俺を喚んだのは過去の俺   作:鬼柱

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第十三節 月が欠けた代償。3/4

 

 

 

 

「誰だテメェって約三ヶ月前に会った相手を忘れますかね! 普通!!」

「興味なかったら忘れるだろ! 普通!! ってかテメェ、柱合会議ん時にいた派手に喚いてた野郎じゃねぇか。なんだよ、こんなとこにいたのか」

「やっと思い出したのかよ!! 記憶力の良さが顔の方にいってんじゃねぇですかねぇ!」

「派手に殺されてぇのか! テメェ!!」

 

 背中に背負っている一対の包丁のような刀に手を添えてじりじりとにじり寄って来る音柱から後退りながら睨みつける。アオイちゃんを抱えてるから刀は抜けないが、脚の速さは例え元忍びである音柱にも劣らないと生前では一応自負してたし、サーヴァントである今じゃ勝てるはずだ。彼の間合いに入らないよう心がけながら、アオイちゃんを抱え直す。

 

「(こいつ、俺の間合いを派手に理解してやがる。地味に厄介だな……)」

 

 なんか音柱から不満の音が聞こえる。俺が間合い理解してるのが不本意なのだろうか。そりゃ今の彼は知らないが、将来散々善逸()に対して稽古して来るし、真剣ありき呼吸ありきでの手合わせとか何回もした。理解しなきゃ死んでるのはこっちだったんだから、文句を言うなら未来のお前に言ってくれって感じ。まぁこの世界のと俺の世界のじゃちょっと別人かも知れないけど……同じ未来を辿るとは限らないからな! そもそも相手が俺じゃないので。

 

「で、何で誘拐犯染みた事をしてやがるんですか。いくら柱だからって下の者を事情を説明せずに連れて行くのはパワハラに当たりますよ」

「は? 何言ってんだ。俺は柱だぞ? なら下の階級の奴を任務に連れてくのになんの問題がある? 任務の際の部下を選ぶ権利は柱にも一任されている。そこの女は鬼殺隊だ、なら柱である俺様に従うのが道理だろ?」

「は?? 頭湧いてんですか? パワハラだっつってんだよ、パ・ワ・ハ・ラ! パワーハラスメント!! 柱だからって何でもかんでも要望が通ると思うなよ! そもそもここは蝶屋敷だ! アオイちゃんを連れてくならしのぶさんに断りを入れてからにしろ! どうせそんな事もしてないんだろうな!!」

「当たり前だろう! 神である俺の言うことは絶対だ、胡蝶の許可なんて要らねぇよ。そもそも継子でもないんだしな、連れてってもあいつは文句言いまい。というか、ぱわはらって何だよ」

「“社会的地位の高い人が低い人に、自らの権力と地位を利用した嫌がらせ”の事だよ。まぁ今回のは嫌がらせっていうか、ただのブラック会社みたいな感じだけど」

 

 言い合いしていた俺達よりも少し離れた場所で普通に話しかけるような声音が聞こえた。思わずそちらを見ると、門の敷居を跨ぎこちらに向かって来る立香の姿があった。いつの間にこっちに来たのだろうか。

 

「藤丸さん」

「ちょっと心配になって来ちゃった。どういう状況? コレ」

「他の部署の人間が上司の許可無しに部下を連れてこうとしてる」

「安定断罪決定。首を出せぃ」

 

 アズラっちゃぉ! と微笑みながら言う立香に寒気が走った。怖い恐い……ニコニコしながらサーヴァント嗾けてくるタイプだとは思わなかった。いや多分冗談だと思うけど、彼が選択するサーヴァントで本気度を感じる。

 

「音柱さん、だっけ? ここは少し引いてくれませんか。それか説明ぐらいしてあげてください。見たところ切羽詰まっているようですけど、言葉に出さなければ伝わるものも伝わりませんし」

「お前は」

「人理継続保障機関フィニス・カルデアの藤丸立香です。この挨拶するの二度目ですね」

 

 立香が一歩踏み出す。大胆にも音柱の間合いに踏み込んだけれど、肝心の音柱は手を出す気は無いようだ。ジッと立香の方を見詰めてから、ちらりとこちらを向いた。こっち見んな。

 それにしても流石数多の特異点を修復して来たカルデアのマスターというところだろうか。音柱の後方の陰に風魔小太郎が待機している。あの距離ならばサーヴァントだったら一瞬で詰めれる距離だし、気配遮断を用いているのか目視以外じゃ何も感じられない。元忍の音柱も気付いてないってことは奇襲を仕掛けようとすれば確実に成功してしまうな。

 

「良ければ俺達が話を聞きますよ。カルデアと鬼殺隊は利害関係の一致で協力する仲、柱である貴方の任務ならば俺達の目的である可能性も高い」

 

 まぁ今回の相手は十二鬼月だろうし、鬼舞辻の戦力を削ぐということならカルデアも協力を惜しまないだろう。鬼殺隊もカルデアも鬼無辻の下に辿り着いて、聖杯をぶん取り殺すのが目的なのだし。

