俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
先頭車両、その屋根の上にいるのは鬼舞辻無惨から下弦の壱の位を貰った鬼。名前は忘れたが、強制的に夢を見せて来る鬼なのは覚えている。起きる手段として普通の人ならやり辛い自殺を用いて来る頭の良い鬼だ。起きなきゃと思っても普通思いつかないし。
さて、あの鬼に見つかるのは面倒だ。既にこの列車自体が鬼になっていようとも目とも言えるのは本来の彼の姿なので、あれに見つかるのを避ける。中でおきてることはわかっても、きっと視認するには何かを媒介にしなくちゃならないはずだし。
スッと目を閉じる。そこかしこから聞こえて来る鬼の音。先頭車両に集まる人間の鼓動。そして血鬼術によって寝ている約二百人の息遣いが、耳の中の鼓膜を擽った。うん、善逸達のいる車両と俺がいる車両は別っぽいな。気配を探っても間違いはない。この車両を前方にいる鬼に協力してる人達が通ることはないだろうし、俺は意識して車両の屋根を通り抜けた。
〝おーおー、グースカ寝てらっしゃる〟
皆が皆、良い夢を見てるのだろうか。それともただ寝ているだけなのだろうか。夢を見せるのは彼の鬼次第なので、俺には知る由もない事だ。
ただ、寝顔だけは皆が皆とても良い。幸せなのだろうな、みんな良い笑顔を浮かべている。たまには苦しげにしている人もいるけど、それは多分幸せな夢が本人にとっては悪夢なだけだ。霊体化を解きながらその人の頭を撫でてやれば、スッと表情が和らいだ。
「先に合流だな。多分、善逸達より一個後ろだと思うけど……」
まだ霊体化は解いてないらしい。迷ってるのだろうか。確かに上弦の参は殺すって決めたけど、下弦の壱に関しては決めてなかったな。
一つ一つ車両を隔てる扉を空けて、前方へと向かう。霊体化すれば良いんだろうけど、そんなの面倒なのでもうしません。下弦の壱にはバレただろうけど、鬼殺隊かどうか決めかねているんだと思う。部下とも呼べる鬼のみたいなものを生み出してきてないし。まぁ襲われたら即斬首♡しちゃうけどな。
……語尾にハートマーク入れると気持ち悪いな。
「ごめん、遅れたー」
そう言いながら車両の扉を開け放つ。寝息がそこかしこから聞こえる中、立っている者達がいる。それは普通のことなのにどこか異常に見えるその光景を目にして、ゆるりと俺は微笑んだ。狐面の所為でニマリという笑い方にも見えるかもしれないが。
俺の声に反応した四人は此方を見てそれぞれ性格が出る反応をくれたけど、皆が一様に遅い! と怒っている。音や態度でそこまで怒ってないのはわかるけど、ちょっと遅れたぐらいで怒らないで欲しい。ムッとした顔が二つと呆れ気味の顔が二つ並んでいた。
「善逸が部隊長みたいなものなんだからしっかりしてくれ」
「ええっ、俺が部隊長なの!?」
「今回の提案者じゃないか」
そりゃまぁ……そうだけどさ? いつのまに部隊長なんて柄じゃないんだけど。いや柱のときにやらされたことあるけどね? でも柱が出る任務って初めから柱を出すとは想定してないのが多いから、駆けつけて鬼を斬って終わりってのが大半だった。だからアレコレ指示を出して指揮をするってのはあまり慣れてない。
でも今回は炭治郎の言う通り、俺が提案者で立案者なのだから、俺がやらなきゃならない。
「(けど、部隊長じゃなくて班長ぐらいにして欲しいかな……)」
まぁ良いけども。
「状況は?」
「この車両より前にて、マスター達が寝ている。鬼の協力者達も先程眠りについた」
「OK。前との違いは?」
「マスターにも協力者がついたこと、かな」
「……藤丸さんだけでも起こそうか」
俺の言葉に炭治郎は頷いて、箱から這い出た禰豆子ちゃんに立香を起こして来るよう頼む。力強く頷いた彼女は、てってけと小さな姿のまま前の車両へと消えていく。
その姿を見届けてから炭治郎達へと振り返った。
「俺達がいることで何が起きるかわからないし、前よりも最善にしたい。だから」
「下弦の壱を俺達で倒すんだな!」
「ここの炭治郎達には悪いけどね」
伊之助の言葉に肯定を返して、前の車両にいる立香の息遣いが変わったのを確認する。起きたのだろう、禰豆子ちゃんに驚く声もした。
「風魔さんは藤丸さんの護衛、炭治郎は下弦の壱を、俺と伊之助はお客さん達を守るぞ」
「オレっちは?」
こくりと頷いた小太郎はすぐさま消えて行った。多分移動したのだろうだろう。霊体化をしたのか高速で移動したのか、どっちかはわからないけど、俺の言葉に従ったんだろう。マスター以外には従わないなんてことはないようだ。カルデアならではの現象だろうな。協力関係とは言え、俺はカルデアのマスターとは別の勢力と言って良いのに。
炭治郎も同じように頷いて、姿を子供の時の姿に変えて屋根に登っていった。多分この時代の炭治郎に成り済ますつもりだ。下弦を通して見ているであろう鬼の首魁からサーヴァントがいると言う情報を隠す為だと思われる。
「はぁ!? 俺も下弦倒しに行くぞ!」
「駄目。後で上弦とも戦うんだからね」
「ハッ! 忘れてた!」
おぉ! 待ってろ! 上弦!! と叫びどっかへ行こうとする伊之助の頭を叩き、大人しくさせる。まだ来ないわ!! と突っ込んでから、今度はまだ佇んでいた金時の方に振り返った。さっきはスルーしていたけど、自分に何かないのか困惑した声と音を出してたのは気づいている。わかってる、お前にも役割はちゃんとあるよ。
「坂田さんは俺からの合図があったら、車両を列車から切り離して欲しい」
「……それだけか?」
「もちろん他にもあるさ。横転しそうになったら、技でも放って衝撃を軽減して欲しい。正直言うと、お客さん達を守る為には坂田さんの得物は大きすぎるんだよ」
「正直だな! オイ!!」
だが、ゴールデン理解した! と大きく頷いた金時は開けっ放しであった扉を屈んで潜ってった。ゴールデン理解とは一体……?
