俺を喚んだのは過去の俺 作:鬼柱
5.声
「あ、あ、あぁーあ」
朝起きた善逸が喉を触りながら声を上げて首を傾げていた。その様子に俺は霊体化を解き、彼に近づいた。
「どうしました? しきりに喉をさすったりなんかして」
そう言うと彼は此方を見て、おはようと言ってきた。それに同じく挨拶を返して、彼が起きた後の布団達を畳む。全く中身が同じならばこんなことをしないのに、感謝してほしいものだ。
「んー、なんかね。声が変な気がして」
「変、ですか?」
あーぁーと繰り返される言葉を耳に馴染ませ、記憶の中の声との差を探るがそこまで変には思わない。なら喉に何かあるのかもしれない。しきりにさすっているのもその所為かもしれない。自分じゃわからないなんてことがあるかもしれないし。
「なら、医者にでも見てもらうと良いですよ」
「医者?」
「えぇ、喉に何か異常でもあるのかも知れません」
布団を畳んでから、善逸の着替えを箪笥の引き出しから出してやる。そして袖を通す彼を見ながら寝間着を畳んだ。
着替え終わった善逸はうーんと唸ってから、ふるふると首を横に振った。寝癖がついた髪が朝日に反射する。
「いいや、これぐらい何ともないよ!」
じゃぁ行ってきます! と部屋を出て行った彼を見送り、まぁ善逸がそう言うのなら別に良いかと思考を放棄した。
「お、ぉおおおっ、おオッ!?」
声に違和感を感じてから数日後、善逸は気づいてしまった。両手を前にして自身の喉から発せられる声に身体が震えてしまう。
やばい、やばいやばい! 何がやばいって説明できないくらいヤバイ。
幼き頃から聞き慣れた音が、信頼できる音がこの喉から発せられているのだと考えると、震えて震えて震えまくる。あの物腰柔らかな物言いに、優しさに溢れた音、お面のせいで目元はわからないけど笑っているとわかる口元。さらりと流れる金色の髪。
「(まじか、まじかまじかまじか!!)」
思わず口元を押さえてしまう。だってこの声、あの彼と同じ声だ。この変色してしまった髪色だって、あの彼と同じ色だ。
ならば、ならばならば!!
「ぉおおおおおおおおおっ!」
あの彼みたいにイケメンになれるのでは!?!?!?
善逸は確信していた。あの仮面の下は見たことないけれど、きっとイケメンに違いないと。普段はモテる奴らを妬むが、彼は別だ。何せ幼少の頃から一緒にいる。妬みなど心の中に浮かべることすらない。それに今まで支えてくれた彼を尊敬しているし、慕っている。唯一の家族だとさえ思っているのだし、そんな彼に似た部分が二つに増えてしまったのだから……これは確定だろう!
「いィィイイイイやっったァアアアアア!!!!!!!!」
「五月蝿ぇぞ!!!! クソ雑魚!!!!!」
「いっっったァ!?!?!?!?」
普段絡んでこない獪岳が走って殴ってくるまで善逸は喜び続けた。
………………。
「(そろそろ念話の切り方教えようかな……)」
テンション上がると思考ダダ漏れなの気づいているんだろうか。まぁ良いんだが。
声変わりを終えた善逸の叫び声を聞きながら、俺は畳の上に寝っ転がり窓から見える青空を見上げた。
「というか、イケメンじゃなくてお前と同じ顔なんだけどねー」
何でイケメンだと思ったのだろうか。
随分な理想を抱かれている事に俺は頭を抱えたくなった。
獪岳って修行時代善逸のことなんて呼んでたんだ……?