俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十二節 夢幻の如くなり。3/5

 

 

 

 

 

 ズドン! と音が鳴り、同時に車体が揺れた。左右に揺れるこれは、レールに沿って走るはずの列車にはあり得ない運動。それに雨も降ってないのに落雷音が響いたということは、蒸気機関車と乗客用列車を坂田金時が切り離したということだろう。そして炭治郎が下弦の頸を斬ったということにもなる。

 けど。

 

「まずいっ非常にまずい!」

 

 決して味の良し悪しとかではない。この状況が拙かった。

 すぐさま車両の窓を開け放ち、鉄棒の逆さ上がりの要領で列車の屋根へと飛び移る。足下が揺れてぐらついたが、即座に体勢を整えて先頭車両に向かって走った。見えて来るのは焦った様な表情をした炭治郎。その先にあるのはレールを外れて倒れ込もうとしているSLさんがいた。あぁもう! 馬鹿なの!? 馬鹿なのかな!? 俺って!!! この状況を見通せなかったなんて!!

 

「たぁあああん治郎ぉおおおッ!!!!!! レールの外に出せぇえええ!!!!」

 

 風を切る音に負けない様に叫ぶ。何をとは言わない。蒸気機関の部分だと彼もわかっているはずだ。突然聞こえた俺の言葉に炭治郎は驚いてから真剣な顔へと変わり、くるりと反転した。それを見た俺はニマリと笑い、倒れそうになる列車の脇へと雷を落とす。至近距離ではなく衝撃がくる最低限の場所へと落とした。その衝撃で列車がレールの上に戻る。うん、予想通りだ。

 倒れそうになっている車両全てがレールの上に戻った後に、一際大きな音を立てて前を走っていた蒸気機関がレール外へと倒れていく。炭治郎は無事にやり遂げてくれたらしい。列車の屋根の上に戻った彼が得意げな顔でブイサインをしてきた。姿が子供だからって精神年齢まで戻ってませんかね、それ。

 切断された蒸気機関車がレール外に出されたことによって乗客室用の列車は緩やかに停止していく。まだ一応引っ張られていた時の力はある為に数十メートル以上は突き進んでいるが、やがて止まるだろう。はぁと息を吐いて辺りを見渡す。一応森の中というか、開けた場所に出たらしい。ものすごーく見覚えのある場所だ。抑止力さんは働き者だなぁなんて現実逃避する。

 感覚を澄ます。列車の中にいる彼らは今起きた様で立香と色々話している。耳に聞こえて来るクソデカボイスは別に意識しなくても内容がわかってしまう。いや本当に声がでかいな。

 

「飯逸!!」

「はんいつ!?」

 

 また新しいのがきたな! とツッコミをしながら振り向けば、大人な伊之助が列車の屋根を伝って此方に走り寄って来ていた。

 

「どうなってやがる! 前よりも早かったはずだろ!」

 

 どうやら伊之助も気づいていたらしい。

 前回、つまり生前に下弦の壱と相対した時よりも討伐時間が短くなっているのに、止まった場所が前回と同じなことに。

 

「修正力が強いんだと思う。それか同じ様に見えて別の場所……だと思いたいけど無理かなコレ」

「感じる! 感じんぞ! 上弦だ!!」

 

 傍目に炭治郎が列車から飛び出し、続けて伊之助も両手に刀を持って笑いながら飛び出していく。まだ登場すらしてないのに行動が早いそれに苦笑しながら、ひょこっと列車の影から顔を出したゴールデンを見つける。

 

「坂田さんは、この時代の炭治郎達と煉獄さんを止めといてくれないか。ここは確実に頸を刎ねたいんだ。特に炭治郎だけは止めといて欲しい」

 

 クッソややこしくなるからな。

 

「オウ! 頑張ってこいよ!」

「おぅ」

 

 元気なエールを貰って俺も飛び出す。トントンと足場の悪い場所を避けて舞う様に降り立てば、既に彼らは抜刀して構えていた。習う様に俺も刀に手を添える。

 ビリっと来る気配に、ゴゥ! と火が燃える様な音に佇まいを直したところで、それは来た。来てしまった。

 

 ————ドォオオン!!