「じゃぁ伊之助、後ろ四両か前四両どっちが良い?」
「前だ!!」
「うん、後ろね」
「なんでだ!?!?」
ふざけんじゃねぇぞ!! ゴラァ!! と怒る伊之助をまぁまぁどぅどぅと宥めると、後で天ぷらな!! と言われた。はいはい作ってあげるよ、衣がサクサクのやつ。そう返したら満足そうに笑った彼は後ろの車両へと駆けていった。全くちょろいやつだなー、と苦笑しながら刀に手を添える。伊之助が車両を隔てる扉を開けっ放しにしていたおかげで移動には苦労しなさそうだ。
腰を低くして息を吐く。バチバチと電気が身体から漏れ出る。魔力だけどね。
「ヴ、ヴぁアア゛ア゛っ」
炭治郎が下弦の壱と相対したのだろうか。車内に次々と鬼(仮)が生み出されていく。異形のその姿は、適当に人を殺す為に生み出された様なもので、歯並びの悪い口を開けては此方を威嚇してきていた。気持ち悪ッ! エイリアンかよ!
———壱ノ型
ま、斬るけどね。
———霹靂一閃・六連!
俺が担当している四車両にいた全ての鬼を斬り、首と胴体を斬り離す。その瞬間ボロボロと朽ちていく身体に目もくれず、また生まれた鬼達を斬っていく。聞こえて来る鬼特有の音がお客さん達の寝息をかき消していくのに顔を顰めながら、落ち着かせる為に息を長く吐いた。
よくよく見てみれば、車両全体が内臓の中の様になり脈動している様に見えた。列車と融合したのだろう。これじゃぁ本当に主の腹の中だな、なんてかつての伊之助の言葉に苦笑いを零し、霹靂一閃を放った。また一つ首が落ちた。
「善逸さん!」
途中で立香に呼び止められる。起き上がった彼は此方を見て焦った様な表情をしていた。必死に炭治郎達を指差しながら此方に訴えてることから、どうすれば良いのかわからないので俺に助けを求めているのだろうな。まだ鬼達が生み出されていないのを確認してから立ち止まった。
「その繋がってる縄を禰豆子ちゃんの血鬼術で燃やして。そしたらその協力者達が目覚めるから」
「そうなの?」
首を傾げる彼に俺は頷いた。
「うん。あっ禰豆子ちゃん、炭治郎達の切符は燃やさないでおいて。それしたら起きちゃうからさ」
「むー?」
「お客さん達は俺と伊之助で守ってるからさ、炭治郎が鬼を斬ったら起こしてあげて」
「むーん!」
俺の言葉を理解した禰豆子ちゃんは任せろーとばかりに自分の胸を叩いて鼻息を吐いた。可愛い。
「じゃぁ藤丸さんを頼んだよ」
そう言って頭を撫でると、にこーっと笑った彼女に微笑み返してその場を離れる。あまり立ち止まっていてはいけない。次々と壁やら床やらから排出されるエイリアン達を霹靂一閃で斬り伏せた。休んでいてはお客さん達が鬼に殺されてしまう。それだけは駄目だ。鬼殺隊として人々を守るのは英霊にサーヴァントになっても変わらないのだから。
「チュン太郎!」
「チュ、チュン!」
また鬼を一体斬り伏せて、チュン太郎を呼び出す。合図の準備を忘れていた。俺自身はできないからチュン太郎に任せるしかない。なぁんで俺からするって言っちゃったんだろうなぁ!
