俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十三節 月が欠けた代償。2/4

 

 

 

 

 

「善逸さんが倒れたあと、本当に大変だったんだから〜」

 

 上弦の参との戦いを経て蝶屋敷で目覚めた俺は藤丸立香率いるカルデア一行が借りている部屋へと訪れていた。その場所にはマスターである立香しかおらず、常に側にいる筈のサーヴァント達はどこにも見当たらないので立香に聞くと、彼曰く何処かへお出かけ中らしい。一応風魔小太郎だけがこの蝶屋敷を監視するかの様に屋根の上を陣取ってるらしいが。

 そんなわけで立香に寝ている間のことを確認しようと話始めた途端にこれだ。困り顔で言う彼からは疲れた音が聞こえる。いや音聞かなくてもわかりやすい表情をしていた。いやほんと、ご迷惑をおかけしました。言い訳させてもらえるなら、霊核に罅が行くとは思ってなかった事だ。俺の宝具危険すぎないか?

 

「善逸も善逸さんの側を離れようとしないしさ、金時に運ばせようとしたら何故か善逸が運ぶし……ずっと善逸さんのこと呼びかけてて、泣いてた」

 

 愛されてるね? と彼は微笑んだ。慈愛に満ちた視線を受けてポリポリと頬を指先で掻いた。まっすぐ彼を見れない。

 

「……心配性なだけです」

 

 苦しい言い訳だろうか。何を今更とか言われるかもしれない。

 照れてるのがバレバレなのかにまーっという顔をした立香が此方を見ていた。腹立つ顔である。こめかみに青筋が浮かんだ気がするが、それを無視して彼の両頬を引っ張る。みょーんとあり得ないぐらいに頬が伸びた。ゴム人間かな?

 ひふぁい、と抗議されたので手を離す。ゴム人間の様にパチン! と勢い良く元に戻る事もなくゆるゆると戻ったそれを彼は両手で摩った。よく見ると赤くなってる。少し申し訳なくなって視線をまた逸らす。

 

「そうかなぁ……善逸の気持ち、俺だってわかるし」

 

 羽織の下で腕を組みながらちらりも目だけで立香を見る。彼は悲しい音を奏でながら、へへと笑った。

 

「まだマスターになりたての頃、俺一回指示を出すのミスしちゃって……注意散漫になったところを助けられたんだ」

 

 自分の指示ミスが原因でサーヴァントが傷ついたのに動揺した彼は、敵勢力の接近を許してしまった。マスターに敵の刃があと一歩で届くというところで近くにいたサーヴァントに庇われたそうだ。

 

「血が飛び散ったんだ。ほんと漫画のワンシーンでも見てるかの様に頬に……でも現実で、良かったって俺を見て微笑んで消えていくのをお礼も言えずに見届けるしかなかった」

 

 息が上手くできなくて、涙が溢れて、吐きそうになって。他のサーヴァント達に叱責されてなければ立ち上がる事すらできないんじゃないかってぐらいに衝撃的だったらしい。

 

「まぁ座に還ったんじゃなくてカルデアに帰還するって聞いた時は安心したけどね! 今じゃもうミスはほとんどないし! 俺にとってはちょっとした思い出みたいなもんだけど」

 

 でも貴方はそうじゃないだろ? と言われた。なんと答えたら良いかわからなくて黙り込む俺に対し彼は苦笑いを浮かべて、別に無理に答えなくても良いよと言ってくれる。その言葉に甘えて俺は口を開くことはなかった。

 確かにカルデアの英霊達はカルデアのデータバンクに霊基を登録されていて、例えレイシフト先でやられたとしてもカルデア内で復活することができる。当然もう一度レイシフトとかはできはしないが、でも消えることはない。しかし今の俺はカルデアのサーヴァントとは違う。一度やられてしまえば復活することはない。え? ガッツ?? 持ってるわけないでしょ。

 

「俺には色んなサーヴァントがいるけど、善逸には貴方だけだ。それに同一人物なんでしょ? 俺だって俺がボロボロになったら驚くし悲しいよ?」

 

 ここへ来た時に出されたお茶を啜る。くるりと無意味に湯呑みを回して、そうかな? と呟いた。そうだよ。

 

「もう少し自分を大切にしなきゃ、マスターの意向をちゃんと聞いて行動しよう。マスターの俺が言うのもなんだけどね」

 

 まぁ勝手に動かれる方が怖いよね。想定してたことと違う事が起きたら、例えそれが最善だとしてもマスターにとっては怖いことだろう。でも……俺はそれでも俺にとって最善を選ぶと思う。

 

「さて、他人の主従に関して口を出したいわけじゃないから話はここまでにして」

 

 喉を潤す為か、お茶を飲んだ彼はふぅと息を吐く。一つ善逸さんに聞きたいことがあるんだよね、と言った彼はことりと何故かあるちゃぶ台に湯呑みを置いた。

 

「呼吸について詳しく教えてほしい」

「え……?」

 

 え? ……今更?