 戦力的には申し分ないと思いますけど? と立香が首を傾げながらそう提案すると、音柱は少し思案した後に刀から手を離し臨戦態勢を解いた。それを見て俺も落としていた腰を持ち上げる。

 

「そこまで言うなら協力してもらう」

「そういう関係ですから問題ないですって」

 

 立香に音柱が祭りの神だと自称している間に抱き抱えていたアオイちゃんを三人娘とカナヲちゃんの下へ届ける。門の前でおろおろしていた彼女等の前で降ろして、頭を撫でた。

 

「怖かったでしょう? ごめんね早く来なくて」

「せ、いばさん……」

「「「アオイさん!」」」

「アオイ……」

「貴女達……!」

 

 安心させるように笑みを浮かべてから、彼女等の下へと背中を押して送り出した。よっぽど怖かったのか五人で抱き合った瞬間に泣き出してしまった。ほんと女の子泣かすとか音柱は男失格だな。自分が余裕なくても人に迷惑をかけちゃ駄目だ。見た目が良くても全て許されると思うなよ。

 

「取り敢えず中に入ろうか」

「派手に作戦会議といくぞ!」

 

 微笑みながらこちらを見る立香と派手な額当てを太陽の光で乱反射させている音柱を何度か交互に見てから、俺は油断している音柱脇腹を蹴ろうとして防がれた。まぁ本気でしてないから防がれるよな。

 何すんだとこちらを見る音柱にハン! と笑ってやる。ビキリと彼のこめかみに青筋が浮かんだ気がした。

 

「彼女達に謝れよ。不誠実な対応は上司としても男としても失格だかんな」

「……一々言われなくてもわかってら」

 

 俺の言葉に顔を顰めた音柱は抱き合っている五人娘の下に一歩踏み出してから頭を下げた。九十度の腰曲げではなく上半身を少し傾けさせるだけだが、柱の彼が謝るということに意味がある。

 慌てたように頭を上げさせようとする彼女等を見て、立香と俺はくすりと笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達にして貰いたいのは、潜入調査だ」

 

 ところ変わって音柱邸のとある一室に通された俺たちは目の前に座る屋敷の主人からそう言い渡された。ここにいるのは俺と立香、そして立香の護衛をしていた風魔小太郎のみである。え? 炭治郎達? そんな都合良く任務が終わるはずがなかったわ。

 

「潜入調査?」

「と申しますと?」

 

 立香と小太郎が同時に首を同じ方向に傾げながら音柱へと聞く。息ぴったりなその姿に笑い出しそうになるが、そんな雰囲気ではないので我慢する。

 

「場所は花街、吉原。そこで俺の嫁を探せ」

 

 真剣な顔で申し上げてるところ申し訳ないけど、普通に立香達がドン引いているのに気がついてほしい。物理的に距離が遠くなってる。横に並んでたはずなのに数センチ単位で下がってってるし。

 

「あの……非常に申し訳ないんですけど」

「なんだ?」

「そういう私事に隊員を無断で連れていこうとしてたんですかね?」

「はぁ? んなわけないだろ、これはちゃんとした任務だ、任務」

 

 お互いに心底言っている意味がわからないという顔をするので見てて面白い。俺が口を挟むと話が拗れそうなのでさっきからずっと黙っているけど、笑い出しそうになるわ。笑わないが。

 でもこれ以上長引かせても意味はない。こうしているうちに音柱のお嫁さん達が危険に晒されてるのだから、一刻も早く助けに行った方が良いのは確実。たとえこのやり取りをずっと見ていたくともだ。

 ちょいちょいと立香の肩を叩き、耳元に手をやる。所謂こそこそ話。大正と噂は付かないけど、目の前の音柱についての情報を一つ。

 

「“俺の嫁”ってのは“嫁になる人”ではなく“嫁である人”の意味合いだから」

「あっなるほど」

 

 俺の言葉に納得したらしい。日本語って難しいね、と苦笑いする日本人に俺はなんと返したら良いのだろうか。いやまぁ確かにその通りだけどさ。

 

「何こそこそ話してんだ?」

「「イイエ、ナニモ」」

「息ぴったりだなオイ」

 

 今度は俺と立香の息があったようだ。お互いを見てお互いに笑い合う。他のサーヴァントのマスターと、他のマスターのサーヴァントという奇妙な関係性だけど彼とは良い友人にはなれそうだ。今は知人であり協力者でもあるけども。

 

「で、音柱殿。その吉原でなぜ貴方の嫁を?」

「元々鬼が出るってんで俺が客として探っていたんだが深くまでは探れなくてな、そこで俺の嫁を店側として潜入させていたんだが……つい数日前の事だ、急に嫁からの連絡が途絶えた。今まで定期的に文を寄越させていたが、その定期になっても文が来ないと来た」

 