「炭治郎が下弦を倒したらさ、坂田さんに合図してきてくれない?」
「チュ? チュチュン!」
「デザートはお館様へどうぞ!」
「ヂュン! チュンチュ!!」
「はいはい、わかったわかった!! わかりましたからお願いします!!」
「チューン♪」
なぁにが、デザートは善逸が作ったのが良い! だよ。お館様にお金貰ってスイーツ店で買ってくる方がいいだろうに。全く何が気に入ったのやら、ご機嫌なままに窓から飛んでいくチュン太郎にため息を吐く。というか普通に飛んで行ったけど、電車の速度を考えたら慣性の法則によって後ろに流れてっても仕方なかったのに……チュン太郎って何かと強いんだな、なんて。因みに何のことかと言うと、電車内で風船を離すと後ろに下がっていくアレね。
「ウェへへっ」
帰ったらやる事いっぱいだな、なんて漏れ出る笑いを口の端から零しながら、俺は鬼を斬り刻み続ける。
「花札の様な耳飾り! そう、君があの方が言ってた。ふふっ、やっぱり夢心地だなぁ」
僕は運が良い、と宣う下弦の壱に炭治郎は刀を構えることによって答える。素早く抜き去り、水の呼吸 壱ノ型を繰り出すが下弦の壱はなんて事ない様にそれをひらりと避けた。
「(避けた……! まだ同調が完全じゃないんだ……!!)」
己の記憶の中にある下弦の壱に対する情報を必死に引っ張り出して、今の状況と照合する。確か下弦の壱はこの列車自体になり、目の前にあるのはもう要らない身体と捨てていたはずなので避ける必要性もない。
ならば、即座に首を斬るのみ。
———水の呼吸 壱ノ型
「おや? 同じ技かい?」
———水面斬り!
嘲笑うかの様に口角を上げたままの下弦の壱は先ほども見た型をするりと避けた。
「そんな単調な攻撃じゃ当たらないよ。良い夢、見せてあげようか?」
「必要ない!」
———肆ノ型!
「何せ夢は見ないからな!」
「哀しいねぇ」
———打ち潮!!
壱ノ型である水面斬りからの流れる様な剣捌きで違う型に移行する。斬撃を繋げ、障害物を避けて流れる川の様に炭治郎は下弦の壱に攻撃を仕掛けていく。
先程よりも難解な攻撃に流石の彼も避けられないらしい。腕やら胴体やらを斬り付けられて、くすりと笑った。左腕を上げて、その手の甲にある口を炭治郎に向けた。
———血鬼術
その動作に驚いて少しだけ炭治郎は隙を作ってしまう。
「(しまっ……!)」
———強制昏倒催眠の囁き
気味の悪い声がその口から発せられ、炭治郎は眠ったかの様に思えたがそのまま刀を握り締めて少し離れた場所へ移動した下弦の壱へと迫る。
「俺に
サーヴァントにだって血鬼術は効く。けれど下弦の壱の血鬼術は眠らせ、悪夢を見させて精神を崩壊させる技だ。それはサーヴァント相手では相性が悪すぎた。
先程炭治郎が言った様にサーヴァントは夢を見ない。見るのは魔力のパスで繋がっているマスターの記憶のみ。自分の記憶でないのに自分がいる異物感に速攻夢だと見破った。
炭治郎自身の記憶ではなく、繋がっている
「あぁ……」
頸を斬られたのだ。
馬鹿な子だ。
「倒せたと思ったかい? 良い夢でも見てたのかい?」
それはそれはとても良い夢だったろうねぇ。
くすくす、くすくすと下弦の壱は笑う。
「でも残念。この僕はもう僕じゃない。今の僕はこの列車自体さ。中にいる子達は全員、僕の中にいると言っても等しい。さて……? 君に守れるかな?」
乗客全員を。
静かに下弦の壱の話を聞いていた炭治郎は、まだ残っていた彼の頭を一刀両断にするとポツリと呟いた。
「守るさ。守れる。だって俺は貴方と会うのは二度目なんだから」
同調が終わるまで倒せたらなとは思っていたが、別に同調できていてもできてなくても関係なかった。この炭治郎は英霊であり、サーヴァントである竈門炭治郎だ。鬼殺隊に所属している十五歳の竈門炭治郎ではない。
だから、この鬼の殺し方を彼は知っている。
———宝具 限定解除
消えていく下弦の壱の驚きの声は炭治郎には届かなかった。ただ彼は嘲笑う鬼には興味もなく、ある場所へと移動する。それは丁度、蒸気機関車にある運転室の真上。石炭を積む場所より少し前にある部屋に向けて炭治郎は刀を構えた。
下弦の壱はそんな炭治郎に驚愕し、嘘と呟く。
「え、まって、なんで……! そんな! 嘘でしょう!」
———ヒノカミ神楽
だってそこは、列車と同調した己にとって。
———碧羅の天!!!
頸に該当する部分なのだから。
「あ、ぁぁっ」
そうしてズドン! という落雷音と炎が爆ぜる音がして下弦の壱、魘夢の頸は切断された。
「ははっ、悪夢だなぁ……」
この後の上弦に全て持ってかれるんだから、下弦って不憫だよね。