻が緩む。我妻善逸としては彼とはあまり関わりがなかった。炭治郎の用事について行って初めて出会い、それから眠って気がついたら彼は死にかけだったのだ。正直実感がわかなかったし急展開すぎて驚いて、彼が死ぬという事を知ってても本当の人の死に様を見たわけじゃないから、これから死ぬと明確な運命を背負ってる人を見て手足がとても震えて上手く歩けなかったのを覚えている。

 鬼殺隊は人が良く死ぬ職業だ。でも死ね死ぬと言っておきながら、どこかそれを他人事の様に見ていた自分がいたのに……鬼殺隊になって初めての人の死をまざまざと実感させられた衝撃的な記憶。今でも脳裏に焼き付いている。人の死、というのはいつまで経っても忘れられないものだ。

 

「切符拝見いたします」

 

 弱々しい声が耳に届いた。やつれた様な声と音。

 

 ———パチン。

 

 切符を切る音が響き、人が倒れる音がする。

 

「(……始まった)」

 

 まずは最後の一人であろう下弦の討伐だ。

 

 

 

 

 

 

 




タイトルは「ゆめまぼろし」前のは「むげん」だったりする。

立香の今の服装はロイヤルブランド。
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