 

 まるで隕石の様に俺達の前にそれは着地する。普通の人間ならばバラバラのぐちゃぐちゃになっていただろう衝撃をその身に受けておきながら平然と立とうとしている、そのピンク頭にまず炭治郎が斬りつけた。防がれる。そして離れた時に伊之助が二つの刃で斬り付け、最後に俺が霹靂一閃をする。当然、頸を狙ったけど避けられ腕を刎ねる。けどそれを掴んだ相手は切断された部位へとくっ付けた。Oh……再生能力高スギィ。

 これ以上攻撃しても無意味そうなので、一旦戦線離脱する。と言っても数十メートル後退するだけだが。

 

「炭治郎、コレどうやって倒すんだ?」

 

 正直、腕を刹那のうちに治した相手に勝てる気がしないんだが。これを討ち倒した炭治郎って一体……? と宇宙猫になりそうな気分だ。単純に強力な再生能力ほど厄介なものはない。

 小声で隣にいる炭治郎にそう聞けば、彼はわからん! と答えた。良い返事、内容は良くないけど。

 

「生前も頸を斬ったけど、それでも生きてた」

「は? エッ、はっ???」

 

 えっ、今不穏な言葉が聞こえたんですけど?? なんて? 頸を?? 斬っても?? 生きてた???

 ………………はい?

 

「倒しようが無くね?」

「あの時倒せたというより彼自身が自害したみたいなものだからな……多分、日の光を浴びさせるしか方法はないと思う」

 

 ふざけんな??

 誰だよ上弦の参殺すって宣言したやつ!! 俺だよ!!! 馬鹿か!? 阿保か!? そうだ! そうだよ!! 何故か上弦の上位陣(弐番目除く)は頸斬られても死なないんだった!! なんで覚えてないのさ!? 今思い出してもしょうがないじゃん!!!!

 刀を持つ手が震える。カタカタと勢い良くなり始めたそれに伊之助がうるせぇぞ!! と叫んできた。ごめんね!? でも恐怖で体が震えて仕方ないんですよ!!!

 

「強者の闘気を感じて来てみれば、早速とばかりに腕を飛ばしてくれるとは、ははっ」

 

 笑ってやがる。

 上弦の参が着地した瞬間に起きた砂埃が晴れて、彼の姿が完全に見えてくる。一度見たら忘れられないであろうその姿にゴクリと生唾を呑んでしまう。いやなんでサーヴァントよりもサーヴァントっぽいのあの人、いや鬼。宝具! とか叫んで何か仕掛けて来ても違和感ないわ。そもそもサーヴァントの一撃に反応してる時点でやっぱ人間じゃないな。鬼だけど。

 

「そこのお前」

 

 ピッと指差される。独特な刺青が入ったその腕を上げた上弦の参は好戦的な笑みを浮かべて此方を見ていた。わぁ、目がバッチリ合っちゃってるぅ。

 

「俺、ですか?」

「そうお前だ。名前はなんという?」

「聖刃ですけど」

 

 さらりと偽名、もといこの姿での名前を言うと炭治郎と伊之助は信じられないものを見る様な顔でこっちを見ていた。

 なんでそんな表情なの? 普通に名前を名乗ると思ったの?? ここには善逸達がいるんだぞ? 名前聞かれて、はいそうですって答えたあいつらがこいつに襲われたらどうすんだよ!?

 そうジェスチャーで返すと、こてりと首を傾げられた。いや、わかれよ!!! 何年の付き合いなんだよ!! 俺たち!!! 親友のジェスチャーぐらいわかれ!

 

「そうか! 聖刃! 俺は猗窩座と言う。先程の頸を狙った一閃は素晴らしいものだった! お前は強者だ。俺が相手するに値する! 存分に殺り合おう!」

 

 にぱーっと眩しい限りの笑顔を浮かべた上弦の参、もとい猗窩座は下半身を落とし構えを取る。武闘家らしくピンと張られた指先が此方に向いていた。

 それでも血鬼術を使わないところを見ると手加減をするつもりらしい。見下されている。笑顔で構えを取るところもそうだけど、初めから呼び捨てとかほんとパーソナルスペース壊れてんじゃないのか。

 

「断る。俺はお前の頸を刎ねるつもりなんでな」

 

 いつの間にか震えが止まっていた。それは怒りからか呆れからか。鬼って本当に自分勝手、自分本意だよな。そうじゃなきゃ生き残れてないんだろうけどさ、長く生き過ぎて人の感情読み取れなくなっちゃったのでは?