 

「炭治郎に聞いてるんじゃ?」

「聞いたよ、でも概要だけね」

 

 彼曰く鬼について、鬼殺隊についてを聞き最後に呼吸について聞いたらしいのだが鬼を倒す為の技術とかしか聞いてないとか。呼吸の習得方法とか、水とか雷とか何かと問うても擬音しか返ってこなかったらしい。いやなんでだよ。

 

「習得方法はそだな……ひたすら鍛えて、肺を大きくして酸素を身体中に送るイメージを作るって事かな。概念的過ぎて俺だって最初説明受けた時、師範に何言ってんだこいつ? て思ってしまったんで」

 

 今思えば失礼な奴ではあるけど、街育ちだった俺にとって突然鬼とか呼吸とか説明されても意味がわからなかった。でも借金を肩代わりしてもらったこともあるし、心地良い場所を手放したくなかったから頑張ったけど。そりゃもうめちゃくちゃ頑張って辛くて、逃げ出したかったけど。毎回の如くじぃちゃんに捕まった思い出。あれ本当に片脚義足の老人??

 

「慣れてないととてもしんどいんだ、呼吸って。最初の頃は技を出す時にしか使わなかったけど、階級が上の人間てそれを四六時中やるからな。常中って言うんだけど」

「あぁ……ここの炭治郎達がやってたやつね。瓢箪破ればOKっての」

「そうそれ。瓢箪がわりと勿体ない奴」

「瓢箪職人の腕がなるね」

 

 まさか瓢箪を作ってる人も呼吸の修行の為に使われてるとは思ってないだろう。蝶屋敷に住んでるのは瓢箪が好きな変わった人達とか思われてるかも知れない。儲けてるだろうなぁ。人の大きさ程もある瓢箪なんて値段がだいぶするから、給料の良い鬼殺隊でなければ、そんなホイホイ買えないだろうな。そもそもそんなサイズの瓢箪を求める人が少ないというかいないんじゃないだろうか。

 部屋に何故か備え付けてあった紙と筆をちゃぶ台の上に置く。墨汁に筆を付けて、さらりと文字を書いていく。中心には全集中の呼吸と書き、その周りに五個の文字を円状にして書き足した。それぞれを丸い線で繋ぐ。

 

「通称、全集中の呼吸は戦国時代の鬼殺隊の中で編み出された呼吸法なんだ」

 

 円の上に日の呼吸と書き足す。勿論全て左から読むタイプだ。この時代じゃ横文字は全て右から読むが、それじゃ俺と彼が読み難いので却下だ。

 

「日の呼吸、それが始まりの剣士達が編み出した始まりの呼吸。しかしそれを使えるのはごく少数だったんだろうな、次第に派生していって今の呼吸が生まれた」

 

 それが五大流派である、炎、水、雷、風、岩である。RPGの属性みたいだって言う立香に心の中でそれなと返しておく。どう考えても属性。ここに闇と光があれば完璧、とまではいかないだろうけどそれっぽくはなる。日の呼吸と月の呼吸が光と闇っぽいなとか思っちゃいけないいけない。

 

「全集中の呼吸とは身体中に酸素を行き渡らせて爆速的な身体能力の向上を図ると共に、それぞれ受け継がれてきた流派の剣術の型を扱える事で初めて全集中の呼吸と呼べる、らしいけど……まぁ鬼の首を斬るのには生半可な技術じゃ不可能なので当たり前かもしれない」

 

 そもそも刀を扱うのにも技術がいる。叩きつける様に力を入れて敵を斬る西洋の剣とは違い、刀は力を入れず自身に向かって引くように斬るのが特徴だ。刀が滑る方角へと全体重を寸分の狂いなく乗せる事により斬る事ができる。素人が刀を持ったって傷を付ける事ができても、斬ることはできないだろう。多分な!