 これが今での文だと出された量は膨大だった。一体何通あるのかはわからないが、少し見るだけでも数十は超えている。試しに一、二枚手に取って見ても、一回の報告量が多い。中身は手紙に見せかけた暗号文かな……これ。少し文章が変だし、報告書にしては当たり障りのない日常の事ばかりだ。

 

「これを一人で? 凄いなぁ」

「ん? 何言ってんだ、ここにあるのは三人分だぞ」

「えっ?」

「え?」

「は?」

 

 立香と音柱が見つめ合う。二人とも怪訝そうな表情だ。

 あぁまた話が拗れる。いや善逸が聞くよりマシだけどさ、世間一般の普通男子から見れば音柱の家庭はなんでだよ! と突っ込まざるを得ない状況なのは確かだ。俺も最初は怒鳴り散らかしたものだし、立香を咎める理由も資格もない。

 

「えっ、と……お嫁さんの他に誰か潜入してるんです?」

「してねぇよ」

「お、音柱殿? 言っていることがいまいち、わかりかねますが……?」

「? ……あぁー」

 

 そこまで聞いて漸く彼らが言いたいことを理解したらしい。ここまで来なきゃ理解できないあたり、本当に顔の方に頭の良さを持ってかれて……いや持ってかれてるのは頭の良さではなく一般常識か、なんか納得。

 

「俺、嫁が三人いるからな。言ってなかったか?」

「「聞いてないですけどぉ!?!?」」

「そうか! 悪かった! 派手に理解してると思ってたわ!!」

 

 驚く二人を他所に大声を上げて笑う音柱にジト目を向けるしかない。最初からわかってたことだが、この音柱も少し言葉が足りない気がするんだよな。流石に水柱程ではないけれど、自分の中の当たり前を周りが理解していると思ってる。祭りの神とか派手とか言っておきながらこちらの反応を全く気にしてない事からも伺える。

 

「まぁ嫁三人なんて聞いたら驚くよな。いつから日本は一夫多妻制になったのかっていう……ハーレムは漫画の中だけにしとけっての」

 

 ケッと吐き捨てると立香が苦笑いを浮かべた。様々な国の様々なサーヴァントと接している彼にとっては嫁が三人というパワーワードはそんなに気にならないらしい。確かに他の国の人達はヤバそうだよね。外国の王様なんてハーレムは日常茶判事だっただろう。側室なんていうのもあるし、王の血はしっかりと残していかなきゃならないし……多分音柱がいた場所がそういう場所だったんだろうけど、だがしかし! ここは日本である! いや目の前のやつ見た目だけで言ったら外国人っぽいけどな! 絶対混ざってる!

 

「俺としちゃぁ、忍を傍に仕えさせてるからわかってると思ってたがな?」

 

 名前聞いてなかったな、と小太郎の方を見る音柱に彼は納得がいったように頷いた。両方元忍同士わかることがあるのだろう。忍にしては音柱は派手過ぎると思うのだが、まぁそれが狙いだろうなぁとは気づいている。

 

「申し遅れました。僕はマスター・藤丸立香に仕える忍、名を風魔小太郎と申します」

「は…………ぁ?」

 

 あっ固まってる。大正でも風魔の名前は知られているらしい。まぁ寧ろ元忍なれば知らないはずもないビッグネームだろう。日本の忍者といえば伊賀、甲賀、そして風魔だ。三大神器ならぬ三大忍者の一人が目の前にいると聞いてしまったら自身の耳を疑ってしまう。俺は風魔小太郎のビジュアルを先に知っていた為にそこまで混乱はない。まぁなんだか実感は湧かないけれど。

 

「風魔……?」

「あぁハイ。生前は五代目風魔小太郎を名乗らせて頂いてたので……音柱殿?」

 

 如何された? と小首を傾げて訊ねてくる小太郎に驚きから復帰したのか頭を振って大丈夫だと答える。うーん切り替えが早い、流石は柱ってところか。

 

「さーばんと、つったか? 過去や未来の偉人を喚ぶとかなんとかっていう」

「正確にはサーヴァントですけど、その通りです。主に歴史に名を残し、死後英霊として昇華された人達を使い魔として喚ぶことで」

「あー説明は良い、柱合会議で聞いたからな。ただこいつは本人なのかって聞きたかっただけだ」

「本人ですね」

「偽名は名乗ってませんよ」

「……まぁ良い。本当にあの風魔なら実力は派手に申し分ないだろうからな」

 

 音柱は考えることをやめた!

 落ち着くためにか息を吐き立ち上がった音柱は、散らばった報告書を素早く片付けて部屋の隅にあった机の上へと置いた。そして此方へと振り返ってニヤリと意地が悪そうに笑う。いやぁ良い笑顔ですね。嫌な予感しかしないというか、ここに俺たちが招かれた時点でもう確定しているんだろうけども。

 

「さて、派手に準備と洒落込もうか!」

 

 うん、わかってたことだけど不肖我妻善逸、人生二度目の女装と相成りそうだ。

 

「(……一回死んでるけど)」

 

 ひっそりとため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鬼滅世界に初代様降臨したらすぐ終わるな、なんて。
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