 

「それで良い。人間と鬼では越えられない壁があるからな」

 

 どうして俺が猗窩座に気に入られているのかはわからない。でもだからと言って俺はここで死ぬつもりはない。

 いくらでも嘗めていてくれて良い。その方が都合が良いからな。けど嘗め過ぎて死んでいたなんてことになっても後悔するなよ。猗窩座殿?

 

「そうかよ」

 

 ———霹靂一閃・神速

 

 笑顔だったあいつの頸を刎ねる。あぁ綺麗に斬りすぎて首がそのままくっ付いてしまった。反省。じゃぁ次は斬ってから蹴飛ばそう。そうしよう。

 

 ———霹靂一閃・神速 六連!!

 

 一撃目は流石に防がれた。でも二撃目、三撃目は防ぐ両腕を斬り、四撃目、五撃目は両脚を斜め斬りにし防ぐ手段を無くしてから六撃目にてその頸を斬り、その場で回転。くるりと回ってその頭を上空へと蹴り上げた。驚愕に染まったその顔にベーっと舌を出して馬鹿にしてから、炭治郎! 伊之助!! と叫んだ。

 

「刻めッ!!!」

「ッあぁ!!」

「おう!!!」

 

 何故か呆けていた彼らは俺の言葉にやっと動き出す。炭治郎は頭を、伊之助は俺が斬った両腕と両脚を粉々へと斬り刻んだ。俺も同じように残った胴体を斬り刻んでから、バックステップを踏む。跳ぶ様に大きく三歩ぐらい退がれば、隣にカルデアのマスターが現れた。列車から降りて来たらしい。

 

「状況は!?」

「上弦の参来襲。今三人で斬り刻んだところ」

「それであのグロ画像ね!!」

 

 これはCEROZかな!? と現実逃避する様に叫んだ立香にジト目を送る。目が泳いでいるところから、あまり耐性はないのか。いや、ある方か。普通なら人型のものが斬り刻まれたのなんて、吐きかねない代物だ。ネット上に流れたら炎上待ったなし。

 

「禰豆子ちゃん、あの再生しようとしている肉塊燃やして来てくれる? 焼き加減はベリー・ヴェルダンで」

「むーん!」

 

 任せろー! と言う様に己の胸を叩いた禰豆子ちゃんはとっとこハム太郎と上弦の参へと近づいていった。

 

「焼いてどうするのさ」

「禰豆子ちゃんの炎は鬼の能力を封じる作用があるんだ。血鬼術を飛ばしたり、解除したり。鬼自体を焼けば、その回復力を奪う」

 

 つまり再生速度が遅くなる。

 

「炭治郎があの鬼は頸を斬っても死なないって言うしさ、朝まで時間があるからそうやって耐えるしかない」

「禰豆子ちゃんの炎って血液が媒介だよね。いくらサーヴァントと言えど……」

「わかってる。その時になったら俺が斬り刻み続けるよ」

 

 でも、そう簡単にいかないのが上弦ということだろう。立香の言葉に返事した後、俺は嫌な予感がして脚を動かした。肉塊の近くにいた小さな禰豆子ちゃんを抱きしめて、その場から瞬時に離れる。途端に広がる砂埃。目を細めて見つめてみれば、再生した腕が禰豆子ちゃんがいた場所を鷲掴みにしていた。

 ゾッとする。あのままあの場所にいれば、禰豆子ちゃんの霊基は確実に破壊されていた。いや炭治郎と禰豆子ちゃんで一つのサーヴァントだから、また復活! とかあるのかもしれないけどそれはそれ。目の前で彼女がやられるなんてものは見たくも想像したくもない。

 

「むー?」

「わわっ、ごめんね。急に抱えちゃって」

 