 因みに、と続ける。先程書いた五大流派から派生した俺が知ってる限りの呼吸も付け足した。

 

「花、蛇は水の呼吸、恋は炎、霞や獣は風、音は雷の派生、蟲は花より派生させたものらしいとか。こうして五大流派からさらに派生させたものがあり、身体に合わなかったりするとまた新たに生み出したりする人もいるとか。その数は数知れず、俺が知る限りでこれだけなのでもっとあるかも」

「習うだけじゃなくて自分だけのを作ったりできるのか……厨二心が擽られるなぁ」

「それな」

 

 その代わり習得が難しいし、鬼に通用するかはわからないのだ。自分だけの呼吸を作りたいと思っても、習った呼吸が自分の身体にピッタリ合ってたら生み出す必要ないしな。

 

「ハイ、先生!」

「何ですか、藤丸立香君」

「先生達が使ってる呼吸を詳しく教えてください!」

 

 綺麗な正座をしてピッ! とこれまた綺麗に挙手した立香がそんな事を言ってきた。先生達、と言われたからには多分炭治郎と伊之助のことも指してるんだろうな。何と答えたもんか、と少し思案してからまず自分が使ってる呼吸について話す。炭治郎と伊之助に比べたら、五大流派の一つだし面白味もなさそうだからな。

 

「俺が使ってるのは雷の呼吸。その名の通り雷のように素早く敵を斬る事に特化してる。素早さで言ったら随一で、全てで陸ノ型まであるんだけど俺は壱ノ型しか使えない」

 

 獪岳は俺の反対に壱ノ型ができないんだけど、と続けたらあぁあの人と納得されてしまった。会ったことあるのだろうか? 首を傾げると彼は俺の様子に気づいたのか、俺の兄弟子かどうか確認してきた。間違いではない、こくりと頷く。

 

「沖田さんのマスターになってたからね、善逸さんが寝てる間に挨拶したんだ」

「なるほど……それで。失礼しなかった?」

「いーや? 態度とは裏腹に優しさが見えたから別に。あっ見た目とか言ってる? 大丈夫、あれは推せる」

 

 あっ推せちゃうの。

 

「見たところツンデレ……いやツンギレ気味かな。素直じゃないと見た。全部が裏目に出るパターンの人間だよ。きっとそれで苦労してきたんじゃないかな……うん、好きだなぁ」

「その言葉本人には?」

「言ったよ! 速攻逃げられたけど! “俺のことあいつから聞いてねぇのか? あいつ曰くクズだとよ”なんて言われたけど俺史上最高のクズで相棒な奴知ってるから、“本当にクズなら初対面でそんなこと言わないでしょ、少なくとも俺は君のこと好きだけどな? 今会っただけだけど”って言ったら気持ち悪いもの見る顔で舌打ちされてどっか行った」

 

 お、おう……獪岳らしい。多分初対面で好きだと言われて本当に気持ち悪かったと思われる。あいつは人の好意をちゃんと受け取らない奴だから、きっと立香みたいな奴は苦手なタイプじゃなかろうか。知り合いのサーヴァントと契約した以上関わり合いは避けられないぞ、獪岳。がんばがんば(棒)

 

「仲良くしてあげて。あぁ見えても寂しがり屋なんで、どんな形でも良いから構ってあげてくれ」

「……獪岳とはどんな関係?」

「同じ師範の下で呼吸を学んだ関係、つまり兄弟弟子だ。俺より先に学んでいたから獪岳が兄で、俺が弟。まぁここの獪岳は善逸の兄貴だけども」

「兄貴?」

「……兄弟子だから兄貴。俺達って元孤児だったから家族がいなかったんだよ。で、憧れは一丁前にあったから勝手にそう呼んでる。多分獪岳自身にそう言ったら殴られると思うけど」

 

 えぇー……と引いた立香の反応にまぁそうだよなぁと納得する。嫌だからって言葉に出すより先に殴るのは普通ではないからだ。

 言葉より態度に出るのが獪岳だ。炭治郎と同じタイプだけど、炭治郎は感情が表情に出やすい素直なタイプなだけで、獪岳はすぐ手を出して殴ったり蹴ったりするタイプ。それに決してこれが俺達に対してだけと言うわけではない、誰にでも対してだ。流石に目上の人物とかそういうのは弁えてるけど、自分と同等もしくは下相手には容赦ない。

 というか師範のじぃちゃんも何かある度に拳とか脚が出るし、兄弟子である獪岳も目を合わすと殴ってくる。そんな下で育ったからか比較的大人しいはずの善逸も感情が昂ると手足が普通に出る。暴力家族かな。

 え? 俺? 俺はほら〜、ね? そんなことないって言いたいけどね。意識しないところで出てるかも知れない。イキリ陰キャかな?