 痛くなかった? と問うとふるふると首を振る彼女。良い子過ぎて涙出そう。これ予想外過ぎる上弦の回復力も涙の理由に入ってるけど。

 腕から胴体と再生をし始めている猗窩座を尻目に、立香の近くに禰豆子ちゃんをちょこんと置く。お願いと頭を撫でると彼女はにこっと笑った。可愛い、頑張れる可愛いさ。

 それから禰豆子ちゃんと立香を守る様に彼らの目の前に立ち、刀に手を添える。いつでも霹靂一閃を放てる様にシィイイと息を吐く。

 

「善壱!」

「今のは惜しい! で、何?」

「あいつ駄目だ! 斬っても斬っても再生しやがる!」

「いやそういうもんでしょ、上弦て」

「そうだな。でもそれでも倒さなきゃいけない」

「炭治郎……」

 

 駆け寄って来て文句を言い始めた伊之助とは反対側に、いつの間にか炭治郎が立っていた。禰豆子ちゃんに立香のことを任せると微笑んでから、息を吐いて同じ様に刀に手を添えた。伊之助はいつもの様に二振りの刀を目の前でうごうごしてる猗窩座に向けて、好戦的な音をさせている。

 

「マスター、あの鬼は朝日が昇ると森へと逃げるはずだから捕まえる手筈整えといてくれるか?」

「良いよ。小太郎」

「はっ、ここに」

「今の聞いてたよね? お願いできる?」

「容易いことです。暫しお待ちを」

 

 そう言って小太郎は消えていった。流石有能忍。どこかの忍らしくない派手柱とは違うなぁ。いやあの人の実力あんま知らないけどさ。

 ただ、上弦の鬼を罠で捕まえれるのかって問われたら首を傾げざるを得ないが……ないよりはマシだろう。種は撒けるうちに撒いといた方が良いってことだろう。炭治郎も成長したよな。いやするか、英霊になるぐらいだし。俺の中の炭治郎が十五で止まってる件について。仕方ないね、座でいた時はずっと子供の時の姿でずっといたから。

 

「はっ、はは。酷いじゃないか、斬り刻むなんて……」

 

 既に全てが再生した猗窩座がそう言葉を発した瞬間に俺達の警戒度は数段上げられた。炭治郎は刀を抜き、伊之助はいつでも飛び出せる様に体勢を低くした。

 ゆらりと立ち上がった猗窩座は笑いながら此方を見る。その表情は初めの純粋な笑顔とは違う憂いを帯びた表情だ。聞こえてくる音もそんな音。鬼の音の方が大きくてわかりづらいけどさ。

 

「残念だ……残念だよ、聖刃」

 

 だからなんで俺だけなの。

 

「強者なのに、正々堂々と闘わないなんて…………本当に残念だ!!」

 

 ———術式展開 破壊式・羅針!

 

 ビリビリと猗窩座が纏う空気が変わった。彼流に言うならば闘気の質が変わったと言うのだろうけど、どちらにせよ嘗めプをやめたらしい。特徴的なピンクの髪と白い肌に隠れて青筋を浮かべて怒った音をさせた猗窩座は、決起術を展開させた。彼の足元に雪の結晶の様な模様が広がる。

 

「しかし強者なのには変わりない。鬼にならないか! 聖刃!」

 

 だからなんで俺だけ誘うのさ。

 まぁそれはともかく、それは勿論。

 

「お断りだ」

 

 そもそもサーヴァントなんで鬼になれませんて。

 俺の返答を聞いた猗窩座は困り顔をして、そうかと呟いた。ならば、と猗窩座の姿が掻き消える。

 

「鬼にならないなら、殺すまで」

 

 いつの間にか目の前にいた猗窩座の拳が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「猗窩座殿〜、黒死牟殿の話聞いたかい?」
「黙れ殺すぞ」
「そう言いながら頭飛ばさないでおくれよ〜。で、黒死牟殿の事なんだけど、この間一人の柱逃したんだって。珍しいよね、黒死牟殿に限って。美味そうじゃなかったのかな?」
「…………」
「でねその柱、珍しい髪色をしていたんだそうだ。金色で長髪だって。女の子かな? きっと女の子だよね! 強くて女の子なら食べたらとっても強くなれそうだ。そうは思わないかい? 猗窩座殿?」
「殺すぞ黙れ」
「わーい、今度は身体全部飛んだぞ〜」
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