 

「獪岳のことどう思ってるの?」

「どう……って?」

「好きかどうか」

「嫌いです」

「即答……」

 

 家族だと思ってるんじゃないの? と聞かれたけど、それとこれとは別問題ですと返しておく。家族だからって全員が無差別なく好きなんてあり得ない。血が繋がってるからこそ反りが合うこともあるかも知れないが、血が繋がっていたとしても合わない場合もある。本当の家族でこれだ。ならこっちで勝手に思ってる擬似家族で全員仲良くなんてできないだろう。そもそも獪岳がそんな性格じゃないんだよな。

 

「まぁここの獪岳は俺の獪岳じゃないから、別に仲良くするのに抵抗はないよ。嫌いだけどね、怒りよりも懐かしさが勝る」

「俺の獪岳っていうパワーワード」

 

 俺の兄貴の獪岳じゃないって意味だからね? わかってる? と返すと苦笑いしながらわかってるわかってる、と何度も頷く立香に微妙な顔になってしまう。本当にわかってるんだろうか、このカルデアのマスターは。まぁ良いけど。

 というかこんな話はどうでも良いんだよ。今は呼吸の話だ。何で獪岳の話になってんのさ。

 慌てて軌道修正して呼吸の話へと戻す。俺が使ってる呼吸の次は伊之助だ。獣の呼吸と書いて、けだもののこきゅうと呼ぶ一番呼びにくい伊之助が一から作り出した呼吸である。触覚に優れ身体の柔らかい伊之助ならではの技があったりするので彼以外には扱い辛い。

 そして、炭治郎は言わずもがな水の呼吸だ。

 

「炭治郎の呼吸は水の呼吸だけど、これは育手の人に学んだ呼吸だからってだけで彼の身体には合ってなかったらしい。大人になってから使ってたのは専らヒノカミ神楽が多かった」

「ヒノカミ神楽も呼吸なんだ」

「あぁうん。炭治郎の家に代々伝わってきた神楽なんだけど…………」

 

 ……この声。

 

「? 善逸さん?」

 

 話を途中で止めたのが気になったのか名前を呼んでくるカルデアのマスターに、一言断ってから立ち上がる。筆を置き、墨汁の入った入れ物の蓋をきちんと閉めてから部屋の外へと繰り出した。途端に大きく聞こえる声にやっぱりか、とげんなりする。

 気配と音を探るけれど、未だこの時代の炭治郎達はいない。他にいる隊士は傷病者のみで、あとはカナヲちゃんだけだ。あの子は自分じゃあまり判断できないし相手が悪すぎるから、あれを止められるのは必然的に俺しかいなくなる。あぁなんでしのぶさんもいないのかなぁ……いや柱だもんな、忙しいもんな、すみませんね! 暇人なサーヴァントで!

 

「ごめん、藤丸さん。話はまた今度で」

「えっ、あっ善逸さん!?」

 

 静止の声を振り切って廊下を走る。なるべく音を立てずに脚を動かして玄関へとたどり着いた。草履を出現させながら開けっ放しになっている玄関口を潜り、門へと向かう。

 

「やめてくださーい!」

「かえしてー!」

「離してくださーい!」

 

 そうして視界に飛び込んできた光景に懐かしさを覚えるけど、今は感傷に浸ってる場合ではない。身体強化の魔術をかけて、呼吸は使わずに彼が知覚できない程のスピードを持って抱えられていたアオイちゃんを取り戻す。

 ザッと小さな砂埃が起きたと同時に腕の中にあるものがなくなったのに気づいた彼が此方を向いた。

 

「女の子を泣かせようなんて良い度胸じゃねぇーですか……なぁ゛!? 派手柱ァ!」

「音柱だっつーの! ……あん? 誰だテメェ」

 

 なんで炭治郎達がいない時に来るんですかねぇ! この忍柱は!!

 そう心の中で悪態を吐きながら、こちらを怪訝そうに見る男、鬼殺隊最高幹部の一人音柱である宇髄天元を睨みつけた。

 

「(大人しく帰ってくんねぇかなぁ)」

 

 まぁ、十中八九無理だろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 




四千文字書いたところで一回データ消しとんだから、ガチで発狂しそうになりました本年度二話目でした。
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